川瀬七緒

1970年、福島県生まれ。文化服装学院服装科・デザイン専攻科卒。
服飾デザイン会社に就職し、子供服のデザイナーに。デザインのかたわら2007年から小 説の創作活動に入り、
2011年、『よろずのことに気をつけよ』で第57回江戸川乱歩賞を受賞して作家デビュー。
その後発表した『147ヘルツの警鐘』と 『シンクロニシティ』の「法医昆虫学捜査官シリーズ」で、
日本では珍しい法医昆虫学を題材にして注目を集める。近著に『桃ノ木坂互助会』。

読書日誌Top

四日間家族
川瀬七
角川書店



2023/11/29
2023/3/1 発行
 自殺を決意した夏美は、ネットで繋がった同じ望みを持つ三人と車で山へ向かう。夜更け、車中で練炭に着火しようとした時、森の奥から赤ん坊の泣き声が。「最後の人助け」として一時的に赤ん坊を保護した四人。しかし赤ん坊の母親を名乗る女性がSNSに投稿した動画によって、連れ去り犯の汚名を着せられ、炎上騒動に発展、追われることに――。暴走する正義から逃れ、四人が辿り着く真相とは。

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 読み始めてすぐは、陰気な物語になりそうだなあ、と思い中断。
 しばらく他の本を読んだ後読み始めたら、赤ん坊が出現したあたりから、ハラハラ、ドキドキの展開に変わった。先が読めない・・・・どうなっていくんだろう・・・・・・最後も予測できなかった。
 SNSで身元がバレたり出来事が拡散したり、今時の世の中らしく、ネットの怖さが表現されていた。
 赤ちゃんビジネスも、恐い話だった。
 一気に読んでしまうほど、会話が面白かった。


クローゼットファイル
仕立屋探偵 桐ヶ谷京介
川瀬七
講談社



2023/4/16
2022/7/25 発行

主人公の桐ヶ谷京介は、東京の高円寺南商店街に店を構え、服飾職人や弱小工場と世界のブランドをつないでいるアパレルブローカー。かつて美術解剖学を専攻しており、服の状態や体つきから、体調や病気、さらには虐待まで見抜くことができる。しかし一般人ゆえに、虐待された人々を救えなかったという、苦い過去を持っていた。

そんな京介の相棒が、ヴィンテージショップの雇われ店長で、ゲームの人気実況者でもある水森小春だ。前作で、杉並署の南雲隆史警部に見込まれたふたりは、正式に警察の協力者になり、さまざまな事件にかかわっていく。第1話「ゆりかごの行方」は京介が、12年前に棄てられた赤ん坊の母親を、そのとき身につけていた衣服を頼りに見つけようとする。衣類の種類や縫い目から、母親に迫っていく京介の推理が読みどころ。

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  前作に続くシリーズ、今回は短編6編。


うらんぼんの夜
川瀬七
朝日新聞出版



2022/2/20
2021/6/30 発行
 田舎暮らしを厭う高校生の奈緒は、高校を卒業したら農家など継がず、東京に逃げたいと常々思っていた。 ある日、東京から越して来た亜矢子と親しくなるが、この田舎には様々な因習があり、村の年寄りたちは他所者がやってきたことを過度に警戒する。 奈緒は他所者を差別する風習に嫌気がさし、亜矢子と仲良くなっていくが、徐々に村の空気は一変し、怪しい事態が多発するようになる。 亜矢子の口数も少なくなり、村人は益々他所者を忌み嫌うようになるが、様々な事態に疑念を抱くようになった奈緒は、徐々に村に纏わる真相を知ることになるが…。

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 途中まで田舎暮らしをいやがる女子高生のぼやきと閉鎖的なムラ社会のいやらしさとか、老婆たちの偏った考え方とかが続くだけなので、一体作者はこれをどうしようとするのかと疑問に思った。横溝正史のおどろおどろしい世界と事件が始まるのか?始まらないのか?と。

