黒木 亮 


1957年北海道生まれ。
カイロ・アメリカン大学修士(中東研究科)。
都市銀行、証券会社、総合商社に23年余り勤務し、国際協調融資、プロジェクト・ファイナンス、
航空機ファイナンス、貿易金融など数多くの案件を手がけ
る。
2000年、大型シンジケートローンを巡る攻防を描いた「トップ・レフト」
でデビュー。
他に「巨大投資銀行」「アジアの隼」「青い展気楼〜小説エンロン」
「カラ売り屋」「貸し込み」などがある。英国在住。


メイク・バンカブル!

イギリス国際金融浪漫
黒木亮
集英社



2023/10/14
2023/4/30 発行


兜町(しま)の男

清水一行と日本経済の80年

黒木亮
毎日新聞出版



2023/5/31
2022/12/20 発行

 経済小説の巨人・清水一行の波乱の生涯と日本経済の興亡を、現役作家・黒木亮が徹底取材で再現! 
 城山三郎の2倍近い作品群を残した"経済小説の巨人"清水一行。東京・玉の井の私娼街で育ち、共産主義者として戦後の焼け跡を奔走した後、兜町を這い回って企業小説の書き手としてのし上がった男の生涯を、その時々の日本経済の動向とともに描いたノンフィクション。『小説兜町』でデビューする35歳までの長い焦燥と屈辱の日々と、一躍流行作家になってから79歳で亡くなるまでの生き様を、膨大な取材で再現する。ベルリンの壁の崩壊を目の当たりにして、滂沱の涙を流した男の心にずっとあった想いとは果たして何だったのか!?

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 清水一行の小説を、私は今までに1冊しか読んだことがない。その時の感想は、「純粋に企業ミステリーだけだった方が良かった」というもの。官能小説もどきの場面があるので男性向きだったのかもしれない。それでもたくさんの作品が売れ、読む人が多かったのには理由があったのだろう。
 黒木氏も日本経済をたどっていく中心に清水氏を据えるくらいだから。

 日本のたどった経済事件がこんなにあったとは。黒木氏が清水氏の本のあらすじと現実の事件のあらましを書いていて、よく分った。
 


アパレル興亡
黒木亮
岩波書店



2021/2/6
2020/2/18 発行
高度経済成長の栄光を謳歌したアパレル産業はなぜその輝きを失ったのか!?焼け跡からの勃興、群雄割拠の戦国時代からユニクロやZOZOまで、日本経済の栄枯盛衰とともに描く一大産業絵巻! (Bookデータベース)
  
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 80年以上にわたるファッション業界の栄枯盛衰のドラマ。主人公のモデルは名門婦人服メーカーとして知られた東京スタイルの中興の祖・高野義雄氏。史実と創作が入り交じるが、東京スタイルは「オリエント・レディ」、高野氏は「田谷毅一」。だが、村上ファンドの村上世彰氏、イトーヨーカ堂創業者の伊藤雅俊氏(セブン&アイ・ホールディングス名誉会長)などは実名で出てくるし、レナウン、オンワード樫山、三陽商会、ワールド、三越、伊勢丹、東レ、帝人、ユニクロ、ZOZOなどの企業群も実名で登場して生々しいビジネスのやりとりが繰り広げられる。

 戦後のアパレル産業の変遷、「オーダーから既製品へ」「百貨店からSPAへ」といった大きな流れ、そして「レナウン娘」やアーノルドパーマーなどで圧倒的に強かったレナウンも倒れた驚き。
 JJ世代なので知っているブランドが次々出てきたので懐かしくもアリ、驚きもアリで、時代の流れがよくわかった。自分自身は東京スタイルのものは持っていなかった。
ニナリッチのスカーフやセリーヌのバッグ、サンローランのベルトなど小物しか持てなかった。夫はマクレガーのコートやバーバリーのスーツを買った。
 直近の決算売り上げは、ユニクロ、しまむら、ワールド、オンワード樫山、青山商事の順らしい。時代は変わる。


島のエアライン

黒木 亮
毎日新聞出版



2018/10/19
2018/6/10 発行
人口15万人の島が、85億円の空港を建設し、自前の飛行機を飛ばす!?

 たった一機で、地方の生活、医療、観光を支える、熊本・天草の小さな航空会社の苦難と挑戦の物語。異色の〈実名〉ノンフィクション・ノベル!

