三上 延


読書日誌Top

ビブリア古書堂の事件手帖U
 〜扉子と空白の時〜

三上延


メディアワークス文庫




2021/6/11


2020/7/22 発行
 ビブリア古書堂に舞い込んだ新たな相談事。それは、この世に存在していないはずの本――横溝正史の幻の作品が何者かに盗まれたという奇妙なものだった。
 どこか様子がおかしい女店主と訪れたのは、元華族に連なる旧家の邸宅。老いた女主の死をきっかけに忽然と消えた古書。その謎に迫るうち、半世紀以上絡み合う一家の因縁が浮かび上がる。
深まる疑念と迷宮入りする事件。ほどけなかった糸は、長い時を超え、やがて事の真相を紡ぎ始める――。


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   第1話  横溝正史『雪割草』 T
   第2話  横溝正史『獄門島』
   第3話  横溝正史『雪割草』 U

 この段階では、『雪割草』というのはまぼろしの本であって、新聞の連載を切り抜き、貼り付けて製本した自作本だったようだ。その中に、直筆のページがあったはずなのに紛失した、という事件。
 『雪割草』は探偵ものではなく家庭小説といわれていたようである。

 登場人物は、長女秋世の『雪割草』を双子の初子と春子のどちらが盗んだか、という話から、春子の息子の乙彦の相続下ものだという話、初子の孫の創太も横溝のマニアだと言うし、混沌として、栞子もなかなか究明できない。

 創太は『獄門島』が好きで、『雪割草』には興味が無いという。
 『雪割草』について、「探偵作家だった横溝が、自由に創作できる環境を失って、家族を養うために仕方なく書いたものだ。けれども、この小説には横溝の家族観や職業意識が反映されている・・・・・・・作家の生の感情は滲むものだと思う。読者もそういう部分に惹かれることがある。秋世伯母さんも、母も、初子おばさんも・・・・・そしてだからこそ『雪割草』を愛してきた。「そういう感情の分からない、君のような人間にこの原稿は渡せない」

  探偵ものしか読めなくて、人情や感情の機微の分からない私にとって耳の痛い言葉だった。
 


ビブリア古書堂の事件手帖G
〜扉子と不思議な客人たち〜

三上延

メディアワークス文庫



2019/3/2

2018/9/22 発行
 ある夫婦が営む古書店がある。鎌倉の片隅にひっそりと佇む「ビブリア古書堂」。その店主は古本屋のイメージに合わない、きれいな女性だ。そしてその傍らには、女店主にそっくりな少女の姿があった―。女店主は少女へ、静かに語り聞かせる。一冊の古書から紐解かれる不思議な客人たちの話を。古い本に詰まっている、絆と秘密の物語を。人から人へと受け継がれる本の記憶。その扉が今再び開かれる。 (Bookデータベース)

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 第1話ーー北原白秋 与田凖一編「からたちの花 北原白秋童謡編」(新潮文庫)ーー30年近く絶縁している叔父坂口昌志と会うことになった平尾由紀子。絶縁のきっかけとなった誤解を解くのが「からたちの花」の歌の歌詞だった。
 第2話ーー「俺と母さんの思い出の本」ーーどこにあるのかわからない本を見つけ出してほしい」という磯原未喜の依頼で、亡くなった息子の嫁を訪ねる。息子は秀実。イラストレーターでありアニメやゲームのキャラクターデザインもしていた。友人が持って帰って古書店に売った本の中にあった。思い出は楽譜。
 第3話ーー佐々木丸美「雪の断章」(講談社)ーー志田は手に入る度に読んでない人にプレゼントする。小菅奈緒はホームレスの志田と本の話を楽しみにしていたが、あるときから連絡がつかなくなった。紺野祐汰と一緒に探し始めた。
 第4話ーー内田百閨u王様の背中」ーー舞砂道具店3代目吉原喜一の息子の孝二。稀覯本コレクターを訪ねたが、既に無かった。ビブリア古書堂に売られた本を横取りしようとした。父親はかつて栞子たちに負かされた恨みがあった。「ファーストフォリオ」の時。

 どの話も、栞子が扉子に本にまつわる人間同士のもめ事を語って聞かせたものだ。6歳の扉子の「仲の悪い人たちが仲良くなるなんて本って凄いんだね」という感動をするのがかわいらしい。

