高嶋 哲夫

たかしま・てつお 1949年、岡山県生まれ。90年「帰国」で北日本文学賞、
94年「メルトダウン」で第1回小説現代推理新人賞。
1999年『イントゥルーダー』(文春文庫)で第16回サントリーミステリー大賞受賞(大賞・読者賞をダブル受賞)
科学者としては79年、核融合炉「JT60」の開発に携わり、日本原子力学会技術賞を受けた。神戸市垂水区在住。
理系の作家ならではのハイテクを駆使して活躍する主人公、ハリウッド映画を見るようなアクション。

https://takashimatetsuo.jimdo.com/



紅い砂

高嶋 哲夫
幻冬舎文庫



2023/10/16
令和2/4/10 発行
 政府の圧政や麻薬組織の犯罪が続き、難民流出が絶えない中米の小国コルドバ。米国は政府と麻薬組織の対立を激化させ、新たな指導者を擁立する計画を秘密裏に立てる。指揮を任されたのは米国陸軍の元大尉ジャディス。 かつてコルドバ難民を死なせ、虐殺者の汚名を着せられた男だ。次々と試練が降りかかる中、腐敗した国を再建することができるのか。

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バクテリア ハザード

高嶋 哲夫

集英社文庫



2023/5/19

2020/8/25 発行
 天才科学者・山之内明が発明した「ペトロバグ」。それは、石油を生成するとてつもない細菌であった。世界の石油市場を根本から覆し、戦争にまで発展しかねない脅威を感じた石油メジャーは、山之内殺害およびペトロバグ略奪の指令を発した。目に見えない細菌が、時に驚くべき能力を発揮し、その強力さゆえに人類の危機をも引き起こす……。
  
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  研究所を破壊されたり、命を狙われたり、拉致されそうになったり、とハラハラする。
 これほどの発見ならやはり大変なことになるだろうと思われる。

 以前に読んだはずなのにまったく記憶にないとは!どういうことだろう?ホントに読んだのか?
 2002年宝島文庫として、2007年文春文庫として刊行された「ペトロバグ 禁断の石油生成菌」を改題。
 単行本としては2001年宝島社。


EV
イヴ
高嶋哲夫
角川春樹事務所



2023/1/22
2021/9/18 発行
多くの日本人が知らない事実―。ガソリンエンジンの新車販売の禁止。そして、その対応に日本企業が、大きく遅れをとっていること。深刻な地球温暖化の前に、欧米では遅くとも2035年までにエンジン車の新車販売が規制される。つまり新車販売は電気のみで動く車に限られるのだ。加えて中国が2030年をめどに、国内の新車販売をすべて環境対応車に変更するという。このような世界情勢を前にしても、既存産業への配慮と圧力から日本政府は有効な手を打てずにいた。経産省の自動車課に籍を置く瀬戸崎啓介は焦りを募らせる。このままでは、日本の自動車関連就業人口534万人のうち多くが路頭に迷う可能性がある。だが、いったいどうすればいいのか…?

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「首都感染」後の日本

高嶋哲夫

宝島社新書






2023/1/17

2020/12/15 発行
 2020年、世界を襲ったコロナ・ショック。感染症の脅威を描いた小説『首都感染』はまさに現実のものとなった。国家の危機を描き続けてきたクライシス小説の第一人者が、コロナによって浮かび上がった日本の「弱点」、そして近い将来必ずやって来る東京直下型地震、南海トラフ地震のリスクを指摘。東京一極集中の弊害と、新たな時代にマッチした国家の在り方を提言する。

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 1章 新型コロナウイルスと日本の「弱点」(『首都感染』を書いたきっかけ;感染症への準備ができていなかった日本;「感染者数」に振り回される日本 ほか)
 2章 首都直下型地震と南海トラフ地震(もしコロナのなかで災害が起きたら;阪神・淡路大震災の「忘れぬ記憶」;日本で過去に起きた3つの巨大地震 ほか)
 3章 道州制と日本の新しい形(『首都崩壊』で描いた首都移転構想;首都移転議論の歴史と経緯;候補地となった3つのエリア ほか)

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終わりに
◎ 今回のコロナ禍によって、「日本は狭いようで広い」ことがわかった。
◎ コロナが収束しても、日本にはさらなる危機が待っている。
◎ 首都直下型地震。それに対する首都移転。
◎ 南海トラフ地震。それに対する道州制。
◎ 新しい日本の形を造る。
 これがこの本の要旨です。   ーーーーーーと、著者が書いている。

