楡周平(にれ・しゅうへい)
1957年生まれ。慶応義塾大学大学院修了。米国企業でマーケティングなどを担当。
米国系企業に勤務中の1996年に麻薬密輸をテ一マにした『Cの福音』(宝島社)が
30万部を超えるベストセラーとなり、作家業に専念する。
『Cの福音』をはじめとした悪のヒーロー・朝倉喬介シリーズは、どれもベストセラー入りしている。
他に『クーデター」『猛禽の宴』『フェイク』『無限連鎖』
『再生巨流』など綿密な取材にもとづく壮大なスケールの作品を発表。
ミステリー界に新たな沃野を切り拓いている。
プラチナタウン 楡 周平 祥伝社 2021/1/16 平成20/7/30 発行 |
出世街道を外された総合商社部長の山崎鉄郎は、やけ酒を呷り泥酔。気がついた時には厖大な負債を抱えた故郷緑原町の町長を引き受けることに。だが、就任してわかったことは、想像以上にひどい実情だった。私腹を肥やそうとする町議会のドンや、田舎ゆえの非常識。そんな困難に挫けず鉄郎が採った財政再建の道は、老人向けテーマパークタウンの誘致だったのだが…。(Bookデータベース) *********************** |
和僑 (わきょう) 楡 周平 祥伝社 2020/12/27 平成27/10/20 発行 |
日本初の、豊かな老後がコンセプトの巨大定住型老人施設「プラチナタウン」を誘致、財政破綻寸前からV字回復した緑原町。Uターンする人々も増え、町は活気を取り戻していた。しかし立役者で、元四井商事の町長・山崎鉄郎は、忍び寄る危機に気がついていた。―高齢者人口も減少に転じる将来、この町はどうなる?もう一つの主要産業・農畜産業は、TPPや従事者の高齢化と後継者不足という難問を抱えたままなのだ。産業振興課課長の工藤登美子を相棒に、山崎の商社マンの血が騒ぎ出す!読めば元気になる“時代先取り”小説。
(Bookデータベース) *************************** |
サリエルの命題 楡 周平 講談社 2020/6/7 2019/6/18 発行 |
悪魔のウイルスの名は「サリエル」。医療に通じ、癒す者とされる一方で、一瞥で相手を死に至らしめる強大な魔力、『邪視』の力を持つ堕天使―。日本海に浮かぶ孤島で強毒性の新型インフルエンザが発生し、瞬く間に島民全員が死亡した。それはアメリカの極秘の研究データが流出して人工的に作られたという疑いが。テロの可能性が囁かれるうちに、本州でさらに変異したウイルスの罹患者が現れる。ワクチンもなく、副作用が懸念される治療薬が政府の判断で緊急製造されるが、感染が拡大しても全国民にはとうてい行き渡らない。刻々と事態が変化していくなか、果たしてパンデミックは回避できるのか?
(Bookデータベース) ********************** 日本の医療制度の盲点を突いて、高額医療を受けに来る中国人が増えている。超高齢化社会の到来、高額な新薬の出現、それによって寿命がさらに延びれば、医療制度は破綻する。 アメリカの細菌研究所から研究データがもれた。それを利用して新型インフルエンザウイルスを作り出した者がいて、かつて恨みに思った師に感染させた。 地域封鎖をしてパンデミックを防ぐことができたが、外国は日本への渡航を禁止したり反応が早い。 現在、新型インフルエンザが全国に広がっている。この本のようには徹底的に封鎖したりしてはいない。このサリエルの場合のようにもっと徹底するべきなのか・・・・・・現実の方がゆるい気がする。 治療薬やワクチンが少ないにもかかわらず、本書のように優先順位をつけて薬を使うとは聞こえてこない。薬が足りなくなれば見殺しになるのだろうか? 最期が面白かった。政治家が、きれい事を言っただけで、実は自分たちだけ助かろうとしていたことがバレるところ。 2017年に発表された内容で、時代を先取りした警告になっている。 |
デッド・オア・アライブ 楡 周平 光文社 2018/9/6 2017/11/20 発行 |
