井上 靖      

旭川市生まれ。京都大学文学部哲学科卒業後、毎日新聞社に入社。
戦後になって多くの小説を手掛け、1949年「闘牛」で芥川賞を受賞。
1951年に退社して以降は、次々と名作を生み出す。

読書会  記録                   2005年11月16日
テーマ   風林火山
M・K


 この時代の領主は自分の領分を一歩出れば敵国である。信玄の軍師である山本勘助と信玄とは敵が同じであることが二人を固く結んでいる。普通の友情よりも深く結ばれていたと思う。勘助は参州、牛久保の出であるとのこと、「五体不満足」の体で、よくもこの様な仕事をと思うと・・・・・。三月には牛久保に墓参りに行くとのこと、その時を楽しみにしています。

R・K  
 頭脳は秀でているが、外見はそうでない人物が、50代を、美しい武士のトップと側室の姫に自分の夢をかけて、戦いを通して生きる姿をたどりながら、複雑な思いをめぐらしました。
T・Y
 「風林火山」(甲斐源氏武田信玄)をこの様な作品とは思っても見ませんでした。戦国時代前期、小国との戦いを軍師勘助を重用し、征して大国への足掛りをつかむまでのこと、私の全く知らないことばかりで大変興味深く読みました。
N・W
 とうとう読めずに読書会に出席しました。音羽の図書館にも豊川に行ってもなく、本屋さんに注文しようとしたら時間がかかりすぎ困りました。一読もできなかったけれど、皆様の話を聞いて大体の内容がわかったつもりになりました。ただ、話し合いの仲間に入れなかったようで多少淋しかったです。次回は必ず読んで出席するぞ!
M・K
 なつかしく読みました。忘れてしまったことも多く改めて読んで成程と思うこともありよかった。想った事が実現される世界、想わなければなにも生まれないというのが今でも変わらない現実感をもっていると思います。
J・Y


 実在したかどうかわからない山本勘助という人物、私のイメージでは賢く、見ばえのしない人物なのだけれど、由布姫との心の交流のような筋書きの中で心温まる感じを受けました。由布姫の性格や美しさも、作者の好きなイメージで、勘助と姫の対照的なところもおもしろいと思います。戦乱の時代、本来の主人ではない立場の人間にスポットを当てているところが全体の感じを柔らかくしているようなところがあると思います。

K・I
 父親である武田信虎にうとまれて育った晴信が、信玄と改名の間に、諏訪、信濃地方に出陣した様子が主で、川中島での上杉景虎(謙信)との戦いも中途で終っていて、信玄の一部が語られているだけで、何故か山本勘助が主人公であるかの印象を受け、物足りなさを感じた。
T・S


 登場したときは得体の知れない、いや〜な雰囲気の人物だった勘助が、最後にはずいぶん大きな存在になっていて、いわゆる「立派な武士の死」を迎えたところに、作者の思い入れと愛情を感じます。
しか〜し、気に入らない。読書会でも話題になっていたことだけど実在の人物を登場させるのならば、記録の残っている事実は曲げないで欲しいというのが私の願いです。創造の事物や人物が登場するのは全くかまわないけれど、史実は曲げないで辻褄を合わせ展開して欲しい。だから解説を読んで、史実と違う点があるという指摘には正直、がっかりしました。

H・T
 個人的に好きなジャンルの小説なので、すごく楽しくよめました。ずいぶん昔に読んだ本ですが、あらためて井上靖の作家としての力量を感じたような気がします。内容としては、先日みなさんが言ってたように虚実とりまぜて仕上げていると、おもいますが、特に勘助と由布姫の交流がメインとなっていて題名から受ける印象とはちがった、感じをうけました。
Y・Y
 タイトルから想像した内容とは異なり、由布姫への勘助の慕情が中心で、信玄の武将ぶりや勘助の軍師としてのすごさの印象が薄かった。井上靖らしい物語の作り方だったかと思う。淀君、額田女王、楊貴妃などの物語を書いたことに通じる、美しく毅然とした女性像を好んで書いていると思う。
付録1 映画 三船敏郎率いる三船プロが、井上靖の原作を巨匠・稲垣浩監督で映画化した大作。(1969.03.01)
 武田信玄の懐刀である稀代の戦術家・山本勘助の生き様を通して、戦国時代の人間群像と闘いを描く。勘助に三船、信玄に中村(萬屋)錦之助が扮する他、佐久間良子、中村賀津雄、志村喬、田村正和といった豪華キャストが顔を揃え、クライマックスの川中島で信玄勢と闘う上杉謙信役で石原裕次郎が登場。セリフなしのゲスト的な出演ながら、強烈な存在感を残す。
 単なる時代劇ではなく、勘助と信玄、勘助と由布姫、信玄と謙信等、登場人物たちの心理、行動と人間関係を丁寧に描写しているあたりが出色。もちろんおびただしい数の人馬を動員したスケールの大きな合戦シーンも充分に見応えがあるが、闘いに身を投じることでしか己を表現出来ない、時代に翻弄された男たちの葛藤こそが最高の見どころに違いない。若き日の緒形拳が、飄々としたいい味を見せる。佐藤勝の音楽も爽快に鳴り響く。(斉藤守彦) 内容(「DVD NAVIGATOR」データベースより)
 