 政治家達に読んでもらいたい1冊。


世界に嗤われる
日本の原発戦略

高嶋哲夫
PHP新書



2019/4/19
2015/5/1 発行
 福島第一原発の事故を受け、日本の電力政策は転換点を迎えたが、エネルギー問題はもはや一国の利害だけでは判断できない時代となった。全世界70億人には等しく豊かな生活を送る権利があり、今後も増え続ける膨大なエネルギー需要を、再生可能エネルギーだけで賄うのは難しいのが現実。今後も海外では原発建設が計画されており、日本のエネルギー政策は世界から取り残されている。そこで本書は、原発の安全対策を冷静に分析し、増え続ける核廃棄物に関しても具体的提言を行い、原発の必要性を考える。まさに、全人類が文明生活を享受し、世界が繁栄し続けるための原発論。
 2015年4月中旬、高浜原発3・4号機(福井県)の再稼働を差し止めた福井地裁の仮処分決定(関西電力は決定取り消しを求める保全異議を申し立て)は、司法が初めて原発の再稼動を止めることを意味し、原子力規制委員会の判断はいったい何だったのか、政府・電力会社に衝撃を走らせた。このように、国内原発の再稼働への道はいまだ遠いが、安全対策から技術開発まで、日本には人類の未来に対する責任と義務がある!(Bookデータベース)

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 第1章》大きな勘違い
《第2章》世界は原発に向かう
《第3章》どうする、核廃棄物
《第4章》福島の未来と三つの提言
《第5章》そして再稼働へ

 日本中でヒステリックに原発反対が叫ばれている中で、このような提言は勇気がいったことだろう。
 ロシアや韓国、中国などが原発を輸出しようとしている。このような国よりも日本の方が安全な原発を作れると思うので、粗悪な原発が世界に広がるよりは日本が輸出した方がいいと思う。


官邸襲撃
Terrorism In The Ofitial residence

高嶋 哲夫
PHP



2018/10/17
2018/6/29 発行
 テロ集団が、首相官邸を制圧! 首相官邸は戦場と化した! 女性SPが挑むのは、まるで「ダイ・ハード」的状況!?
日本初の女性首相とアメリカ国務長官が首相官邸で会談中に、テロ集団が官邸を占拠。首相と国務長官が人質となる。首相付きの初の女性SPとなっていた夏目明日香が、重傷を負った上司の指示のもと、たった一人、テロ集団に立ち向かうことに。官邸の外では日米の救出部隊が一枚岩になれずもめるなか、アメリカ大統領をも巻き込むテロ集団の意外な目的と作戦が明らかになり……。政府の指示系統崩壊、米軍の介入、その混乱に乗じるテロ組織。しかし、明日香の行動が少しずつテロ組織の計画に狂いを生じさせていく。
日本の安全保障政策に警鐘を鳴らす、クライシス小説。(Bookデータベース)

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 日本に武器を持ち込む方法、テロリストが侵入する方法、こんなに簡単に!あり得るのだろうか。
 アメリカ軍の傭兵訓練所とか、世の中はちっとも平和でないのだなと思わせられた。

 日本は平和ボケ、としか思えない。
政治家の皆さんは、がんばってほしいなあ。


ハリケーン

高嶋哲夫

幻冬舎






2018/3/19

2018/1/10 発行
続発生する台風、記録的豪雨と暴風、地盤の変容、急増する土砂崩れ……。
「もはや、異常気象じゃない」
自然の猛威に翻弄される気象予報官の焦燥と葛藤。
自然災害超大国ニッポンだから生まれたサスペンス大作

3年前に地元の広島で起きた土砂災害で両親を亡くしている気象庁の予報官・田久保は、地球温暖化などの影響で、益々頻発し大型化する台風の対応に忙殺されていた。私生活で家族を顧みることはほとんどなかったが、認知症を患う義母の介護のため、東京都の多摩ニュータウンにある妻の実家に転居する。直後、史上類を見ない超大型台風が太平洋で発生し、日本に向かった。広島の惨状を胸に刻みながら、進路分析や自治体への避難勧告に奔走する田久保。それでも関東では土砂崩れが次々と起こり、被害は多摩ニュータウンにも及ぶ。(Bookデータベース)

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 著者のHPにーーー人の心の嵐、ハリケーン。人は誰でもココロに嵐を持って生きている。それは本物のハリケーンより激しく、深く心を傷つけることもある。心に傷を持った家族、人たちの出会い。わずかな断片で繋がり、支え合って、未来を見いだそうと懸命にもがく。そして抗いようのない1つの巨大な自然の力に立ち向かうとき、奇跡が生まれる。今までの路線とはチョット違うけど。ボクは、けっこう好き。 ーーー著者自身の言葉だけど、私は今までの路線のほうが好きだな。