 天草ゆかりの知事の強力なリーダーシップで、地元の夢・天草空港は実現に向け、動き始める。議会の反対派、一部地権者などを数年がかりで説得し、建設工事が始まるが、予定される路線の厳しい採算性とおりからの航空不況で、就航する航空会社が見つからない。熊本県庁は「7人のサムライ」を投入し、独自の航空会社立ち上げへと舵を切る。果たして「島のエアライン」は、国の審査に合格し、九州の空へ飛び立つことができるのか!?(上)

 地方自治体が独力で経営する日本初の定期航空会社「天草エアライン」。開業4年目から業績が急降下。運転資金も底を尽き、倒産が現実味を帯びる。地域の医療も支える「島のエアライン」を関係者たちはどう救うのか!?

 重整備や故障、乗客の減少、人材流出など、次々とトラブルに見舞われる。民間航空会社から社長を招き、新路線も開設するが、思うような効果は上がらない。倒産も視野に入るなか、関係者たちは"島の翼"を守るため、それぞれの持ち場で奮闘を開始する。(下)


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 小説の形をとったノンフィクション。
 黒木氏の取材が凄かったことは察しられるが、描写と説明が詳しすぎて飛ばし読みをしてしまった。
 それでも、新しいことを始めた人たちの情熱と苦労と様々な細かい手続きの凄さは伝わってきた。


国家とハイエナ
黒木亮
幻冬舎



2017/9/29
2016/10/25 発行
 破綻国家の国債を二束三文で買い叩き、欧米で債務国相手に訴訟を起こし、勝訴判決を受けるやタンカーや人工衛星を差し押さえ、投資額の10倍、20倍のリターンをむしり取る「ハイエナ・ファンド」。
 狙われた国家は、その強奪的金融手法に対して徹底抗戦しようとするが、権力者たちの既得権益に群がる腐敗体質が手枷足枷となり、なかなか光明を見出せない。
 そうしたヘッジファンドのやり口と破綻国家の汚職を防止しようと、国際NGOが動き出した。しかし、肝心のNGOの中からも金に窮してヘッジファンドへ転職するメンバーが出現。
 正義と欲望の狭間で、三者はいつしか三つ巴の熾烈な金融バトルを繰り広げ始める。

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 法律の文が並んでいると、興味深い内容ではあるが、読んだ文が頭に入ってこない。読むのがしんどかった。


世界をこの目で

黒木 亮
毎日新聞出版




2016/4/23
2015/11/15 発行
 経済・企業小説の分野で精力的に執筆する著者は、特に国際金融の現場を知り尽くし、リアリティをもって描くことのできる日本では希有の存在。
ロンドン在住28年。これまで訪れた国は78ヶ国。
国際金融マン時代から小説家となったいまも「真実」を追いかけ、かばん一つで世界を飛び回る。
そんな著者が自分の旅を振り返り、異文化の洗礼、交渉術、旅の流儀、取材術、文章修業…世界はこんなに面白く、複雑で、感動的だ!! と「世界の見方」を伝授する白熱のエッセー集。

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 作品の舞台裏を書いた章が面白い。


ザ・原発所長
上・下


黒木 亮

朝日新聞出版




2015/10/11

2015/7/9 発行
 資源をめぐる太平洋戦争に敗れた反省から、戦後、日本は原子力の導入へと邁進する。同じ頃、大阪の商業地区に生まれた男は、東工大で原子力を専攻し、日本 最大の電力会社に就職する。そこで彼を待ち受けていたのは、無限の原子力エネルギーという理想ではなく、トラブル続きの現場、コストカットの嵐が吹き荒れ る本社、原子力という蜜に群がる政治家、官僚、ゼネコンと裏社会だった。“夢の平和エネルギー”の曙から黄昏までを駆け抜けた「運命の男」の生涯。(上)

 原発トラブル隠し発覚、特捜部の事情聴取、新潟県中越沖地震による原発への深刻な打撃などを乗り越え、執行役員兼福島の原発所長へと出世の駒を進めた主人 公を襲ったのは3・11の巨大津波と全電源喪失だった。「いいか、これから俺が一芝居打つ。だけど、海水注入は絶対に止めるな」。操縦不能の飛行機のよう な現場で、男は死を覚悟して部下たちを叱咤した―。日本の命運を背負った男の生涯と原子力の歴史を、70名以上に及ぶ関係者への取材をもとに炙り出す、 「週刊朝日」連載時から反響を呼んだ問題作(下)