 読んだことのない本ばかりだった。


ビブリア古書堂の事件手帖F
 〜栞子さんと果てない舞台〜
三上延
メディアワークス文庫



2018/1/30
2017/2/25 発行
 ビブリア古書堂に迫る影。太宰治自家用の『晩年』をめぐり、取り引きに訪れた老獪な道具商の男。彼はある一冊の古書を残していく―。奇妙な縁に導かれ、対峙することになった劇作家ウィリアム・シェイクスピアの古書と謎多き仕掛け。青年店員と美しき女店主は、彼女の祖父によって張り巡らされていた巧妙な罠へと嵌っていくのだった…。人から人へと受け継がれる古書と、脈々と続く家族の縁。その物語に幕引きのときがおとずれる。

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 シェイクスピアにまつわる世界的に貴重な古書、「ファーストフォリオ」をめぐり、祖父の代からまつわる妄執。世に知られていないシェイクスピアの戯曲集のファースト・フォリオを巡る駆け引き。同じ趣向の装丁を施し、糊付けされ開かないようにされた青赤白の3冊のどれかに本物があるかもしれないという。
 古書に何千、何億という値打ちがつき、古書コレクターの収集欲・所有欲と古書店主の金銭欲におののく。振り市での本の売買の駆け引きは、恐ろしいほどでどきどきする。

 本の函については、なんとなく気がついたなあ。

 シリーズは完結した。母と娘の関係は修復できたし栞子は大輔と結婚することになった。めでたしめでたしだが、もう少しいろんな本の蘊蓄を含め、謎解きを楽しみたい。スピンオフが出るのを待つしかない。待ち遠しい。


ビブリア古書堂の事件手帖E
〜栞子さんと巡るさだめ〜

三上延

メディアワークス文庫


2015/7/25
2014/12/25 発行
太宰治の『晩年』を奪うため、美しき女店主に危害を加えた青年。ビブリア古書堂の二人の前に、彼が再び現れる。今度は依頼者として。違う『晩年』を捜しているという奇妙な依頼。署名ではないのに、太宰自筆と分かる珍しい書きこみがあるらしい。本を追ううちに、二人は驚くべき事実に辿り着く。四十七年前にあった太宰の稀覯本を巡る盗難事件。それには二人の祖父母が関わっていたのだ。過去と現在、まるで再現されるかのような奇妙な巡り合わせに、薄気味悪さを感じる二人。

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  プロローグ
  第一章  「走れメロス」
  第二章  「駆け込み訴へ」
  第三章  「晩年」
  エピローグ

  太宰治は、私には合わないような気がしてあまり読んでは来なかった。どこがいいのかわからなかったのだけど、今回の太宰についてのもろもろの解説を読むと、何だか良さそうに思えてきた。
 太宰の荒れた私生活は嫌いだけど、人としての弱さには共感できるーーーとして愛読する人が多いらしい。

 


ビブリア古書堂の事件手帖D
〜栞子さんと繋がりの時〜


三上延

メディアワークス文庫






2015/4/8

2014/1/24 発行
 静かにあたためてきた想い。無骨な青年店員の告白は美しき女店主との関係に波紋を投じる。彼女の答えは―今はただ待ってほしい、だった。ぎこちない二人を 結びつけたのは、またしても古書だった。謎めいたいわくに秘められていたのは、過去と今、人と人、思わぬ繋がり。脆いようで強固な人の想いに触れ、何かが 変わる気がした。だが、それを試すかのように、彼女の母が現れる。邂逅は必然―彼女は母を待っていたのか?すべての答えの出る時が迫っていた。

  プロローグ リチャード・プローティガン『愛のゆくえ』
  第1話   『彷書月刊』(弘隆社・彷徨舎)
  断章T  小山清『落穂拾ひ・聖アンデルセン』(新潮文庫)
  第2話   手塚治虫『ブラック・ジャック』(秋田書店)
  断章U  小沼丹『黒いハンカチ』(創元推理文庫)
  第3話   寺山修二『われに5月を』(作品社)
  断章V  木津豊太郎『詩集 普通の鶏』(書肆季節社)
  エピローグ リチャード・プローティガン『愛のゆくえ』

   ***********************

 いきなり、大輔が栞子に愛を告白した後の返事待ちから始まった。
 ホームレスのせどり屋の志田の過去、何故ホームレスなのかが明かされた。古書を売りに来た女性の本を見ただけで推理できていく。
 