付録2 TV 2006年、テレビ朝日系で新春放送予定のスペシャル時代劇
2007年大河ドラマ



      読書会    記録                      2005年1月19日
テーマ 『井上 靖』しろばんば 他
 J・Y さんの親戚にあたるので、直接兄嫁さん(みっちゃんの子ー靖といとこ)に電話で話を聞いて、皆に解説をしてくれた。靖は安達家のふみと結婚。靖は親の元でわがままに育っていないので気配りがあり優しい。しろばんばの登場人物は多少脚色があり事実とは異なる・・・・など話してくれた。
T・Y 少年 洪作を愛し、守り抜くこと。そのほかに生きる道はないと覚悟した、かつての日本社会特有の人間 おぬい婆さんがいきいきと描かれ遠い昔にすんなりと入り込め大変楽しく読むことができました。
 昭和20年代以降の人にはわかりにくいかもしれない。田舎にはこんな暮らしは特別ではなかった。時代がよく分かる。
M・K 過ぎ去った時間が映像のように甦って来ました。色々な人との出会い、別れが自分の中にもありました。全ての出来事を思い起こす事はできませんが、懐かしい人に出会ったような不思議な気分を味わった気がしています。
 靖の人間性を感じた。おぬいさんに感謝の思いを伝えられなかったくやしさに共感。思いが素直に書かれている。
Y・Y 「しろばんば」は前半読むのは少ししんどかったけど、後半、主人公が精神と肉体を目覚めさせていく変化の様子が、情感たっぷりに手にとるように描かれているのがよかった。優れた文章に接することができた。
J・Y 「しろばんば」は、主人公の気持ち、おぬいばあさんの気持ち、母親の気持ちなど登場人物の感情が“ことば”の中によく表れていて、人とのふれあいの中で見も心も成長していく洪作の様子が興味深かったです。『あすなろ物語』も読みました。他の多数の作品も挑戦してみたいと思います。
M・I 昔の子どもの時代を思い出しました。多様な人間関係の中で、成長していく少年の心がよく描かれていると思います。
 どうして自分の子なのに自分で育てなかったのか?親の立場で見るとなぜひきとらなかったんだろう?考えて読んでいると昔の家族がよく分かった。そういう時代だったんだ。
H・T 『しろばんば』は自分の子ども時代、少年時代から思春期に入る頃の心の移り変わりを思い出すようで懐かしい感じがしました。
S・M 主人公洪作とおぬい婆さんの心と姿に感動、自分の子ども時代を思い出させてくれましたが、最近ぐいぐい引き込まれる現代風の本を読んでいた為か、昔の作だなと思ってしまいました。
 『氷壁』昔はもっと感動したのに・・・『しろばんば』よりはいいけど。
H・T 『しろばんば』を読み情景が甦って来る思いで引き込まれる様に読み入った。4、5年前訪ねた井上靖資料館、今ふと何も覚えていないのが残念。何時も同じ事だけど時間が許されたら又いろいろの本を読みたいと思う。少年期を扱った本格小説である様に思う。
R・K 名前を知っていながら、何も知らない作家という事に気づきました。やっと『氷壁』だけ、少し思い当たりました。図書室にあった『エッセイ・わが一期一会』と『真田軍記』のかじり読みから感じたことを、読破することで深めたいと思います。すっきりしていてこまやかな文章だと思います。
M・I 井上靖の作品は、教科書でふれた以外、読んだことはありませんでした。学生の頃に、良書として紹介されていた記憶があったから読もうという意欲がなかったのかもしれない。でも、今日の読書会で、作者像を少し垣間見ることができた気がしました。
K・I 湯ヶ島での恵まれた5歳の少年の妹の誕生を期に曽祖父の妾のお婆さんに小学校6年まで育てられる過程の少年の成長を描く。心理状態の変化、両親、祖父母とその親戚関係や、学校生活を通じての先生や友達関係が、少年の目を通して綴られ、昔の親戚づき合いなど現代では忘れられがちな状況がよく表現されていると思う。
M・M 以前に『あすなろ物語』を読んでいいなあと思ったような記憶がある。『しろばんば』を今読んでいる途中だけれど、次を読みたくなるという良さがある。
T・S 懐かしい思い出が甦って来るかも知れないから、いつか私も『しろばんば』を読んでみようと「読みたい本リスト」に入れることにします。『あした来る人』は、50年過ぎた今となっては色あせています。当時はきっと時代を先取りした斬新さがあったんでしょうね。