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 人物像を表現するためには、子供の頃の話や、学生時代のエピソード、若き日の様子などを読者に示しておかないと後に活躍できるような人柄であることがわからないからだろうが、読む方はあまり関心が無くて、読み飛ばしてしまった。
 これらがあったればこそ、首相にもたてつくことができたのだとは思うけど。

 下巻の半分あたりからが運命の日「3.11」になり、活躍ぶりを描いている。著者の力作だ、読むのは簡単だが、検証しながら描いていくのは大変だったろうと思う。理解できそうもない原子力発電のしくみも勉強したのだろうなあ。
 
 同期入社の事務系の一人のことば「電力業は政治家とヤクザと建設会社のマネーマシンで、官僚の天下り先だ」というのが、印象的だ。

 


法服の王国
上・下

黒木 亮

産経新聞出版




2014/1/3

2013/7/14 発行

 「裁判官はあくまで政治的に中立でなければならない」石田和外最高裁長官の言葉で、粛清人事が始まった。大阪地裁の村木健吾ら「現場組」は、司法反動の激流に抗し、「裁判官の独立」を守ろうとする。
 一方、父親が犯罪者という十字架を背負う津崎守は、「司法の巨人」弓削晃太郎に見込まれ、エリート司法官僚の道を歩き始める。
 最高裁は、札幌地裁の自衛隊訴訟判決に対する自民党の怒りを恐れ、「長沼シフト」を検討。松山地裁で白熱する伊方原発訴訟の攻防は、津崎をも巻き込む裁判所の内幕を抉る社会派巨編小説!
(上)

 裁判所内では歪んだ人事行政のツケで、首相官邸への偽電話事件、女性被告人との情交、当事者からの収賄といった不祥事が噴出。
 津崎守は、最高裁調査官、東京地裁の裁判長と順調に出世の階段を上がるが、突然、「招かれざる被告人」が姿を現わす。
 やがて能登の日本海原発2号機訴訟が金沢地裁で一審判決の日を迎える。
裁判長席に現れた村木健吾は、「世紀の判決」をいいを渡す気負いもなく、穏やかな表情だった戦後司法史を描く大河小説、怒涛のクライマックス!
(下)

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 読み応えのある本だった。


鉄のあけぼの
上・下

黒木亮

毎日新聞社




2012/10/2

2012/6/15 発行

 灼熱の鉄づくりに命をかけ、経済大国・日本を創り出した男のドラマ。日本は貿易立国しかない。だから鉄をつくるのだ。それがわたしの信念だ―。川崎製鉄(JFEスチール)創設者、西山弥太郎は、銑鋼一貫工場を千葉に建設し、戦後日本企業が世界市場を席巻する礎を築いた。「鉄のパイオニア」の生涯を描く大河小説。(上

 初の世銀融資。夢の水島製鉄所―「世界をつくる火」が燃え上がる。「暴挙」「二重投資」「製鉄所にぺんぺん草が生える」…批判の嵐の中、信念を貫き、高炉メーカーへの脱皮を果たした川崎製鉄社長・西山弥太郎は、世界の鉄鋼需要拡大を見通し、さらなる巨額投資に踏み切る。西山弥太郎が示した、真のリーダーシップとは―。(下

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実在の人物を実名で描いているので、表現に気を使っているせいか、いつもより読みにくい気がした。内容が鉄なので、専門的な内容についていけなかっただけかもしれないが。

 土光敏夫、松下幸之助、あるいは盛田昭夫や本田宗一郎らに匹敵する、戦後の傑出した経営者なのに、知られていない。西山弥太郎は表に出るのを嫌い、自分を誇示することがなかったからだろう。日本人なら必ず知っておくべき人物なのだ。ーーーと著者は言う。
 人としての魅力もあり、リーダーシップもあり、未来を見る目も確かな人物、すごい人だが、本書を読むまで知らなかった。
 