日本を代表する総合電機の巨大メーカー・コクデンは、巨額損失に端を発した不正会計の発覚から壊滅的な危機に追い詰められ、高性能の新型電池を使った市場開発のためにEV(電気自動車)の事業の可能性を探る。 一方、経営不振にあえぐ軽自動車メーカー・イナズミでも新たな市場を求めて、EV開発へ動き出す。 さらに、世界的自動車メーカー・タカバの専務・野中は次世代車として、EVを打ち出すことで社内のイニシアティブをとるべく、そのイナズミに照準を合わせて動き出す―。 世界の状況が一斉にEVに向かって動きだしたいま、先手を取らねば生き残れない!めまぐるしく変動する市場とテクノロジーの激流の中、企業の生死をかけて戦う男たち !ビジネスの熾烈な世界を知り尽くした著者が活写するビジネス・エンターテインメント(Bookデータベース) *********************** コクデン=東芝 タカバ=トヨタ イナズミ=スズキ というのはすぐわかる。ただ、モデルではあるが、ここからビジネスモデルを示しながらそれら企業がどう変わっていくのか・・・・・・。 新技術ができれば、産業構造が大きく変わる可能性がある。そうなれば、不要になる部門が出てきて傘下に数多の系列会社を抱えている大企業ほど身動きがとれなくなる。そのため、ベンチャー企業や新規参入企業の方が有利な面が出てくるという考え方は新鮮だった。ライセンスビジネスなどはまさにその典型だと思う。 充電時間の短縮・容量増加という新型電池の発明で、自動車のイノベーションが急速におこるお話。 現実の世界ではまだEV主流にはなっていないということは、電池の発明は、まだ起こっていないのだろう。 |
修羅の宴 楡周平 講談社 2013/1/13 2012/7/12 発行 |
バブル期に大銀行から出向し、専門商社社長になった高卒の男。その城に居座るには結果を出し続けるしかなかった。未踏のビジネスを開拓し、頭取からの汚れ
仕事を引き受け伸し上がる。地価も株価も天井知らずな狂乱の時代に蠢く、金だけを追い求める修羅たち。その宴は次第に、決して招いてはいけない男たちに巣
食われていく。 剥き出しの人間ドラマ。時代が人を狂わせたのか、人が時代を狂わせたのか。 **************************** |
虚空の冠 上・下 楡周平 新潮社 2012/12/12 2011/10/25 発行 |
餌を与えられる犬のようにお行儀よく待っていても、幸運は降ってこない。下剋上を欲するのなら、噛みつき、そして奪いとれ!渋沢大将、東京帝国大学法学部
卒。海軍あがりの青年は、敗戦後、新聞記者となった。GHQの検閲、制限された報道の自由。青二才のその男は、ある日、火事が起こった島へ向かうため、船
に乗る。己のすべてを変革させる、運命的出会いが、待っていることも知らず―その男は、いかにして、メディア王となりしか?圧倒的スケールと、唯一無二の
臨場感。時代を変える経済戦記。 (上) 既得権益、しがらみ、ウィンウィンの関係。捨ててしまえ、そんなもの。リスクを冒し、未開の荒野を切り開いた者だけが、ビジネスの世界では勝者となる!新 聞、ラジオ、テレビ。昭和のメディア、すべてを手に入れた渋沢大将。王として君臨したまま、死を迎える、はずだった―噛みついてきたのは、通信業界のベン チャー企業。「電子書籍」を武器に、旧き王の屍を喰らい、新たなるメディアの盟主に、成らんと欲す―ぎりぎりの攻防戦。生き残るのは、どっちだ?想像を遙 かに凌駕する、禁断のメディア未来予想図。 (下) データベースより ***************************** 現実には、思ったほど電子書籍が伸びていないが. |
介護退職 楡 周平 祥伝社 2012/10/17 2011/8/10 発行 |
