真山 仁


1962年、大阪府生まれ。同志社大学法学部政治学科卒。読売新聞記者を経て、フリーライターに。

2003年大手生保の破綻危機を描いた『連鎖破綻ダブルギアリング』(著・香住究〈共著〉ダイヤモンド社)でデビュー。

0412月、『ハゲタカ』(ダイヤモンド社)で、単独の作家としてデビュー。

読書日誌Top


墜落

真山仁
文藝春秋



2023/4/21
2022/6/30 発行
2022年6月金城華が夫の一を刺殺。DVに耐えかねた妻が夫を殺した単純な事件として解決するはずだったが、担当検事となった冨永真一は不審を感じ、みずから捜査に乗り出す。
ほぼ時を同じくして糸満市で自衛隊の戦闘機の墜落事故が発生。民間人が死亡したことで、軍事基地が集中する沖縄では、 抗議デモが巻き起こる。それに加え、航空自衛隊きってのエースパイロットによる事故は、単なる操縦ミスとは考えられない。戦闘機に何らかの不備があったのではないかと疑念が湧くが……
一見何の関係もない、二つの事件。だが、双方の担当となった冨永が捜査を進めていくと、そこには思いもかけない接点が浮かび上がる。

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 富永検事シリーズの第3弾ーーー「売国」「標的」
 読んでいたが、正直、記憶に残ってなかった。


 貧困、基地、軍用地主……「沖縄の闇」に踏み込み、知られざる本当の沖縄の姿をフィクションによって抉り出す問題作!
入念な沖縄取材で明らかになった暗部が、白日の下にさらされる。

 という説明がある。たしかに沖縄についてはあまり知らないので、驚くことばかりだった。


 


レインメーカー


真山仁


幻冬舎






2022/10/25

2021/10/25 発行

「法律は悲しみを癒す道具じゃない」急患の2歳児の心肺が停止ーー。
慟哭する母。呵責に苦しむ父。医師の無念。糾弾される病院。
医療過誤訴訟で明らかになる真実は誰かを救うのか?明日は、あなたが“渦中の人”になる。

 「法律を知らないと不幸になる」と医師の側に立ち、法律問題や医療過誤訴訟を闘っている異能の弁護士・雨守誠に、ある日総合病院から依頼が入った。急死した2歳児の両親に医療過誤で訴えられそうで、病院と医師を弁護してほしいというのだ。救えなかったら医師が悪いのか?--自身の信念に基づき、雨守は医療現場の矛盾や不条理に斬り込んでいく……。弁護士の執念を描き切る法廷サスペンス。

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 アメリカの法曹界では訴訟で大儲けをする弁護士を「レインメーカー」と呼ぶ。

「作者の思い」ーーー今回の作品では、医療過誤を扱いました。法律を知らなければ不幸になる!と言い切る変わり者の弁護士が主人公です。
彼が弁護するのは、医療過誤の被害者ではなく、医師です。
日頃から過酷な職場環境にありながら、誠心誠意患者の命を救い、疾病を治す医師たちに突然降りかかる医療過誤の訴え。人間誰にでもミスは犯すものですが、それが命や障害に直結する医療従事者にとって、問題は深刻です。
 一方で、「きっと救ってもらえる!」と医師を信じていたのに、救ってもらえなかった遺族からすれば、医師は裏切り者に見えることもあります。
実際、杜撰な治療行為によって患者が深刻な被害を受けることもあるため、医療過誤を冷静に判断するのは、難しい。
そんなデリケートでありながら、誰の身に降りかかる「事件」を描きました。

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 読み応えがあった。


タイムズ
真山仁
朝日新聞出版



2022/5/25
2021/8/30 発行
このままでは「分断社会」どころか、「断絶社会」、あるいは「ディストピア」が現実になる可能性すらある――。
1964年の「東京五輪」から半世紀以上がたった。戦後の日本は、何が変わり、何を失ったのか。希望はどこにあるのか。そして、新型コロナ対策や五輪開催をめぐる狂騒をどう捉えればいいのか。
小説家・真山仁が政治・経済・教育・メディア・若者など、さまざまな現場に足を運び、多角的な視点から日本社会の「現在地」を描く。
話題となった朝日新聞の連載「Perspectives:視線」を大幅加筆・再構成。待望の書籍化!


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   チクリチクリと安倍晋三を批判する言葉があって、まったく同感だった。
 内容は、コロナ前のオリンピック延期前のところから始まり東京オリンピック直前で終る。


それでも、陽は昇る

真山仁

祥伝社



2022/1/19

令和3年2/20 発行
自ら阪神・淡路大震災で被災し、妻子を亡くした小野寺徹平。東日本大震災で被災した遠間第一小学校に応援教師として赴任し、二年を過ごした小野寺は、神戸へ戻り、教え子の相原さつきが代表を務めるNPO法人「震災伝承プロジェクト」の活動に奮闘していた。震災で起きたことを語り継ぐ活動を通じ、被災地復興の主役はその土地でこれからの人生を歩む若い世代であるとの思いを強くする。その一方で、住宅、五輪、ボランティア、産業誘致など、「復興」の掛け声の下、課題を抱えたまま「東日本」から10年の2021年を迎えた。そこに未来へ向かう希望は見いだせるのか。小野寺にとって、「使命」とは何か。彼がたどり着いた、一つの答えとは――。

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 「まいど」といって挨拶するのに違和感を持ったら、前作で何かをしていたらしい。
震災三部作の完結編だったのに、前2作 「そして、星の輝く夜がくる」「海は見えるか」のことはすっかり忘れていた。