赤い三日月
上・下
小説  ソブリン債務


黒木 亮


毎日新聞社






2012/2/26

2011/9/10 発行
 1980年代半ばまで自力で資金調達ができず、年率50100%のインフレに喘いでいたトルコは、「欧州の重病人」だった。当時、トルコで対外債務の借入れや管理をしていたのは財務貿易庁(通称・トレジャリー)という役所で、先方の担当者は、近代トルコ建国の父、ケマル・アタチュルクの右腕だったサドリ・マクスーディー・アーサルという法律家の孫の40代半ばの女性官僚だった。祖母からタタールの血を引いていて、瞳の色が冬の朝のボスポラス海峡を思わせる灰色だった。
19941月にムーディーズがトルコを投機的等級に格下げして資金調達源が干上がり、国がデフォルトの危機に瀕したときは懸命の努力で、翌年4月にシ・ローンとFRN(変動利付債)の組合せで5億ドルの調達に成功して民間融資の流れを再開し、祖国をデフォルトの危機から救った。
 わたしは彼女のことが忘れられず、今般上梓した『赤い三日月〜小説ソブリン債務』(毎日新聞社刊)の中で描いた。ーーーーーと黒木氏が言っている。

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 日本からはあまりなじみのないトルコの風景や習慣、歴史などが織り込まれ、東西銀行の国際部で働く但馬、(これは黒木氏自身を反映しているのだろう)の仕事ぶりは、見ていてもすごい。但馬の書いた書類とか契約の内容とか、読み飛ばしてしまったが、いつも稟議書や本社への反論や政治的レポートをまとめていれば、文章を書くのも慣れたものだろう。小説とは違うかもしれないが。

 世界銀行(World Bank)ーーー 第二次世界人戦直後に締結されたブレトンウッズ協定によって、1945年にIMFと前後して創設された国連の金融機関。
 世界銀行からは日本も融資を受けてきた。但馬のこんなセリフがある「世銀からは、新幹線以外にも、黒部第四ダムの建設や東名。名神高速道路、八幡製鉄や川崎製鉄の製鉄所建設などに総額で八億六千二百九十万ドルの融資を受けています。最後の融資は一九六六年の道路公団による東京・静岡間高速道路建設のためのもので、日本が世銀の借入れを完済したのは、おととし(一九九〇年)の七月です」
知らなかった!


リスクは金なり

黒木 亮
講談社文庫




2011/7/15 発行
 著者は、早稲田大学時代、箱根駅伝に2度出場。銀行の窓口係や外回りをへて国際金融マンに転身。今は英国に住み、5ヵ国語を駆使して経済小説を書く。人生 の目標が見つかるまでの過ごし方、実現までの道、切った張ったの交渉術、海外から見た日本……。進路や仕事で迷う人に贈るアドバイス。

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獅子のごとく

小説 投資銀行日本人パートナー

黒木 亮

講談社




2011/2/15

2010/11/26 発行
主人公は、日本の東立銀行から米大手の投資銀行に転身した、逢坂丹(あかし).
 「敵をオーバーウェルム(圧倒し蹴散らす)するんだ」を口癖に、取引先から果敢に契約を取り、同僚や上司を蹴落とし、自分になびかない官僚を左遷へとおいやる.日本支店のトップに立った逢坂は、父の会社を破綻へと追い込んだ東立銀時代の先輩、桧垣との対決に挑んでいく.
 逢坂には、モデルになった財界人がいるそうだ.「非常にインパクトの強い人物像を描くことで、成功を手にした人が謙虚さを失っていく様を描きたかった」と著者の言葉.
 敵役の桧垣は、著者の銀行時代の傲岸不遜だった上司を参考に作り上げたらしい.
 
 二人とも、感じのいい人物ではない、悪役だから、読んでいて、不快な感じもある.
 部下たちの前では気さくな兄貴分、客に対しては徹底した太鼓持ち、ライバル金融機関に対しては獰猛な獅子、社内の権力闘争では狡猾なハイエナと、いくつもの顔を使いこなせるのが逢坂という人間.商売を取るためには、グレーゾーンやブラックゾーンに躊躇することなく突っ込んでいく性格で、顧客に対しては、『飲ませ、抱かせ』の接待をやる.モデルだった人はどこまで凄かったのだろう.

 70年代から始まり、バブル経済やリーマンショックなどの現実の出来事や人物を織り交ぜ、実名で堀江貴文や村上世彰も出てきたりするので、興味が深まる.小説だから、作った部分があるのだけど、仮名になっているが片山さつきらしい人や野中元キャスターらしい人もいて、どこまでが事実だろうと考えて気になるものだ.
 
