海堂 尊(かいどう たける)

1961年千葉県生まれ。
2005年『チーム・バチスタの栄光』で
第4回『このミステリーがすごい大賞』を受賞してデビュー。
現役勤務医としての豊富な知識と経験を生かし、ユニークなキャラクターが活躍する
社会性に富んだエンターテインメントを発表している。
2008年、『ブラックペアン1988』で第21回山本周五郎賞の候補になり、
『死因不明社会』(講談社ブルーバックス)にて、第3回科学ジャーナリスト賞を受賞する。
著書に『ナイチンゲールの沈黙』『ジェネラル・ルージュの凱旋』
『螺鈿迷宮』『夢見る黄金地球儀』『医学のたまご』などがある。

http://tkj.jp/kaidou/

読書日誌Top

コロナ狂騒録
COVID-19
海堂尊
宝島社


2023/2/19
2021/9/17 発行


コロナ黙示録
COVID-19
海堂尊
宝島社



2022/7/16
2020/7/24 発行
 豪華クルーズ船で起きたパンデミックと無為無策の総理官邸。病院で起きていること。混乱する政治と感染パニックの舞台裏!世界初の新型コロナウイルス小説。桜宮市に新型コロナウイルスが襲来。その時、田口医師は、厚労省技官・白鳥は―そして“北の将軍”速水が帰ってくる!世界初の新型コロナウイルス小説!(Bookデータベース)

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小気味がいいほどの阿倍批判。司法が仕事をしていないのがよほど腹立たしくて本書の上で批判したのだろう。
 コロナの対応のまずさももちろんあってのことだが。

 さすがにお医者さん。コロナについての説明や、病院が受け入れるための準備の数々は、よく分かった。
 バチスタシリーズの人たちのオールスターキャストなのも楽しめるが、どこでどのようにして活躍していたのかが明確には思い出せなくて個人的にはもどかしい。

 ここまで阿倍批判を露骨にして、海堂氏は大丈夫だったのか。安保総理、アホじゃないよ、などと、批判だけでなくかなり馬鹿にしていたと思う。


氷獄
海堂尊
角川書店




2020/2/1
2019/7/31 発行
新人弁護士・日高正義が初めて担当する事件は、2年前、手術室での連続殺人として世を震撼させた「バチスタ・スキャンダル」だった。被疑者の黙秘に苦戦し、死刑に追い込めない検察。弁護をも拒み続ける被疑者に日高正義は、ある提案を持ち掛けた。こうして2人は、被疑者の死刑と引き換えに、それぞれの戦いを開始する――。

「双生」……医師・田口公平のもとで研修に励むすみれ・小百合の桜宮姉妹。外来患者の夫の異変に気付いたすみれは、ある斬新な治療法を提案する。
「星宿」……十字星を見たい――。看護師の如月翔子は、手術を拒否し続ける少年・村本亮の願いを叶えるため、便利屋・城崎を呼び出し――。
「黎明」……末期癌の妻が入所した東城大学医学部付属病院のホスピスは、治る希望を捨て、死を受け入れるという方針だった。夫・章雄は反発するが……。
「氷獄」……新人弁護士・日高正義は「バチスタ・スキャンダル」の被疑者のもとを訪れる。弁護の拒否を続ける被疑者に、日高正義はある提案を持ち掛けて……。(Bookデータベース)

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玉村警部補の巡礼
海堂尊
宝島社


2018/7/30

2018/4/20 発行

四国であがる犯罪者たちの水死体。加納警視正は謎を追い、リフレッシュ休暇で遍路に出た玉村警部補に無理やり同行する。行く先々で出くわす不可解な事件に振り回され……。

 「阿波 発心のアリバイ」お遍路の道中に遭遇した賽銭泥棒事件。加納警視正は容疑者となった女の無実を証明できるのか。
 「土佐 修行のハーフ・ムーン」十年前に起きた政治家秘書不審死事件の容疑者には、鉄壁のアリバイが存在した――。
 「伊予 菩提のヘレシー」蚊を信仰する寺で発見された不審死体。事件性はないかに思われたが、加納はAiの実施を主張する。
 「讃岐 涅槃のアクアリウム」讃岐のひょうげ祭りに爆破テロ予告が! しかし、その背後には巨大な闇組織の暗躍があった……。(Bookデータベース)

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 四国八十八カ所の蘊蓄もあり、事件もあり、凸凹コンビのおかしみのあるやりとりもありで、大いに楽しめた。どの作品も、「このミステリーがすごい!」で発表したもの。
 私のなじみのある松山市のお寺は超スピードで回ったことになって、お寺の名前の紹介しかなかったのが残念。


このミステリーがすごい!
四つの謎

宝島社

麻生正 乾緑郎 
海堂尊 中山七里



2018/2/23
2014/12/19 発行
「このミステリーがすごい!」の大賞をを取った作家4人の作品。

 中山七里 第8回 「さよならドビュッシー」でーーー「残されたセンリツ」

 乾緑郎 第9回 「完全なる首長竜の日」でーーー「黒いパンテル」

 安生正 第11回 「生存者ゼロ」でーーー「ダイヤモンドダスト

 海堂尊 第4回 「チーム・バチスタの栄光」でーーー「カシオペアのエンドロール」


ランクA病院の愉悦

海堂尊
新潮文庫



2017/5/2
2016/6/1 発行
 とんでもない医療格差が出現した近未来の日本。売れない作家の終田(ついた)千粒(せんりゅう)は「ランクC病院」で銀行のATMに似たロボットの診察しか受けられない。そんな彼に「ランクA病院」への潜入取材が舞い込む表題作。“日本一の健康優良児”を目指す国家プロジェクトに選ばれた男の悲喜劇「健康増進モデル事業」など、奇抜な着想で医療の未来を映し出す傑作短篇集。『ガンコロリン』改題