 「生きてるだけで」
 「伝承の人」
 「復興五輪?」
 「はぐれたら、三角公園」
 「乗り越えられない」
 「それでも、陽は昇る」
 「旋風機」
 「失敗こそ」  の短編8編

 


神域
上・下
SANCTUARY

真山仁

毎日新聞出版



2020/7/11
2020/2/29 発行
 脳細胞を蘇らせる人工万能幹細胞「フェニックス7」それは人間の尊厳を守るために生み出されたはずだった。国家戦略の柱としたい日本政府は一刻も早い実用化を迫る。再生細胞による医療が普及すれば、人は永遠の命を手に入れるかも知れない―。しかし、本当に細胞は安全なのだろうか。(上)

 国家間の競争に巻き込まれてゆく「フェニックス7」、研究施設周辺では謎の失踪事件が頻発していた。真相を追う刑事はその全貌に戦慄する。果たして、生命の神秘という神の領域に、我々は拙速に突き進んでよいものだろうか。(下) (Bookデータベース)

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 ありえないとおもうけど、もし脳細胞が再生したらどうなるのだろう。
 


トリガー
上・下

真山仁

角川書店



2019/11/3
2019/8/30 発行
謀略の引き金はひかれた!
2020年7月24日、東京オリンピックがついに開幕した。現役検事ながら馬術競技韓国代表のキム・セリョンは五輪直前、二度も凶漢に襲われ、ある不正に関する極秘捜査をやめるように脅されていた。5月半ばには、在日米軍女性将校と北朝鮮の潜伏工作員の変死事件が相次いで発生。三つの事件の裏には、日韓の在日米軍に関するある謀略が蠢いていた――。アジアの安全保障を根底から揺るがすパンドラの箱が、いま開かれた!! (上)

真実を求めて照準は揺れる!?
東京五輪の馬術競技会場で起きた韓国代表キム・セリョン暗殺事件。背後には日米韓を揺るがす極秘情報が存在していた。事件の統括責任者として内閣参与に就いた元内閣情報調査室長の冴木は、北朝鮮の潜伏工作員・和仁と手を組み、真相に迫ろうとしていた。一方、セリョンのSPを務めた巡査部長の藤田は、彼女を守れなかった悔恨の思いを胸に、真犯人と、彼女が遺した“あるデータ”の行方を追っていた。すべてのカードが開かれたとき、世界は予想をはるかに超えた新しい顔を見せる――!! (下)

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アディオス!ジャパン
真山仁
毎日新聞出版



2018/12/21
2018/10/15 発行
著者自ら震災被災地や沖縄、阪神工業地帯など国内外を歩き、独自の視点で日本の危機的状況の原因を探る。我々が生き残る術を提起する意欲作。

Episode1  変凹君ニッポン漫遊記
Episode2  ミャンマーは民主主義の学校か
Episode3  先進国への狼煙TOKYO1964
Episode4  ビバ!富士山
Episode5  ワインは語る
Episode6  さらば築地のはずが
Episode7  地熱は日本を救えるか
Episode8  銀座でお金の重みを考える
Episode9  IRは日本復活の成長産業となるのか
Episode10 問われる震災復興
Episode11 韓国は近くて遠いのか
Episode12 沖縄は可哀そうな場所なのか
Episode13 ニッポンの"国技"野球の底力
Episode14 トランプ大統領は、民主主義の申し子なのか
Episode15 ものづくり大国はいずこに──阪神工業地帯盛衰
Episode16 大政奉還150年──その深謀遠慮と誤算
Episode17 言葉とは裏腹の平成時代
Episode18 名門・東芝は何を失ったのか

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 様々な問題提起がされているが、小説ほどは引き込まれない。表層的な印象だからか?
 


シンドローム
上・下


真山仁

講談社




2018/10/25

2018/8/1 発行
2009年、ハゲタカと呼ばれた世界的な企業買収者・鷲津政彦は、原子力発電所を建設する民営会社の株を買収に失敗。財・政・官がもつれあう、権力構造の複雑怪奇さを思い知る。その2年後。リベンジを賭け、総本山「首都電力」に買収を仕掛けようとした矢先の2011年3月。東北を未曾有の地震、津波、最悪の原発事故が襲う。
 電力事業ほど儲かるビジネスはない―。国から特別待遇を与えられ、「絶対に損をしない」収益構造を持つ電力業界に狙いを定めた鷲津の前に立ちはだかるのは、日本経済構造の暗部に蠢く権力。(上)

 官邸は迷走し、首都電が責任回避に奔走するばかり。原発メルトダウンの危機は確実に進行する。表向き救世主として振る舞う鷲津は、けっして本当の狙いを明かさない。権力者たちの疑心暗鬼は膨れ上がる。無論、生半可な救済など許さない。原発事故の危機のカウントダウンと、ハゲタカ鷲津の巨大買収劇が、同時並行で進む。絶対不可能のはずの「国策企業」の買収を、現実に起こりうるものとして描くドラマ(下) (Bookデータベース)

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 現実には東電は国有化したが、国有化には反対で他の方法があったのではないかと考えて小説中では鷲津が実行に移す。ハゲタカの視線で見たらどうなるか。エネルギー政策の専門家からは実際の東電処理のスキームとして最も適しており、目からウロコだと言われたそうで、凄いなあ。

