海外作品


カレル・チャペックの見たイギリス
Anglicke listy(原題)
Letter from England(英語訳)
カレル・チャペック
KAREL ?APEK

来栖茜 訳



2023/10/11
2022/10/15 発行
 1924年、チェコの作家カレル・チャペックはイギリスを訪れた。目に映る目新しい文化、豊かな自然、そしてイギリス人。ユーモアあふれる記述に、さらり批評眼がさしはさまれる。挿絵も多く愛らしい本です。

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 大英博覧会が開催されているさなかのイギリスを訪れたカレル・チャペックが、故郷チェコの新聞に掲載した旅行記。

 翻訳がうまいのか、原文がすてきなのか、スイスイ楽しく読めた。


魔女の血をひく娘 2
Sorceress

セリア・リーズ
Celia Rees
亀井よし子 訳
理論社



2022/4/15
2003/11 初版
これはただの偶然じゃない。わたしのからだにはメアリーの血が流れている―。キルトに隠された日記にはつづきがあった。魔女狩りを逃れて渡ったアメリカでも、魔女の烙印をおされたメアリー。あてもなく森へ走った少女を待っていた運命とは…?研究者アリソン、先住民の娘アグネス。二人がたどりついた涙の真実。(Bookデータベース)

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フィクション?作者はなぜこういう物語を書こうと思ったのだろうか。
少しは事実を元にしてストーリーを構成したのか。
魔女というより、新大陸の入植者と現地人との闘いの悲惨さの記述か・・・・・と。


眼下の敵
The enemy below

D・A・レイナー
D・A・Rayner
鎌田三平 訳
創元推理文庫



未読
1986/11/21 発行


嘘の木
The Lie Tree

フランシス・ハーディング
Frances Hardinge

児玉 敦子 訳

東京創元社



2018/7/18

2017/10/20 発行


著者ーーー英国ケント州生まれ。オックスフォード大学卒業後、2005年に発表したデビュー作Fly By Nightでブランフォード・ボウズ賞を受賞。2014年、Cuckoo Songは、英国幻想文学大賞を受賞し、カーネギー賞の最終候補になった。そして2015年、七作目にあたるThe Lie Treeでコスタ賞(旧ウィットブレッド賞)の児童文学部門、さらに同賞の全部門を通しての大賞に選ばれるという快挙を成し遂げ、米国のボストングローブ・ホーンブック賞も受賞、カーネギー賞の最終候補にもなった

 高名な博物学者サンダリー師による世紀の発見、翼ある人類の化石。それが捏造だという噂が流れ、一家は世間の目を逃れるようにヴェイン島へ移住する。だが噂は島まで追いかけてきた。そんななかサンダース師が謎の死を遂げる。自殺ならば大罪だ。密かに博物学者を志す娘のフェイスは、父の死因に疑問を抱く。謎めいた父の手記。嘘を養分に育ち、食べた者に真実を見せる実のなる不思議な木。フェイスはその木を利用して、父の死の真相を暴く決心をする。コスタ賞大賞・児童文学部門賞をダブル受賞した大作ファンタジー。

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 前半はもどかしかった。時代のせい(19世紀)でもあるが、少女フェイスは向学心を持ちつつも女性が学ぶということを許さない世の中の慣習に従ってひっそりと過ごしていた。
 その時代、女性は男性には劣ると考えられており、宗教的にも女性が社会で活動していくことには大きな壁ばかりだった。
 後半になって、フェイスが、少しずつ成長し、さまざまな事態を乗り越えていく。父の死の真相を突き止める。わくわく、はらはらしながら応援した。

 嘘を養分にして育つ木なんて、面白い発想だ。


人形の家
ET DUKKEHJEM

イプセン
Henrik Ibsen

矢崎源九郎 訳


2017/3/26 再読
1980/6/12
昭和28/8/20 発行
小鳥のように愛され、平和な生活を送っている弁護士の妻ノラには秘密があった。夫が病気の時、父親の署名を偽造して借金をしたのだ。秘密を知った夫は社会的に葬られることを恐れ、ノラをののしる。事件は解決し、夫は再びノラの意を迎えようとするが、人形のように生きるより人間として生きたいと願うノラは三人の子供も捨てて家を出る。近代劇確率の礎石といわれる社会劇の傑作。

