中島京子


1964年3月東京生まれ。東京女子大学文理学部史学科卒。出版社勤務を経て渡米し、シアトルで教育実習。
帰国後ライターとなり『だいじなことはみんなアメリカの小学校に教わった』(文庫『ココ・マッカリーナの机』)を上梓。
2003年『FUTON』で小説デビュー。2010年『小さいおうち』で直木賞(後に映画化)。2014年『妻が椎茸だったころ』で泉鏡花賞。
2015年『かたづの!』で河合隼雄物語賞。他に『イトウの恋』『平成大家族』等。

やさしい猫

中島京子
中央公論新社



2022/11/4
2021/8/25 発行
 シングルマザーの保育士ミユキさんが心ひかれたのは、八歳年下の自動車整備士クマさん。
出会って、好きになって、この人とずっと一緒にいたいと願う。当たり前の幸せが奪われたのは、彼がスリランカ出身の外国人だったから。
大きな事件に見舞われた小さな家族を、暖かく見守るように描く長編小説。


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 入管の長期収容で自殺したり病死したりする人がいることを知った。体調を崩しても「詐病」と疑われ、医者にもかかれない。

 支援に携わる弁護士や元入管職員らから何度も話を聞き、収容されている方々にも面会した。
 折から、名古屋入管に長期収容され3月に亡くなったスリランカ人のウィシュマさんの事件を通して、多くの人が入管行政の実態を知ることになった。 そもそも、人の自由を奪う収容の判断が、司法機関ではない入管職員の裁量で行われてしまう矛盾。(著者)

 第56回 吉川英治文学賞受賞

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 途中、読むのがしんどくなりそうだったが、重い内容なのに分かり易く、この著者らしい書き方で良かった。


夢見る帝国図書館

中島京子
文藝春秋




2019/10/13
2019/5/15 発行
 「図書館が主人公の小説を書いてみるっていうのはどう?」
作家の〈わたし〉は年上の友人・喜和子さんにそう提案され、帝国図書館の歴史をひもとく小説を書き始める。もし、図書館に心があったなら――資金難に悩まされながら必至に蔵書を増やし守ろうとする司書たち(のちに永井荷風の父となる久一郎もその一人)の悪戦苦闘を、読書に通ってくる樋口一葉の可憐な佇まいを、友との決別の場に図書館を選んだ宮沢賢治の哀しみを、関東大震災を、避けがたく迫ってくる戦争の気配を、どう見守ってきたのか。
日本で最初の図書館をめぐるエピソードを綴るいっぽう、わたしは、敗戦直後に上野で子供時代を過ごし「図書館に住んでるみたいなもんだったんだから」と言う喜和子さんの人生に隠された秘密をたどってゆくことになる。
喜和子さんの「元愛人」だという怒りっぽくて涙もろい大学教授や、下宿人だった元藝大生、行きつけだった古本屋などと共に思い出を語り合い、喜和子さんが少女の頃に一度だけ読んで探していたという幻の絵本「としょかんのこじ」を探すうち、帝国図書館と喜和子さんの物語はわたしの中で分かち難く結びついていく……。

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 国立図書館の歴史を、堅苦しくなく難しくなく紹介してあり、一人の老女の生い立ちや生き様を通して、女性の立場の変遷や、母と娘のあり方にも触れたり、有名な文豪が登場し、その人達の作品を読んでみたくなったりしながら、読み進む。
 
 戦時中の動物園の所では象と黒豹が会話をしたり、図書館が一葉に恋をするだろうという話があったり、なんと中身の濃い作品だろう。
 とても良かった。


長いお別れ


中島京子

文藝春秋





2017/7/31

2015/5/30 発行
帰り道は忘れても、難読漢字はすらすらわかる。
妻の名前を言えなくても、顔を見れば、安心しきった顔をする――。

東家の大黒柱、東昇平はかつて区立中学の校長や公立図書館の館長をつとめたが、十年ほど前から認知症を患っている。長年連れ添った妻・曜子とふたり暮らし、娘が三人。孫もいる。

“少しずつ記憶をなくして、ゆっくりゆっくり遠ざかって行く”といわれる認知症。ある言葉が予想もつかない別の言葉と入れ替わってしまう、迷子になって遊園地へまよいこむ、入れ歯の頻繁な紛失と出現、記憶の混濁--日々起きる不測の事態に右往左往するひとつの家族の姿を通じて、終末のひとつの幸福が描き出される。著者独特のやわらかなユーモアが光る傑作連作集。
 ☆ 全地球測位システム
 ☆ 私の心はサンフランシスコに
 ☆ おうちへ帰ろう
 ☆ フレンズ
 ☆ つながらないものたち
 ☆ 入れ歯をめぐる冒険
 ☆ QOL

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 自分の父親と重なって、読んでいて涙が止まらない。
 父の認知症のほうが軽かったので、これほどの苦労はしていないけれど。

 自分の体験があるとはいえ、作家というのは凄い!
 なかなかわかりにくい認知症のことが、とてもよくわかるように表現されている。

 


かたづの!

中島京子
集英社


2015/5/7
2014/8/30 発行
慶長五年(1600年)、角を一本しか持たない羚羊が、八戸南部氏20代当主で ある直政の妻・袮々と出会う。羚羊は彼女に惹かれ、両者は友情を育む。やがて羚 羊は寿命で息を引き取ったものの意識は残り、祢々を手助けする一本の角――南部 の秘宝・片角となる。 平穏な生活を襲った、城主である夫と幼い嫡男の不審死。その影には、叔父である 南部藩主・利直の謀略が絡んでいた――。 東北の地で女性ながら領主となった彼女は、数々の困難にどう立ち向かったのか。 けっして「戦」をせずに家臣と領民を守り抜いた、江戸時代唯一の女大名の一代記 。
  実在した第二十一代八戸南部氏当主・祢々(ねね)の史実を基に、伝承や伝記を織り込んだ著者初の歴史ファンタジー。
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 しっかりと描かれた歴史事実の中に、不思議な話が挟まれているが、私には違和感なく読み進むことができた。
 女大名の心構えや処理のしかたは素晴らしい。いい婿にも恵まれたのだろう。

 後半が遠野の話になるが、見事な自然が表現されていたと思う。遠野なら、河童がいても鹿が意識を持ってもおかしくないと思えてきたものだ。

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