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 健康増進モデル事業
 緑剥樹の下で
 ガンコロリン
 被災地の空へ
 ランクA病院の愉悦

 


スカラムーシュ・ムーン

海堂 尊
新潮社




2016/2/8

2015/7/30 発行
 浪速のインフルエンザ騒動は、まだ終わっていなかった。もうすぐ「ワクチン戦争」が勃発する!? 新型インフルエンザ騒動で激震した浪速の街を、新たな危機が襲った。霞が関の陰謀を察知した医療界の大ぼら吹き・彦根新吾は壮大な勝負を挑むべく、欧州へ旅立っていく。浪速を、そしてこの国を救うことはできるのか。医療の未来を切り拓く海堂エンタメ最大のドラマが幕を開ける! (Bookデータベースより)

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 「たまごのお城」でがんばっている女子大学院生まどかちゃんと彼女を助ける幼なじみたちのほんわかしたお話と、難波府独立構想「日本三分の計」にからめて、彦根先生と官僚機構との格闘を描き、加賀から浪速、桜宮、東京、四国は極楽寺、極北市、さらにモナコ、ジュネーブ、ヴェネチアと、舞台を頻繁に変えながらの壮大な物語だ。
 
 価格の優等生の卵のことや有精卵を使ったワクチン製造、その卵を供給することの難しさ、運搬の困難さも含め、知らなかったことは多い。
 卵の供給に関して言えば、ワクチン製造の要となる有精卵の安定供給のため、「加賀」の養鶏場の跡取り娘が幼なじみの青年二人と奮闘する成長小説でとてもよかった。
 
 「ナニワモンスター」の続編でもあり、「ケルベロスの肖像」の裏の話でもある。
 スカラムーシュは「大ぼら吹き」「道化」、つかみどころのない彦根が今回の主役。


カレイドスコープの箱庭
海堂 尊
宝島社




2015/1/27
2014/3/19 発行
 なぜか出世してしまう愚痴外来の元窓際講師&厚生労働省の変人役人の凸凹コンビ、最後の事件 !
 閉鎖を免れた東城大学医学部付属病院。相変わらず病 院長の手足となって働く田口医師への今回の依頼は、誤診疑惑の調査。肺癌患者が右葉摘出手術で亡くなったのは、病理医の誤診が原因ではないかとの疑惑が浮上。田口医師は実態を把握せよという高階病院長の依頼を受け、仕方なく、呼吸器外科や病理検査室などの医師や技師たちに聞き取り調査を開始する……。検体取り違えか、それとも診断ミスか!?

 万華鏡のように、見る角度によって様々な形となって姿を現す大学病院。果たして事件の真実とは?
 エーアイ国際会議の開催に向けて、アメリカ出 張も控えるなか、田口&白鳥コンビが調査に乗り出した―。
 バチスタ・シリーズ真の最終章 !
 巻末に登場人物リスト&桜宮市年表&作 品相関図など収録。

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 エーアイ国際会議の出席者は、ウルトラスーパーバイザー・東堂、スーパースター・桐生、スピードスター・速水、トリックスター・彦根など、最終巻らしいオールスターキャストであり、島津が加わってかつての大学時代の麻雀仲間すずめ四天王であるとか、過去の作品を懐かしく思い出しつつ、エーアイの素晴らしさを推し進めつつ物語が進行して大団円だった。


アクアマリンの神殿
海堂 尊
角川書店




2014/10/8

 桜宮市にある未来医学探究センター。そこでたったひとりで暮らしている佐々木アツシは、ある深刻な理由のため世界初の「コールドスリープ」技術により人工 的な眠りにつき、五年の時を超えて目覚めた少年だ。
 “凍眠”中の睡眠学習により高度な学力を身につけていたが、中途編入した桜宮学園中等部では平凡な少年 に見えるよう“擬態”する日々を送っていた。彼には、深夜に行う大切な業務がある。それは、センターで眠る美しい女性を見守ること。学園生活に馴染んでゆ く一方で、少年は、ある重大な決断を迫られ苦悩することとなる。
 アツシが彼女のためにした「選択」とは?先端医療の歪みに挑む少年の成長を瑞々しく描い た。

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 「モルフェウスノ領域」 の続編。ナイチンゲールの沈黙→医学のたまご→モルフェウスの領域からの流れ。


輝天炎上
海堂 尊
角川書店



2013/5/15
2013/1/31 発行
 桜宮市の終末医療を担っていた碧翠院桜宮病院の炎上事件から1年後。
 東城大学医学生・天馬大吉は学校の課題で「日本の死因究明制度」を調査することに。同 級生の冷泉と関係者への取材を重ねるうちに、制度自体の矛盾に気づき始める。そして、碧翠院の跡地にAiセンターが設立され、センター長に不定愁訴外来の 田口医師が任命されたことを知る。
 時を同じくして、碧翠院を経営していた桜宮一族の生き残りが活動を開始する。東城大への復讐を果たすために―。

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ケルベロスの肖像」のサイドストーリーであり、「螺鈿迷宮」の続編にあたる。
本作はは天馬大吉の目から見た桜宮である。


スリジエセンター1991
海堂 尊
講談社




2013/3/27
2012/10/24 発行
手術を受けたいなら全財産の半分を差し出せと放言する天才外科医・天城は、東城大学医学部でのスリジエ・ハートセンター設立資金捻出のため、ウエスギ・ モーターズ会長の公開手術を目論む。だが、佐伯教授の急進的な病院改革を危惧する者たちが抵抗勢力として動き始めた。桜宮に永遠に咲き続ける「さくら」を 植えるという天城と世良の夢の行く末は?