 最後は予想とは違っていた。年寄り達の反応もなるほどと思えるし・・・・見方を変えればそうともとれる・・・・ということなのかな。

 すっきりしない終わり方だけど。うらんぼんとは盂蘭盆会のこと。


ヴィンテージガール
〜仕立屋探偵 桐ヶ谷京介

川瀬七
講談社



2021/11/17
2021/2/17 発行
東京の高円寺南商店街で小さな仕立て屋を営む桐ヶ谷京介は、美術解剖学と服飾の深い知識によって、服を見ればその人の受けた暴力や病気などまでわかる特殊な能力を身につけていた。そんな京介が偶然テレビの公開捜査番組を目にする。10年前に起きた少女殺害事件で、犯人はおろか少女の身元さえわかっていないという。さらに、遺留品として映し出された奇妙な柄のワンピースが京介の心を捉える。10年前とは言え、あまりにデザインが時代遅れ過ぎるのだ。京介は翌日、同じ商店街にあるヴィンテージショップを尋ねる。1人で店を切り盛りする水森小春に公開捜査の動画を見せて、ワンピースのことを確かめるために。そして事件解明に繋がりそうな事実がわかり、京介は警察への接触を試みるが……。

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 新しいシリーズの始まりか?
 著者は服飾デザインの世界にいた人だ。このひとならではの作品に思える。面白い設定なのと、人物の個性が面白い。
 次回作を楽しみにしている。


二重拘束のアリア
川瀬七
小学館



2021/3/26
2020/8/4 発行
国際指名手配のテロリストを追い詰め、ルワンダ政府から1億円の報奨金を手に入れた藪下、淳太郎、一花の3人は、日本初の刑事事件専門調査会社「チーム・トラッカー」を立ち上げた。警察庁による捜査特別報奨金制度が適用された事件を独自に調査する。早速扉を叩いたのは、3年半前に起きた「夫婦相討ち事件」の遺族だ。死亡した男は警察官僚一族の息子で、事件は「殺し合い」ということで決着しているという―。

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 面白いキャラのシリーズで期待して読む。事態がなかなか進まなくてじれったい。複雑な犯人なので混沌としていたようだ。こんな人間が近くにいたらたまったもんじゃない!

 賞金稼ぎとは言えなくて探偵業みたいだ。
せっかくの3人のキャラを生かすストーリーは難しいのかと思った。
 初めて読んだときのスリーサムは意外性もあって面白かったが、今回は少ししんどかったかな。
 


賞金稼ぎスリーサム!
川瀬七
小学館


2020/2/3
2019/11/4 発行
麻布署捜査課の刑事だった藪下浩平(43)は、寝たきりの母を介護するため、期待されるキャリアを捨てて1年前に退職した。母親を大切に思うあまり、いまだに独身を貫いている。
そんな藪下のもとへ、東京の下町で起きたペットショップ放火事件の調査依頼が舞い込む。なぜか名指しで、さらに事件には多額の報奨金が掛けられているという……。指名したのは、藪下に公務執行妨害で逮捕された経歴を持つ「警察マニア」にして、桐生製糖株式会社御曹司の桐生淳太郎(33)だった。
藪下と桐生の2人で調べ始めると、現場に出没する美少女に出会う。彼女は、あらゆる狩猟資格を持つ謎のハンター・上園一花(24)だった。
世代も性格も考え方も異なる3人は、報奨金のために手を組むことになる。元ペットショップ店主犯人説の警察とは別のアプローチから真相に迫っていくのだったが、真犯人らしき人物は3人を標的に反撃を加えてきた!3人は報奨金を手にすることができるのか!?そして桐生には、藪下に並々ならぬ思いを抱くある事件があった……。

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 新しいシリーズになりそうで嬉しい。ユニークな3人が揃ってこれから何をしてくれるんだろう。
特にハンターの上園一花という普通では考えられない発想と能力の持ち主の生かし方に期待している。

