東 直己

1956年札幌生まれ。北海道大学文学部哲学科中退。
北の歓楽街ススキノでその日暮らしの一方、家庭教師、土木作業員、ポスター貼り、カラオケ外勤、
タウン誌編集者などあまたの職業を経て、92年『探偵はバーにいる』で作家デビュー。
以後同じくススキノを舞台に〈俺〉を探偵役にした『バーにかかってきた電話』『向う端にすわった男』『消えた少年』
『劇貞はひとりぼっち』『探偵は吹雪の果てに』『駆けてきた少女』『ライト・グッドバイ』(以上早川書房刊)を発表している。
他に、東西分割によってベルリン化した架空の札幌を舞台にしたエスピオナージュ『沈黙の橋や私立探偵畝原シリーズ、
榊原健三シリーズなどがある。
2001年に『残光』で第54回日本推理作家協会賞の〈長編およぴ短編集部門〉賞を受賞した。
地元北海道のTVでコメンテーターもつとめる。


ススキノ探偵シリーズ 榊原健三もの 探偵・畝原シリーズ 探偵・法間シリーズ その他
探偵はバーにいる1992 フリージア1995 渇き1996 逆襲2001 沈黙の橋1994
バーにかかってきた電話1993 残光2000 流れる砂1998 古傷2004 札幌刑務所4泊5日体験記1994
消えた少年1994 疾走 2008 悲鳴2001 探偵法間 ごますり事件簿 ソープ探偵くるみ事件簿1997
向う端にすわった男1996 熾火2004 すすきのバトルロイヤル2000
探偵はひとりぼっち1998 墜落2006 ススキノハードボイルナイト2001
探偵は吹雪の果てに2001 挑発者2007 死ねばいなくなる2001
駆けてきた少女2004 眩暈 2009 ススキノ、ハーフボイルド2003
ライトグッドバイ2005 鈴蘭 2010 立ちすくむとき2004
探偵、暁に走る 2007 スタンレーの犬 2005
旧友は春に帰る 2009 後ろ傷 2006
猫は忘れない  2011 英雄先生 2006
半端者     2011 誉れあれ 2009
         誇りあれ  2011



スタンレーの犬
東直己
角川春樹事務所


2021/8/17
2005/8/8 発行
この想いは、本当のものなのか、彼の持つ「チカラ」なのか。札幌に身を寄せる19歳の少年「ユビ」。彼は、老婦人との奇妙な旅を運命づけられた-。(bookデータベース)

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 好きで読んできた作家だけど、これはよく分からない。何のために何を書いたのか。


札幌方面中央警察署 南支署
誇りあれ
東直己
双葉社


2013/5/3
2011/5/22 発行
吹雪のススキノで銃撃事件が発生した。被害者は、道北の小さな町の町長。現場は南支署管内にもかかわらず、例によって中央署の横槍で合同の捜査本部が立て られる。端役しか振られない支署の刑事たちだが、班長の早矢仕は、事件解決への気持ちを新たにし、独自の調査を開始する――。

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 中央署と支署との反目がひどくて、警察を信用できないと思ってしまうな。
 はじめはなじめなかったが、読み進むにつれて面白味も出てきたが、新米刑事(キゼツとよばれる)がなぜ潜入捜査になったのか、わからなかった。細かいエピソードが繋がるのか繋がらないのか、わかりにくかった。アタマにはわかっていたのか?支署のアタマがユニークな人らしくて、今後の続編でも活躍するだろうと思わせる。
 続編もあるのか?
 新人刑事の成長物語でもあるようだ。

 いつもの東さんとは一味違うが、面白かった。


死ねばいなくなる
東直己


2012/12/10
2001/


逆襲
東直 己
光文社文庫


2012/11/25
2001/6/20 発行
 しがない探偵一法間謙一は我知らず大事件の渦中にいた!?
 発端は市議会議員・師山史輔からの依頼だった。彼は娘の縁談を反古にするため、婚約者・柿俣正吾・の弱みを探ってほしいと頼む。ところが、調査中、法間は何者かに襲われ、監禁されてしまった.
 彼が触れてしまっていた禁忌とは!?(表題作)
真剣でユーモラスで哀切感漂う、ハードボイルド.(裏表紙より)

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探偵法間
ごますり事件簿


東直己

光文社




2012/10/14

2012/7/20 発行
 法間を「ノリマ」と呼ぶ者は、あまりいない。たいがい「ホウカン」と呼ぶ。
幇間、つまり男芸者。人をおだて、旦那を取り巻いてヨイショして世渡りをする。そんな幇間、太鼓持ち。とにかくお世辞の達人でどんなに不機嫌な人でも、ついニヤリとさせてしまうほどの技の持ち主だ。

 例えば、ーーー叩けば埃が出る相手だ、と判断した法間は、電話やメールのやり取りの末、直接会うことに成功した。直接会えば、もう、法間の独壇場である。法間は、自らが最も得意とする、お世辞オダテ阿訣追従を怒濤の如く浴びせかけた。その結果、相手は十五分も保たずにあっけなく陥落し、 ついつい、自分の自慢話の中で、今までの手口を、得意そうに披露してしまったのだ。そして「一部では、ちょっと知られた名前なんだ」と本名まで喋ってしまった。その日はそれで別れたが、調べてみたら、その男は詐欺で指名手配されていた。法間はそれを県警に通報した。それで依頼主を救ったり。