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   第1幕を読んでいるとノラのおバカぶりにイライラした。時代のせいか、女は世の中を何も知らないから仕方がないのかと思える。
 第2幕、戯曲というのになじみがないせいかセリフに対する違和感。会話ですべてを説明するのは聞きずらい。小説の時は、説明だけの地の文に会話が入るとホッとするのに、反対だ。
 第3幕になると、夫の「許してやった」という言葉が何度も出てくる。妻は自分のもの、妻は夫のものであり子供でもある・・・・優しいと思っていた夫の化けの皮がはがれた瞬間だ。
 ノラが覚醒するけれど、ちょっと唐突な感じ、舞台だから解り易くするためだろうけれど。

 書かれたのは1879年。日本での初上演は、M44(1911)年、松井須磨子による。
 婦人解放の思想は、この時代では画期的だったということか。
 


帰ってきたヒトラー
Er ist wieder da
上・下
ティムール・ヴェルメシュ
Timur Vermes

森内 薫 訳

川出書房新社



2016/7/26
2014/1/20 発行
著者ーー1967年、ドイツのニュルンベルク生まれ。母親はドイツ人、父親はハンガリー人。エルランゲン大学で歴史と政治を学ぶ。ジャーナリストとしてタブロイド紙〈アーベントツァイティング〉紙や雑誌などで活躍。ゴーストライターとして4作品を刊行。

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 2011年8月にヒトラーが突然ベルリンで目覚める。彼は自殺したことを覚えていない。まわりの人間は彼のことをヒトラーそっくりの芸人だと思い込み、彼 の発言すべてを強烈なブラックジョークだと解釈する。勘違いが勘違いを呼び、彼はテレビのコメディ番組に出演し、人気者になっていく…。

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 非常に面白かった。どこがどのように面白いのかを表現しにくいけれど。
 訳者あとがきからーードイツではナチスやヒトラーのことはタブーだった。それなのにこの本はベストセラーとなったという。
 作者は敢えて怪物に仕立てたのではなく、人間的に魅力的に描いた、そしてなぜあのような恐るべきことが起きたかを考えるべきだとしたのだ。
 ドイツ人でない者にとっては、知らない事柄が多いが、作者の意向で翻訳に際し、注釈はつけないとのこと。ヒトラーの独白で綴られていくのでヒトラーになりきって読んでいける〜〜〜かなあ?
 ヒトラーの口から現代について語っているところは、作者の鋭い批評と思われる。なかなかそれが面白い。
 
 映画になっているので、どんな風に仕上がっているのか、見てみたいものだ。
 


鷲は舞い降りた
The Eagle Has Landed

ジャック・ヒギンズ
Jack Higgins

菊地 光 訳




2016/6/2
1992/7/15 発行
 鷲は舞い降りた! ヒトラーの密命を帯びて、イギリスの東部、ノーフォークの一寒村に降り立ったドイツ落下傘部隊の精鋭たち。歴戦の勇士シュタイナ中佐率い る部隊員たちの使命とは、ここで週末を過ごす予定のチャーチル首相の誘拐だった!イギリス兵になりすました部隊員たちは着々と計画を進行させていく…使命 達成に命を賭ける男たちを描く傑作冒険小説

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 非常に面白いという評判だったが、なかなか読み進まなかった。これは完全版なので削除されていたエピソードを補完したためテンポが悪くなったのか。
 たくさんの人物が出てきて、なかなか頭に入らなかった。魅力ある人物たちなので、ある程度人物像がつかめて、作戦が動き始めてからは面白くなってきた。

