藤崎 慎吾


1962年東京都生まれ。
米メリーランド大学海洋・河口部環境科学専攻修士課程終了。
科学雑誌の編集者・記者などを経て1999年に長編「クリスタルサイレンス」で作家デビュー。
「クリスタルサイエンス」は「SFが読みたい!2000年版」の「ベストSF1999」で国内篇第一位となる。


ストーンエイジ
COP

顔を盗まれた少年
藤崎 慎吾
光文社


2008/2/27
2002/8/25 発行

「家には偽者の俺がいて、ママは本物の俺を追い出しやがった。ちょっと顔が変わったくらいで、何でわかんねえんだよ。母親なのに」大手コンビニチェーン「4U」の警備員兼警察官、通称「コンビニCOP」の滝田治が、コンビニ強盗を企てた少年たちの一人から聞いた奇妙な話。滝田は調査に乗り出すが!?
温暖化が進み、亜熱帯と化している2030年代の首都圏。(裏表紙)
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 簡単に顔の整形ができ、ゲームのキャラの顔にしてしまう少年たち、遺伝子操作で光る身体を持った少女、プラスチックの身体をもった男、豚を使った臓器工場など、なかなかなじみにくい世界だ。人が遺伝子操作を続けていけば、人の誕生すら操作できるし、そうなると家族、家庭が意味をなさなくなり、ふらっと家を出た少年達がストリートチルドレンとなり、そんな世界を描いている。ぶたと人の遺伝子を混ぜたり、人の臓器もストックを作って売るビジネスの存在が少年達を利用する怖ろしい世界。
 未来にこんな殺伐とした世界が来るとしたら・・・・・・。

 遺伝子操作と遺伝子ビジネスを扱って、こういう切り取り方もあるのかと、最近読んだ遺伝子ビジネスを扱った「NEXT」と比較しながらSFとして楽しめた。謎の残る主人公の警官が、まるで石器人の設定なのは、どういう意味だったのか。


鯨の王


藤崎 慎吾


文芸春秋



2007/7/8

2007/5/30 発行

 海の中には、知られていない謎がいっぱい。人が容易に行けない深い海の底ではどんな世界が広がっているのだろうか。

 須藤秀弘は、クジラに魅せられ、家族をも省みず周りの人に疎まれてもかまわず研究に没頭している酒好きの鯨類学者。須藤を海底に案内するのは潜水船「ドルフィンシャーク」のパイロット、秋道炎香(ほのか)とフィンクちゃん。
 ドルフィンシャークでは、ほのかに良くなついていて、重い病気で死んだハンドウイルカの脳を取り出して培養し電子装置と組み合わせた人工知能を使っている。スクリーンの中で元気に泳いでいる人工知能が〈フィンクちゃん〉。言葉で指示しただけで船を動かしてくれる。
 海底でダイマッコウに怯えるとフィンクはフリーズしてしまう。するとほのかが、フィンクが生きていた時と同じようにモニターを撫でなでしてやりながら子守唄を聞かせて落ち着かせたりするシーンがあり、可愛い。

 ほのかは始め須藤を酔っ払いのくそ親父だと思っているが、遠慮の無い会話の中から少しずつ理解していく様子がほのぼのとしていいし、ほのかのフィンクに対する感情も理解してもらえるようになる。味のある学者である。

 新しい化学物質と、それを生み出すという宝を探して世界中を駆けまわっているトレジャーハンターや、鯨の中にある特殊な成分でできたという伝説の龍涎香を欲しがるテロリスト、米軍潜水艦と巨大鯨の闘いなどを通し、海の底での人間活動が野生の魚や動物たちの生態に悪影響を及ぼしていることを教えてくれる。

 実在の鯨類学者が須藤のモデルで、巻末では、著者と対談している。もちろん、酔っ払いではない。


日本列島は
沈没するか?


西村 一
藤崎 慎吾
松浦 晋也

早川書房



2006/10/14
 リメイク映画化で話題の小松左京「日本沈没」は、単なるフィクションか、それともありうべき未来なのか?気鋭のSF作家らが惑星地球のダイナミズムを多角的に分析、最新の知見をもとに日本沈没の可能性を徹底検証する。さらに、地球シミュレータなどの最先端技術までをレポートしたSFファン、科学ファン必携の書。(カバー)

 第一部 フィクションとしての沈没・洪水物語(西村 一)では、「日本沈没」に触れた後、それ以外の魅力ある沈没を扱った作品の紹介とあらすじ。読んだ作品もあるが、未読の本が多数あり、また読みたい作品が増える。
  「海底二万里」「ムーン・ブール」「マラコット深海」「海底軍艦」「サブマリン707−謎のムウ潜  団 篇」「海竜めざめる」「第四間氷期」「極冠作戦」「水域」「ウォーター・ワールド」「海が消  えた時 」「未来少年コナン」「ムーン・ロスト」「アトランティスを発見せよ」「蛇神降臨記」「  デイ・アフ ター・トゥモロー」そして「ハイドゥナン」

