松本清張

(1909-1992)小倉市(現・北九州市小倉北区)生れ。給仕、印刷工など種々の職を経て朝日新聞西部本社に入社。
41歳で懸賞小説に応募、入選した『西郷札』が直木賞候補となり、1953(昭和28)年、『或る「小倉日記」伝』で芥川賞受賞。
1958年の『点と線』は推理小説界に“社会派”の新風を生む。生涯を通じて旺盛な創作活動を展開し、その守備範囲は古代から現代まで多岐に亘った。

軍師の境遇
松本清張
角川文庫


2020/5/30
昭和62/7/25
 「おれが死んだら、あとはだれが天下を取るか遠慮なくいってみよ」―侍臣たちの返事に首を振った秀吉が頭に想い浮かべるのは、片足が不自由で、風采の上がらぬ軍師官兵衛の姿だった。黒田官兵衛孝高、もと播州御着の城主小寺政職の家老で、秀吉の中国攻め以来、参謀として縦横の機略を振るい、その天下取りに絶大の功をたてたが…。余りに卓越した才ゆえに不運の境遇を味わう軍師の、皮肉な運命を描く表題作(原題「黒田如水」)のほか2編を収める。 (Bookデータベース)

        *****************************
 
 


奥羽の二人
松本清張
講談社文庫



2020/5/9
1986/11/15 発行
 不敵な野望と奔放さに満ちた若き伊達正宗と、奥羽で対峙する蒲生氏郷――二人にとって越えることのできない大きな存在が、秀吉であった。天下に志を得ずに終わった彼らの胸中の苦悶を描く表題作のほか、抗いがたい力に翻弄され、結局は身を滅ぼしていった武将たちの運命と悲話10編を収録。

       *************************

 「背伸び」 安国寺恵瓊
 「三位入道」 伊東義祐  
 「細川幽斎」 細川幽斎
 「奥羽の二人」 伊達政宗と蒲生氏郷
 「群疑」 石川数正  秀吉の許に奔った家康の重臣
 「英雄愚心」 太閤秀吉
 「転変」 福島正則
 「武将不信」 最上義光
 「脱出」 山田十右衛門  殉死をテーマ(古田騒動)にした
 「葛」 中国筋の国持ち大名  賄賂を扱った
 
 悲劇の武将
 その時々の主人公や周りの人々の心情がよく分かり,趣深い.


神々の乱心
上・下

松本清張
文芸春秋




2016/2/10
1997/1/30 発行
 昭和8年。東京近郊の梅広町にある「月辰会研究所」から出てきたところを尋問された若い女官が自殺した。自責の念と不審から月辰会研究会をマークする特高課第一係長・吉屋謙介。やがて渡良瀬遊水地から、二つの死体が…。同じころ、華族の次男坊・萩園泰之は女官の兄から、遺品の通行証を見せられ、月に北斗七星の紋章の謎に挑む。

   **********************

 宮中に触手を伸ばす謎の新興宗教。下巻の「満州宗教行」で、新興宗教の成り立ちが描かれていく。「道院の未亡人」「『3』消ゆ」まで大正11年からのこと。これが殺人事件とどのようにつながるのかを謎としながら進む。

 そして昭和9年に飛び、吉屋の調査が続く。
 吉屋と萩園がそれぞれ少しずつ謎に近づいていくのがじれったい。
 宮中のこと、女官のこと、新興宗教のこと、満州のこと、アヘンのことなど、知識はいろいろ得られるが説明が詳しすぎて、いささかしんどい。

 

 
 


信玄戦旗

松本清張

角川文庫




2014/12/3

平成元年/11/25
戦国乱世のただ中に、天下制覇を目指した名将武田信玄。その初陣から無念の死まで、波乱激動の生涯をたどる迫真の長編小説。
 大国の当主同士が一騎打ちを演じた唯一の合戦として名高い川中島の戦い、軍師山本勘助の巧妙な活躍ぶりなど、歴史の転換点、名場面の仕組みを周到な時代考察をふまえて、鮮やかに描いていく。
 虚々実々のかけ引き、壮大な勇気。そして決断のあり様などに惹きこまれるうちに、今を生きる私たちの処世や対企業組織の活路が見えてくる。

    *******************

 たくさんの文書を読み解き、それをもとにあざやかに状況を描き出す。
 どれほど優れた武将であっても、運と機会に恵まれなければ、覇者にはなれないというのがよくわかる。歴史に「if]を考えてみたくなる武将だ。
 各戦いの布陣と戦いかたは、臨場感があった。さすがは清張さん。