 いろんな人の心の中を描こうとするので、人物がうじうじしてじれったく感じた。ハリケーンのことをもっと書いてほしかった。
 地球温暖化のせいでハリケーンが多いとか台風がたくさん発生して日本に上陸するとか、温暖化が決定事項のように何度も言葉として出てきたのが気になった。地球はホントに温暖化しているのか?
 いろんな要素を盛り込みすぎだ。母親の認知症問題、息子のいじめ問題など。


電王
高嶋 哲夫
幻冬舎



2017/6/16
2016/12/15 発行
 虚弱体質で寝込みがちだった相場俊之。極貧の母子家庭に育った取海創。級友に除け者扱いされる8歳の2人を結びつけ、救ったのが将棋だった。生活苦から抜け出すために勝負に心血を注いでいく取海につられ、相場も棋力を驚異的に向上させて、同時期に奨励会に入会。そして12歳で迎えた三段リーグ、最終戦で2人は激突した。取海が辛勝して最年少プロになり、惜敗した相場は棋界から去った―。
 20年後、全7タイトルを保持する取海はトップ棋士として初めて将棋ソフトと対局する。将棋界の威信を懸けた一戦。対戦相手は、人工知能研究で世界から注目を浴びる、かつてのライバルだった。

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 現実の世界では、中学生プロがデビュー以来の29連勝という新記録を打ち立てた。小説以上に驚きの事実だ。
 小説の中でも天才少年がどんどん勝ち進んでプロになる様子が描かれるが、将棋の世界でプロになるのがどれほど凄いことなのかを小説で確認したら、ニュースを見てもよくわかると思う。


浮遊
高嶋 哲夫
河出書房新社



2017/5/29
2016/3/20 発行
 今日、僕は、脳だけになった。日本の脳研究の最前線を走る医師・本郷を襲った突然の自動車事故。感覚のない身体、無限にも感じる時間、徐々に恐怖に浸食されていく精神―そんな中、突如、頭の中に同僚の医師の声が響いてくる。―医学は精神より先に進んでしまったのか…舞台は突然の刑事の来訪で揺れる、K大学医学部脳神経外科研究棟三〇五号室。十メートル四方の部屋の中で問われる、医学の奇跡と罪とは?(Bookデータベース)

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日本核武装

高嶋 哲夫

幻冬舎



2017/1/6
2016/9/20 発行
 尖閣諸島を巡って海上自衛隊と中国の艦船の睨み合いが続く中、国内では日本の核武装に向けた詳細な計画書が見つかった。表沙汰になることを恐れた政府は、防衛省の真名瀬に秘密裏に全容解明するよう指示。真名瀬は計画に携わる大手企業や元自衛隊幹部、政界重鎮を突き止め、核爆弾完成が間近に迫っている事実をつかんだ。そのとき、東シナ海では日中の艦船が衝突。北朝鮮は核実験を実施し、弾道ミサイルが日本上空を通過する…。(Bookデータベース)より

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 読み始めたら止まらなくなった。会話文なので読みやすいが、緊迫した会話が続く。

 「日本が核保有の準備をしていることが公になると、世界の反応は?
 経済制裁、原油、LNG,石炭などの燃料の輸出制限、世界各国が協調して輸入制限もかけてくる。海外資産の凍結もかけてくる。投資の引き上げもするかもしれない。日本経済は失速し、完全に孤立する。太平洋戦争前と同様の状況になる」だから日本は絶対に核を持ってはいけないのだと繰り返し述べている。核が抑止力になるという考えは、持ってはいけないのか?絶対に日本は核を持ってはいけないのか?

 だけど戦争をしないためには、仕掛けてくる国に向けては,核はやっぱり抑止力になる。持てば各国から非難されるが持たないと国力は弱い。

 この小説の中では、そのジレンマに挑戦していたが、現実にはどうすればいいのだろう。
 核は持たないが、持つ気になればすぐにも持てるのだ、という姿勢を見せることなのか。


首都崩壊

高嶋 哲夫

幻冬舎



2016/8/19

2014/2/20 発行
 国土交通省の森崎は、東都大学地震研究所の前脇から、マグニチュード8クラスの東京直下型地震が大幅に早く発生する予測データを示される。その翌日、今度 はアメリカ留学時代に親友となったロバートが大統領特使として来日し、東京直下型地震の経済損失が112兆円にもおよび、1929年を遥かにしのぐ世界大 恐慌を引き起こすレポートを突きつけてきた。右往左往する森崎、そして日本政府。人類未曾有の危機を回避する手段はあるのか。模索し始めたとき、震度6弱 の地震が東京を襲った。地震規模が予測を下回っていたことに一度は安堵する森崎。だが、この地震は首都崩壊への序曲にすぎなかった……。 (Bookデータベースより)

