加藤 廣

一九三〇年東京生まれ。
新宿高校から東京大学法学部に学ぶ。
中小企業金融公庫京都支店長、調査部長を歴任。
山一証券に転じ、同経済研究所顧問、埼玉大学経済学部講師など。
二〇〇五年に『信長の棺』で作家デビュー。その後、本能寺三部作など多数。
新書・実用書の著作も多い。


空白の桶狭間
加藤 廣
新潮社



2021/1/18
2009/3/25 発行
圧倒的な軍勢を誇り東海に君臨する今川義元は、その触手を尾張に伸ばそうとしていた。自らの出自を後ろ盾に、さらなる立身を目論む若き藤吉郎は、策をめぐらす信長にある進言をする。持ち前の機転と洞察で、剛将義元の隠された内実と力量を見抜ききっていたのだ。天下の趨勢を一変させた桶狭間の戦いを舞台に、歴史の空白から埋もれた真実を炙り出す。驚天動地の傑作歴史ミステリ。(Bookデータベース)

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家康に訊け

加藤廣

新潮社







2019/9/22


2019/2/20 発行
長期戦略に優れ、日本の二百数十年をデザインした男。今こそ家の采配に学べ! 混迷の現代日本の舵取り役を、今、戦国武将に求めるとすれば、やはり信長か、はたまた秀吉か否――、水先案内人は徳川家康を措いてありえない! 資源に恵まれぬ地に生れ、人質生活を長く強いられた家康のサバイバル戦略を、独自のデータと「加藤史観」が解明する歴史エッセイ。伝奇小説『宇都宮城血風録』を加えた遺作集。

混迷の現代日本の舵取りなら、徳川家康に尋ねよ!サバイバル戦略を欠く信長・秀吉タイプは無用。新データで家康を描き直しつつ、加藤史観が戦国と現代を斬る!伝奇小説『宇都宮城血風録』を加えた遺作集。

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 元経営コンサルタントの著者が歴史をどう分析するかを熱く語る。当時を「日本株式会社」にたとえて・・・・・・コレはよくわかる
 代表取締役社長    織田信長
 同    副社長    織田信忠
 専務取締役       柴田勝家(北陸・越後担当)
 常務取締役       明智光秀(山陰道担当)
  同            羽柴秀吉(山陽道担当)
 そして家康はまだ、東海道担当の社外取締役、あるいは相談役程度に過ぎなかった。

 家康よりも上のものたちが自滅していった『運』は大きいが、本能寺の変をうまく切り抜けた決断力もあったからだろう。
 
 加藤氏の過去の歴史の分析だけではなく、現代について分析と見通しを訊きたかった。

第2部「宇都宮城血風録」は福島正則と彼を守ろうとした忍び達の伝奇小説で、楽しめた。

 2018年4月没。最後の作品。


豊かさの探求
『信長の棺』の仕事論
加藤廣
新潮文庫

2019/8/1
平成19/10/1 発行
 まともな水も空気もなく、沢山あるのはゴミばかり。そんな東京に無理矢理暮らし、人生最良の時には仕事、仕事…。アナタ、それでいいのですか?本当に「豊か」といえますか?長年のビジネス体験を活かした鋭い人間観察に基づき、魅力溢れる独創的な信長・秀吉像を誕生させた著者が、その歴史解釈を裏打ちしている生活思想を大公開。日本人よ、豊かさの探求はこれからが本番だ。(Bookデータベース)

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安土城の幽霊
「信長の棺」異聞録

加藤廣
文芸春秋



2015/7/6
2011/1/30 発行
 信長の命により息子の信康を自刃させてしまった家康。日々鬱々として過ごす家康は、ある日名案を思いつき、臣下の服部半蔵を安土城に派遣する。果たしてそ の結果は?
 表題作「安土城の幽霊」ほか、一つの小さな茶壷にまつわる天下取りの因縁を描いた「つくもなす物語」など著者初めての中篇歴史小説集。秀吉の秘 技、家康の妄執、天下人たちの意外な素顔を巧みに描く本能寺三部作外伝。

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水軍遥かなり


加藤廣


文芸春秋






2015/6/20

2014/2/25 発行
 信長秀吉家康に仕え、九鬼水軍を維持した九鬼嘉隆、守隆親子の活躍を描く海上歴史小説。

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 中小企業やベンチャー企業のコンサルタントを務めるかたわら、ビジネス書の執筆や講演活動を行っている人らしい考え方や見方を感じる。(身の処し方に右往左往するサラリーマンや政治家を彷彿とさせる)
 南蛮船での奴隷生活さえも経験した「たたき上げ」の父・嘉隆,、なかなか豪快で魅力的だ。研究者的素養を持ったエリート風跡継ぎの守隆とは対照的。
 
 日本の歴史の中でも一番面白い時代が背景にあり、誰に付くかで家が潰されたり、領地が拡がったり、または転地をされたりする。必死で頭を使いへつらいもし、家を守る。

 九鬼家は水軍なので、船の建造に工夫をしたり、南蛮の技術を取り込もうとしたり、とても面白かった。
 水軍ではあるが、海賊の闘いの様な派手な闘いの場面はないが、関ヶ原の闘いや他の乱についての説明が理詰めで面白かった。