 事故の現場の描写は緊迫感がある。どんな取材をするのだろう。

 「首都電」の濱尾と親しいミカドホテルの松平貴子(ハーディー)、野上妙子(マグマ)の名前が出てくる。

 以下の作品が東日本大震災を扱っている。
 「そして、星の輝く夜がくる」 「海は見えるか」  「雨に泣いている」   「コラプティオ



オペレーションZ

真山 仁
新潮社



2018/4/30
2017/10/20 発行
 国の借金は千兆円を超え、基礎的財政収支は赤字が続く。国債が市場で吸収されなくなった時、ヘッジファンドが国債を売り浴びせた時、国家破綻は現実となる。総理は「オペレーションZ」の発動を決断し、密命を帯びたチームOZは「歳出半減」という不可能なミッションに挑む。官僚の抵抗、世論の反発、メディアの攻撃、内部の裏切り者―。日本の未来に不可欠な大手術は成功するのか?明日にも起こる危機。(Bookデータベース)

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ハーディー
上・下
ハゲタカ2.5

真山仁
講談社文庫



2018/4/10
2017/11/15 発行
 日本を代表するクラシックホテルの日光ミカドホテルは、経営難に陥り世界的リゾートグループのリゾルテ・ドゥ・ビーナス傘下に。創業家の長女、松平貴子はビーナスから執行役員になって目標値を達成すればミカドを返すと約束される。一方、謎多い中国の大富豪から救済案の提示が。陰謀の渦巻くなか貴子が闘う! (上) 

 世界的リゾートグループのパリ本社で激しい権力闘争に巻き込まれる松平貴子。中国の富豪・将陽明と娘の美麗はあらゆる手を尽くして事態を混乱に陥れる。冷酷な買収者・鷲津の影もちらつき、中国内部の暗闘も表面化、物語はさらなる局面へ。ミカドホテルの運命は? 「ハゲタカ」から生まれた国際サスペンス劇。(下)

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 ハゲタカシリーズ2の「バイアウト」と3の「レッドゾーン」の間の隙間の時間、松平貴子を主人公にすえることにしたそうだ。スピンオフのハゲタカ2.5となった。そのかわりレッドゾーンには貴子は出ない。

 真山氏初のノワール(暗黒小説)。企業買収劇のみならず、パリや香港を舞台にした諜報戦まで展開されるはじめての試み。ミカドホテルの松平貴子と謎の中国人美女・美麗(メイリ)を主役にした。
 中国の大富豪、スパイ、企業買収、上下とも一息で読んだが、もの凄い世界なので、圧倒されながら読み進んだ。


バラ色の未来
真山仁
光文社


2017/12/13
2017/2/20 発行
 総理大臣官邸にプラスチックのコインを投げつけていたホームレスは、IRを誘致し町おこしをと気炎を上げ、総理の指南役とまで呼ばれていた元名物町長・鈴木一郎だった。日本初のIRは、5年前、土壇場で総理大臣・松田勉のお膝元に持って行かれていた。彼を破滅に追いやった誘致失敗の裏に何があったのか!?東西新聞社の編集局次長・結城洋子は、特別取材班を組み、IRやカジノの問題を徹底的に追及しようとするが―。 (Bookデータベース)

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標的
真山仁
文藝春秋 




2017/8/7
2017/6/30 発行
 任期満了を迎える黛新太総理の後任候補に、48歳という若さと美貌で国民的人気を誇る、越村みやび厚労大臣が名乗りを上げた。日本初の女性総理誕生が、にわかに現実味を帯びはじめる。そんな中、医療・福祉系投資会社JWFの元CEO片岡司郎が、収賄の疑いでみやびを告発したいと東京地検特捜部に接触する。JWFは越村が推進する社会福祉制度改革のパートナー的存在、楽田恭平の会社だ。特捜検事の冨永真一は片岡の事情聴取を行うことにした。裏には永田町の策謀が潜んでいた――。
ベストセラー『売国』につづく冨永検事シリーズ第2弾!

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海は見えるか

真山仁

幻冬舎






2017/2/4

2016/2/25 発行
 「そして、星の輝く夜がくる」の続編。舞台も同じ遠間市立第一小学校の生徒と教師を中心に描かれる。

東日本大震災から一年以上経過しても、復興は遅々として進まず、被災者は厳しい現実に直面し続けている。それでも、阪神・淡路大震災で妻子を失った教師・小野寺徹平がいる小学校では、明日への希望が芽生えはじめていた――。

 「便りがないのは…」ーーー遺体を捜し、洗浄し続ける自衛隊員と出会った少女。だが彼が音信不通になってしまい……。遺体の洗浄をし続け自殺した自衛隊員との友情ーー仲山みなみ
 「雨降って地固まる?」ーーー発症し始めた心的外傷後ストレス障害。ある少年が降りしきる雨の中、突然教室を飛び出した。小学校を卒業するまでは遠間にいたいと、PTSD(心的外傷後ストレス障害)を抱えながら頑張る庄司大樹。
 「白球を追って」ーーー親の仕事と自身の夢のため――。故郷を離れる決意を固めた栗田兄弟の苦悩は。
 「海は見えるか」ーーー防潮堤建設か、原風景の復活か、突きつけられた未来の命を守る選択。地元住民の意志をおよそ無視したような高圧的な復興計画、巨大な防潮堤。
 「砂の海」ーーー遠すぎる復興に湧き起こる不満。そんな不満が許せない子どもがいる。無くなった妹のランドセルによく似ている。

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  絶望しかない日々を支えようとする子供の健気な姿、それぞれのエピソードを読むたびに涙が出てくる。
 日常は続いていく。教訓を学ぼうが学ぶまいが、人は明日に向かって生きていくしかない。