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 タイトルからして直下型地震に襲われて逃げ惑う人や崩壊の様子を描くパニック小説だと思ったら違っていた。そういうものはこの著者はすでに書いていた。今回は経済がどうなっていくのかということが描かれている。
 
 インターナショナル・リンクが日本と日本の国債の格付けを下げるーー世界のヘッジファンド、ユニバーサル・ファンドが国債を買うーー国債が暴落、円安になる、株が暴落するーー日本が破たんするーー日本に中国資本が流入ーー中国が巨大化ーー日本は中国に乗っ取られーー中国がアメリカの手に負えなくなるーーー

  お金の力で中国は日本を破たんさせることができるのか・・・・・・・・?

 日本の再生をかけて首都機能移転のプロジェクトが始動する---なかなか素晴らしいアイデアだと思う。
 日本復活シミュレーション物語だ。


富士山噴火

高嶋哲夫

集英社




2016/4/18

2015/7/30 発行
 元陸自のヘリパイロット・新居見充は3年前の平成南海トラフ大震災の際に妻と息子を失った。たったひとり残った家族―東京で医師として働く娘とは絶縁状 態。今は御殿場の養護老人ホームで働きながら喪失と悔恨の念に苦しんでいる。ある日、旧友の静岡日報の記者・草加が「富士山の噴火が近い」という情報を得 る。「御殿場市は、全市民の避難が必要になる!」古巣の自衛隊、消防や警察などを巻き込んで、新居見が中心となった避難計画が動き出す―。噴火予測年は 2014年±5年、想定死者数最大1万3千人、被害総額2兆5千億円ともいわれる、直近かつ最大の危機に真っ向から挑むとともに、父と娘の絆の再生を描き 出す、感動のノンストップ防災サバイバル・エンタテインメント!

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 地震、津波、そして洪水と続いてきた災害対策シリーズ
 三人の同級生のうち、松浦一等陸尉と元防災担当大臣・河本亜記子は結婚して翼という子がいる。松浦が殉職し、瀬戸口誠治と再婚している。瀬戸口はセンター長。

 噴火予知ができたとしても、100%の予知でない限り、自治体のトップは情報を公開しないだろう、外れた時の責任を取りたくないから。避難指示が遅れたら、避難も難しい。

 本書では、富士山が噴火した場合に火砕流や溶岩流で呑み込まれる御殿場市の市長の立場と決断を詳しく追っている。記者の動きも(煽りすぎてもいけないが注意喚起は必要)、観光に携わる人の立場も、よく書けていると思う。
 現実にはこんなに自衛隊やアメリカの空母も動かせるとは思えない。もし、災害になった時にこのくらい動いてもらえるように指針を決めておいてもらいたいものだ。

 シミュレーションとしてよく考えてみる必要を感じた。国のトップ次第なんだなあ。
 


ライジング・ロード

高嶋 哲夫

PHP



2013/9/13

2013/3/22 発行
 大手電機メーカーを「ある事情」で退職したエンジニア・野口陽子は、東北の存続が危ぶまれる大学に非常勤講師として招かれた。彼女に課せられた使命は、太 陽光で走る「ソーラーカー」を作り、レースに出て大学の知名度を上げること。そして陽子のもとに集まった落ちこぼれの六人の学生たち。一見、能天気に見え る彼らも心の奥には様々な悩みを抱えている。二つの予選レースを経て、 八月に鈴鹿で行なわれる全日本ソーラーカーレース優勝を目指して、彼らの熱く激しい挑戦が始まった。

 太陽光という新しい可能性に挑む若者たちの姿が爽やかに描かれたものになりました。未知の分野へのゼロからの挑戦、手に汗握るレース展開の興奮、そして震災・津波を経ても、なお夢に向けて立ち上がる作中の東北の人々の熱い姿が、勇気を与えてくれる一冊

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 「東北を舞台にソーラーカーの話を書きたいんです。それも読む人が、できる限り元気になってくれるようなものを」ーーーーこうしてできた物語だそうである。
 ワクワクし、ドキドキしながらもあっという間に読んでしまった。もっと時間をかけて味わえばよかったと思ったくらいだ。面白かった。

 プロジェクトに関わり、成功に向けて工夫と努力をしていく姿は素晴らしい。学生たちの成長ぶりも頼もしいものがある。予定調和であろうがご都合主義に話が進むのであろうが、さわやかな成長物語で読後感が良かったのでいい.。