 トリプルAを読んでいたのと重なる時代と経済状況のような気がする.
 それにしても、契約を取るためなら何でもする、ゴルフ場をポンと指す出したり、ベンツをさっと進呈したり、便宜を図ってもらうためとはいえ、汚いことを平気でする人って、ほんとにいるんだろうなあ.そんな人にかかったら、凡人はあっさり引っかかってしまう.こわいこわい.


トリプルA  上・下
小説 格付会社


黒木 亮

日経BP社




2011/1/10

2010/5/31 発行
(初出)「東京スポーツ」
1984年から2008年、リーマンショックまでの金融界の動きを、そこで働く者たちの人生を描きながら示してみせる。
 乾・・・・銀行から日系格付け会社、外資系格付け会社、と転職。
 水野・・・・マーシャルズからS$Dに引き抜かれ、いずれも外資系格付け会社。
 沢野・・・・生保の格付け担当として走り回ったあと家業を継ぐ

 格付け業界の盟主マーシャルズ・インベスターズサービスはトップが代わると格付けの姿勢も変わる。簗瀬は厳しい格付け、三条は顧客第一で甘い格付けだったりする。
 この間にイトマン事件があり、山一證券の飛ばしから自主廃業、日産生命破綻、北海道拓殖銀、日債銀などについても触れ『金融機関の生殺与奪の権を握るのは格付け会社』とまでいわれる。

 ただ、エンロンが破産宣告する4日前までグッドリスクとしていたなど、どこまで真に受けたらいいのか。

 『馬鹿な格付け会社が、最先端の金融技術で複雑化されたストラクチャーの中に隠されているリスクを見抜けなかったり、商売欲しさに高い格付けを付けたりすると、最後に困るのは債権を買った投資家だ。・・・(略)・・・最近、儲けるためにアレンジャー(投資銀行など)のごまかしを見てみぬふりをしている格付け会社が多い』と、登場人物に批判させている。

 最近、また日本国債がランクを下げられた。2003年にシングルAに下げられたあと、回復していたが、金融危機のスペインより下になってしまったようだ。
 
 格付け会社について詳しく知ることができ、本書を読んだ後は、ニュースも少し理解できるようになった。
 格付け会社ってこうなってたんだ、あまり気にし過ぎなくてもいいのじゃないか、マスコミで騒ぎすぎじゃない?って思ってしまった。


排出権商人

黒木 亮
講談社



2010/1/14
2009/11/12 発行
「週刊金融財政事情」で連載
いやあ、読むのが大変だった。排出権取引がどういうものかという説明や、そもそも遡って京都議定書かららしいので、説明だけで少し疲れた。が、おかげでよくわかるようになった。

日本は6%削減が義務付けられているのに、守れないと困るので、世界中を回り、技術が遅れていてCO2を垂れ流しているところへ行き、それをエネルギーに換えるプロジェクトを提案し、国連が認めたら排出権が発生するので、それを日本が買う・・・・という流れのようだ。

排出権のような実体の無いものを世界中から買い付けて、それが意味のないものになったらどうなるのだろう。
だけど、すでにビジネスとして大きくなりつつあるようだ。

著者は、最後にアメリカ人の論文として、地球温暖化はでっち上げ、いまは温暖化バブル、という考え方も示している。
本書では、主人公をキャリアウーマンにしてあるが、深い意味は無さそう。今時ならあり得るかも。


リストラ屋
黒木 亮
講談社



2009/10/2
2009/7/1 発行

 投資家をあざむく仮面を剥ぎ取れ! 「市場と投資家を欺こうとする奴は、絶対に許さん!」。
米国ファンドからコストカットの手腕を買われて名門スポーツ用品会社の社長に就任した蛭田明。暗い過去を背負い、人を人と思わぬ非情さで次々と社員の首を切り、彼らを絶望の縁に追い込んでいく。
 片や、自らはストックオプションで莫大な報酬を得ようと、役員たちを恐怖政治で支配して粉飾決算に荷担させ、アナリストを抱き込んで株価を上げさせる。
 粉飾のカラクリにつけ込んで大儲けをたくらんだカラ売り専業ファンド「パンゲア&カンパニー」の北川靖だが、リストラの犠牲者たちのあまりに理不尽な現実に、いつしか義憤を募らせていく。蛭田と北川の対決はどちらが勝つのか?
(bookデータ)