当確師
真山 仁
中央公論新社




2016/6/11
2015/12/20 発行
  莫大な報酬と引き換えに、当選率99パーセントを約束する敏腕選挙コンサルタント、聖達磨(ひじり・たつま)がこのたび引き受けたのは、最近、大災害時に備えた首都機能補完 都市に指定された政令指定都市・高天(たかあま)市長選挙で、現職市長を打倒するというミッション。金、権力、検察、洗脳、服従、プロパガンダ。あらゆる 手段を講じてのし上がり、今の地位を築いた現職の鏑木次郎の三選阻止のため、聖は、意外な人物を候補に擁立し、鉄板の市長の牙城に挑むが―。圧倒的な現職 有利の中、身内をも分断し、裏切りに裏切りを重ねて壮絶化する高天市市長選挙。果たして次期市長に選ばれるのは?そして日本の民主主義の未来は―!?
 裏切り、二重スパイ、金権、盗聴、恫喝、お涙ちょうだいなんでもあり。 選挙という壮大な人間喜劇には、欲望の全てが詰まっている。 「目を背けるな、これが日本の現実だ」 (Bookデータベース)

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 面白い。
 選挙の裏では、こんなにすごいことをやっているのか、と。
 人が疑心暗鬼になって信頼をなくし離れていく、そういう人の心理を利用して票を崩していくとは・・・・・・。


ハゲタカ外伝
スパイラル

真山仁
ダイヤモンド社




2015/10/19
2015/7/2 発行
 2007年9月、東大阪の中小メーカー「マジテック」創業者にして天才発明家の藤村登喜男が急逝する。通称“博士”の彼こそ、芝野健夫が事業再生家として 歩むきっかけを与えた恩人だった。芝野はマジテックを救うべく、大手電機メーカーから転じて奮闘するが、苦境の渦に飲み込まれていく。再生浮上のきっかけ をつかんだと思った矢先、リーマンショックが発生。想定外の余波に襲われ、絶体絶命のピンチに陥る。捨て身の最終戦を前に、宿敵である投資ファンド社長の 鷲津政彦をも巻き込んで、芝野は決死の反撃を決断する。

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 町工場は優秀な職人を抱えていて、モノを製造する能力は高い。でも、何をどう作るかを指示してくれる人がいなければ、うまく回らない。15年の現在では多くの人がすごいと思っていても、08年時点ではあまり知られていなかったものは何か……という視点で探すと、3Dプリンタに行き着いたと著者。
 中小企業で働く人たちにスポットライトを当てた、情熱の物語、町工場を続けていくのは、凄いことなんだと思った。

 エピローグをいらないという人があるが、私は「うまいなあ」と思ったし、思わず涙も出てきた。


黙示

真山仁


新潮社





2015/4/19


2013/2/20 発行
2011〜「小説新潮」連載
 農薬散布中のラジコンヘリが小学生の集団に墜落した!撤き散らされる薬剤、痙攣する子供、散乱するミツバチの死骸。若手養蜂家・代田、農薬の開発責任者・平井、農水省 の女性キャリア・秋田、それぞれの戦いが始まる。この国の農業に、起死回生の道はあるのか?農薬は「悪」なのか?米国企業の密かな戦略、中国の挑発、仕組まれた 罠。

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 さすが、真山さん、・・・・・
 今回のテーマは「食の安全」と「日本の農業」ーーー問題を単純化させないでじっくり考えさせてもらえた。
 子どもが殺虫剤を浴び死にかけたが、自分の開発した農薬は、使用を誤らなければ優れていると信じる平井。
 農薬がなくなればミツバチも死なないしその方がいいと思いながらも、農薬が無ければ除草も害虫駆除もできないのがわかっているから必要を感じる代田。
 農水省の官僚ではあるが、これまでの既得権益の縛られたり、何もしない方がいいという空気の中、強い農業を推進していく秋田。

 3人以外に登場する女性編集者・土屋のNAIVE(単純、深く考えない)な行動・・・根拠なく農薬と放射能を結び付けて、ネット上で危険性を訴える。彼女の無邪気ともいえる、責任を負わない、発信、こういう人はいるんだなあ、悪気はないのに迷惑させられる。それに対して組織の中で、言動に責任を負わされている3人の苦悩と奮闘ぶりが際立つ。

 『「環境保護」の蓑に隠れた農薬批判が実はGMO推進の布石である』 『日本の耕作放棄地に中国が目をつけている』 『いずれ世界中が水と食料を奪い合うようになる』ーー食料を輸入できなくなった時はどうするんだ!!ーーこういうことにも気づかされた
 
 日本の農業を強くする活動をしている米野と、ミツバチ問題は『プライド』で短篇として扱っていたのを発展させうまく結合させたもの。


雨に泣いている

真山仁

幻冬舎





2015/4/9

2015/1/30 発行
 3月11日、宮城県沖を震源地とする巨大地震が発生し、東北地方は壊滅的な打撃を受けた。毎朝新聞社会部記者の大嶽圭介は志願し現地取材に向かう。阪神・ 淡路大震災の際の“失敗”を克服するため、どうしても被災地に行きたかったのだ。被災地に入った大嶽を待っていたのは、ベテラン記者もが言葉を失うほどの 惨状と、取材中に被災し行方不明になった新人記者の松本真希子を捜索してほしいという特命だった。過酷な取材を敢行しながら松本を捜す大嶽は、津波で亡く なった地元で尊敬を集める僧侶の素性が、13年前に放火殺人で指名手配を受けている凶悪犯だと知る…。