 手塚治虫は漫画誌連載からコミック発刊の度に内容を書き換えたり収録内容を変更するらしく、マニアは少しずつ内容の違うものを揃えたがる、ブラックジャックもそうだった。栞子の推理で、誤解し合っていた父と息子が歩み寄れる話。

 大事な初版本をマニアだった兄が問題児の末の弟に譲るというのは本当か? 栞子が謎を解いた。
 そして栞子も大輔を好きだと告白することに・・・・・母に会って父親とのことを聞いて決心がつくのだ。ぎこちない栞子は可愛い。
 すべてのエピソードを読みながら、本に対する豊かな薀蓄が楽しい。


ビブリア古書堂の事件手帖C
〜栞子さんと二つの顔〜

三上 延

メディアワークス文庫



2014/5/9

2013/2/22 発行
 珍しい古書に関する特別な相談―――謎めいた依頼に、ビブリア古書堂の二人は鎌倉の雪ノ下へ向かう。その家には驚くべきものが待っていた。
 稀代の探偵、推理小説作家・江戸川乱歩の膨大なコレクション。それを譲る代わりに、ある人物が残した精巧な金庫を開けてほしいと言う。
 金庫の謎には乱歩作品を取り巻く人々の数奇な人生が絡んでいた。そして、深まる謎は、あの人物までも引き寄せる。
 美しき女店主とその母、謎解きは二人の知恵比べの様相を呈してくるのだが―――。

  プロローグ
  第一章   「孤島の鬼」
  第二章   「少年倶楽部」
  第三章   「押絵と旅する男」
  エピローグ

      ******************
 
 著者があとがきで書いているように、乱歩の本は少しは知っていると誰もが思っているが、知られていないたくさんの興味深いエピソードがあるらしい。
 
 ポプラ社版の「少年探偵 江戸川乱歩全集」もっと古い光文社版、講談社版、どれが何時出版されたものかを知っていて、鹿山家にあるはずだと言える栞子の知識の深さと推理。

 『江川蘭子』は昭和5年から6年にかけて、当時の探偵作家たちがリレー式に発表した合作小説で、乱歩の初版本の中では一番高価なんだとか、薀蓄が次々繰り出されるのが楽しい。

 BD(少年探偵)バッジ、雑誌『少年』に連載していた時の懸賞の賞品だったり、他にも販促の商品(二銭銅貨)があったという。
 それら、深い知識をもとに栞子が謎を解いていくのだが、私には古書にまつわる薀蓄の方が楽しい。母と娘の葛藤や大輔とのほんわりとした関係もあるけれど、次は、どんな作家のどの本について、栞子が関わってくるのか、楽しみだ。


ビブリア古書堂の事件手帖B
〜栞子さんと消えない絆〜

三上延

メディアワークス文庫





2013/5/4  

2012/6/23 発行
 鎌倉の片隅にあるビブリア古書堂は、その佇まいに似合わず様々な客が訪れる。すっかり常連の賑やかなあの人や、困惑するような珍客も。人々は懐かしい本に 想いを込める。それらは予期せぬ人と人の絆を表出させることも。美しき女店主は頁をめくるように、古書に秘められたその「言葉」を読みとっていく。彼女と 無骨な青年店員が、その妙なる絆を目の当たりにしたとき思うのは?絆はとても近いところにもあるのかもしれない―。これは“古書と絆”の物語。

  プロローグ 『王さまのみみはロバのみみ』(ポプラ社)
 第一話 ロバート・F・ヤング『たんぽぽ娘』(集英社文庫)
 第二話 『タヌキとワニと犬が出てくる、絵本みたいなの』
 第三話 宮澤賢治『春と修羅』(關根書店)
 エピローグ 『王さまのみみはロバのみみ』(ポプラ社)

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 物語開始時は2010年8月。神奈川県北鎌倉を舞台としている。地名は実在のものを用いているが、ビブリア古書堂の店舗や登場人物はフィクションである。この地域を知る人にとっては、なおさら親しみをもって読めそうだ。(息子がそう言った)
 
 宮沢賢治の生前に出版されたのはあれほどのたくさんの作品の中でわずか2作品だけだったとか。「春と修羅」は詩集として出版されているが、本人にとっては詩ではなく心象スケッチだったとか、初版本に直接推敲をして再版しているとか、知らないことがたくさんある。