作品

書名 出版社 内容  読了日
しろばんば 新潮文庫 野草の匂いと陽光のみなぎる、伊豆湯ヶ島の自然の中で幼い魂はいかに成長していったか。著者自身の少年時代を描いた自伝小説。 2004/11/24
崑崙の玉 新潮文庫 1982/5/29
蒼き狼 新潮文庫 アジアの生んだ一代の英雄、鉄木真(テムジン)ー成吉思汗(チンギスカンーモンゴルの主権者としての名称)の生涯を描いたものである。一部族の長として、他民族との激しい闘争をくり返し、やがて全蒙古を統一してから、欧州にまで及ぶ大遠征をこころみる。 1982/5/27
天目山の雲 1982/5/26
天平の甍 1978/5/25
風濤 1977/10/14
おろしや国酔夢譚 文春文庫 大黒屋光太夫らは漂流生活を送り、見知らぬ北方の島に漂着する。異人や土民の間で暮らし仲間を葬りもした。シベリアの奥深くで過ごした後、女帝エカテリーナに拝謁する。 1977/3/21
真田軍記
風と雲と砦
額田女王 新潮文庫 天智、天武両帝の愛を受け、゛紫草のにほへる妹゛とうたわれた万葉随一の才媛、額田女王の劇的な生涯を綴り、古代人の心を探る。 1976/7/8
西域物語
敦煌(とんこう) 新潮文庫 官吏任用試験に失敗した趙行徳は、開封の町で、全裸の西夏の女が売りに出されているのを救ってやった。その時彼女は趙に一枚の小さな布切れを与えたが、そこに記された異様な形の文字は彼の運命を変えることになる・・・・。西夏との戦いによって敦煌が滅びるときに洞窟に隠された万巻の経典が、二十世紀になってはじめて陽の目をみたという史実をもとに描く壮大な歴史ロマン。― カバーより 1775
楼蘭(ろうらん) 新潮文庫 朔風吹き荒れ流砂舞う中国の辺境西域ーーその湖のほとりに忽然と消え去った一小国の運命を探る「楼蘭」など12編を収めた歴史小説。
 さまよえる湖ロプノールの話が印象に残っている。
1975/6/26
楊貴妃伝 講談社文庫 玄宗皇帝の寵愛を受け、後宮の最上位を占めた後、皇帝の妃となった楊貴妃の運命的な短い生涯を、唐代の史実の中に掘り起こしながら、女の愛の不思議さと、権力者の非常な心のからみあう人間ドラマを、絵巻物のように浮かび上がらせ、壮大な叙事詩として構築した名編。−−カバーより 1974/12/2
淀どの日記
風林火山 新潮文庫 知略縦横の軍師として信玄に仕える山本勘助が、密かに慕う信玄の側室由布姫。風林火山の旗のもと、川中島の合戦は目前に迫る・・・・。 2005/10/25再読

      読書日誌         


風林火山


井上 靖


講談社







2005/10/25


 武田家の軍旗「疾如風徐如林侵掠如火不動如山」古代中国の軍略家・孫子の言葉に基づいている。


 今川家の浪人山本勘助は、身長は五尺に充たず、色は黒く、目はすがめで、しかも右の手の中指を一本失っている、無慚な面貌風姿である。古今の兵法に明るく、城取り、陣取りの達人とされている。
 方策を講じ、武田の家臣、板垣信方に接触し、やっと武田家に仕官できた。年齢は五十歳に近い。
 天文十二年正月豪族諏訪頼重を討ち諏訪平定、頼重の娘、由布姫を晴信の側室とする。勘助は、武田と諏訪の血が流れる子が誕生することで、諏訪衆との宥和を図るよう手を尽くす。由布姫は信玄の側室になってその子を生みつつも、一族の敵として信玄の命をねらうが、勘助はそんな由布姫に無償の愛を募らせていく。
 若くして病死した由布姫亡き後、信玄と勘助には戦いの日々が続く。

 永禄四年、妻女山の謙信、梅津城の信玄は対峙したまま日が過ぎる。霧の深い日、軍略を誤り、川中島で激戦となり、信玄を守るため、勘助は討たれる。

 28年から29年に賭けて「小説新潮」に発表した著者若き日の作品で、読物として読者にサービスしつつ、自分でも楽しみながら書いたという。姫の死を知って、我を失くした勘助の様子などはそうらしい。
 山本勘助については実在が疑われているが、「武田三代記」の伝承や記述による勘助が面白い人物なので当時の歴史の中に投げ入れてみた、また、諏訪の姫の名は湯布院で書いていて名を作ったそうだ。
 勘助と由布姫との関わりを描いて、人間らしさを作り出し、単なる無骨な合戦譚でないことが魅力であると思う。


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