    *******************

 途中まではとても面白かったが、最後はなんだかなあ、と言う印象。
 こんな事件を足さなくても、新聞記者の姿勢や活躍や自衛隊の活躍や、惨状を表現しただけで充分だったのに。
 新人女性記者のことをひどく書いていたが、モデルはいたのだろうか?新人とのやり取りは面白かった。

 新聞記者のことをとてもよく知っていると思ったら、元読売の記者だったのか〜。
 暁光新聞と言うのは朝日新聞かな。ライバル新聞社として出てきた東條という凄い記者は、「コラプティオ」に出ていた人物だ。

 役割を果たしそうな市長が途中で消えてしまったり、主人公大嶽圭介の妻の葛藤を描いて欲しかったという感想や、東日本大震災の被害地を舞台として、パズルを当てはめるが如く書かれた作品という感想にも同感だ。

 ぐいぐいと読み進んだ程面白かったのは確かだだけれど。


売国

真山仁

文芸春秋




2015/2/8

2014/10/30 発行
 今回の主人公は、気鋭の検察官・冨永真一と、宇宙開発に挑む若き女性研究者・八反田遙。物語は二人の視点から描かれる。
 遙は幼い頃から宇宙を夢見、日本の宇宙開発を担う研究者になるべく日々奮闘中。航空宇宙科学研究センター(宇宙セン)の指導教官・寺島に導かれ、我が国の 宇宙開発の現状と問題点を目の当たりにする。それは宇宙開発の世界が生き馬の目を抜く世界であり、同盟国・アメリカとの関係の複雑さに触れることでもあっ た。
 一方の冨永は、形勢不利だった殺人事件の裁判を検察勝利に導いた功績を認められ、特捜部に配属される。粘り強く次々に成果を出す冨永だったが、大学時代の 親友の失踪を機に、奇妙な疑獄事件に巻き込まれてしまう。そしてその陰謀には、戦後の日本復興を支えた大物政治家の影があった……。
 正義とは? 国益とは? 希望とは?

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 宇宙開発と検察特捜部とはほとんど接点が無いまま進行したが、最後の最後でやっと。
 アメリカがロケットを打ち上げることができるのは、日本のペンシルロケットの膨大な打ち上げデータがあるからだと聞いたことがある。そのペンシルロケットは糸川英夫氏が研究したものであり、その研究を受け継いでいる人たちの物語でもある。ただ、その貴重な研究ノウハウをアメリカが欲しがっている。
 売国奴たちが様々な場所で蠢き、アメリカを利するようにしているというのがこの小説。
 前置きがじっくりしていた割には、売国奴の告発や検察を巻き込んで日本を守ろうとする行動がしっくりこなかった。
 最期は、「アカマ自動車」が出てきて、「おっ」と思ったところで終わった。
 やっぱりこの作者のモノはぐいぐいと読み進むことができて面白かったが、最後の方は急いでまとめた感があった。


そして、星の輝く夜がくる

真山 仁

講談社




2014/7/22

2014/3/11 発行
(あらすじ)2011年3月11日、東日本大震災。地震・津波による死者・行方不明者は2万人近くのぼった。
2011年5月、被災地にある遠間第一小学校に、応援教師として神戸から小野寺徹平が赴任した。小野寺自身も阪神淡路大震災での被災経験があった。
東 北の子供には耳慣れない関西弁で話す小野寺。生徒たちとの交流の中で、被災地の抱える問題、現実と向かい合っていく。被災地の現実、日本のエネルギー問 題、政治的な混乱。小学校を舞台に震災が浮き上がらせた日本の問題点。その混乱から未来へと向かっていく希望を描いた連作短編集。
被災地の子供が 心の奥に抱える苦しみと向かい合う「わがんね新聞」、福島原子力発電所に勤める父親を持つ転校生を描いた「“ゲンパツ”が来た!」、学校からの避難の最中 に教え子を亡くした教師の苦悩と語られなかった真実を描いた「さくら」、ボランティアと地元の人たちとの軋轢を描く「小さな親切、大きな……」、小野寺自 身の背景でもある阪神淡路大震災を描いた「忘れないで」。そして、震災をどう記憶にとどめるのか? 遠間第一小学校の卒業制作を題材にした「てんでんこ」の六篇を収録。
阪神大震災を経験した真山仁だからこそ描くことのできた、希望の物語。

   http://book-sp.kodansha.co.jp/topics/yorugakuru/

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グリード
上・下

真山仁
講談社



2014/4/27
2013/10/29 発行
リーマンショック直前、鷲津政彦(わしづまさひこ)はアメリカ経済を長年牽引した超巨大企業、アメリカン・ドリーム社(AD)の奪取を目論んでいた。敵は 圧倒的な財力を持つ“市場の守り神”サミュエル・ストラスバーグ。巨大投資銀行でサミュエルを担当するジャッキーは、忍び寄る破綻の影に気づきはじめ、 ニューヨークに飛ばされた新聞記者の北村悠一(きたむらゆういち)は、鷲津に巨大破綻(メガクライシス)の到来を示唆される。 (上)

ストラスバーグに前代未聞の妨害工作を仕掛けられた鷲津政彦は、アメリカに宣戦布告する。未曾有の危機に瀕する投資銀行とアメリカン・ドリーム社は記者会 見を連発し、北村たちは必死に食らいつく。Xデーに向けてウォール街の混乱が加速する中、ワシントンD.C.がついに動き始めた。強欲の坩堝に身を置き闘 い続ける鷲津。その胸に秘められていた衝撃の戦略とは。国境を越えた買収劇は想像を絶するラストを迎える! (下)

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コラプティオ

真山 仁

文芸春秋




2011/10/15

2011/7/30 発行
   corruptio −−−−  ラテン語で「汚職・腐敗」の意

 「私には希望がある」―国民の圧倒的支持を受ける総理・宮藤隼人。「政治とは、約束」―宮藤を支える若き内閣調査官・白石望。「言葉とは、力」―巨大権力に食らいつく新聞記者・神林裕太。震災後の原子力政策をめぐって火花を散らす男たちが辿り着いた選択とは?