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 今回の作品は、病院内の政治活動が表現されていて、医療だけをやっているわけにいかないらしい。昼行灯と言われていた田口が病院長に?それは不思議だが・・・・・・。

 若き日の高階、4年目の世良、速水の活躍の背景、名前だけしか出てこないがとても気になる渡海医師の存在。

 世良は、この外科をやめ、診療所に引っ込む。そこからどのようなドラマがあって、極北の病院再建請負人になったのか。(「極北ラプソディ」
 とてもこれで完結編とは思えない。気になる〜。


ケルベロスの肖像

海堂 尊

宝島社








2013/3/10

2012/7/20 発行
「東城大学病院とケルベロスの塔を破壊する」――東城大学病院に送られてきた脅迫状。高階病院長は、院内の厄介事を一手に引き受ける愚痴外来の田口医師 に、犯人を突き止めるよう依頼した。厚生労働省のロジカル・モンスター白鳥の部下、姫宮からのアドバイスによって、調査を開始する田口。警察、医療事故被 害者の会、内科学会、法医学会など、様々な人間の思惑が交錯するなか、エーアイセンター設立の日、何かが起きる!?

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田口&白鳥シリーズの最終巻、まとめらしい雰囲気が随所に見られる。過去の出来事が何度も出てくるので過去に読んだものを思い出したいが、作者ほど読者は覚えてないので何だったかなあーというのが少しイラつく。
前作にあたる「アリアドネの弾丸」、彦根と桧山が登場する「イノセント・ゲリラの祝祭」、南雲が関係する「極北クレイマー」の内容。
特に読んでおいたほうがよいのは、「螺鈿迷宮」と「ブラックペアン1988」

シリーズ最終ということから、メンバーが勢ぞろい。
厚労省の白鳥、姫宮、
彦根医師&桧山、
桜宮署広報課室長 斑鳩、
「北の土蜘蛛」こと元極北市監察医務院院長 南雲、
東城大学医学部付属病院 高階病院長、兵藤、そして田口。
存在感が強烈なのは、本作で登場した、日本人で最もノーベル医学賞に近いと言われている、ウルトラスーパーバイザー東堂。


 今までの海堂氏の物に比べ、読み進みにくいような気がする。
 
これで完結編か? 微妙だなあ.


玉村警部補の災難

海堂 尊
宝島社




2012/10/13
2012/2/24 発行
田口&白鳥シリーズでおなじみの、桜宮市警察署の玉村警部補とキレ者(警察庁のデジタル・ハウンドドッグー電子猟犬)加納警視正が活躍する、ミステリー短編集。
 ☆ーーーずさんな検死体制の盲点を突く「東京都二十三区内外殺人事件」、「イノセントゲリラの祝祭」の番外編
 ☆ーーー正月特番用のバラエティ番組収録中、巨大迷路内でタレントが殺された。カメラが設置された密室での不可能犯罪に挑む「青空迷宮
 ☆ーーー最新の科学鑑定に切り込んだ「四兆七千億分の一の憂鬱」DNA鑑定だけでは??
 ☆ーーー闇の歯医者を描く「エナメルの証言」死体の歯を治す?

2007年より『このミステリーがすごい! 』に掲載してきた4編をまとめた、著者初の短編集

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極北ラプソディ

海堂 尊

朝日新聞出版





2012/6/13

2011/12/30 発行
極北クレイマー』につぐ、週刊朝日連載の迫力満点の第2弾。崩壊した地域医療に未来はあるのか?
『極北ラプソディ』は閉鎖の危機にある極北市民病院に、赤字建て直しのために世良院長がやって来たところから始まる。彼は再生のために、訪問介護の拡充、人員削減、投薬抑制をかかげた。
また世良院長は雪見市の極北救命救急センターに外科医・今中をレンタル移籍した。瀕死の地域医療でもっとも厳しい局面にたつ救急医療。速水センター長の指 示をあおぐことになった。移籍から3日目には、速水が指揮をとる「将軍の日」で、入れ替わり立ち替わり救急患者が訪れる一日になった。文字通りの救急医療 の修羅場に遭遇する今中。
一方、極北救命救急センター長の桃倉は息子が出場したスキー大会を見学していたが、雪崩に巻き込まれ、命が危険な状態に。速水はドクターヘリの出動を宣言した。医療と行政の根深い対立をえがき、地域医療の未来を探る渾身のメディカル・エンターテイメント。
目次・ 第一部極北の架橋 1章通り過ぎるサイレン 2章テレビ先生の三つの宣言 4章世界は孤立していない 5章古巣探訪 6章極 北市を治療しましょう8章監察医務院の闇 11章世良の秘密兵器  …… 第二部雪見の夏空 12章ドクターヘリ 16章ドクタージェット構想…… 第三部光のヘリポート 21章アクロバット・フライト …… 第四部オホーツクの真珠 25章神威島 27章海狼の遠吠え ……

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 テンポよく話が進む。医療現場の緊張感ときびしさ、一刻を争う救急医療のスピード感。

 今中の脳裏に浮かぶふたりの医師、極北市民病院で頑なに救急を拒否し続ける、悪評まみれの世良雅志。そしてドクターヘリ導入を熱望しながら、自分自身は搭乗しようとはしない唯我独尊の速水晃一。この二人が小気味よい。


ナニワモンスター


海堂 尊


新潮社







2011/12/24

2011/4/20 発行
 関西最大の都市・浪速で新型インフルエンザ・キャメルが発生した。経済封鎖されて壊滅的打撃を受けるナニワ。だが、その裏では霞が関の思惑が絡む巨大な陰謀が蠢いていた――。日本の大変革を目論む風雲児・村雨府知事は、未曾有の危機を打開できるのか。この国を救う“究極の処方箋”とは? 海堂ワールドの新たなステージ、開幕!