     *****

 空売り専業ファンドなんてものがあるナンテ・・・・素人が下手に関わると大損、カモになってしまうのだろうなと思わせられた。
 この本の場合は、空売り屋を悪く書いていなくて、リストラ屋の方を、理不尽で非情に描き、わかりやすいストーリーにしていた。
 世の中はそんなにわかりやすくはないと思うけど。

 非情のコストカッターらしさがよくあらわされている表紙イラストは、ミツミマリさん。うまいなあ。


冬の喝采
黒木 亮
講談社



2008/12/28
2008/10/20 発行

 運動が得意でなかった少年が、中学二年で走る喜びを知り、長距離ランナーとなっていく。北海道で注目を浴びるが、高校時代はけがに泣き、陸上から遠ざかる。早稲田に入って瀬古に会い、再び走り始める。

     中学2年から大学4年までの大学ノート8冊の練習日誌をもとに書いた、自伝的スポーツ小説。本人も実名で登場している。

    2区をトップで走りぬけた瀬古利彦から襷を受け取り、4区で待つ走者にトップで襷を渡す。トップを走るのはこういうことなのか〜とカメラを向けられプレッシャーを感じながら走る。

 夢の箱根駅伝の走者になるまでの厳しいトレーニングや、中村清監督との葛藤など、故障を抱え不安ながら責任を果たした箱根駅伝にかけた青春の物語。自身の複雑な生い立ちと駅伝を走ることの意味が重なり合う。

     いつもの経済小説とは一味違った作品だった。練習メニューなどは、つい飛ばし読みをしてしまったけれど。


エネルギー
上・下


黒木 亮


日経BP社




2008/10/24

2008/9/8 発行

日経ビジネスオンラインに過去2年間連載されていたもので、「国際資源戦争」の最前線を描いた経済小説!

サハリンの巨大ガス田開発(サハリンB)を中心に、イランの「日の丸」油田をめぐる暗闘(オイル・スキーム融資案件やアザデガン油田開発案件)、デリバティブズで大きな損失を発生させる中国の会社の話などをからめて構成している。

読み終わってすぐの時期の新聞に、「サハリン2」LNG  来年初にも対日輸出 曲折を経て完成  資金回収段階へ という見出しを見かける。本で読んだことは現在進行形だったのだ。わお。日本のエネルギーはこのような困難を乗り越えた努力のおかげだとしみじみ感謝する気になった。

登場する中心人物は、旧財閥大手総合商社、五井(いつい)商事の金沢明彦、トーニチ総合商社取締役中東総支配人・亀岡五郎、通産官僚資源エネルギー庁石油政策担当企画官・十文字一(はじめ)。米系投資銀行JPモリソン・秋月修一。

読み応えがあり、しかも面白い。

 新聞によれば、サハリン2は「サハリンエナジーが事業主体。当初は外資だけの出資でロシア側と生産分与契約を結んだが、2007年にロシアのガスプロムが参画。現在の出資比率はガスプロム50%プラス1株、英蘭ロイヤルダッチ・シェル27・5%マイナス1株、三井物産12・5%、三菱商事10%、総事業費は二百億j(約1兆9千億円)とある。



貸し込み

上・下


黒木 亮



角川書店








2007/11/28

2007/9/30 発行
 旧三和銀行が脳梗塞で痴呆状態になった資産家に対して24億円不正融資した事件をモデルにした小説。そして事件を、退職した元行員のせいにしてしまうという、こんな酷い話が実話とは驚きだ。

 自分のせいにされかかっていることを知った
右近は、弁護士と裁判に向けて対策を講じていく。昔の出来事にもきちんと資料を整理して残しており、証明できるのがすごい。
 詳細に出来事の誤解を説くための陳述書を書いて裁判に提出する。あまり詳しいのでとばし読みしてしまったが、小説家はこんな物まで作るのかと驚きをもって読んでいたのだが、嵌められそうになった元行員というのが、実は黒木氏自身だったと知って、納得すると同時に黒木氏でなければ潔白を証明できなかったのではないかと思えてきた。

下巻は裁判が中心。裁判の為、日米を往復する右近。
東京地裁での証人尋問での受け答えは、相手の弁護士に言葉尻をつかまれることなくやりとりがすごい。
 被害にあった資産家の夫は、弁護士を換えたり、不利な事実を漏らしたりなど、裁判当事者の常識の欠如もあり、右近こと著者の憤りが並大抵でなかったと想像される。