「この事件は単独の忍び猟よリ チームで動く巻き狩りが効果を発揮します」「罠猟は推理グームです。獲物の行動と習慣を徹底的に調査して想像する。姿の見えない獲物の
痕跡を集めて 通りそうな道を割り出すんです」「三井さんという方は怖いですね。山でクマの気配を感じたときみたいに鳥肌がたちました。特にあの目は不気味です。笑っているのに笑っていない」などの一花の言葉が興味深い。


スワロウテイルの消失点
法医昆虫学捜査官

川瀬 七

講談社



2019/12/28
2019/7/22 発行
 東京・杉並区で男性の腐乱死体が見つかり、法医昆虫学者の赤堀と岩楯刑事が司法解剖に立ち会うことになった。岩楯の相棒となる深水巡査部長、高井戸署署長、鑑識課長らも同席するなかで、大柄で肥満した遺体にメスが入れられていった。と、そのとき、立会人たちが発疹や出血、痒みに襲われ、感染症の疑いでパニックが起きる。岩楯らは隔離されるが、赤堀には心当たりがあった。赤堀は騒ぎの原因を解説し、殺人と推定された被害者の死亡推定月日に迫ろうとする!

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 今回の相棒は、深水彰巡査部長、今時のチャラい若者のように見えるがなかなか鋭いところもある。物語はいきなり解剖場面でパンデミックか・・・・で始まったが、虫によるらしい。
 痒みの元は日本にいないはずの台湾の「小黒蚊(シャオヘイウェン)」ハエ目ヌカカ科、小さくて見えなくて刺されたことにも気づかないほどの蚊。身近にいたら嫌だな。

 それとクモ。被害者のベッドの下で繁殖していた「クチグロ」日本で最強の有毒生物「カバキコマチグモ」。いないはずのモノがいたのはなぜか・・・・・ツバメが運んだ。そのツバメはどこから来たのか。
 クモの足に塗料をつけ放して(こんな面白いことをする?)足跡をおいかけたら巣に帰った。そこが問題の場所。

 岩楯警部補が犯人の影を追いかけてきたら同じ場所になった。ヘビースモーカーの犯人とたばこのフィルターを巣作りに使ったツバメ、タバコシバンムシも登場し、警察の捜査と虫の追跡でお約束の展開になった。
 他に少年の苛め、成長なども絡め、周りの面白い脇役達と、赤堀の変人ぶりがなんとも楽しい。
 


法医昆虫学捜査官
紅のアンデッド
川瀬七
講談社



2018/7/29
2018/4/24 発行
 東京都内の古民家で、おびただしい血痕と3本の左手の小指が見つかった。住人の遠山という高齢夫婦とその客人のものと思われたが、発見から1ヵ月経っても死体は見つかっていない。いっこうに捜査が進展しない中で岩楯警部補は、相棒の鰐川と事件現場を訪れ近所の聞き込みを始める。他方、法医昆虫学者の赤堀は科捜研を再編成した「捜査分析支援センター」に配属されていた。法医昆虫学と心理学分野、技術開発部の三つが統合された新組織だ。所属のせいで事件現場には立ち入れなくなったものの、同僚のプロファイラーと組んで難事件に新たな形で挑戦を! (Bookデータベース)

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 今度ははえでもうじでもなく、やけど虫。法医昆虫学シリーズ6作目。
 他にも、ゼリービーンズのいい香りは、カストリウムが使われている。これはビーバーの肛門近くでとれる分泌物から作られる。
 あめ玉には表面にコーティング剤が使われている。カイガラムシの分泌物、虫体被覆物の塊。
 チョコにも光沢剤として虫が使われているーーーなどなど食欲をそぐ話が続々。

 安定の虫の話で面白い。


テーラー伊三郎

川瀬七
角川書店




2018/3/16
2017/12/8 発行
「自分の人生は、自分以外のだれにもゆだねるな」
死にかけの商店街に突然飾られたコルセット“コール・バレネ”。
それは、少年の人生を変える、色鮮やかな“革命”の始まりだった。