震災キャラバン

高嶋哲夫

集英社文庫



2012/4/9

2011/10/25 発行
 2011年3月11日、東日本大地震が発生!
 かつて阪神・淡路大震災で被災して、再建を果たした神戸の中華料理店。そのアルバイト店員・清美は気仙沼近くの出身で、実家とまったく連絡がとれない。
 店主の長男・勇太は、トランペットのオーディションを諦め、彼女を実家に送るため、支援物資を載せたバンを走らせる。
 なんとか彼女の故郷にたどり着くが………。

     ******************

 読んでいると震災直後のTVニュースで見たことを思い出す。この物語のメンバーのように、その場にいたようによくわかる。
 
 現場でしかわからない困ったことや、善意だけでは必要なことが足りないことも、よく書かれている。こうした物語にすることによって、時間がたっても忘れないでいられるのかな。

 悲惨な状況ではあるが、物語は暗くならず、希望が持てるように書かれていた。

 復興への思いを込めて綴る長編ロードノベル(紹介文)だというのがよくわかる。


サザンクロスの翼

高嶋哲夫

文春文庫





2012/2/10

2011/11/10 発行
1945年夏、いまや日本は敗戦寸前だった。何もかも失い特攻でも死にそびれた凄腕のゼロ戦パイロット・撃沈された空母から漂着した無人島で孤独に暮らしていた整備兵・そして闇の運び屋をしている謎 の女――。南太平洋の小さな島で偶然に出くわした3人が、それぞれの思惑を抱えながら、水上仕様に改装されたオンボロ輸送機(ダコタ)で、南太平洋の空を 駆ける。長く植民地支配を受けたこの地の自由と独立のために!

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 読み始めた時、ゼロ戦を引き上げ、その中のハーモニカを取り出す場面で、悲劇のパイロットを連想してしまって気が進まなくなったが、内容は予想と外れて、胸のすく大活劇だった。
 ゼロ戦は、傷みがひどく操縦するのもやっとという状態でグラマンと闘わなければならなかったなんて、終戦間際の戦争はやはりむごい。
 悲惨さを前面に出してはいないが、背景として軽く触れているだけでも、現実の凄さは察しられた。
 
 この物語は、青空を自由に飛びたい天性のパイロットの飛行場面の素晴らしさと、戦争の悲惨さとゼロ戦のすごさを描くこととインドネシア独立を目指す人々を描いている。撃たれても、嵐に巻き込まれても、エンジンが壊れても落ちないフロート付きDC−3も魅力的だ。

 書下ろしなのに文庫本か?と思ったら、ライトノベル風なので軽く読める。


首都感染




高嶋 哲夫




講談社






2011/2/26

2010/12/16 発行

20××年、中国でサッカー・ワールドカップが開催された。しかし、熱狂するスタジアムから遠く離れた雲南省で、致死率60%の強毒性新型インフルエンザが出現。中国当局による必死の封じ込めも破綻し、恐怖のウイルスが世界に、そして日本へと向かった。インフルエンザ・パンデミック(世界的大流行)阻止のため、政府対策本部のアドバイザー・元WHOの優司は空港での検疫を徹底させるが、ついに都内にも患者が発生。総理の瀬戸崎は空前絶後の東京封鎖作戦を決断した。(「BOOK」データベースより)

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日本が危機に陥るパニック発生時の科学者と政治家が危機を乗り越えていくシミュレーション物語だ。

 中国で行われているサッカーワールドカップで、新型インフルエンザが発生した。世界に数人しかいないといわれるWHOメディカル・オフィサーの日本人が動き始める。主人公の父が日本の総理って、ちょっとストーリー的には安易だけど。義父が厚生労働大臣だったりするし。
 公式発表前に気付いた日本は、空港を閉鎖し国外からの感染者の潜入を防ぐ。
  まずは空港で足止め、5日間の潜伏期間ホテルに閉じ込める。それでも、都内で感染者が出た。思い切った首都封鎖をして地方への拡大を防ぐ。
  科学者がいくら声高に叫んでも政治家に判断力と実行力がなければ何もできない。
 このパニック シミュレーションを見ても、なかなか理解できない政治家、自分だけを例外として認めてくれという者、現実にこんな事が起こったらこの小説のようにうまくはいかないだろうと思うとゾッとする。 
 強毒性の鶏インフルエンザウイルスで、飛沫感染と接触感染だから防護マスク、手袋、防護服、そして隔離することが大切。そしてワクチンを作ることと治療薬の作成がなければ終息しない。
 厚生労働大臣が、もし医者でなかったらこの小説のようには準備もできないし理解もできないし、考えてみると、さむ〜い現実がまっているのかもしれない。

 いつもながら、すごい。


タナボタ!