文章がうまいな、リアリティがあってどんどん読み進んだ。 遠い秋田で一人暮らしをしている母親のことが気になりながら、大きなプロジェクトを抱え、外国と日本を行ったり来たりしている、総合家電メーカー、国際事業本部部長・唐木栄太郎。 雪のひどく降る日、母が転んで骨折する。手術や入院した後は、一人にできないと東京のマンションに一時的に引き取り、介護を始める。 妻一人に介護をしてもらっていたが、妻がくも膜下で倒れる。息子は中学受験を控え、妻の両親の助けを借りながら、過ごすが。 仕事にしわ寄せが行き、閑職へと左遷され、退職してしまう。 弟は、稼ぎが少ないが、優秀な子どもを私立に通わせ、妻も働き、介護の手伝いも頼めない。 日本中で、こういう介護も仕事も、という人は多いだろう。身につまされて読んだ。 この主人公の場合は、子どもが大学に受かって少し経済的に楽になった弟の嫁が介護に来てくれて、家事から解放され、妻も少しずつ回復し、仕事を探す時間がとれた。家のことまでしなくてよくなったので、外で働くこともできるようになった。でも、現実には、介護のために仕事を辞めたら収入が無く、介護もやめられず、精神的にも追い詰められ・・・・・・となっていくのだろう。 本書は、ハッピーエンドになっていたけれど、こういうのは、よほど運がいいのだと思う。介護の為退職せざるを得なくなった人が、その後の生活をしていく姿を描くのかと思ったら、退職に追い込まれていく過程が中心だったので、予想が外れた。 それにしても、細かいところまでよく描写し、心の迷いや葛藤が良く描けていた。疑似体験できた。 |
ワンス・アポン・ ア・タイム・イン・東京2 楡 周平 講談社 2011/2/19 2010/3/3 発行 |
政権交代を賭けた衆議院選挙。不遇をかこつ元大蔵官僚・有川崇は出馬を決意する。それは、自分を飼い殺しにした義父との戦いでもあった。権力の頂点を目指した閨閥は真っ二つに割れ、憎しみをぶつけあう。母と娘、姉と妹までもが壮絶な権力争いの渦の中へ。 (講談社創業百周年記念書き下ろし作品として刊行された) ***************** この時代背景が現実の民主党による政権交代と重なって、とてもリアルに感じられる。 |
衆愚の時代 楡 周平 新潮新書 2010/6/3 2010/3/20 発行 |
日々メディアを通じて流されるニュースを見聞きしていると、思わず「本音を言えよ」と頭の血管がぶちきれそうになってしまいます。特に、昨今のテレビ、それもニュース番組は酷い。キャスターはもちろんのこと、文化人、知識人と呼ばれる人間たちのコメントを聞いていると、「べき論」ばっか。 だから、世間の糾弾を浴びることを覚悟で、幾つかの事柄について本音をいうことになったらしい。 第1章 派遣切りは正しい ーーー を読んでいると、尤もなことだ、と思いながら、恵まれた能力をもった人だから言えるのではないか、と反論が浮かんできたり、第3章 夢という名の逃げ道ーーーでは、プータロー→フリーター こういう言葉を使うことでマスコミが市民権を与えたのが悪い、というのには納得した。 賛成できるところもあれば、少し無理ではないかと思ったり、読みながら今の時代について考えることができた。 他に、第2章 欲望を知らない子供たち、第4章 サラリーマンは気楽な稼業ではない、第5章 まだ株屋を信用しますか、第6章 非成長時代の身の処し方、第7章 老人専用テーマパークを作ろう、第8章 「弱者の視点」が国をダメにする 小説の中で、新しいビジネスモデルを提案することもある著者らしい、老人専用テーマパークのアイデアは面白かった。 |
ゼフィラム 楡 周平 朝日新聞出版 2010/3/15 2009/12/ 発行 |
日本自動車工業社長・牧瀬亮三は、CO2を劇的に削減する新型車開発のために、アマゾンの原生林を利用することを着想するが…。CO2削減に専心する牧瀬たちの苦悩と戦いを描いた、壮大な最新ビジネスモデル小説。 |
ワンス・アポン・ ア・タイム・イン・東京 楡 周平 講談社 2008/8/19 2008/2/28 発行 |