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 ナニワモンスターとは、何を?誰を?指すのか。
 大阪のまえの橋下知事を想わせる村雨府知事。他の作品(アリアドネの弾丸)で存在感のあった斑鳩。本作ではスカラムーシュこと彦根の活躍が目立つ。
 今までとは異なる作品かと思いきや、東城医大の名も不定愁訴外来の名も、白鳥や彦野も登場し、これまでの作品群を知っていた方が理解も深まり、楽しさも増す。

 医療の問題に、世界の笑いものになったインフルエンザ防疫対策、大阪地検不法逮捕など現実の事件が絡まり、虚々実々の世界がくり広げられる。大阪地検の事件は、現実より小説に書いた時期の方が早かったそうで、驚く。現実の事件を取り込んだのではなかったのだ。

 霞ヶ関の陰謀に対し、ナニワ府の村雨知事、破産した北海道極北市の益村市長、東北の巨人新村知事、九州舎人町で、予防医療に成功している真中町長らが、一堂に会し、これからの日本の再生、地方自治、今後の医療都市に向けて話しあい、協力を誓い合った。現実になればすごいことなんだろう。

 著者が最も言いたいのは検死制度を悪用すればさらに医療崩壊が進むというメッセージ。

 「浪速には、龍が地に潜んでいる。喜国さんもその一人。彼らはみな、頭上に蓋をされた臥龍です。僕(彦根)は彼らを解き放ちたい。そして共に天高く登っていきたいんです」喜国というのは、地味に働いてきた老健局の普通の人だが、すごい人(モンスター)がたくさんいるよ、と読めた。

 非常に楽しく読み終えた。


アリアドネの弾丸



海堂 尊

宝島社






2011/7/3


2010/9/24 発行

 かつてバチスタ手術中の連続怪死事件で揺れた東城大学医学部付属病院で、遺体を画像診断して死因を明らかにするエーアイセンター運営の動きが始まった時、またしても怪死が相次いだ。まず、技術者が原因不明の急死。その数日後、今度は射殺事件が……。現場にいたのは被害者と、病院長の高階のみ。医療主導でエーアイセンターを推進しようとしていた高階が、それを快く思わない勢力の罠に落ちたのは明らかだった。逮捕状執行までのタイムリミットは三日。高階からエ―アイセンター長に任命されていた医師の田口公平と、厚生労働省技官の自鳥圭輔は、その三日で高階の無実を証明すべく奔走する。

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 本作品は、田口/白鳥コンビのシリーズだが、今までの作品に登場してきた人物がシリーズ外の作品からも多数登場し、まるでオールスターキャストなので、それら作品を読んでないと分かりにくい。『極北クレイマー』などを読んでいないと背景を理解しにくい(特に『螺釧迷宮』は必ず読んでおく必要がある)。

 強大な権力を背景にした完全犯罪計画を、少しずつ、しかし確実に崩壊させてゆく。地道な論証と華麗な挑発を自在に交えて犯人の逃げ道を断ってゆく白鳥の名推理はさすが「ロジカル・モンスター」だ。そしてコンピュータ解析技術を駆使して殺人事件の真相を解明する。今回は、白鳥が大活躍する。

 内容としては、エーアイの必要性をしつこいくらいアピールする内容になっている。しかも最後まで種明かしがわからなくて、ミステリーらしくなっていた。
 最後は、ほのぼの具合が戻ってきて、いつもの愚痴外来モードになった。そこが好きなのだ、このシリーズは。

本格ミステリーであり、社会派小説でもある。
 面白かった。


モルフェウスの領域



海堂 尊


角川書店






2011/5/11

2010/12/15 発行
 日比野涼子は桜宮市にある未来医学探究センターで働いている。東城大学医学部から委託された資料整理の傍ら、世界初の「コールドスリープ」技術により人工的な眠りについた少年・佐々木アツシの生命維持を担当していた。アツシは網膜芽腫が再発し両眼失明の危機にあったが、特効薬の認可を待つために五年間の(凍眠)を選んだのだ。だが少年が目覚める際に重大な問題が立ちはだかることに気づいた涼子は、彼を守るための闘いを開始する―――。(本の帯より)

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 モルフェウスとはギリシャ神話に出てくる(眠りの神ヒュプノスの息子/有翼の夢の神モルフェウス)
 コールドスリープ法成立の基盤となった「凍眠八則」を提言したのは、マサチューセッツ工科大学の曽根崎教授だった。(  医学のたまごマドンナ・ヴェルデに出てくる)
 これに疑問を感じ行動を始める涼子。それは、凍眠選択者は覚醒後、以前の自分と連続した生活、もしくは他人としての新たな生活を選択しなければならないこと。前者を選ぶと、凍眠事実が社会へ公開され、後者を選ぶと以前の属性は死亡宣言される。この選択は、小学生のモルフェウスにとって過酷であり、人権的配慮に欠けると、涼子は懸念する。
 もし、実現可能な技術になったら、どんな問題を考えておくべきか、氏は、シミュレーションしたのだろう。スリーパーのプライバシーを守らなければいけないことに気づき、ではどうすればいいのかーーー驚くべき涼子の作戦。というか、おおよそ想像できてしまったけれど。