古代の終焉
清張通史 6

松本清張

講談社文庫





2014/4/16

1989/6/15 発行
 「咲く花のにほふが如くいまさかり成り」と謳われた奈良朝は、仏教を中心にした古代国家として栄耀栄華を誇ったが、同時に権謀術数や反乱も相次いだ。
 このような国内の動揺を、主に唐、西域との交流という比較史的視点からさぐる。
 「東アジアの中での日本」をダイナミックに跡づける清張古代史の最終巻。〈裏表紙より)

    ******************

 古代の終焉とは・・・・・仏教と政治が一体化するほど仏教勢力が強かった時代。むしろ政治体制を崩しそうなほど旺盛を極めていた仏教勢力は、律令体制の貴族政治に対する攻撃で政治勢力になっていた。その仏教勢力が衰えることを終焉というのか。
 則天武后や、それを真似ていたらしき光明皇后の話、話が東アジアにも広がり、詳しすぎて読むのが少ししんどかったが、さすがに清張さんだ。

 1−−新官僚
 2−−不比等と三千代
 3−−長安と奈良
 4−−則天武后の話
 5−−武后聚像
 6−−伝達者
 7−−仏教天子
 8−−参画者
 9−−西方からの光
 10−−皇后光明子
 11−−天平のうつろい
 12−−紫微中台
 13−−「古代」の終焉


邪馬台国
清張通史 1

松本清張

講談社




2014/2/16

昭和51/11/30 発行
精細な検討と考察による新しい邪馬台国像!女王卑弥呼は殺害されたーーー北部九州は魏の《コロニー》であった―。過去の学説研究に精細な検討をくわえ、新しい邪馬台国像をうちたてるべく、著者はユニークな史眼をもって果敢に挑む。

   ******************

推理小説家としての視点で古代史の謎を解き明かしてゆく面白さを味わうことが出来る。
38年も前に書かれた本だから、その後の発見で、仮説が陳腐化するかもしれないが、論理の進め方や文章が、私の波長に合うので、興味深く読んだ。

 *「倭人」というのは「倭国」ということで北九州のこと、朝鮮半島の倭と区別して倭人と表記した
 *「女王国」と「狗奴国」との境は、福岡県と熊本県の県境地帯
 *倭国の風習は朝鮮からきているものが多い−―葬礼のとき、大勢集まって歌舞飲食する
 *女王国の敗北により卑弥呼は殺されたーー「卑弥呼以って死す」の意味は。
 *「鬼神  鬼神は朝鮮語のクイシンで日本に来るとクシとなる。クシは「奇」(くし)に充てられた?ーーークシが霊妙なという意から、櫛にも串にもなる。頭にさす櫛が、悪魔をはらう呪術性があると信じられた、神前に供える玉串も魂串(たまくし)であって、奇(くし)からきている。
 
 画期的な説が多々あったが、なるほどと思ったことも多い。


空白の世紀
清張通史 2

松本清張

講談社文庫





2014/1/25

昭和61/12/15 発行
倭の五王とは、いったい誰か。
大和国家は誰の手により建てられたか。
前方後円墳が突如現れたのはなぜか・・・・・・・・・・。
史書を欠く四、五世紀には多くの謎が秘められている。古代朝鮮と騎馬民族の動向を探りつつ、扶余族による大和国家建国を立証することで、「空白の世紀」の真実の姿をえぐり出す。

    ****************

 日本に史料が無い時代の事だから、朝鮮半島と中国の史料をもとに考えるしかない。中国も朝鮮もまだ統一国家になっていないし、国名(?)らしきものも同じようなものが出てくるし、だから、読んでも難しい。

 いくつかの史料の紹介と、学者たちの研究結果の仮説の紹介と、それらを元に清張さん自身が考えた仮説が述べられている。
 三韓「四国史」、「百済記」、「晋書」、「宋書」など。

 帰化人には、動物の名前が多いとか。だから、蘇我氏の馬子、入鹿、蝦夷など、悪意を持って後の人がつけたのではないと考えているそうだ。ムジナ、ケムシ、シビ、クジラ、サザキ、ネトリ、ハヤブサ、他。

 この時代には、どんどん朝鮮半島から人が渡ってきて帰化していったらしい。九州北部も、近畿もそれら帰化人たちによって土着民が支配されていったようだ。

 つまり、今の天皇家は、そういう人たちの中の末裔ということか。


壬申の乱
清張通史 5

松本清張

講談社文庫




2014/1/15

1988/12/15 発行
「日本書紀」があえて記さなかった壬申の乱の真相とは何か。
大化の改新は、ほんとうに行われたのか。はたして、その実体はどのようなものか。天智天皇、大海人皇子、大友皇子らの人間模様と皇位継承をめぐるすさまじい権力闘争、律令制の虚実を検証しながら、古代律令国家確立期の本質を活写する。