高嶋 哲夫
幻冬舎


2010/11/11
2010/7/10 発行


乱神

高嶋 哲夫
幻冬舎



2010/2/5
2009/12/10 発行
若き名執権・北条時宗が闇に葬り去った驚愕の真実とは?北九州大学の考古学者、馬渡俊が九州の海岸で棒状の物体を発掘した。800年近い歴史を刻み込んだ中世ヨーロッパの剣。この発見が日本の歴史を覆す!圧倒的なスケールで描かれた新感覚歴史ロマン。

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 初となる歴史ものだ。大丈夫か?・・・という心配はどこへやら。ぐいぐい読ませてとても面白かった。
 時は北条時宗の元寇のとき。ヨーロッパでは十字軍の時代。神のために戦う騎士たちが乗った船が九州に流れ着いた。
 こんなことはホントにあったかしら?とギモンも感じながら読み進む。

 十字軍の騎士たちが鎌倉武士と元軍を迎え撃つ。何という面白い着想だろう。異文化が接触することによって、日本の武士の戦い方の違いとか、戦う意味とか、今まで気付かなかったことにも気付かせてくれた。

 ホントにあったかどうかなんて問題でなくなるほど、興味深く読めた。


追跡
高嶋 哲夫
角川春樹事務所



2010/1/18
2009/7/8 発行
東京都内を運行する列車内で、スリと切り裂き事件が相次いで発生した。『多国籍スリ集団』と呼ばれる犯人たちは、お年寄りや女性を狙い、乗客を集団で取り 囲み、連携して犯行に及ぶ。一方、『切り裂き魔』と呼ばれる犯人は、女性のバッグを狙い、ゲリラ的に切りつける犯行を繰り返していた。警視庁鉄道警察隊新 宿分駐所の小松原たちは、犯人グループを追い、警乗に追われていた。日々拡大する被害のなか、小松原たちの執念の捜査で辿りついた犯人像…それは、男性で はなく女性だったのだ―。著者渾身の書き下ろし新警察小説。

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高嶋さんがこういうものを書くとは。
いつもの作品と比べると、私には物足りない。
高嶋さんにしか書けない物を書いてほしい・・・・と思う。
科学的な、理系作家だから書けるのだ、という様な作品を期待している。


風をつかまえて
高嶋 哲夫
NHK出版




2009/12/15
2009/3/20 発行
<地域と家族の再生を風車にかける>
北海道の破たん寸前の小さな町を舞台に繰り広げられる、ある鉄工所の家族の物語。
資金難、失敗、事故など、想像を絶するさまざまな困難を乗り越えながら、風車を造ることによって、町の再生と、自らの家族の再生にすべてをかける。
希望、夢、恋そして欲が入り乱れる青春小説。

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北海道の小さな村が、村おこしの為、風力発電に取り組んだ。高校の物理の教師が設計し、地元の小さな鉄工所が請け負う。
 つぶれかけて飲んだくれていた社長はやる気を取り戻し、高校を出てから家出していた息子が家に戻り、低予算で風車はできあがった。

ところが、台風のときの強風で崩壊し、けが人も出てしまう。そのままでは終らせるわけにはいかないが、町と議会は中止を決定する。

 1台設置するのには億のお金がいる。そこに東京で一流商社に勤めている長男のノウハウが生きる。高校時代の友人が手伝ってくれる。大学の研究室が助言をくれる。
 いろんな人の力が合わさって、再度風車を作るプロジェクトが始まる。
 ここからが本番だ。わくわくする。


ジェミニの方舟

東京大洪水



高嶋 哲夫

集英社



2008/9/17

2008/7/30 発行
 地震、津波、そして洪水と続いてきた災害対策シリーズだ。
今回中心になって活躍するのは、玉城孝彦、東都大学理工学部地球物理学科の講師だが、静岡県、牧の原にある「日本防災研究センター」に出向している。専門は気象、特に台風を中心に研究している。スーパーコンピューターを使っての台風の発生メカニズム、成長プロセスの基礎研究、進路予想をする気象シミュレーションだ。「荒川防災研究」という論文をまとめた。センター長に要請されての出向。
 瀬戸口誠治センター長は、「M8」の時は無名のオーバードクターで、コンピュータ・シミュレーションによる地震予知の業績で脚光を浴びた日本防災研究センターの設立に貢献した一人である。
 玉城の妻は一級建築士、荒川沿い、超高層マンション建築に携わっている。

 二つの台風が合体し、超巨大台風となって東京を直撃する。防災の専門家として、玉城が請われて家に帰ることもできない。
 荒川堤防近くの住民の避難先に、妻がいる建築中のリバーサイド・ビューを選び、住民を避難させる。