 栞子と母親の関係をベースに、第2話の坂口しのぶの相談(著者もタイトルもわからない本を探す)を解決する中で、しのぶの不器用な親子関係を見ながら、栞子の母娘の誤解がすこし溶解しそうな気配も漂う。
 「一般的に言って、母と娘が仲違いした場合、原因は母親の方にあることが多いです」と栞子が言う。
 いろんな人の古書にまつわる相談を解決していく中で、栞子の母への嫌悪が間違った先入観からきているかもしれない、というのが少しずつ見えてくる。

 本の薀蓄話ばかりではなく、人の感情へも訴えてくるものがある。


ビブリア古書堂の事件手帖A
〜栞子さんと謎めく日常〜
三上 延
メディアワークス文庫



2013/3/8
2011/10/25 発行
プロローグ 坂口三千代『クラクラ日記』(文芸春秋社)(ちくま文庫)
第一話 アントイ・バーシェス『時計じかけのオレンジ』(ハヤカワNV文庫/ハヤカワepi文庫)(NY文庫版は絶版)
第二話 福田定一『名言随筆 サラリーマン』(六月社)(絶版)
第三話 足塚不二雄『UTOPIA 最後の世界大戦」(鶴書房)(小学館クリエーティブより復刻版刊行)
エピローグ 坂口三千代『クラクラ日記』(文芸春秋社)II

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 知らなかったなあ「時計じかけのオレンジ』に、二通りの結末があったこと、有名な映画は、結末を削除されたものだったこと、そして広く知れ渡ったのは映画の影響もあって削除された結末の方、しかし最近は削除されてない復刻版が出ていること、そういうものが題材になって一つの物語が作られていて凄い。
 司馬遼太郎の本名で出した、めったに見ることのできないレアな本のことも。
 今では100万円以上もする昔のマンガについての薀蓄も。

 栞子の母親の謎と、本の薀蓄と、なかなか興味深い作品だ。


ビブリア古書堂の事件手帖
〜栞子さんと奇妙な客人たち〜


三上 延


メディアワークス文庫







2012/9/28



2011/3/25 発行
不思議な事件を呼び込むのは一冊の古書
鎌倉の片隅でひっそりと営業をしている古本屋「ビブリア古書」。そこの店主は古本屋のイメージに合わない若くきれいな女性だ。残念なのは、初対面の人間とは口もきけない人見知り。接客業を営む者として心配になる女性だった。
 だが、古書の知識は並大抵ではない。人に対してと真逆に、本には人一倍の情熱を燃やす彼女のもとには、いわくつきの古書が持ち込まれることも。彼女は古書にまつわる謎と秘密を、まるで見てきたかのように解き明かしていく。

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  車椅子探偵とか、ホームズとワトソン博士のような状況での推理の見事さがある。本作では、ある事情で入院中の栞子に、大輔という外回りの店員が話を持ち込むと栞子が推理してしまうという物語のいくつかである。本が読みたくても拒絶反応で読めないが、聞くのは好きな大輔と、他人と本の話がしたくてもできない女性店長の物語。

   第1話    夏目漱石の「それから」
   第2話    小山清「落穂拾ひ/聖アンデルセン」
   第3話    ヴィノグラードフ/クジミン「論理学入門」
   第4話    太宰治「晩年」

  これらの古書とそれにまつわる物語とそこに秘められた過去、あるいは謎を、栞子が数少ない事柄を元に推理していく。
 
 事件というほどのものではなく、出来事という方がふさわしい内容のことだが、ほのぼのする内容でもある。一応、謎を解いていくのでミステリーと言えなくもないが、文章は読み易く、内容も難しくなく、ライトノベルらしい感じではある。
  きっかけの古書についての解説らしきものが栞子の口から出てくるが、もう少し踏み込んでもいいかなと思うのは、本好きの証か?
 ネット上の感想では説明的すぎるともあったが、古書に対するトリビアは私にとっては有難い。
 本の虫には、嬉しいミステリーだと思う。本書の中に出てきた本は読んでみなくては、と思う。

 他には、梶山季之「せどり男爵数奇譚」
      出久根達郎「作家の値段」    なども文中に登場していて、読みたい候補である。
 私自身、昔から古書店が好きでよく行っていた。昨今のコミックばかりを置いている古書店ではない昔の古書店が好きだ。

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