福島の保守的な田舎町で、ポルノ漫画家の母と暮らす男子高生・海色(アクアマリン)。
17歳にして半ば人生を諦めていたが、ある日、古びた紳士服仕立て屋「テーラー伊三郎」のウィンドウに現われた美しいコルセットに心奪われる。
頑固な老店主・伊三郎がなぜ女性下着を――騒然となる町内を尻目に、伊三郎に知識を買われたアクアは、共に「テーラー伊三郎」の新装開店を目指す。
活動はやがて、スチームパンク女子高生や町に埋れていた職人らを巻き込んでいき……。仕立て職人と少年が“コルセット”で革命を起こす!?灰色の日々を吹き飛ばす、曲者(主に老人)揃いの痛快エンタメ! (Bookデータベース)

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 著者の福島生まれ、デザイン会社勤務という履歴からみても、満を持してこの分野を書いたのかと思う。
 面白くて一気に読み終わる。活気のなくなったシャッター通りも、やりようによっては復活するかもしれないと思わせてくれる。登場人物も個性があって、わくわくしながら読み進んだ。


フォークロアの鍵

川瀬七

講談社



2017/9/24

2017/5/16 発行
 羽野千夏は、民俗学の「口頭伝承」を研究する大学生。“消えない記憶”に興味を持ち、認知症グループホーム「風の里」を訪れた。出迎えたのは、「色武者」や「電波塔」などとあだ名される、ひと癖もふた癖もある老人たち。なかでも「くノ一」と呼ばれる老女・ルリ子は、夕方になるとホームから脱走を図る強者。ほとんど会話が成り立たないはずの彼女が発した「おろんくち」という言葉に、千夏は妙な引っ掛かりを覚える。記憶の森に潜り込む千夏と相棒の大地。(Bookデータベース)

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 字が汚くて、食べ方も汚い、品のかけらもない。しかもデブ。昆虫法医学者シリーズの赤堀先生に思考回路も行動パターンも似ている。

 大地は17歳の高校生。背が高くてガリガリに痩せている。母親が完全な毒親精神的に追い詰められて家族を殺害しようと考えたその瞬間、千夏との出会いで思いとどまることになる。

 ホームの認知症の老人たちもそれぞれのキャラが面白い。そして介護施設の問題点や介護プログラムのおかしさにも触れていてかなり考えさせられた。ホームで働く介護士やカウンセラーたちは、認知症の老人には、何を言っても、まともに受け答えできないし、なるべく刺激を与えず、規則正しい生活を送らせるのが一番だと思い込んでいた。カウンセラーの松山が、象徴的でわかりやすかった。
 


 著者によれば、巻末の参考文献リストにある『驚きの介護民俗学』という本が、この物語を作るきっかけになったそう。老人を介護する中で出くわす「消えない記憶」という現象。そこにヒントが。

 
 非常に面白かった。


女學生奇譚
川瀬 七緒
徳間書店



2017/3/18
2016/6/30 発行
 フリーライターの八坂駿は、オカルト雑誌の編集長から妙な企画の依頼をされる。「この本を読んではいけない……」から始まる警告文と古書を、竹里あやめという女が持ち込んできたのだ。その古書の本来の持主である彼女の兄は数ヶ月前に失踪、現在も行方不明。このネタは臭う……八坂は、タッグを組むカメラマンの篠宮、そしてあやめとともに謎を追う。いたずらか、狂言か、それとも――。(Bookデータベース)

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 著者の法医昆虫捜査官シリーズは好きだが、これはまた何ともオカルトみたい・・・・作中物語があり、なかなか進まない感じがもどかしかったが、予想に反する結末、でも物語は続いて行きそうだ。
 登場人物のキャラが際立っていて、恐怖を感じない八坂、180近い長身の一見がさつそうなカメラマンの篠宮、この二人のコンビぶりを楽しみながら読んだ。
 