 妻は、作業員達と建築中のビル屋上のクレーンの固定や、地面にできた穴を塞ぐ作業に忙殺される。

 雨風がひどくなってからの被害の様子はすさまじい。災害を最小限に食い止めるための意見を述べる学者、すぐには動かない政治家、役人などはこれまでと類似のパターンだが、どんどん状況が悪くなっていく様は、リアルで、怖く、現実にはなって欲しくないものだ。

 海抜ゼロメートル地帯は荒川が決壊すると建物も3階くらいまで水没するかもしれない。避難所の学校はく強化ガラスではないので暴風には弱い。避難所の学校からマンションへ住民は移動する。
 今考えられている避難所は地震にたいするものだから、暴風を伴う台風には適切でない場合がある、というのは目からウロコだった。
 3000人も受け容れたマンションはまるで方舟のよう。

 大都市は、地下街、地下鉄など、洪水で完全に麻痺する。毎年来る台風だからといって油断してはいけないのだ。心構えと準備があれば被害が少なくて済む。というのが作者の意図だろうか。
 


ファイアー・フライ
高嶋 哲夫
文芸春秋

2008/8/15
2008/5/15 発行
 セネックス工業開発部の主任研究員である木島は、社長宅からの帰り、社長と間違われて男女二人に誘拐される。
監禁されたのは山深い廃村。
そこで、いつしか犯人たちとの心の交流が生まれ、仕事漬けの日々から解放され、自然に囲まれた日々を送るうち、次第に自分を取り戻してゆく木島。
 しかし監禁中の彼に、横領罪の汚名が。犯人たちも首謀者との連絡が取れず、孤立してゆく。
 人質としても、犯人としても、行き場を失った彼らは互いに協力しあい、身代金を盗ることにするのだが……。

 ストックホルム症候群と呼ぶにはあまりに切ない展開、自然から切り離され、人との絆も薄れた現 代人に贈る“再生”の物語。
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TSUNAMI


高嶋 哲夫


集英社





2006/2/23
「M8」の続編、このとき活躍したメンバーが今回も活躍する。
 東京直下型地震、平成大震災から6年、当時一介のポスドクだった瀬戸口誠治は地震予知の「地球シミュレーター」を開発し、地震研究と防災研究を一体化した日本防災研究センター研究部長になっている。瀬戸口の同級生、松浦真一郎は陸上自衛隊一等陸尉、災害救助のため自衛隊に入ったといってはばからない。松浦と結婚した河本亜紀子は防災担当副大臣。神戸出身の堂島智子前衆議院議員の秘書を努めた後、あとを継いだ。東京都知事だった漆原尚人は副総理になっている。
 ほか、研究畑から離れ大浜市役所防災課職員になった黒田慎介。地元で津波ハザードマップを作っている。大浜原子力発電所4号機当直長三戸崎俊一らが活躍する。
 
 海岸には原子力反対運動の住民たち、その近くには国際サーフィン大会に集まる若者達ら多数が地震や津波の避難指示も聞かず集まっている。名古屋では、超高層ビルの落成式のため総理を含む政府要人多数が集まっており、そこへ長周期地震動がおこり、ビルは大きく横揺れし、ついには崩壊する。最近の耐震偽装事件を思わせる内容が出てきた。
 そして、東海地震、東南海地震、南海地震と続けて起こり、人が過去に経験したことがないほどの大津波がやってくる。
 海岸の人たちを原発の中へ誘導する、地震にも津波にも一番安全な建物が原発だ、というのは目からウロコだ。
 凄まじい地震の被害描写、それよりもすごい「泥や刃物と一緒に洗濯機に入れられたような」と形容された津波の被害。
 もし、地震予知ができても経済損失を考えて発表されないかもしれない、決断力をもったトップがいてくれることを望みたい。

 今までは、東海地震では建物の崩壊、液状化現象などについての報道が多かった。でも、日本にはむかしから津波被害があったらしいのに、スマトラ沖地震による津波被害をみるまではあまり注目されなかったように思う。
 日本でもスマトラ沖地震のようなひどい津波がくるのだろうか。この本のように。
 



       

  M8(エムエイト)


   高嶋 哲夫 著



    集英社 

 
2004/10/26
 

 阪神の震災を生き抜いた瀬戸口は地震の予知をするべく、日夜研究をしていた。地震のデータと向き合いシミュレーションを重ねる日々、そんなある日、瀬戸口は牛丼屋で不思議な老人と出会う。偶然の出会いにより、瀬戸口の研究していたシミュレーションの精度が高まり、ある計算結果がはじき出される。10日以内に東京直下型、M8以上の地震が起こるという計算結果が…。
 東京をM・8の直下型大地震が襲ったら何が起きるかという近未来のシミュレーション小説だ。
 東京に宣言を出すことによりもたらされる社会の混乱、もし予知が外れた場合の社会的損失の大きさ。誰もが、たとえ予知を信じるにしても、「宣言」に踏み切れない様子がよく描けている。どうにか、漆原都知事が受け入れ、演習という形で警戒宣言を出す。
 瀬戸口ら阪神大震災を同じく体験した三人の同級生たちそれぞれの葛藤、それぞれトラウマをもっているが、対策に走り被災者を助ける中で、それを乗り越える。