 著者は既に本能寺三部作を書いているのでその部分についてはさらっと流しただけだった。
 大きな世の中の動きを示した後、さて九鬼家では、と物語が続いていくのでよくわかった。
 
 息子の守隆は、家康に認められて関ヶ原、冬の陣と生き残っていくが、父・嘉隆は西軍についたため死ぬ羽目になる。親子は信頼し合っていたが、時代が酷だった。
 
 残された文書を元に緻密に書かれており、文章も理路整然として読み易い。


明智左馬助の恋



加藤 廣



日本経済新聞出版社





2007/9/9

2007/4/20 発行
本能寺の変を、信長を描いた1作目、秀吉の側から描いた2作目、そしていよいよ当事者、明智光秀の立場から描いた本作と、三方向から検証してきた。一番気になるのは、なぜ光秀が信長に背いたかだ。

 光秀の娘婿、左馬助を通して描いていく。
 左馬助は、備前児島の三宅徳置の次男弥平次、幼名光春という。幼い弥平次は、わずか数年で細川宗家から庶流の細川元常に預けかえられ、さらにその養子・藤孝の手で、ていよく歌道の友であった明智光秀にたらい廻しされた。幼いときから一緒に暮らし、将来は夫婦と思っていたが。
 光秀の娘・綸は、弥平次との仲を信長によって裂かれ、村木家へと嫁ぐが、村木が謀反の時、送り返されたので、弥平次が婿入りし左馬助を名乗ることになる。

 頭の良い、物の見える光秀が、どうして割りの悪い、謀反などする羽目に陥ったか。光秀が、信長の不興をかい、追い詰められた・・・というのが今までの通説だったように思うが、信長をこれ以上生かしておくのは世のため人のためにならん、と思い込むように、やっぱり誰かに嵌められたのだろうか。
 
 愛宕権現で連歌をしていた光秀の行動の不思議、信長が嫌った公家との接触はなぜ?

 本能寺と南蛮寺はトンネルでつながっており信長は地下へ逃げたが、トンネルの途中に壁を作って逃走を防いだのが秀吉だという。阿弥陀寺の青玉上人が掘り出して遺骸を阿弥陀寺へまつった。(事実は不明)
 左馬助は、青玉上人と会い、語り合った後、坂本城、綸の元へ。

 歴史を知っていると、結末がハッピーでないのがわかるので、読み進むのも気が重い。
 光秀の謀反の理由に、驚くような内容が無く、本能寺を中心とした三部作の中で、本作は地味な作品だと思う。


秀吉の枷


加藤 廣



日本経済新聞社






2006/7/24
 時代小説というものは想像力が豊かであれば、いろいろな物語を作り上げられるものだなあと思う、資料を読み込んで、作るべき空白を見極められるならば。
 著者は、前作「信長の棺」で示した通り、本能寺を取り囲んだのは明智光秀だが、秀吉はそれを利用してトンネルを密かに塞いで、退路を断ち信長をあぶり殺したとする。

 一部のもの以外誰も知らない秀吉の秘密。この秘密を背負っていく秀吉の心には闇がある。
 この時代の信長、秀吉、光秀そして家康らについては、多くの作家が書いているのでよほど面白くなければ読んではもらえないが、新しい発想で、今までにない秀吉像が興味深い。
 秀吉の出自は〈山の民〉で、しかも遠祖は藤原氏の最も高貴な血筋に遡ると信じている。ただの農民の子を自称しているのは出身を探られないですむからとし、朝廷を敬っている設定である。
 
 淀君との間にできた鶴丸は自分の子か自信がない。次にできた秀頼も不倫の子だと思い込む。
 信長殺しを家康に知られているのではないかという恐れと自分の血を残せないという苦悩が、若いころにあった明晰な判断力を狂わせ、豊臣家の滅亡の道筋を作っていく。

 「またざ(又左)、やっとかめだなも。いずれわしと かかとまつどのを交え よったり(四人)でむかしかたり(昔語り)などしよまいか」実存、創作を含め手紙の紹介は、秀吉の人間像を浮き彫りにしている。
 長くても一気に読み通せる傑作。



信長の棺


加藤 廣


日本経済新聞社




2005/8/4


 著者は75歳での初の小説ということだが、経済に関する本を多数出版しており、文章がこなれていて読みやすい。

 織田信長の家臣であり「信長公記」を書いた実在の人物、太田牛一の目を通して時間の経過とともに書かれていて、珍しい角度や視点からの歴史をみることができる。

 本能寺の変で、信長や側近の遺骸が見つからないのはどうしてか?どこへ消えたのか?を中心に調べていくが、そうしていると他にも疑問が湧いてくる。援軍の催促があるにもかかわらず、愛宕神社で連歌の会をしていた明智光秀は何が目的だったのかと考える。頭脳明晰であるはずなのにどうして謀反をおこし、すぐ敗れたのかを推理していく。秀吉はなぜあのように早く戻ってきたのか?桶狭間で信長が勝利した陰には謀略があったのではないか?いくつもの謎を牛一は資料を集め、経験した者を捜しては聞き取り調べていく。読んでいくうちに、牛一と加藤氏がダブってきた。

牛一は信長寄りの記録を書こうとする。信長のイメージを壊すことは書きたがらない。こういう姿もみせることで、残された古文書の内容の全てが真実とは限らないことを示している。

牛一を探偵役として歴史の謎を解明していくミステリーになっている。面白い。


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