 古書と思ったらそうでもなかったり、書いた人は殺されただろうと思うとそうではなかったり、本を読むと気がふれるとか失踪するとかの脅しが怖かったり、大きな組織が図ったのか個人の思惑の事件なのか、面白かったと思う。
 恐怖を感じないウルバッハ・ビーテ病、初めて知った病気、クロイツフェルト・ヤコブ病のほうは知っていたが。
 著者は、どこから着想を得ているのだろう。


法医昆虫学捜査官
潮騒のアニマ
川瀬 七緒
講談社





2017/1/17
2016/10/25 発行
 伊豆諸島の「神の出島」でミイラ化した女性の遺体が発見され、警視庁から岩楯警部補が派遣された。首吊りの痕跡から、解剖医は自殺と断定。死亡推定月日は3ヵ月以上前とされた。第一発見者によれば、島のハスキー犬がミイラを引きずってきたらしい。遅れて島に入った法医昆虫学者・赤堀涼子が、事前に解析した微物と、現場周辺を調べて出した結論は……。

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 岩楯警部補とペアを組むのは、30歳の巡査部長・新島南署の兵頭晃平。評判も良くそつなくこなす機転も知性もあるが、覇気が感じられないと岩楯警部補は思っている。その若手が赤堀に影響されて変わっていくのはいつもの通り。

 現場を見た赤堀、いつもの昆虫相ができていない、なぜか・・・・・。
 アカカミアリがいた。通常なら存在しないはずで、外来種なのに大量発生し、ミイラの中に閉じ込められ内臓を食べつくし、ウジ虫すらも食べつくし・・・・・・・だから昆虫相ができなかった。
 
 これらのことから、どこで死に、誰が死体を動かし、誰が殺人をしたのかがわかっていく。(自殺で処理されるはずの死体も究明)

 通常の捜査と法医学の調査は別の視点で調べているが、結末は一か所へ収斂していく。そこが、やっぱり面白い。


法医昆虫学捜査
メビウスの守護者

川瀬 七緒

講談社





2016/1/19

2015/10/19 発行
 東京都西多摩で、男性のバラバラ死体が発見される。岩楯警部補は、山岳救助隊員の牛久とペアを組み捜査に加わった。捜査会議で、司法解剖医が出した死亡推 定月日に、法医昆虫学者の赤堀が異を唱えるが否定される。他方、岩楯と牛久は仙谷村での聞き込みを始め、村で孤立する二つの世帯があることがわかる。息子 に犯罪歴があるという中丸家と、父子家庭の一之瀬家だ。──死後経過の謎と、村の怪しい住人たち。残りの遺体はどこに!

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 シリーズ4作目、ますます面白くなってきた。今回の岩楯警部補の相棒は山岳救助隊員、赤堀涼子のやることなすことを驚く昆虫法医学についてビジターの役目だ。

 解剖医と赤堀の死亡推定月日がなぜ異なるのか?

 土の中の虫が少なかったのは、あの場所に死体が捨てられてから、まだ日が浅い。バラバラ死体は、どこか別の場所から動かされた。そして、土の中の虫がじゅうぶん集まる前に発見された。
 バラバラ死体の腕は、どこか別の場所から動物によって運ばれた。ウジの繁殖に対して腐敗が軽いのは、ビニール袋か何かに密閉されて、そのうえ埋められてたから。
 犯人が遺体をバラバラにしてるとき、すでにいくつかの卵が産みつけられた。
 袋に密閉されてほとんどは孵化できずに死んだだろうけど、組織の奥深くに潜って孵れた子もいた。そして動物が掘り起こして現場まで運び、そこで羽化して飛び立った。
 遺体が本格的に腐敗を始めたのは、あの現場に運ばれてから。だからウジの齢がまちまちだった。ーーー虫の生態を知らなければわからなかった事実で、ここが面白い。
 その推理(ウジとハエと、土の中に棲む目に見えもしない虫。そこにタヌキまで組み合わせて)から死体の元あった場所も探しだせた。