 誰が署名を偽装したか、書類の偽装は、金を抜いたのは誰か、金はどこへ消えたのか、まるでミステリーだ。
ノルマに追われた銀行のメチャクチャぶりが恐い。

     *****************
 三和銀行が28億円を「融資」し数億円の利子をむしりとり、自宅が競売にかかるまで追い込んだ事件。現実の判決は 被害者・杉山さん側の全面敗訴だったそうだ。杉山さんが痴呆状態で判断能力がなかったという主治医、専門家らの証言、鑑定はことごとく「採用できない」とされ、妻・明さんの連帯保証契約の署名捺印を偽造(しかも「明」は「明子」と誤記されている)したという、偽造した張本人(公認会計士)の法廷証言があるにもかかわらず、「明さんは財産のことを夫に委ねていたので、夫が借金をするなら通例保証すると考えられる」という驚くべき理屈で、偽造保証契約も有効とされた。

 事件も信じられないが、裁判も驚きの判決。


カラ売り屋


黒木 亮


講談社





2007/8/5


2007/2/20 発行
「カラ売り屋―ー企業のバランスシートを徹底的に読んで、粉飾決算や悪材料を隠していそうな会社を探し出し企業の弱み(悪い材料)を見つけて、株価分析レポートで公表し、株価が下がったところで買い戻し、当初に売った高値と下落した買戻し価格の鞘を稼ぐ

「村おこし屋」―ー過疎化が進む地方の村おこしとして、 巨額の融資を取り付け、私腹を肥やしていく者たちがいる。詐欺師であるはずの堀井は、独特の魅力がある。井上は真っ当で地方統治を正道に戻そうとする側なのに、詐欺師堀井の最後の友達であり続ける。

「エマージング屋」―−新興国への融資にまつわる銀行間のやりとり、 そのリスクと隣り合わせでしのぎを削っていく者たち

「再生屋」―−過剰投資のホテルが経営難に陥り、 それを何とかして立ち直らせようと 自主再建の道筋を作り、駈けずり回る者たち。その中から恋も芽生える。

これら
の4編からなる。

 著者は現実の事件などを非常に詳しく取材し、実際のモデルを元に小説化している。村おこし屋は福岡へ行って、実際に似た事件が起こった場所を取材し、再生屋のモデルは和歌山ではなく九州のある温泉ホテルであり、北海道の企業も、そっくりな業態のものがあるそうだ。
 最近話題となっている、地方自治体の構造やあり方を考える作品でもある。
 面白いだけでなく「読者に新しい知識を与える」小説を心がけてきたと、著者が言うとおりの作品だ。面白い。


巨大投資銀行

バルジブラケット



黒木 亮




ダイヤモンド社








2006/4/11

 巻末には金融経済用語集や多数の参考文献があり、日本のバブル以前から金融大臣が経済を立て直そうとするまでの20年間を、外資で働く日本人を通して丁寧に描いていて、私のような金融界のビギナーが過去を要領よく知るには非常によい。(G5のプラザ合意、ブラックマンデー、アメリカ経済の復活、日本のバブルとその崩壊、喪われた10年 これらの解説と複雑な金融システムetc・・・)

実在の会社名や人物の間に、仮名の会社、人物を配しているが、どの会社のことかはわかるので、過去の経済事件のニュースを思い出しながら読んだ。
 
 桂木英一は東都銀行からモルガン・スペンサーに移り、対米投資先を探す日本企業との取引開拓に当たる。「日本に貢献したい」という思いが強い。
 竜神宗一、ソロモン・ブラザーズ東京支店トレーディング部門ヘッドは、日本を金儲けの宝庫と見る。裁定取引で巨額の利を稼ぐ。外資は「ハゲタカ」、日本をカモにしてあくどいというイメージを持っていたが、竜神のような人たちなのだろう。外資が強いのは、仕事の厳しさもあるが、邦銀のシステムの不合理さ、経験不足もあり、M&Aの場面では、はがゆくなってしまう。

 本書の中の桂木は誠実、堅実な仕事のやり方だ。だから読んでいても気持ちがいいし、頑張れと思う。
 桂木は、請われてまた古巣の都銀に戻り、未熟なM&Aを教えるが、銀行の合併騒動があり、また外資に誘われる。
 だが、日本の金融界の再生に力を貸して欲しいと請われ・・・。
 地道で、誠実で、出世から遠回りでも真面目に仕事をする桂木、お金の為だけでなく、世の中のために自分に何ができるか、日本のために自分にできることは何かと考え、仕事に対する姿勢が素晴らしい。結果的に出世もしている。桂木のような生き方って、男のロマン?