 解説にもあるように、ドイツ人を魅力ある人物にしている。それまでは、冒険小説に出てくるドイツ人は、冷酷な極悪人か、感情のない規律励行者、間抜けな端役だったそうだ。
 

 


エマと伯爵
Emma and the Earl

ポーラ・マーシャル
Paula Marshall

宮沢ふみ子 訳

ハーレクイン文庫



2012/7/17

2006/1/1 発行
十年前、富豪の一人娘エミリアはドミニクに恋をした。
太っていて不器量なエミリアに、彼はとても優しくしてくれた。
だが、ドミニクに求婚された時、彼女は断った。財産目当てと知ったからだ。
その後エミリアの父が破産して自殺、彼女の人生は一変した。
今は痩せて、見違えるほどの美しい女性に生まれ変わり、エマという名で家庭教師をしながら暮らしている。
そして今度の雇い主は・・・・・・・・伯爵となったドミニク  !
変貌したわたしを見て、彼は過去を思い出すだろうか?(裏表紙の紹介より)

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 太って不器用な女の子が美しくなっていること、身分の違いがあって、思うようにいかない事、過去の事情もあって素直な気持ちになれないこと、読み手をはらはらさせるすれ違い。
 ロマンスものの王道を行くストーリーで、歴史的背景に蒸気機関車が発明された頃であったり、なかなか面白かった。
 イギリス貴族の、身分は高いが資産がないため、家を守るため持参金付きの女性と結婚せざるを得ない事情とか、なかなか興味深かった。

 読み応えがあったのは、ヒロインが教養があり、聡明で意志が強く、女性の地位があまり認められない時代にもかかわらず、誇り高く上品でいたことだ。

 いつもは読まない恋愛物だが、たまには面白い。


レッド・ストーム作戦発動
Red Storm Rising
上・下




トム・クランシー
Tom Clancy

伊坂 清 訳
文春文庫








2012/3/12

1987/9/10 発行
著者ーーー1947年ボルチモア生まれ。保健のセールス業のかたわら書いた処女作「レッド・オクトーバーを追え」が超ベストセラーとなり、ホワイトハウスに招かれるなど一躍時の人となった(1984)が、2年後に発表した本書は出来映え、売れ行きとも第一作を上回り、処女作の成功がフロックでなかったことを実証した。以後、1年一作主義を守り、Patriot Games をすでに完成している。

    **********
 
 ーーー星の輝くある冬の夜、シベリア西部の主要油田・石油精製施設がイスラム教徒によって潰滅させられた。深刻な石油不足に直面したソヴィエトは、ペルシャ湾沿岸の産油地帯を奪う意志を固め、その前提としてNATOに奇襲攻撃を計画、作戦準備と平行して謀略活動も進めだした。
 そして数ヵ月後、ソヴィエトの精鋭部隊が大挙して西ドイツへ侵入、アイスランドへも奇襲上陸を敢行した。グリーンランドからアイスランドを経てイギリスを結ぶ線ーーーいわゆるーーGI-UKラインーーは、ソヴィエトの潜水艦が大西洋へ南下するのを防ぐバリヤーをなしている。アイスランドを制圧されたため、そのバリヤーは破られ、アメリカからヨーロッパへ向かう輸送船団は、潜水艦や長距離爆撃機に攻撃され始めた。
 ドイツ戦線では、NATO軍は空における優位を保つことで、防衛線の崩壊をかろうじて免れていたが、予備の兵力や武器弾薬はしだいに乏しくなっていった。そんなとき、NATO軍は潜水艦隊を長躯バレンツ海へ忍び込ませ、戦局を逆転させる作戦に出た。
 一方、ソヴィエト側では、ことが計画通りに運ばないので焦りが生じ、政治局の中に戦術核兵器を用いようとする動きがあらわれるーーーーー。

ソヴィエト連邦、アイスランド、ドイツ、アメリカ、そして大西洋と、緊迫したシーンを繰り広げる。
 幻の戦闘機ステルス、ミサイル、戦車、潜水艦、・・・・核兵器を除くあらゆるハイテク兵器の動員される現代戦をリアルに描いた。(以上、訳者あとがきより)