 綿貫ちづるーー香水を作る職人ーー微妙な香りをかぎ分けられるーーーこの人の話の中で、香りが病をも治すとある、ほんとかしら、メディカルアロマセラピーというものに非常に関心が湧いた。
 日本では、アロマはエステとか香りを楽しむだけのものと認識されているが、統合医療として外国では認知されているそうだ。


法医昆虫学捜査
シンクロニシティ

川瀬七緒

講談社





2015/12/8

2015/8/12 文庫化
2013/7/ 発行
 東京・葛西のトランクルームから女性の腐乱死体が発見された。全裸で遺棄された遺体は損傷が激しく、人相はおろか死亡推定日時の予測すら難しい状態だっ た。捜査一課の岩楯警部補は、若手刑事の月縞を指名して捜査に乗り出した。検屍を終えてわかったことは、死因が手足を拘束されての撲殺であることと、殺害 現場が他の場所であると思われることの2点だった。発見現場に蠅とウジが蝟集していたことから、捜査本部は法医昆虫学者の赤堀涼子の起用を決定する。赤堀 はウジの繁殖状況などから即座に死亡推定日時を割り出し、また殺害状況までも推論する。さらに彼女の注意を引いたのは、「サギソウ」という珍しい植物の種 が現場から発見されたことだった。「虫の知らせ」を頼りに、法医昆虫学者が事件の解明に動き出した。

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 法医昆虫学捜査第2弾、ますます面白くなった。赤堀涼子先生のキャラがますます楽しい。心を閉ざした新人刑事の心が開いていくのもいいし、岩楯警部補はますます理解度を増している。

 東京から遠く離れた過疎地が関係あるとはだれも気付かないはずだから完全犯罪になるはずがーーーサギソウの種からアリの巣までの経路を洞察し、さらに巣から出たヤゴの抜け殻を手掛かりに、事件の地を割り出す。普通では考えられない事柄だ。

 ついでに昆虫の生態の薀蓄の面白さーーーカマキリの卵が高い所にある時は大雪になるーー虫は湿度専用の感覚器官をもっているし、気圧も測れるからーーだそうである。

 もう一つ面白かったのは岩楯警部補の口から言わせたこれ「腐敗分解に絡む虫は、四つのタイプがあるそうだー第一が屍肉食の種。おもにハエと甲虫。悪党に喩えるなら、こいつらは空き巣狙いのこそ泥だな。隙を見つけて、確実に侵入してくる連中だ。第二がウジとか甲虫を喰ったり寄生したりする、小型のハチとアリ。こいつは小ずるい詐欺師タイ ーー第三が大型のハチとアリ。こいつらは死体も喰うし、集まってくる虫どもも喰う、凶暴でたちの悪いやつら。ヤクザだな。第四がクモ。現場で網を張って、なんの苦もなく悠々と獲物を仕留める。こいつらは知能犯だーーー腐敗に絡む虫は、どういうわけだか悪党と完全一致してるってことを発見したんでね。」


桃の木坂互助会

川瀬七緒
徳間書店






2015/3/7
2014/2/28 発行
 のどかだった町は、すっかり変わってしまった―。移り住んできたよそ者たちの度重なるトラブルに頭を抱えていた桃ノ木坂互助会会長の光太郎。元海自曹長で もある彼は、悪い芽は早く摘まねばと、町に害を及ぼす人物を仲間たちとともに次々と町から追放することに。次なるターゲットは、大家とトラブルを起こして いた男、武藤。しかし、男を狙っていたのは光太郎たちだけではなかった。とある事件を機に、互いの思惑は狂い始め…。

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 この作者の法医昆虫学捜査官シリーズは好きだけれど、この作品は読んでいて気持ちよくなかった。訳があるにしても、住人にたいしてやっている嫌がらせが・・・・・。
 それと、もう一組、男を狙っている女のやっていることも、読んでいて不愉快だった。

 ただ、最後にどんでん返しというか、ミュンヒハウゼン症候群というのは、興味深かった。ほんとにあるのか??