 網膜芽腫と5歳のアツシは、ナイチンゲールの沈黙に登場し、病気にもかかわらず、無邪気で可愛い様子が描かれている。
 薬の認可が日本はとりわけ遅い、待っている患者の為にも、海堂氏は本書で問題提起している。
 まだ、この小説のようには凍眠や目覚めはできないと思うが、新薬が発見されるまで眠っていられたら治せる難病があるのかもしれない。夢の治療法か?
 
 50歳でベテランになった田口医師や藤原看護師(藤原のおばちゃんとアツシはいう)と元気で明るい如月翔子看護師がいつものように登場して、安心できる。


ブレイズメス1990
Blaze Mes
海堂 尊
講談社



2011/1/15
2010/7/15 発行

天才的心臓外科医・天城が新たに登場。モデルは、バチスタ手術の須磨久善ではないかと思う。極端にアクの強い、


マドンナ・ヴェルデ
Madonna Verude
海堂 尊
新潮社



2010/12/8
2010/3/20 発行
初出・・・小説新潮 
2009/3-2010/2
「ママ、私の子どもを産んでくれない?」
突然、とんでもないことを言い出したのは、東京帝華大で産婦人科医をしている、ひとり娘の理恵.自分は子宮を取り去ったので実母に代理母を頼んだのだ.承諾したみどりは、55歳.アメリカにいる理恵の夫、つまりおなかの子の父親に経過を手紙で報告しながら妊娠の日々を送る.娘が勤務する「マリアクリニック」でお産をする.
 ほかに30代の若奥さん、少女のようなユミ、不妊治療を5年も続けてきた中年女性などがいる.

 マリアクリニックや理恵医師の活躍、同じ日に一斉にお産が始まり、大忙しになるその顛末は「ジーンワルツ」に書かれているので、本書ではあっさりと片付けている.
 
 理恵の夫と、生まれた双子のうちの男児「かおる」が中学生になった時のエピソードは「医学のたまご」に書かれている.
 また、清川医師は、「ひかりの剣」の帝華大学医学部剣道部主将の清川吾郎だったり、あれこれの本が巧みにリンクし合っているので、過去に読み終えて、忘れかかった本がまた読みたくなってしまう.

 代理母の法律上の問題や(日本では、卵子の本人でなく、産んだ人が母親になる)体外受精の問題、代理母の心の動きやきもちの在り方など、知ることができた.


ジェネラル/ルージュの伝説

海堂 尊
宝島社



2010/11/13
2009/3/6 発行


外科医 須磨久善

海堂 尊

講談社




2010/4/8

2009/7/22 発行
バチスタ手術を日本で最初に行い、広めた心臓外科医の第一人者。そして著者の「チーム・バチスタの栄光」を書くヒントになった人。

 『はじめに』の、須磨医師自身の言葉ーーーー「自分の人生を振り返ったとき、いろいろエポックメーキングなことがありましたが、ほとんどは旅とつながっていました。ホームグラウンド・日本でもいろんなことがありました。海外も三十ヵ国ぐらい回りましたし、胃大網動脈を使った冠状動脈バイパス手術というオリジナル術式も考案し、日本人で初めて海外で心臓の公開手術も行ない、ローマでは教授を務め、その時出会ったバチスタ手術を日本で初めて手がけました。こうしたことを世界にどう広めたか。『心臓外科医の旅』を軸に、私がこれまで何を考えてそういうことをやってきたのか、まとめてみたいと思っています。
三十六歳の時の胃大網動脈を用いた新しいバイパス手術への挑戦について。アメリカ留学時代に学んだことを日本に持ち帰って、七転八倒しながら新しい術式を考案したこと。
 その術式が生まれる前と生まれた後の医学界の反響、そして海外への旅立ち。第三回はモンテカルロに行くようになって、インスパイアされ葉山ハートセンターという新病院をつくった話


 海堂氏が、須磨医師をどれくらい尊敬しているかが伝わってくるし、須磨医師のすごさが伝わってくる。
 テレビでも紹介されたそうで、知っている人も多いかもしれない。


医学のたまご

海堂 尊
理論社



2010/2/5
2008/1/ 発行
初出:「日経メディカル」2007/2/〜2008/1/

 僕は曾根崎薫、14歳。歴史はオタクの域に達してるけど、英語は苦手。愛読書はコミック『ドンドコ』。ちょっと要領のいい、ごくフツーの中学生だ。そんな僕が、ひょんなことから「日本一の天才少年」となり、東城大学の医学部で医学の研究をすることに。でも、中学校にも通わなくっちゃいけないなんて、そりゃないよ。医学生としての生活は、冷や汗と緊張の連続だ。なのに、しょっぱなからなにやらすごい発見をしてしまった(らしい)。教授は大興奮。研究室は大騒ぎ。しかし、それがすべての始まりだった。ひょうひょうとした中学生医学生の奮闘ぶりを描く、コミカルで爽やかな医学ミステリー。

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極北クレイマー
海堂 尊
朝日新聞出版



2009/8/13
2009/4/30 発行
『週刊朝日』大好評連載小説の単行本化。
現役医師で医療エンターテインメント街道を驀進する著者の最新作。
赤字5つ星の極北市民病院に赴任した非常勤外科医・今 中を数々の難局が待っていた。不衛生でカルテ記載もずさん、研修医・後藤はぐーたらだし、院長と事務長は対立している。謎めいた医療 事故、女性ジャーナリストの野心、病院閉鎖の危機…。厚生労働省からの桃色眼鏡の派遣女医・姫宮は 活躍するが、良心的な産婦人科医はついに医療事故で逮捕された。日本全国各地で起きている地域医療の破綻を救えるのは誰か?