 「会戦」ゲームで「北大西洋の戦闘」のアイデアをもとに、現代の兵器を用いてこんな戦いを行えばどうなるか・・・・・いろんなアイデアをもとに筋を考えたそうで、場面の展開がどんどん変わっていって、少しずつ戦いが進んでいって・・・・・まるでロールプレイングゲームだった。兵器の説明や作戦、戦闘の場面などに興味が無いと面白くなかった。
 ネットで見ると面白いと言う評価があったので、期待して読んだが、どこまでも関心がもてなかった。映画になっていたら見たかもしれないが、文章での描写は、しんどい。


仕事くれ。
The Job

ダグラス.ケネディ
Douglas Kennedy

中川 聖 訳

新潮文庫



2011/6/20 

1999/9/1 発行
 ネッド・アレンは大手のコンピューター雑誌社に勤める、広告セールス部門の管理職。高級に恵まれ、美しいキャリアウーマンの妻とマンハッタンに住んでいる。夫の浪費癖から多額の支払いに追われながらも、豊かな暮らしを満喫している二人。クリスマスに近いある日、ネッドは会社が買収される予定だと聞かされ、おまけに発行人への昇進を約束される。だが、年が明けてみると、会社は新たに別会社に売却され、さらに業務停止に追い込まれてしまう。騙されたと気づいたネッドは上司に暴行を働き、そのせいで再就職も困難になる。加えて一度だけの浮気が妻にばれ、別居の憂き目に遭う。家も職もなくしたネッドに、ハイスクール時代の友人シューバートが仕事を提供してくれる。数年前に設立した投資会社で、前途有望な投資先を開発する仕事だというのだが・・・・・・・・・・。(解説より)

 ここまでが前半で、ネッドがバタバタするだけであまり面白くなかった。仕事を取るため強引なやり取り、はったりを言ったり、失業したあとは職安のようなところに出かけ、紹介された仕事をしたり、やめたり。

 困った挙句、かつての知り合いに連絡を取った。シューバートが提供してくれた仕事は、お金を運ぶだけなのだが、ここからは、不正な資金洗浄、殺人がからみ、がぜん面白くなってくる再就職サスペンス。

 『蛇足』ネッドの自殺をした友人の部屋の描写で、「〜トム・クランシーとケン・フォレットの小説の山〜」という文がある。面白い本の代名詞かな、この作者の本は。ケン・フォレットは「大聖堂」の作者だ。


銀の感覚
上・下



ラルフ・イーザウ
Ralf Isau

酒寄進一 訳

長崎出版



2010/9/23

2008/7/3 発行

 追跡――南米・ガイアナの密林に潜む、伝説の「銀の民」その秘められた能力を追う。「心を読み、陶器のように形作る」という白き神々を求め人類学者イェレミはガイアナに調査に入る。しかしそこは(上)

 逃亡迫りくるマインドコントロール、半世紀にわたる陰謀「銀の民」は地平線の彼方へ発つ。問題は何が見えるかではない。 見る目をもっているかどうかだ。銀の感覚は誰の中にもまどろんでいる。事実が空想を呼び、空想が事実を招く。イーザウは密林のファンタジー、陰謀のファン タジー、古代のファンタジーを、9.11テロという歴史的事実とうまく絡み合わせた作品。
(下)

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 この物語の冒頭で描かれる、「ジョーンズタウン集団自殺事件」は19781118日、南米ガイアナの ジャングルで実際に起こった事件。そこから作者は、この小説を手に汗握る物語にするために意図的に創造の自由を働 かせた

 『共感者』超能力をもつ「銀の民」を探し出し、集団を自由に動かそうという企みと誰が首謀者か、という謎解きのスリルもあるが、主な要素に、インカ、マチュピチュ、ビルカバンバ、オリオン座、ケツァルコアトル、テレパシー、ピラミッド、マインドコントロール、等、私がワクワクするものばかりが出てくるので、虚実取り混ぜたストーリーに夢中になった。