    **********************************

舞台は、3・11 東日本大震災の3年後、当時の、後手ばかりで不手際の多かった政権は交代している。強いリーダーシップを持った宮藤のもとで、首席秘書官・田坂義崇、政策秘書・白石望らが、希望のある日本を作っていこうと粉骨砕身している。
 暁光新聞の闘犬こと・東條健介、若い経済部の神林裕太らが、宮藤政権の闇を暴こうと嗅ぎまわる。

 地検特捜部、経団連会長聴取へ
 サクラ電機に公的資金、国有化か
 
 それぞれ、1面トップの記事には、政府が裏で動いている、不正?総理の独裁化?

 作者が、自信を無くして右往左往している日本にもっと自信と希望を持ってほしい、こういうリーダーのもとに一致団結して日本を引っ張ってほしいとの願いがある気がする。ただ、どんなに優れた人も権力の座につくと変貌する。そこをどうするのか?
 登場人物の中心は、総理のブレーンで、一人は癖のある年配者、なかなかに面白味のある人物、もう一人は姿も性格もよく、頭も切れる理想的な人物像になっている。

 ODAの不正、利権に群がる賄賂、発展途上国の権力者への賄賂はジェノサイド(大量殺戮)につながること、自国の利益さえ考えればよいのかという問題、政治は一筋縄ではいかない様子が見えてくる。

 


プライド



真山 仁


新潮社








2010/5/20



2010/3/25 発行
バブル崩壊以降、日本人は荒波と逆風の中で溺れそうになっている。少しぐらい景気が良くなったと言われても、実感が湧かない。

何のために人は働くのか。そして、どうすれば矜持を守ることができるのか。それを守るために、どのくらいの犠牲に堪えられるのか。あるいは、犠牲を払ってまで守るプライドとは何なのか―

・・・と作者はずっと問い続けてきた・・・・・と。その疑問が自分の中で膨み続け、連作短編『プライド』を書いたのだという。

目次 * 
一俵の重み・・・・・・厳しい事業仕分けに対抗する、米を愛し米作り      のエキスパートの農水省官僚米野太郎の努力。
   * 医は……
   * 絹の道・・・・・・・ノーベル賞級のダイヤモンド・シルクの研究を捨      てて、養蚕、絹業を産業としてでなく、絹の道≠ニしてめざす、小      手川つかさ。
   * プライド・・・・・・消費期限切れの牛乳を使った老舗プディングの内      部告発と、調査する柳原良平と嗅覚と味覚に自信とプライドを持った      職人。
   * 暴言大臣・・・・・・厚生労働大臣、和歌森敏蔵と中国問題担当補佐官      の慶子との夫妻と、暴言とその裏にあるアメリカの思惑。
   * ミツバチが消えた夏

       ************

 共通の登場人物はいない。業界や舞台となる街も同じではない。ただ、生きるために必要なプライドとは何かを考え、いろいろな角度からアプローチを試みた。ーーーーと著者が言うようにいろんな世界で頑張っている人を描いている。

 事業仕分けや、暴言大臣などは、あの仕分け人?あの夫妻?あの企業?と、モデルが想像できてしまう。ただ内容は現実とは違うようだけど、つい、そう思ってしまうくらいだ。
 日本人は、もっともっとブライドを持って生きるべきだ。ーーーという著者の気持ちが伝わってくる。


レッドゾーン
上・下

真山 仁


講談社






2009/9/12

2009/4/23 発行
著者が言うには、1作目は、潰れて当然の会社を買い漁るハゲタカと呼ばれる人たちの生態を浮き彫りにしたかった。2作目はグローバルスタンダードに乗り遅れ、経営者の 判断の誤りによって会社が買収の危機にさらされるリスクを書いた。3作目の『レッドゾーン』では企業規模、時価総額、業績、経営陣たちの資質などが、どれも非の打ち所のないような完璧な企業をターゲットにしたいと思った と。

完璧な企業、アカマ自動車は、やはりトヨタがモデルなのだろう。

「一緒に日本を買い叩きませんか」15000億ドルの外貨準備高を元手に、中国が立ち上げた国家ファンド。標的は、日本最大の自動車メーカー・アカマ自 動車。買収者として白羽の矢が立ったのは、日本に絶望したサムライ鷲津政彦だった。巨額の貿易黒字でため込んだ「赤いドル」で、ものづくり大国日 本の魂を狙え!史上最大の買収劇が始まった。(上)

若き買収王・賀一華(ホーイーファ)を先鋒に、仕掛けられるTOB。次々と繰り出される揺さぶり。翻 弄され、崖っぷちに追いつめられたアカマ自動車は、最後の希望として、日本の破壊者と呼ばれたハゲタカ・鷲津が「白馬の騎士(ホワイトナイト)」となるこ とを切望する。中国に乗るか。日本を守るか。はたして日本を守る価値はあるのか?
リアルに描かれる「今日にも起こりうる危機」、そして予想を超える奇策!(下)