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イノセント・ゲリラの祝祭

海堂 尊

宝島社





2009/8/11

2008/11/21 発行

 白鳥と田口コンビのシリーズ 4作目。

 不定愁訴外来の田口医師は、いつものように高階院長から頼まれごと。

 厚生労働省「モデル事業」の検討委員会に出席する事、ところが、上京し、発言もしたのにこの委員会は解体され、医療事故調査委員会創設検討会の立ち上げに協力するはめになった。
 検討会では、病理学会の田沼教授と法医学会の西郷教授が解剖をめぐりいがみ合い、エーアイを排除しようと暗躍するミスター厚生省医療安全啓発室八神課長、それを食い止めようと火食い鳥こと白鳥が田口を操りながら活躍する。
 官僚は医療なんてどうでもいいと思っており、大切なのは予算と法律だけ、会議で決めたことをなし崩しにしてしまう。その典型が、ミスター厚生省こと八神課長という男の存在だ。
 白鳥側の強力な切り札に、イノセント・ゲリラ・異端の病理医・ひねくれ彦根こと彦根新吾が会議に出席する。
 エーアイを導入したい白鳥、病理学会と法医学会の縄張り争いを利用してエーアイを廃案にしようとしている官僚との会議を通した戦いが面白い。

 現実でのエーアイ導入がなかなか進まないが、このシリーズは一環してエーアイを推進しているて、海堂先生の熱意が伝わってくる。

そうして、チラチラと、北の方で何かが起こっているとか、姫宮が北へ行っているとか、もれ聴こえてくる。その話もいずれあるのだろう。


ひかりの剣

海堂 尊

文芸春秋




2008/9/15

2008/8/10 発行
「ジェネラル・ルージュの凱旋」ではジェネラルと称される天才外科医として活躍していた速水晃一が、まだ医学部大学院生だったころの剣道部に所属して活躍していた青春小説。
 「ブラックペアン」より少し後の時間。田口や柔道部の島津、剣道部の顧問としての高階教授も関わってくる。

剣の道をまっすぐに追求する男、東城大学医学部剣道部主将の速水晃一。もうひとりは、あり余る才能をもちながら、それ故にその世界を疎んじている好雄、帝華大学医学部剣道部主将の清川吾郎。」
 
ふたりが、医学部剣道部の象徴的大会、医鷲旗(いしゅうき)大会をめぐり互いに鎬(しのぎ)を削り、覇権を争う。
 
 二人の間にあって、面白くさせているのが高階顧問。「
速水君は清川君とは違う。彼は君に負けるかもしれない。だが彼は、いつかどこかで伝説を作る。その伝説は、長く言い伝えられることだろう。速水君と清川君の決着はきっと、そういう形でつくんだろうね……」高階先生のこの意味深な言葉は、これまでの作品を読んでいたら、ハハ〜ン、あの伝説だな、と気付く。

 剣道のことは知らなかったが、とても剣道に興味を感じられた。剣に対する姿勢とメスを持つ手、関係があるのか〜。


夢見る黄金地球儀

海堂 尊

東京創元社



2008/9/14

2007/10/25 初版

 首都圏の端っこに位置する桜宮市に突如舞い込んだ一億円。その名も「ふるさと創生基金」。だがその金は黄金をはめ込んだ地球儀に姿を変え、今では寂れた水族館にひっそり置かれているだけとなった――はずだった。が、ある日を境にトラブル招聘体質の男・平沼平介の日常を一変させる厄介の種へと変貌する。
 八年ぶりに現れた悪友が言い放つ。「久しぶり。ところでお前、一億円欲しくない?」かくして黄金地球儀奪取作戦が始動する。二転三転四転する計画、知らぬ間に迫りくる危機。平介は相次ぐ難局を乗り越え、黄金を手にすることができるのか。抱腹絶倒のジェットコースター・ノベル!(裏表紙)
       **********************
めったにないことだが、正直なところ、途中で読むのをやめようと思った。ネットで調べると、ここらで挫折した人もいるようだった。
でも、途中から面白くなってきた。途中までは何が言いたいのかわからなかったのだけど。

 平介の父の発明がおかしい。といっても天才には違いない。
 平介が保険をかけると称して、依頼した相手は、「ナイチンゲールの沈黙」に出てきた浜田小夜、元看護士、彼女の歌声は不思議な力を持つ。そして一緒にいるのは、成長して大人になった牧村瑞人、たしか中学生のときから頭がよかったね。
 平介も他の作品に出ていたらしい。