    **************

 大化の改新はなかったーーーというのは、最近の話かと思っていたが、こんなに前に書かれた本なのに、すでに乙巳の変(いっし)という言葉が出ていたことに驚いた。大化元年が乙巳の年だったからこう言われている。
 聖徳太子の施政は蘇我馬子の政治だったとも書かれている。優れた施政が中大兄皇子が滅ぼした蘇我馬子の業績ではまずいというので、聖徳太子が行った事にしたのだというのだ。最近読んだ小説で知った考え方だったが、清張さんが書かれた本にも既に言われていた事だったのか。
 
 壬申の乱の内容についても壬申戦記は詳細で、今回初めてどういうものだったのかを認識する事になった。古文書がずいぶん残っていたようだ。ただ、天武サイドで書かれた書紀だから、天武を謀反人のように表現しないために、大海人皇子の兵団には詳しいが、近江朝の資料は無い。極端なまでに偏りがあるらしいのだ。

 さすがに清張さんだと思いながら読み終わった。
 


眼の壁


松本清張

光文社




2012/11/4

昭和35/5/30 発行
 昭和電業製作所はツナギ資金の借り入れで、手形詐欺のパクリ屋に騙された。責任を取った会計課長関野は自殺した。R銀行の応接室を使ったり、代議士の名刺を使ったりの巧みな詐欺。そこから背景には右翼のボス・舟坂、代議士の岩尾などがいるらしいというのを、次長・萩崎が素人ながら調べていく。詐欺で得た金は代議士の元へいく。

 弁護士とその調査員が殺されたり誘拐されて殺されたり、萩崎も車ではねられそうになる。
 
 普通の人間ができる範囲で謎に迫ろうとする姿は、推理も調査方法もおぼつかないが、読者を一緒に引っ張っていく。これが、清張流?それとも昔の推理小説はこんなにゆっくり進んでいくのか?最近の作品に比べてテンポが遅いようなきがする。自分のテンポで推理していける。凄い探偵があっという間に謎解きをするのとは、趣が違ってそれなりの面白さがある。まだ、推理小説とか探偵小説がまともな小説と認められていなかった時代であり、推理小説ブームへの道を開いた作品。

 警察用語の「土地カン」−−今では普通に使う言葉だが、警察用語だったの?古い時代は当たり前の言葉ではなかったのか?東京から名古屋まで急行で6時間かかると書いてある。

 古い本を読むと、こういう面白さがある。

  他のヒトのブログからーーー本作のテーマは結末部分にも登場する『眼の壁』というタイトルに集約されている。眼に映る日常という風景の壁は、その裏側に私たちが思っても見ない恐ろしい犯罪や、痛ましい悲劇を隠している。ーーーー姿の見えない犯罪者がこの壁をつかって防御している様子や、私たちが現実だと思っている平和の欺瞞や空虚が感じられる。−−−結末で事件から開放されたはずの萩崎は、壁の向こうに潜むまだ見ぬ悪意を強く意識する。読者はその思いを引き継いで、本を閉じた後の現実に眼を向けざるを得ないだろう。ーーーーー

 って、ここまで読み取るのか〜。


蒼ざめた礼服


松本清張


光文社




2012/11/2


昭和41/7/15 発行
 洋傘会社に勤める片山幸一は、無気力な毎日を送っていた。ところが、退屈しのぎに古雑誌「新世紀」を買ったことから彼の人生コースは変わった。その古雑誌を異常な熱意で求めていた随筆家・関口の紹介で、片山は、有力な調査機関「柿坂研究所」に転職した。彼の行く手に奇怪な事件が続発ーーー件の古雑誌元編集長と写真師が前後して変死体となって東京湾に浮上した。−−−−そのころ、新型潜水艦の艦種決定をめぐって、国防丁、産業界は混乱していた。”蒼ざめた礼服”とは何をいみするのかーーーーー

 平穏無事な日本には、諜報業などあるまいと思われがちだが、政府、業界、そして外国企業の入り乱れる兵器生産の舞台裏には、スパイ的人物が、役人ふうの顔つきで堂々と生息しうるようだ。
 この「蒼ざめた礼服」では、日本の「機密室(ブラックチェンバー)」ともいうべき存在に推理のメスが入れられた。しかも、その暗黒部に迫るのは、一介のサラリーマンという設定で、読者に身近な緊迫感を抱かせる。これは、清張推理のあらゆる特性が見事に花開いた、久々の決定版・長編推理小説である。(裏表紙より)

   ********************

  古い本だから読むのをどうしようかと思った。時代背景も何もかも古いかもしれない、と。
 でも、読み始めてみれば、文章も読みやすいし、少しずつ事実がわかるにつれての推理、繰り返し少しずつ推理が進んでいくのは、読者と一緒。読みながら導かれていったが、最後は、あらまあ、の結果だった。
 さすがは清張さん。

 

読書日誌Top

inserted by FC2 system