中国人の名前はなかなか覚えにくい。鷲津と渡り合うのが誰なのか、隠れた人物が次々と出てきてわかりにくかった。
TOBを仕掛けてくるのが中国というのは、中国のビジネスは先進国のルールに必ずしも沿ったものではないこと、その中国が日本に向かってきたとき、日本の企業は対抗していけるのか。
 日本が心配になってくる。読んでハラハラ、どうなるのか、鷲津は、日本の企業を救ってくれるのか・・・・。ただ、鷲津があまりに超人的に人脈があって、ご都合主義を感じてしまった。
    追加記入・・するかも


ベイジン

上・下

真山 仁

東洋経済新報社




2008/12/9

2008/7/31 発行

 
 2008
88日、五輪開幕に沸く中国・北京。メインスタジアムでは、世界最大規模の原子力発電所「紅陽核霞から、運転開始を伝える光が届いた。だが、それは、世界中の人々の命をおぴやかす1絶望的なクライシスの始まりだった……。
 時は遡り、2005年。大亜重工業の田嶋伸悟は、大連郊外に建設する「紅陽核電」の技術顧問として参画するため、中国に到着。同じ頃、中国共産党中央紀律委星古のドケ学耕ドン・シュエグンは、中国側の責任者として同地に赴く。ケには、犬連市での党要人の汚職摘発という〈密命〉も課されていた。二人は、さまざまな困難に遭遇しながらも、核電完成のために悪戦苦闘を続ける。そして迎えた五輪開会式当日、田嶋は本格送電の直前に事故の予兆を感じ、ケに運転中止を訴える。だが、ケは田嶋の拘束を命じた.-- 上

毎夜それは生まれ、毎夜それは消えるもの、それは希望。田嶋伸悟とケ学耕は、必すしも重ならない想いを抱えながら、さまざまなトラブルを乗り越え、紅陽核電運転開始に向けて突き進んでいく。そんな慌ただしい日々の最中に、父・寛吾が危篤に陥ったとの知らせが田嶋に届く。造船技師だった父は伸悟に「もうええ。それ以上無理せんで。はよ、船から降りるんじゃと言い残し、冥界へと旅立っていった。
 一方、中国映画の気鋭として五輪記録映画の総監督に抜擢された楊麗清ヤン・リーチンは、レンズの向こうに見える中国の問題と希望を見つめていた。そして迎えた、200888日。中国の威信を懸けたイベントに「希望」を託した人々の運命はどこへ向かうのか。−−下

      ※※※


バイアウト
上・下



真山 仁



講談社






2007/9/3

2006/4/20 発行
 ハゲタカの続編。
 一年間の海外放浪から帰国した天才買収者・鷲津政彦を待っていたのは、若きビジネスパートナー、アランの不審死だった。鷲津は生前のアランが狙っていた名門企業「鈴紡」を標的として、再び買収の壮絶な戦いに身を投じる。鈴紡には芝野健夫CRO(最高事業再構築責任者)として招聰される。
 化粧品事業を鈴紡から分割し、業界第三位の「月華」と統合させようと図るUTB銀行頭取飯島。経営陣の一部と共に買収しようともくろむ鷲津。そして、国内投資ファンドとのMBOを模索する鈴紡の社長・美津濃。三つ巴の戦いの模様は熾烈。(上)

 化粧品会社の買収劇は、記憶に残っている。カネボウ、花王、資生堂と思われるが、現実の結果は、産業再生機構が支援した後、花王の完全子会社になった模様。
 鷲津がバーで偶然出逢った女性「ずっと目標にしてきました。九州で穴を掘っています」と自己紹介したタエコは、「マグマ」のヒロイン野上妙子のようだ。こういうのも楽しい。


 鷲津が新たにターゲットに定めたのは、末期的な経営状態に陥っていた巨大総合電機メーカー・曙電機だった。米国の世界的軍産ファンド「プラザ・グループ」が、曙が持つミサイル防衛システムの技術を狙って買収に動き出す。さらに、日本を代表する勝ち組企業「シャイン」と、その会長で“財界総理"と呼ばれる滝本誠一郎も、曙のテレビ事業を標的に買収合戦に参戦。
見えない巨大な力に翻弄され、次第に追いつめられてゆく鷲 ・・・・。(下)
 
 アメリカの企業のすごさ、恐さを描いている。欲しい企業の買収の邪魔をするなら、命の保証はないぞ、という脅しも。
 曙電機のイメージは日立がモデルか?会社を分割して事業部を売却した事実はあったのだろうか。シャインはキャノンだな、と思いながら読み進んだが、買収劇で翻弄されている会長の愚かな姿は架空の物語だろうと思いたい。

 軍事に使われる貴重な技術が、簡単にアメリカの物になる可能性を読んで、恐さを感じた。
 
 アランの不審死が解決していないことやミカドホテルの松平貴子が「バイアウト」では出番が少なかった事など考えると、続編がありそうだ。早く続きを読みたいものだ。
 次は、どこの企業がモデルになるのか、金融の事件がモデルになるのか楽しみである。



マグマ
小説 国際エネルギー戦争

真山 仁

朝日新聞社




2007/7/12

2006/2/28 発行
地球温暖化を防止するために、化石燃料を燃やさない発電というので思いつくのは、風力、太陽光、原子力くらいだった。いままで知らなかったが、地熱を利用した発電の存在を知り驚いている。火山国なんだから気がつかないほうがおかしいくらいだが・・・・。