富と権力が、男を狂わす。 「安田講堂攻防戦」の別れから30年。革命の志も理想も捨てた2人は、息子と娘の見合いの席で、運命の再会をする。 1968年から1999年へ。二世代の男女を通じ、日本の上流階級の実像をあらわに描く、新世代の「華麗なる一族」の壮大なるドラマ! 大病院の経営者を親に持つ若き大蔵省キャリア・崇。次の総裁候補とも言われる大物政治家の長女・尚子。大蔵事務次官の仲介で持ち上がった2人の縁談は、だれもがうらやむ結婚となるはずだった――。 息子をこの国の権力構造の頂点に立つ人間にする。それが私の願いだった。 時と記憶が、女を壊す。 富と権力の結婚による完璧な閨閥――そこに潜む死角。追いつめられた親子が、最後に選択するものとは。 時間は、どこまでも人を変えてしまう。過去は消し去ることができるのか。エンタテインメント界に新たな地平を切り開く渾身作、劇的な展開! 頂点まであと一歩と迫り、権力に執着する男。過去の亡霊に怯えはじめる母。富と権力を受け継ぐことを当然のように信じ切ってきた子供たち。運命のドラマは、衝撃の結末をむかえる! 狂ってる。権力の魔力に取りつかれて常軌を逸している。 ********************** |
再生巨流 楡 周平 新潮社 2007/2/20 2005/4/20 発行 |
ひとことで言えば面白かった。うまいと思った。 実現可能なビジネスモデルを織り込んだ経済小説。モデルはあるんだろうか。 吉野は本社新規事業開発部部長、新設部門でしかも、年商4億の新規事業のノルマを与えられ、部下は1名と部内庶務の女性1名の昇格に名を借りた完全な左遷人事。 だが、吉野はアイデアマン。新規事業のプランは、文房具配達業界4位のパディと組んで、文房具のみならず家電製品や一般消費者向けの日用雑貨品まで扱う壮大な新規ビジネスを構想。大型量販店の出現によって苦しんでいる小売の街の電気屋をネットワーク化して代理店として使うアイデア、コピー機に携帯電話付きのカウンターを設置して自動的に配送業者のオーダーエントリーシステムへインプットというアイデアなど電気屋や家電メーカーも巻き込んで画期的物流・ 壮大なシステム構築のビジネスモデルを考えた。 アイデアは身近な所にあった。吉野の両親は介護を必要としていて、買い物にも不便、簡単に注文と配送ができるようにしたい、と。 業界最大手のスバル運輸は、セールスドライバーというシステムで他社より抜きん出た。セールスドライバーの蓬莱も仕事の中で見かけた出来事や実家の電気屋の立場からアイデアを出し、学生である蓬莱の妻は見事なプレゼン能力を発揮し・・・・・できすぎの感はあるが、事業のアイデアを出し、障害を克服し実現に近づけていく課程にスピード感もあって魅力がある。 保身しか考えない上司も出てくるが、頼りなかった部下は立派に成長するし、自身も取締役営業本部長のポストを約束されるなど、読後感が気持ちよい。 「ステルス・マーケティング」物を売り込まれていると気づかれないよう、自然な流れの中でターゲットにアプローチする手法があるそうだ。これは気をつけよう。 |
ラスト ワン マイル 楡 周平 新潮社 2007/1/28 |
本書は、郵政とクロネコのコンビニをめぐる攻防だと思い込んでいた。読んでみると、コンビニを郵政に取られてしまうだけでなく、ネット企業にも値下げを突きつけられ、それに代わるビジネスモデルを作り上げようと奮起する大手運送会社「暁星運輸」の営業マン・横沢たちの活躍だ。 平行してIT企業「蚤の市」が極東テレビの株を買い占めにかかる。これはニュースでも見たアノ会社のアノ社長を連想する。 かつて中堅の一運送会社に過ぎなかった暁星運輸が、今の地位を得たのは、郵政の小口貨物に頼るしかなかった小口貨物の宅配を、コンビニを窓口として全国に翌日配達するというシステムを他社に先駆けて作ったからだ。今ではどこの会社でもやれている。値下げに同意しなければ他社と契約されてしまう。 「下請けに過ぎないと思われていた物流業が、実は全ての産業の生命線を握っている。ラストワンマイルを握っている者こそが絶対的な力を発揮する」ことに気づいた。客を待っているのではなく積極的に攻めていくのだと。 横沢のふとした思いつきからビジネスモデルを構築していくプロセスはワクワクする。一つ一つハードルを越えていき、最後はどうやって形成逆転に至るのか・・・・。一気に読み終えてしまう面白さだ。 |
クーデター 〈COUP〉 楡 周平 宝島社 2007/1/12 1997/3/12 第一刷発行 |