 現実に、毎日のテレビで中越地震の被害の様子が報道されている。本の内容とニュースがオーバーラップする。地震の前に出版された本とは思えないほどだ。作者は「地震前の備えから避難方法まで、すべてわかるようマニュアルのつもりで書いた。いつか一人の命でも救うことになればいい」と言っている。

 30年以内に東海地震が起きる確立は84%らしいので、ぜひ読んで役立てたい 。
 原子力研究者から作家に転身した人ならではの、原発事故を仮想した「メルトダウン」や原爆を巡る秘密文書を題材にした「トルーマンレター」などの作品も面白い。      



書名 出版社  紹介 読了日
M8(エムエイト) 集英社 マグニチュード8。2005年12月X日、東京大地震発生!
10年前、神戸ですべてを失った者たちが今、立ち上がる!
最新研究をもとに描かれる大地震シミュレーション巨編。
2004/10/24
ミッドナイトイーグル 文芸春秋 米ステルス爆撃機が北アルプスに墜落、搭載物をめぐって日・米・北朝鮮の男たちの死闘が始まった。胸を熱くさせる国際謀略ミステリー
2004/4/11
都庁爆破! 宝島社 世界秩序の歪みが招いた災禍。東京を突然襲うテロの恐怖!都庁爆破・占拠・ヘリ墜落・決死のSAT隊員は全滅!次々に出される恐るべき要求。パニック。錯綜する情報-決断を迫られる中で反目する都知事と首相。テロの真の狙いは何か、そして首謀者は? 2004/3/30
虚構金融 実業の日本社 不審死を遂げた財務官僚が掴んでいた謀略。有力地銀と金融庁幹部の不透明な関係。
迷走する日本経済を抉る書き下ろし金融サスペンス。
2004/3/23
スピカ −− 原発占拠 宝島社

稼動を目前に控えた原発が、謎のテロリストに占拠された。対処に当たった機動隊400名を壊滅させたテロリストたちは、ロシアとイスラエルで拘束されている共産主義者の開放・亡命を求め、要求が呑まれないときは、原発から汚染ガスを放出すると発表する。

2004/2/10
ペトロバクテリアを追え 宝島社 日本の天才科学者等が培養に成功した石油生成バクテリアを巡って、掠奪・爆破・拉致・殺害の指令が乱れ飛ぶ。やがて戦慄すべきバクテリアの真の姿が明らかに…。科学者である前に人間としてどう生きるべきかを問うミステリー。 2004/1/26
トルーマンレター 集英社 元ジャーナリストが偶然入手したのは、原爆投下を決意した米国大統領の私信らしき文書。おりしも沖縄では米兵の婦女暴行事件が。大統領の来日も重なり、騒然とする中で政治と向き合う人々の運命を描いた長編。 2004/1/13
冥府の虜 祥伝社 日本を襲う原発テロ、世界トップの日本人科学者と核燃料を狙う米、ロシア、北朝鮮!
2004/1/8
命の遺伝子 徳間書店 発端はドイツ、ネオナチ集会の爆発事件。被害者の中にナチの大物戦犯ゲーレンの手首が見つかった。しかし、それはどう見ても40代の男のものだった。本人なら、100歳は超えているはずだ。
 遺伝子科学のノーベル賞候補アキツ・トオルは、ベルリン工科大学の講演後、謎の組織に拉致され、その手首のDNA鑑定を依頼される。
 細胞の老化は防げるのか? 生命をつかさどるものはなにか? 謎を追って、物語の舞台はアマゾン、アメリカ、ヴァチカンへ……。
2003/12/24
イントゥルーダー 文芸春秋 主人公は世界最速のスーパーコンピュータの開発を行う天才エンジニア。息子もまた優秀なエンジニア。主人公は,初めて会った息子の事故の真相を追求する。
真相追求の過程で,知らなかった息子の人間像が浮かび上がってくる
2003/12/16
メルトダウン 講談社 アメリカ西海岸カリフォルニアの小新聞社副編集長、ケンジ・ブライアンは、マンハッタン計画に関与した老科学者の告発手記を掲載。疑惑に彩られた大統領補佐官の死。
国家機密に触れる意外に関連のなかった東西の記事が波紋を広げ、記者の周囲にも危険が迫って…。
2003/5/19



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