訳者のあとがきで、次のように紹介されている。
 銀の民サラーフ発見の契機となる白き神々の伝説とインカ帝国の歴史。さらに考古学、人類学、超心理学、細菌学、脳神経学、ナチのメドゥーサ計画やCIAMKウルトラ、二〇〇一年九月十一日の同時多発テロまでが話題にのぼる。古代から現代まで時問を縦断し、南北アメリカからヨーロッパまで空間を横断する作者の想像力は、まさしく縦横無尽だ。「事実」を丹念に積み重ね、信じられない世界を現前に見せる語りの手法・・・・・と。


魔術師
マーリンの夢


Merlin Dreams
ピーター・ディキンスン
Peter Dickinson
山本 史郎 訳
原書房


2009/12/24
2000/7/20 発行
すべての伝説は彼が見た夢かもしれない-アーサー王伝説に登場する謎の魔術師マーリンが岩の下に封じ込められ、深い眠りの中で見る夢の物語。アラン・リーの美しい挿絵と織りなすケルト幻想物語。




封印の島 
上・下


ヴィクトリア・ヒスロップ

中村妙子 訳

みすず書房




2008/7/10

2008/5/19 発行

 ロンドンで育ったアレクシスは25.,仕事に確かな手ごたえのつかめないまま,数年来の恋人エドとも,少しずつ噛み合わないものを感じはじめている.
 一マムは今の私の年頃にはすでに結婚七年目で,二人の子どもの母親だった.どんな少女時代を送ってきたんだろう,マムは?マムが人生にどんなふうに立ち向かったか,それがわかりさえしたら……
 母ソフィアは,結婚前の生活について,夫にも,子どもにもいっさい口を閉ざして語ったことはなかった.休暇でエドとともに訪れたギリシャで,アレクシスは母の過去をもとめて,ひとりクレタ島の小邑プラカヘと赴く.ふるさとの村で彼女が知らされたのは,ソフイアの祖母のエレニがハンセン病に罹り,患者を隔離・収容するための沖合の島へ送られて生涯を終えたという,衝撃的な事実だった.
 実在するハンセン病コロニー,スピナロンガ島を舞台に,複数のプロットがやがてひとつの大きな流れをなす(上・裏表紙)

 エレニの罹病と隔離,そして死.第二次大戦終結後のクレタ島で,のこされたふたりの娘たちは,それぞれの運命を生きてゆく.
 欲するものすべてをその手におさめることを願い,結婚によって富裕な階層への上昇をはたした姉アンナ.老いた父のそばで薬草をあつめて人に癒しをもたらし,日々の手仕事に自分の居場所を見いだしてゆく妹マリア.やがて,マリアは母とおなじハンセン病に冒され,スピナロンガ島へと渡るが,そこで彼女が見たものは,母がいた時代に幕をあけた,患者たちの力強い自治,患者の人権を確保した医療体制の実現に持てるすべての力をそそぐ医師たちの姿だった.
 病気への偏見と差別からおきた全島焼き討ちの危機を乗り越え,新薬によってついに完治して,マリアたち元患者は島をあとにして本土のプラカ村へ帰ってゆくが,その夜,思わぬ悲劇がアンナを襲い,アンナの幼いひとり娘ソフィアの運命もいやおうなしに押しながされてゆく…・・
 母ソフィアの封じられた過去を追って呼びさまされた,ヒロインの前につらなる三代にわたる女たちの物語(下・裏表紙)

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読み始めると、惹き付けられて一気に読み終えた。ハンセン病に罹り、島に隔離された人も、コミュニティの中で生きがいがあれば生活は違ったものになってくる。重い事柄を描いているのだが、人物の人柄のおかげで読み応えのあるものが、読みやすいものになっている。