シルクロードの滑走路

黒木 亮

文芸春秋




2005/9/8

 日本の商社マンが、シルクロードのキルギスに航空機の購入を交渉している。キルギスは、共産主義時代の悪弊が残っており、交渉はなかなか進まない。
 
キルギスタン運輸省と東洋物産の間のMOU(覚書)の調印にむけ、航空機やファイナンスの手配、リース会社、金融機関との交渉、マナス航空によるエスクロウ・アカウント(信託口座)の開設・・・etc。運輸大臣は賄賂を求めるし、書類は事前に読んでおくこともしない、官僚は保身ばかりを考え書類にサインをしないなどロシア語と英語で通訳をはさんでのやりとりで、困難を極める。

 航空機ファイナンスは担保となる航空機に様々な保全措置を設けるので書類が多い。
交渉の場面は緊迫感があり、うっかりあいまいな文言にすれば大きな損害を被るのだろうと思うと読んでいてはらはらする。

 人物や場所の説明にあわせて、チェコの「プラハの春」、匈奴など中央アジアの諸民族の歴史、迫害されてきたクルド人についての説明が、理解を助けてくれてありがたい。

 シルクロードの異国情緒を感じ、民族問題も知り、そして難しい国際ビジネスの丁々発止の交渉現場を見せてくれて、不自然なラブストーリーのない硬派のビジネス小説である。


アジアの隼

黒木 亮






2004/5/18
 新興国市場として急成長を続けるアジア市場。90年代半ば、邦銀でアジアを担当していた真理戸潤は、ドイモイ政策で外国投資ブームに沸くベトナムの事務所 開設を託されハノイに赴任した。
 一方、アジア市場で急成長を遂げ、勇名を轟かせる香港の新興証券会社があった。その名は「ペレグリン(隼)」。同社の債券 部長アンドレ・リーは、アジアの王座への野心を胸に、インドネシアのスハルト・ファミリーに近づいて行く。
 賄賂が横行する共産主義体制下で、事務所開設に 四苦八苦を続ける真理戸は、邂逅した日系商社マンから、ベトナムの巨大発電所建設のファイナンスを持ちかけられた。約6億ドルのビッグ・ディール落札を目 指し、熾烈な闘いを繰り広げる各国の企業連合。真理戸と日系商社の前に、アジア・ビジネスの暗部を渡り歩く大手米銀のシンが立ちはだかった…。
 やがて迫り 来るタイ・バーツ暴落と通貨危機。その時市場では何が起こったのか?そして三人の東洋人のディールの行方は。(Bookデータベースより)

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虚栄の黒船
小説 エンロン
黒木 亮

2003/12/9


トップレフト


黒木 亮

祥伝社





2003/11/3

2000/11/10 発行

ひとつの銀行では負担しきれない巨額の融資を複数の銀行が融資団をつくることによって実現する国際協調融資。
 融資団を取りまとめる主幹事銀行の名は、調印時に作成される「ツームストーン(融資完了広告)」において、常に融資銀行団の最上段左端に記される。
 トッフ・レフトは勝者にのみ与えられる、市場の神にもっとも近い地位である。

 欲望とリスク栄光と失意が交錯するロンドンの国際金融ビジネス。都銀上位行の富国銀行ロンドン支店次長の今西は、じり貧の邦銀で必死にティールをこなしていた。案件の多くは中近東を中心とする国際協調融資。ある日、今西に日系自動車会社のトルコ現法向け15千万ドルの巨大融資案件が持ちかけられた。

 資金の使途はイラン工場建設資金。が、米国の投資銀行に勤める日本人龍花がその情報を聞きつけた。強引な手法で単独・全額引受け(ソール・アンド・フルアンダーライト)を目指すウォール街の鷲と、誇り高き金融街シティの契りで結ばれた今西率いる四行共同引受けグループとの息詰まる闘い。その渦中で、世界の金融界を揺るがす巨額のM&Aが持ち上がった…。果たして栄光の主幹事の座を射止めるのはどちらか?在英現役国際金融マンが空前のリアリティで描く、驚嘆の国際経済小説! (表紙後ろ扉の紹介より)

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