 第二部 小説に使える(かもしれない)地球科学(藤崎慎吾)では、地球を人生にたとえて46億年の地球と藤崎氏(46歳)の反省をたどってわかり易い。地球の腸内細菌にたとえられる生命など。
 第三部 検証、日本沈没ーーフィクションはどこまで正しいか?(西村)では、これまでに沈没した島や大陸があったか、洪水伝説の由来などについて調べ、日本列島を沈める方法について考えていく。日本はなかなか簡単には沈まないらしい。それどころかプレートの沈み込み速度が増えればむしろ浮かび上がる?
 第四部 そして日本人はどこへ(藤崎、松浦)

 まえがきで「日本沈没ごっこ」で遊びながら、地球科学も楽しもうとの企画、とあったように楽しむことができた。多少科学理論についてはスルーしてしまったが、「ハイドゥナン」で沖縄を沈めた藤崎氏の地球の半生も興味深かった。


螢女

(ほたるめ)


藤崎 慎吾


朝日ソノラマ





2005/10/4

ITマガジン」の編集記者である池澤は、故郷の近くでキャンプ場のあった武持山周辺の森を歩き回るのを楽しみとしていた。ある日、ピンク電話が鳴った。そこは閉鎖され遺棄されたキャンプ場の管理棟だった。何度目かで電話から名前をよばれる、その謎を調べるため、大学で同輩だったW大学理工学部助教授の南方の助けを借りた。電話の主は
の群れを使って人の姿を見せた。南方と学生たちは、森全体に、250本もの電極を木にとりつけ、生体電位の変化を調べる、特に、電話が池澤にかかってくるときの森の木々の変化の様子を調べた。
 また、武持山の斜面にミニゲレンデを造成しようとしていたグリーンパーク・リブレでは工事車両の暴走や、工事スタッフの失踪事件などが勃発していた。
 両方に共通して見られた現象は、
黄色い変形菌(粘菌)が取り付いていたことだった。
 
 鎌倉時代初期に非業の死を遂げた畠山重忠という武士がに化けたと伝えられている。その重忠を密かに慕っていた女も、山中に入って後を追い、蛍になった。人々は女とよんだ。これが山の神に仕えた最初の女で、以後、山で神に仕える女はみな女と呼ばれるようになった。

 
 グリーンパークが地震で崩壊することを女から聞いて知った池澤と南方は、それぞれ人を助ける為、別れて行動する。

 本書は、開発で破壊される森による復讐の物語である。科学的な説明はそれぞれに詳しいのだが、それに平行して、通じていない電話で話しかけられたり、鎌倉時代の鎧武者が出てきたり、山の神の神様ネットワークがあるなど、藤崎ワールドはSFとホラー的なものが不思議なバランスで成り立っているところが魅力だ。

 「ハイドゥナン」では退官後の学会の重鎮として出てくる南方が、精力的な30代の助教授で登場したり、大学院生時代の橘女子の姿も描かれる。また、南方と大学生たちとの様子がよく書けていて、こういう研究室は楽しいだろうと思われた。

 



ハイドゥナン 
上・下



藤崎 慎吾


早川書房






2005/9/27


 西暦2032年。未曾有の地殻変動によって、南西諸島に沈没の危機が迫っていた。植物生態学者・南方洋司、地質学者・菅原秀明ら六人の科学者は、独自の〈ISEIC理論〉によって地殻変動を食い止めるべく、極秘プロジェクトを開始する。
 共感覚をもつ青年・伊波岳志は、南方らに同行して訪れた与那国島で、巫女的存在であるムヌチの後間柚(こしまゆう)と出会う。「琉球の根を掘り起こせ」なる神の声を聞いたという彼女は、大地の怒りを鎮めるため、“14番目の御嶽(うんがん)”を探しだして祈る。
 水深6000メートルの南西諸島海溝では、深海調査船〈しんかいFD〉のパイロット・武田洋平が巨大な人口構造物を発見していた。(ロストキャッスルと名づける)
 遺跡ポイントが門(鳥居)で、〈ロストキャッスル〉は玄関(本殿)、地底情報雲は鎮守の森に相当する。 ロストキャッスルはムドゥルヌチの聖地島抜けして伝説の楽土ハイドゥナン(南与那国島)をめざして遭難した農民の夫婦が、そこへ沈んでいってムドゥルヌチの神となった。柚は、聖地へ行って大地の炎を鎮め、ムドゥルヌチの子どもをハイドゥナンに届けろと神様に言われている。言うことを聞かないと沖縄は沈んでしまう、地球も危ない、と神様に脅されている。

 近未来だから、まだ実現できていないテクノロジーがある。くるくるっと丸めて鞄に入れることが出来るシートパソコンなんて実現したら便利だろうな。
 地質、微生物、認知心理学、宇宙生物学、量子力学と科学についての説明がたくさんあってかなり大変だが、変わり者のおかしな研究をする科学者(隠れマッドサイエンティスト)たちが出てきて、不思議な科学理論について議論しあうのは面白い。

 私には、科学だけではないところが良くて、沖縄の巫女、超能力的な共感覚者の存在と、テレパシーのようなもので通じ合えるという設定もいい。
 内容がドーンとたくさん盛り込まれている2000枚の超大作、まさに私好みのSFである。




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