親の家を片づけながら

リディア・フレム
Lydia Flem

友重 山桃(ゆら)訳

ヴィレッジブックス



2008/6/4

2007/10/20 発行
 父亡き後、ひとり暮らしをしていた母が逝った。私に残されたのは、一軒の家。もう住む人がいない家だ。
 「相続人」になった私は、しかたなく両親の思い出がつまった家の中を片づけ始めた。
 私は途方にくれた。あまりにも多くの物がここにはある。今までは触ることすら禁じられていた両親の大切な手紙や思い出の品々が、すべて私の物になってしまったのだ。
 少しずつ整理するうち、やがて姿を現したのは、まったく知らなかった両親の意外な素顔と、両親が生涯抱えていた深い心の傷だった―ー。(カバー)
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 私自身が親の家を片付けているのとは状況が違うからなのか(著者は両親を亡くし、家を空にする)、著者がフロイト研究者という立場や感性を持つからなのか、ここまで考えなくてもいいのにと感じ、少し違和感があった。生前の母親との確執が影響しているらしい。親が死んだことによって開放されたというのは、わからない。

 でも読み進むにつれて、親を亡くした娘として親の物に対峙する気持ちは同じなんだなあと共鳴する部分も出てきた。
 親から残された物は、『ありすぎても、無さすぎても子どもにとって苦しい』という言葉が印象に残った。
 こんな言葉も。「親がいなくなると自分の後ろから見守ってくれる人が誰もいなくなる。よりどころを失った背中は薄ら寒く感じる」


イデアの洞窟

ホセ・カルロス・ソモサ

風間 賢二 訳

文芸春秋



2005/11/3

 古代ギリシア、アテネ。野犬に食い殺されたとおぼしき若者の死体が発見される。だが不審を抱いた者がいた――〈謎の解読者〉と異名をとる男、ヘラクレス。調査に乗り出した彼の前にさらに死体。この連続殺人事件の真相は・・・・・。
 ・・・という書物『イデアの洞窟』の翻訳を依頼された後の時代のわたしは、この物語にはギリシアでの「直感隠喩」という技法がちりばめられていると感じる。この「翻訳者」わたしは、訳注の形で自分の考えを記録している。やがて、作品の中に自分が登場していると不審を感じたころ、何者かに監禁され、翻訳を急がされる。『イデアの洞窟』の作者は誰か?この書物の鍵は何か?
 いわゆる脚注小説で、脚注の中で本文とは異なるもう一つの話が展開していく。プラトンが創設した学園アカデメイアやその生徒が登場し、哲学者やカルト教などがからまりあいながらイデアについて何度も語られる。

 本書は、世界最大のミステリ大賞として有名な英国推理作家協会最優秀長篇賞受賞に輝いた作品なのだが、二重、三重に仕掛けられた語りの罠に翻弄されてしまった。作者は、スペインのマドリッド在住の元精神科医。他に9冊あるが、いずれの作品も現実と虚構、夢、狂気、記憶などを題材に、マジックリアリズムの手法でミステリアスに語られているらしい。

 読み終わってもなにやらわからなかったので、『翻訳者あとがき』を読んだ。これがまた本文の続きのような形であったが、本文の仕組みが分かると共に、ミステリの歴史やテクニックまでが分かりやすく、ユーモアたっぷりで面白かった。
 だが、この小説は私には把握しきれなかった。哲学に関心はあれど理解力が足りず消化不良だった。

 イデアとはプラトン哲学の中心概念で、理性によってのみ認識される実在。価値判断の基準となる、永遠不変の価値。実在とは、観念、想像、幻覚など主観的なものに対し、客観的に存在するもの、またはその在り方。


ガープの世界

 上・下

ジョン・アーヴィング

筒井 正明 訳

新潮文庫



2005/8/31



 看護婦ジェニーは重体の兵士と「欲望」抜きのセックスをして子どもを作った。子どもの名はT・S・ガープ。文章修行の為、母ジェニーと赴いたウィーンで、ガープは小説、母は自伝の執筆に励む。帰国後、母の書いた「性の容疑者」はベストセラーになる。