 黄金地球儀を盗み出し、地球儀の内側で金を掻きだした後元に戻す計画。ところがテレビ局が生中継で地球儀を映すことから、計画が思わぬほうへ。

 いつものシリーズとは違うが、それなりに楽しめる作品だった。


ジーン・ワルツ


海堂 尊


新潮社




2008/8/13

2008/3/20 発行
いつものシリーズとは違うし、いつもほど笑いを取ろうともしていない。

 一つは、医療事故で、医師が手錠をかけられ逮捕された事例を扱い、「癒着胎盤は全分娩の○・〇一パーセントという希有な疾患で、現在の医療水準では事前に確定診断することは難しいそれを事前に見抜けず、帝王切開の血の海の中で、一万回に一度遭遇するかしないか、という稀少症例と直面したときの処置の結果が悪かったとして、逮捕されてしまうとしたら誰も産科をやろうとはしなくなってしまうと訴える。

 いま一つは、新医師臨床研修制度の導入により、良質な臨床研修医を育成するはずが医療崩壊のきっかけとなり、大学病院は実質上、機能不全に陥ってしまっている事実。

 
それらの医療現場の実態を描きつつ、代理母問題も含め、人工授精の問題を考える。
 
 医師不足で今、関わっている五人の妊婦がお産をすれば廃院になるマリアクリニックに帝華大学から診療に通っている曾根崎理恵。末期がんの三枝茉莉亜院長。帝華大から清川医師が手伝いに来る。
 五人の妊婦は、自然分娩の甘利みね子34歳、神崎貴子28歳、青井ユミ19歳。不妊外来を受診の人口受精患者、荒木浩子39歳、山咲みどり55歳。

 五人それぞれが多様な問題を抱えているにもかかわらず、一斉にお産が始まり、はらはら、どきどきさせられる。
 驚きの結末もまっている。ハッピーな可能性も。

 幾つもの問題提起のある物語で、一気に読み終えた。逮捕された医師のことは読み始める前日に裁判のことがニュースで流れたので知ったばかりだった。
 産院が減り、産科の医師も減り、産婆の活躍する場所も限られ廃業する人もいる。大変な問題だと痛感する。


ブラックペアン 1988

海堂 尊

講談社




2008/5/31

2007/9/20 発行

 外科研修世良が飛び込んだのは君臨する神の手教授に新兵器導入の講師、技術偏重の医局員ら、策謀渦巻く大学病院……桜宮市にある東城大学医学部付属病院が舞台。後の院長高階は新任でまだ若く、藤原婦長、猫田主任ら、若き日の姿が見られる20年前の話。
 夏休みのベッドサイドラーニングとして学部2年生(4年生)三人、後のジェネラル速水、愚痴外来の田口や島津が、後の姿を彷彿とさせる学生時代での登場もあって楽しい。

 ユーモラスな中に、癌の患者への告 知、新技術導入の難しさ、医療技術と患者との心のケアなどが描かれている。
 
 
タイトルのブラックペアンが重要な鍵で、過去の医療過誤の隠蔽、復讐、どんでん返し、リアルな手術の場面の各人の役割、準備段階の手洗いなど、医療現場の知らない事を見せてくれ、ハラハラしながら謎解きも。

 やはり、読み応えがあった。作品中「黄金地球儀」に言及する場面もあった。舞台は同じなんだろうか。次は早くそれを読みたいものだ。


ジェネラル・ルージュの
凱旋



海堂 尊

宝島社




2007/7/23

2007/4/23 発行
 桜宮市にある東城大学医学部付属病院に、伝説の歌姫が大量吐血で緊急入院した頃、不定愁訴外来の万年講師・田口公平の元には、一枚の怪文書が届いていた。それは救命救急センター部長の速水晃一が特定業者と癒着しているという、匿名の内部告発文書だった。病院長・高階から依頼を受けた田口は事実の調査に乗り出すが、倫理問題審査会(エシックス・コミティ)委員長・沼田による嫌味な介入や、ドジな新人看護師一姫宮と厚生労働省の``火喰い鳥''白鳥の登場で、さらに複雑な事態に突入していく。将軍(ジェネラル・ルージュ)の異名をとる速水の悲願、桜宮市へのドクター・ヘリ導入を目前にして速水は病院を迫われてしまうのか……。そして、さらなる大惨事が桜宮市と病院を直撃する。(カバーより)

 救命救急センターに伝説の歌姫を受け容れるシーンを読んで、あれ、読んだことのある本をまた読み始めたか・・・・と、あせってしまったが、「ナイチンゲールの沈黙」のできごとと同じ時間で少し離れた場所の異なる出来事の物語なので、時々接点があり、記憶にある会話が出てくる。なかなか面白い嗜好だ。私としてはこれが、一番面白かったが、これまでの経緯や人間関係を知っているから楽しめたという見方もできるかな。

 検死に対してエーアイを適用する事についてや、ジェネラル・ルージュ(血塗れ将軍)を告発する文書に対しての、倫理問題審査会の様子は興味深いし、行灯先生が委員長のリスクマネージメント委員会の議論は圧巻だ。
 救急医療では収益は上がらない。それどころか赤字だ。足りない分を医療代理店からの裏金で賄ってきた現実。
 行灯先生の意外なしたたかさ、火喰い鳥や氷姫の活躍もおかしいし、医師や看護士のそれぞれの個性が際立って魅力になっている。

 東城大学医学部付属病院が舞台の物語としては本作は三作目。
 だが、時間的にはこの後の物語になり、姫宮がこの後潜入するらしい碧翠院桜宮病院が舞台の物語「螺鈿迷宮」が、先に出版されている。
 