「使えるエネルギー源は細大漏らさず使う。地球温暖化の原因と言われている火石燃料は一切使わない。そして原発のような放射能漏れの心配もない。夢の代替エネルギー、そう騒がれても当然なのに、なぜこのエネルギーのことを今まで知らなかったのだろう。ヒロインの疑問はそのまま自分の疑問でもあった。

 外資系ファンドのゴールドバーグキャピタルに勤める野上妙子は、東京支店長の待田顕一から、地熱発電を研究運営する日本地熱開発(地開)の再建を任される。妙子は地開の社長・安藤幸二や研究責任者の御室耕治郎から地熱発電の大いなる潜在カと将来性を説明され、再建の可能性を探る。
 原子力発電があっという間に広がったことと、地熱発電が化石燃料に変わる代替エネルギーとして認められなかった経緯は、政治と利権の影響だった。

 外資系ファンドの内情、企業再生のプロセス、エネルギー産業の実態、原子力発電の怖さ、そして地熱発電のしくみや可能性などをわかりやすく学ぶことができた。
 面白くてしかもエネルギーについても大いに考えさせられた作品。


ハゲタカ

上・下

真山 仁

ダイアモンド社





2007/7/2

2004/12/16 発行
 ハゲタカといわれる外資系ファンドに対して今まで持っていた、危機の企業に群がり、安く買い叩き、高く売り抜けるという死肉を漁る嫌なイメージが、少し変わった。違う所もあるんだと。
 それもそのはず、作者は「ハゲタカ外資がこの国をダメにした元凶」という言葉がいつしか湧き上がってきた。だが、失われた10年と言われた日本経済の崩壊を招いたのは、ハゲタカではない。我々一人ひとりの心の隙にわずかづつ堆積した慢心だったのではないか。との思いで書いているようだ。

  ニューヨークの投資ファンド運営会社社長・鷲津政彦は、バブル崩壊後、不景気に苦しむ日本に戻り、瀕死状態の企業を次々と買収する。敵対するファンドによる妨害や、買収先の社員からの反発を受けながらも、鷲津は斬新な再生プランを披露し、業績を上げていく。
 元三葉銀行員・芝野建夫は、不良債権の一括処理である「バルクセール」の担当者として活躍。その後、親友の頼みに応じて、企業再生のキーマンとなることを決意し、退職。
 日本初のリゾートホテル・日光ミカドホテルの若き後継者にして、自らの人生の全てを、ホテルの理想を追い求めることに捧げようと決めたヒロイン・松平貴子
 三人を中心に、日本再生の壮大なドラマが展開する。
 

 銀行や証券会社の破綻があり、銀行の不良債権処理など、日本の金融界の混沌とした時代が舞台だ。バルクセールなど、初めて知って驚きの連続。
 外資とはこのようにして企業買収をし、再生して、儲けていくのかと教えられる。面白い。ただ、復讐劇は必ずしもなくてもいいのでは・・・・・。

 評判の
ドラマ「ハゲタカ」 の原作ではあるが、テレビとはかなり違う。


虚像の砦

真山 仁

角川書店




2007/5/8

2005/6/30 発行

 民放キー局のPTB(プライムテレビ放送)は、人気キャスター・福森の激しい政府批判で知られる「プライム・ニュース」が看板番組。
 ある日、ディレクター・風見のもとに、中東
のイスラム共和国で日本人が誘拐されたとの情報が入る。しかし、かつて報道の暴走が、カルト新興宗教の犯罪を招いた"事件≠ナ萎縮していた上層部は、そのスクープを見送ってしまう。
 また、PTBのバラエティ番組でミスター視聴率”と異名を持つプロデューサー・黒岩は、若き日に親友と追い求めた“無敵の笑い”から、どんどん遠ざかっている
自分に苦悩し始めていた。
 一方、民放各局の再免許を控えた総務省の調査宮・織田は、
与党政治家たちから、PTBへの厳しい指導を迫られ辟易。自らの職責の曖昧さに戸惑っていた。そんな中、PTBが経営危機に直面しているとの報告が飛び込んでくる……。(カバー)

 TBSとオウム真理教のインタビュービデオ、坂本弁護士一家殺害事件、イラク日本人拉致事件などをモデルにとっているので、もちろん現実そのままではないけれど、ニュースを思い出しながら読み進めるとわかりやすい。

 本文中の「とにかく、今、一番問題なのは、チャンネル7PTB、プライムテレビだ。テレ毎は、遂に『ニユースターミナル」を終了して、我々の最大の天敵、久留米仁志を放逐しよった。最初は、後任のプロレス・キャスター古澤一蔵を警戒したんだが、あのバカっぷりなら、大丈夫だ。誰もあんな阿呆の言うことを聞きゃあせん。そして、かつては、〃報道の東都"と言われた東都放送も、看板の『ニュースの泉』、『ニュース・ミッドナイト』の形骸化が激しい」このせりふも、誰を指し何処を指しているのか考えると興味が増す。

 「大事件が起きたときに報道局やテレビ局全体がどう反応し、 ニュースが生まれるまでにどんなドラマがあるのか」、著者は描きたかったそうだし、テレビの報道マンには、ミクロの目と、俯瞰するマクロの目の両方が求められる事、そして、
かつて、湾岸戦争の時、CNNのピーター・アネットが言った「なぜ、我々は戦場に残るのか?それは、政府が正しい情報を流しているかどうかを検証するためだ。彼らに情報操作をさせないためにも、我々はここに残る必要がある」の言葉を紹介しながらメディアのあり方を問うている。

 意図的に情報操作に使われたら自分なら簡単に騙されてしまう。怖いことだ。

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