 結婚したガープは三編の小説を発表し幸福な毎日を送るが、妻ヘレンの浮気に端を発した自動車事故で一人の子どもを喪い、ガープ夫妻も重傷を負う。女性に対する暴力をテーマに傷ついた心と体を癒しつつ書いた小説は全米にセンセーションを巻き起こした。一躍ベストセラー作家となったガープは悲劇的結末への道を歩みだしていた

 途中で何度もやめようと思った。ベストセラーだというのに。

 ガープが生まれるいきさつの珍奇さ、母親のユニークさ、なんだか馬鹿馬鹿しいような、でも、リズミカルで平易な言葉と文体でユーモラスに日常生活を描いているので、「次がどうなるか知りたくて」読み進めた。
 ガープは主夫で作家。ガープの奇矯ぶりにはあきれる。無謀運転手はいないか、ガスは漏れていないか、ガープの子どもを守るという強迫観念による行動はこっけいだ。

  それなのに、自分の運転する車の事故でウォルトは死に、ダンカンは片目がえぐられる。妻は若い男のペニスを噛み切る。悲惨な交通事故が逆にコミカルに感じられる。
 事故のあと、ウォルトについて語るまでの話の持って行き方は上手いと思った。となりの風呂を使う音、子どものときのウォルトとの風呂の思い出、事故の時のダンカンの怪我、ヘレンの叫び声、音がない!、ウォルトは〜・・・。
 ガープの奇想天外な生涯とその周りの人たちが織りなす、暴力とセックスと安っぽい笑い。これが現代アメリカ文学なのかと思うと、ちょっとつきあいきれないな、というのが本音だった。

 映画では、ロビン・ウイリアムスがガープを演じている。



真珠の耳飾りの少女

トレイシー・シュヴァリエ
木下 哲夫 訳

白水社



2005/7/28
 
 美術ミステリーのホームページで見かけたので、ミステリーかと思ったら違っていた。ただ、フェルメールのことはあまりわかってないそうだから未知の姿を追いかけることの面白さがあるのかもしれない。

 はじめはフェルメールの家に雇われた女中の目を通してその家族や絵を描いていく様子が単調に綴られているだけに思われて、投げ出しかけた。中断した後は、女中のフリートは賢いし、画家の構図の決め方や、絵の具の重ね方などの描写が詳しくて、惹き付けられた。現実に残っている絵と比べながら読むと、よくわかる。

 なぜ、このようなポーズなのか、背景がないのか、などは著者の推理が面白いが、フリートがモデルになっていることを画家も奥様もなぜ若奥様に隠さねばならないのか必然性が感じられなかった。他の子どもたちや他の女中、フリートの家族、画家のパトロンなどの周辺の人物は生き生きしていたが、肝心のフェルメールのイメージが私の中ではっきり浮かび上がってはこなかった。フリートの姿が強かったのかもしれない。



テン・カウント

F・X・トゥール

東 理夫 訳

早川書房


2005/7/19


 原題は「ROPE BURNS」、アカデミー賞主要4部門受賞した映画「ミリオンダラー・ベイビー」の原作である。
 著者はトレーナーあるいはカットマンとしてボクシング業界では知られている。闘牛士をしたり、バーで働いたり、結婚、離婚をくり返し、五十歳近くになってボクサーを志したという変った経歴の持ち主である。七十歳にして本書で作家デビューした。

 まず、プロローグのエッセイで、ボクシングという魅力ある「魔法の世界の一員」だと語る。そして短編六編からなる。

「ミリオンダラー・ベイビー」では、ベテラントレーナーのフランキーの所へミズーリ生まれのマーガレット・メアリーが訪れ、教えを請うところから始まる。はじめは相手にしなかったが、メアリーの熱意にほだされ教え始め、マネージャーも引き受ける。彼女は連勝を続け、100万ドルを稼ぐまであと少しになるが・・・・。
 後半は、脊髄を損傷して身動きのとれなくなったマギーの尊厳について考えさせられる。
 どの物語も悲しい。自己鍛錬の成長ぶりは読者にある種の快感を与えてくれるが、ささいなことで簡単に破れてしまうことも教えてくれる。ここにはアメリカの夢と挫折がある。ボクシング小説ではあるけれど、アメリカの現代を描いた小説でもある。