 出版された順に読んでいくのが、やはり一番面白いと思う。


螺鈿迷宮



海堂 尊


角川書店





2007/2/12

2006/11/30 発行
 終末期医療の先端施設として注目を集める病院を舞台とした著者三作目の作品。

 僕、天馬大吉は、天涯孤独、東城大学医学部の学生だがやる気がなく落第を繰り返し、連日雀荘に通っている。小学校以来の同級生の別宮葉子は、時風新報の記者、彼女の依頼で、碧翠院桜宮病院へボランティアに扮し潜入取材させられる。入ったきり行方不明の立花の捜索も依頼される。子どもの頃から『でんでん虫』と呼んできた病院。

 雀荘の賭けマージャンや、患者の三婆との会話が楽しかったり、大吉の不運を指す『アンラッキー・トルネード』や葉子を指す『血塗れヒイラギ』看護師を『失敗ドミノ倒し』と称したりする部分も楽しいので、メインテーマを忘れそうだ。

 終末医療は儲からないが、それでも碧翠院を併設するなど努力を続けてきたが、東城大学に切られた桜宮病院は東城を沈める作戦に出た。
 元々、手術は東城大、再発すれば桜宮病院治療は東城、死を看取るのは桜宮という東城大学の闇の部分を受け持つ分業体制のサテライト病院だった。
 

 登場人物が明るくユーモラスだが、ここでは毎日のように入院患者が死んでいく。
 
 タイトルのように病院の建物も迷宮のような造りだが、桜宮病院の伝説や大吉の両親の交通事故、そのあとに出会った女性の存在、強運といわれながら不運の連鎖の大吉の実体は・・・・・、面白いんだけど、いろいろ複雑でストーリーも迷宮のようだ。
 
 バチスタの時の高階院長や愚痴外来の田口医師他も登場する。もちろんユニークキャラの厚生省の役人も。



ナイチンゲールの沈黙



海堂 尊

宝島社





2007/4/15

2006/10/21 発行

 東城大学医学部付属病院・小児科病棟に勤務する浜田小夜、担当は、眼球に発生する癌――網膜芽腫(レティノブラストーマ)の子供たち。眼球を摘出されてしまう彼らの運命に心を痛めた小夜は、子どもたちのメンタルサポートを不定愁訴外来・田口公平に依頼する。その渦中に、患児の父親が殺され、警察庁から派遣された加納警視正は院内検査を開始する。小児科病棟や救急センターのスタッフ、大量吐血で緊急入院した伝説の歌姫、そこに厚生労働省の変人・白鳥圭輔も加わり、事件は思いもかけない展開を見せていく・・・・・。(カバーより)

 不定愁訴外来は、田口公平がかつて院内政治の渦に巻き込まれた時、避難所として無理矢理作った新しい外来システム、通称『愚痴外来』、徹頭徹尾愚痴を聞きとげることで、患者のメンタル・ヘルスケアに寄与するという、田口医師は、ほんわかした雰囲気の一見無能に見えるがカンのはたらく『行灯先生』とも言われる。いいキャラクターだ。

 途中までは、ミステリーとは思えない、ユーモアドラマで進んでいく。作者のことばのセンスが好きなので、無理にミステリーにしなくてもいいのではないかと思ったりする。こどもたちとの会話、ハイパーマン・バッカスやらシトロン星人についてのやりとりも愉快だ。不可解なヒーローだとは思うけど。

 ついに殺人が起こり、警察庁からキャリアがやってきて捜査する。前回登場の厚生省の変人・白鳥とは旧友で、二人のやりとりが面白い。それを横からアレコレ心の中で言葉を発しながら見ている田口先生もユーモラス。また、強く、有能な女性看護師が仕切っていくのは小気味よい。

 次の三作目につながる内容もちらほら散見するが、それは、私が先に三作目を読んだからわかることで、気づかなくてもかまわないので、できれば順に読む方がいいだろう。
 
 SF的な内容もあり、突っ込みどころもあるのだけど、あまりそれらは気にならず楽しめた。とても面白かった。ただし、ミステリー度は低いかもしれない。



チーム・バチスタの栄光


海堂 尊


宝島社




2007/1/16
 東城大学医学部付属病院は、米国の心臓専門病院から心臓移植の権威、桐生恭一を臓器統御外科助教授として招聘した。彼が構築した外科チームは、心臓移植の代替手術であるバチスタ手術の専門の、通称“チーム・バチスタ''として、成功率100%を誇り、その勇名を轟かせている。ところが、3例立て続けに術中死が発生。
 病院長・高階は、神経内科教室の万年講師で、不定愁訴外来責任者田口公平に内部調査を依頼した。
 壊滅寸前の犬学病院の現状。医療現場の危機的状況。そしてチームーバチスターメンバーの相克と因縁。医療過誤か、殺人か。(カバーより)

 術中死が医療事故か殺人か?田口がバチスタのチーム一人ずつに話を聞き、謎を解明していくミステリーだが、登場人物の造形がそれぞれ面白く、皆ひとくせもふたくせもある。深刻な内容のはずだがユーモラスで、作者のことばのセンス・ギャグが生きていて、田口の不定愁訴外来は通称、愚痴外来といわれている。

 謎解きをする主人公がお気楽医師でほのぼのとしたいい性格なので読んでいて楽しい。
 後半になると厚生省の役人・白鳥圭輔という、極端にマンガチックな個性的な人物が登場し、キレ者なのか奇人か変人か、田口がギブアップした後の捜査を一緒に進めていく。
 
 このデビュー作で、第四回「このミステリーがすごい!」大賞を審査員達の絶賛により受賞している。
 次回作が大変楽しみで、他のキャラクターの誰かが主人公でも面白いものになりそうな予感。

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