147ヘルツの警鐘
法医昆虫学捜査官
川瀬 七緒
講談社






2015/2/7
2012/7/17  発行
 全焼したアパートから1体の焼死体が発見され、放火殺人事件として捜査が開始された。遺体は焼け焦げ炭化して、解剖に回されることに。その過程で、意外な 事実が判明する。被害者の腹腔から大量の蠅の幼虫が発見されたのだ。しかも一部は生きた状態で。
 混乱する現場の署員たちの間に、さらに衝撃が走る。手がか りに「虫」が発見されたせいか、法医昆虫学が捜査に導入されることになる。法医昆虫学はアメリカでは導入済みだが、日本では始めての試み。赤堀涼子という 学者が早速紹介され、一課の岩楯警部補鰐川は昆虫学の力を存分に知らされる。

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 法医昆虫学の作品はこちらが第1巻、私が読むのは2作目になったけれど。
 主人公の赤堀准教授の人物像が面白くて、どんどん読み進んでしまう。
 死体の中の、蛆虫の育ち方に違いがあり、それを突き詰めていったところに犯人がいた。生物が生を止めたら10分以内にやってくるハエ、密室であろうがどこからかはいってくるそうだ。卵を産み付け、育って、脱皮をしていく過程を調べると、死亡時刻も割り出せる。

 焼け焦げた死体だが、胃がそっくり無くなっていたーーー食べつくされていた―――美味しかった?ウジにとって−――なぜか?−−−しかも異常に成長しているーーーそこにはコカインがーーー
 と繋がっていくのだ。ハエも蜂もその他の虫たちも、こうして昆虫学の一部を解説されていくと非常に面白い。
 もっと話題になってもいい作品ではないのかなあ。


よろずのことに気をつけよ
川瀬 七緒
講談社




2015/1/29
2011/8/8 発行
 第57回(2011年) 江戸川乱歩賞受賞

 被害者は呪い殺されたのか!―謎が謎を呼ぶ、呪術ミステリーの快作。
 変死体のそばで見つかった「呪術符」の意味は?
 呪いと殺人の謎に文化人類学者が挑む!

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水底の棘
法医昆虫学捜査官
川瀬七緒
講談社






2014/11/13
2014/7/17 発行
 第一発見者は、法医昆虫学者の赤堀涼子本人。東京湾・荒川河口の中州で彼女が見つけた遺体は、虫や動物による損傷が激しく、身元特定は困難を極めた。絞殺 後に川に捨てられたものと、解剖医と鑑識は推定。が、赤堀はまったく別の見解を打ち出した。捜査本部の岩楯警部補と鰐川は、被害者の所持品の割柄ドライ バーや上腕に彫られた変った刺青から、捜査を開始。まず江戸川区の整備工場を徹底して当たることになる。他方赤堀は自分の見解を裏付けるべく、ウジの成長 から解析を始め、また科研から手に入れた微物「虫の前脚や棘」によって推理を重ねていった。岩楯たちの捜査と赤堀の推理、二つの交わるところに被害者の残 像が見え隠れする!

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  私自身は昆虫は苦手だけれども、主人公が昆虫をこよなく愛し「この子」という表現をするなどに驚くが、とっても面白い。生き物の生態にも関心がある。
 例えば,寒い時期にはいるはずのないハエが死体にいたら、気温の高い時にここに流れ着いたはず、と日付がわかる。
 ウジが孵化する日数から、川ではなく海から流れてきた、と判断する。
 捜査だけでは出てこない事柄が、昆虫の生態を通して見えてきたりするのは、非常に面白い。


 赤堀、岩楯、大吉、鰐川に加え、鑑識の堀之内、解剖医の九条、助手の由美とキャラが素晴らしいのが魅力。

 今まで知らなかった作家だったが、これからは作品のすべてを読んでいこうと思う。

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