 映画を見た後、著者の経歴を書いたものを読んだので、原作に興味がわいて読んでみた。原作がいいものだったから映画もあれだけの感動を与えるものになったのだと思われた。


死のサハラを脱出せよ 上 下

クライブ・カッスラー 著

中山 善之 訳

新潮文庫




2005/6/8
クライブ・カッスラーのダーク・ピット・シリーズ第十一作である。ピットと相棒のアル・ジョルディーノはNUMA(国立海中海洋機関)の特殊任務にあたっている。特に困難な任務は提督とよばれるサンデッカーNUMA長官から二人に依頼される。
 
 果てしなく増殖してゆく赤潮。マリの将軍と結託して事業の拡大に腐心するフランスの悪徳実業家。
 ピットは川を遡上し汚染源を探し、汚染物質も発見するが実業家に捕らえられ金採掘の地獄のような所へ送られる。そこには世界保健機関の調査団の科学者たちも捕らえられ、強制労働を科せられていた。
 死神だけが待つ広大な砂漠の脱出行こそがピットの宿命となった。合衆国大統領が動き、国連事務総長も動く。援軍とともに科学者たちを助けに戻り、旧外人部隊の砦にたてこもる。数千名のマリ軍との苛烈な闘いが繰り広げられる。敵が悪いヤツだとはいえ、派手に人が死んだり、爆薬で跳ね飛ばされて、大量に人が死んでいくのは気にかかる。

 ピットとアルは何度捕らえられても巧みに逃げ、絶体絶命の危機からひらめきと粘り強さで窮地を脱する。敵の大事な車で逃げ出したり、偶然遭遇した砂漠の墜落機からサンドヨットを作って走らせるなどは面白い。そして歴史的謎が偶然からも解明されていく。

 砂漠に埋もれた、1985年アメリカ南軍の甲鉄艦。1931年行方不明のオーストラリアの女性飛行家。
 これらの謎とピットの活躍が結びつくわけだが、たくさんの要素を詰め込みすぎじゃないかと感じた。
 面白い冒険活劇ではある。


アトランティスを
発見せよ

上  下
クライブ・カッスラー 著
中山 善之 訳

新潮文庫




2005/3/10
 カッスラーのダーク・ピットのシリーズは本書で15作目だということだが、今まで知らなかった。他の作品を見ると、タイトルには、タイタニック、古代ローマ船,インカの黄金、コロンブスなど私の好きそうなキーワードが並んでいたにもかかわらず気付かないできたようだ。
 
 紀元前7120年、彗星の衝突によって地球は壊滅的な打撃を受けた。1858年、南極で発見された幽霊船には黒曜石を彫った頭骨が残され、2001年、コロラドの旧鉱山からも同様の頭骨、そして廃坑には銘文が刻まれていた。南極ではナチスのU-ボートが出現したりして調査にむかったビットらが危機に陥る。
 『9000年の昔に栄えた文明があった、大厄災で滅び、一部の生き残った者達が各地に散って技術や文明を後の人に教えた・・・・』という話は、古代遺跡をまわって世界中の不思議を解明しようとしている人たちが書いていることだが、それらを巧く使って海洋冒険活劇にしたのが本書である。氷に覆われる前の南極にはかつて優れた文明があった、というのもそうだ。
 かつてドイツを脱出した旧ナチ勢力のヴォルフ一族が地球に厄災を起こし、ノアの箱舟のように自分たちだけが巨大船舶で生き延びようとたくらむ。
 面白いのだけれど、後半は少し読み疲れてしまった感がある。
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