「Cの福音」の続編だと思って読み始めたがこれはフリージャーナリスト川瀬雅彦シリーズの方だった。 カルト教団龍陽教がロシアから武器を買い付け、謀をしている。北朝鮮がロシアから買った炸薬を運ぶロシア船が引火爆発。アメリカの原潜がすぐ近くで爆発の余波で破損し、軍事境界水域付近で漂流。 オウム真理教を思わせる教団は、政府の中枢にも自衛隊内部にも密かに信者を送り込んで政府転覆を企む。巧みな洗脳により、子どもの時から信仰が厚い。 北朝鮮が日本海側に上陸し原子力発電所を襲うと見せかけ・・・・・。 川瀬雅彦は命を賭けた戦場カメラマン、恋人のニュースキャスター由紀も仕事に賭けている。 面白いけど、以前に誰かの作品で読んだことがあるような気がするストーリー。雅彦の隠し撮りしたのがロシアンマフィアや教団の関係者だったり、元自衛隊員がお粗末な武器の扱いでありえない自滅をするなど、無理があったかな。 |
無限連鎖 楡 周平 文芸春秋 2006/12/26 |
イスラム教を信じるテロリストがアメリカ全土60箇所にプラスチック爆弾をしかけ、同時爆破し、アメリカの物流を麻痺させた。 3ヵ月後、日本のタンカーがテロリストにシージャックされ、東京湾を臨む場所から日米に対し、アフガニスタンからの撤退、アルカイダの釈放そして1億ドルの現金を用意をしなければタンカーを爆破すると脅す。 タンカーの船長大賀は、父親も船乗りで、かつて父が艤装した船の最後の航海の船長を務める。理想的な円満家族で、良くできた専業主婦が大賀の妻。 アメリカへ爆弾を持ち込む方法やタンカーの制圧など、日米のアキレス腱を示すストーリーがテロリストへのヒントになるのではないかと心配になったりする。こんなことが起こらないとも限らないと思うと怖い。 著者が言いたい事は、タイトルにあるとおりで 「戦いは我々に弾圧を加える連中がこの世から姿を消すまで続く。あの傲慢極まりない大国は、威信をかけていかなる口実をこじつけでも報復の手を休めることはないだろう。それはこちらも同じだ。報復には新たな報復を以て応じる。果てしない無限連鎖はすでに始っているのだ。」とテロリストに言わせているところにあるのだろう。 とても緻密に書かれているが、スピードや躍動感がなく、後味が悪い。訴えたい気持ちはわかるんだけどね。 亡国のイージスを連想させるよく似た状況設定だが、福井晴敏の方がワクワクして読める。 |
異端の大義 上・下 楡 周平 毎日新聞社 2006/8/27 |
総合電気メーカーの高見龍平はアメリカでの勤務が終わり日本に帰る。日本はバブル後の不況でリストラを進めている。 「金の卵を生まない研究者はただのブロイラー。売れる戦略を立てられないマーケティング担当者は穀潰しだ」 ビジネスマンは、厳しいノルマを課せられている。そのあげく、年功序列制度の撤廃。実績重視の人事考課制度の導入。賃金テーブルの廃止。そして早期退職。早期退職では、表面的には応募としているが実際は指名解雇だ。人事考課を行い、評価の低いものは、三〇%近くの減額となる給与の額が記載されたシートを渡し、条件を呑むかそれが嫌ならやめろ、と実質はくびの宣告だ。 この物語では、創業者は小学校を出ただけの向山翁、会社のトップは同族で占められ、人事も恣意的で、人事権を持つ湯下に疎まれた高見は、閉鎖する工場へ配置され心労の多い閉鎖業務に携わる。その後も、業績の悪化している販売で営業を命じられるなど、不遇が続き、転職する。 ヨーロッパの総合電機メーカーカイザーに転職が決まり、中国を任される。中国は常識の通じない、したたかな国、取引の難しさなど、いま目覚め大国になりつつある中国の特徴を詳しく描写して示してくれる。 経営の悪化した、東洋電機を傘下に納め日本に進出しようとするカイザーと、ハゲタカファンドとよばれもする外資の巧妙な取引ぶりはすごい。 ビジネスの世界に身をおいて日夜働いている人にとっては、あたり前の世界かもしれないが、主婦にとっては驚きの世界であり、夫がこのような厳しい世界の中で頑張っていてくれるのかと思い、少しでも理解したいと読んだ。 ただし、高見の子供達は優秀、妻は理想的な良妻賢母でありすぎ、楡氏の憧れかもしれないが現実感が乏しい。これは、主婦としての感想。 |
Cの福音 楡 周平 1996/2/21 |