 ヨイショの天才だからといって嫌味な人物ではない。会った人が油断し、潜入調査がうまく運ぶ、なかなかのやり手で、人からの信頼も厚い。
 親しくなってしまうと、このお世辞がうるさくなってしまうようだが。
 立て板に水どころか、土砂崩れのようにお世辞が出てくる。その為にはあらゆるブランドを見立てる目も肥え、知識も半端ではない。

 「ほちわ」「マラソンの夜」「美しい目」「二十個のケーキ」「捨てられなかった」「時カクテル」「アロハ」  短篇


 


消えた少年

東直己

早川書房




2012/6/12

1994/10/10 発行
学校では問題児だが映画が大好きな中学生、翔一と知り合い、意気投合した〈俺〉。ところが、翔一の親友が惨殺死体で発見され、一緒にいた彼も行方不明になってしまった。担任の教師、春子に頼まれて、〈俺〉は懸命の捜索を始める。変質者による誘拐か、暴力団がらみか、学校にも飛び火している障害者施設建設反対運動に巻き込まれたか?翔一、無事でいろ !  札幌の街を便利屋探偵〈俺〉は必死で走る !(裏表紙)

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  ススキノ便利屋シリーズ3作目で、〈俺〉は31歳。桑畑三十郎と名乗ったりすることもある。30代だから三十郎らしいが。
 北海道警の種谷とは、この作品の事件で出会い、以後続いていくようだ。

 非常に面白い。俺のポリシーもはっきりしているし、つぶやきも面白く、これが東氏らしき会話かと思う。
 俺の生業は、素人のお金を持ったおじさんたちのばくちの仲間になり、少しだけ、2,30万円くらいをそっと勝って、小遣い稼ぎをしていることや、大麻を栽培して売ったりしているので、刑事の前では、後ろ暗いところがある。
 少年を探すのに、やくざに頼んだりもできる。お金を用意したり、頼み方も正攻法ではないのが面白い。友人の新聞記者の情報も利用し、戦闘に強い友人も頼り、何人もの友人たちの助けを借りて、事件を追いかけていく。いつものように彼らとの掛け合いが良い。


立ちすくむとき
東直己
ハルキ文庫


2012/5/30
2004/9/18 発行
淡々と生きてきた中年男にとって、ひと回り以上も年下の女性に慕われることは初めての経験だった。こちらの家庭を気にせず恋愛だけを求める年下の女性。平凡な男にとって、まさに理想の不倫相手だった。だがーーー(トレイナースーツ)何気ない日常で、突如としてやってくる深い闇を著者独自の視点で描いた傑作連作短編集。文庫オリジナル。(裏表紙より)

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 ちょっといい話、おどろく話、タイトル通り、立ちすくんでしまう話など。


バーにかかってきた電話

東直己

ハヤカワ文庫




2012/5/16

1996/1/15 発行
1993 単行本
 ススキの便利屋シリーズの2作目。
いつものバーでいつものように酒を飲んでいた<俺>は、コンドウキョウコと名乗る女から電話で奇妙な依頼を受けた。ある場所に伝言を届け、相手の反応を観察して欲しいらしい。一抹の不安を感じながらも任務を果たした帰り道、危うく殺されそうになった<俺>は、依頼人と同姓同名の女性が、地上げにまつわる放火事件で殺されていたことを知るーーーーススキノの街を酔いどれ探偵が全力疾走する新感覚ハードボイルド。

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解説によれば、
 東氏のシリーズは、刊行開始当時、原ォ氏の本格ハードボイルドである探偵・沢崎シリーズとの比較から、または優れたユーモア感覚からも、”軽ハードボイルド”と形容されていた。軽いように見えて、シリーズの本質は、よりシリアスで苦い人間たちの業を描くものでもある。
 原氏のも東氏のも、どちらも好きだ。

 映画の原作であるが、ややこしいことに映画のタイトルは「探偵はBARにいる」である。大泉洋なら、<俺>のいい味を出せそうだ。


古傷

東直己

光文社文庫




2012/5/7

2004/11/20 発行
 ヨイショをさせたら天下一品。人呼んで「ホウカン探偵」法間(のりま)に、街の大立者から依頼が舞い込む。「わが社の機密が漏洩しているようなので調べてくれ」というのだ。が、真の依頼は別なところにあった。
 物語は一気に「日本の戦後史の闇」の告発へとつながっていく気配が・・・・・・・・。
 ホウカン探偵恐るべし!
 ユーモラス、そして深い哀歓を胸に残す、探偵小説の傑作!  (裏表紙の紹介より)

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この男は、ハードボイルド系のタフガイでも何でもなく「お世辞オダテ阿諛追従」を得意とする舌先三寸の超ナンパ系探偵なのだ。次から次へと言葉が出てきて、すごいとしか言えない。
 舞台となる薪谷は東京から電車で二時間のところにある北関東の架空都市。現実の地図で考えれば、群馬県の高崎、前橋、栃木県の宇都宮辺りが思い浮かぶ、と解説の香山二三郎氏は言う。

 


探偵はバーにいる




東直己



早川文庫







2012/4/21

1995/8/15 発行(文庫)
 ススキノで便利屋をなりわいにする〈俺〉は、いつものようにバーの扉をあけた。が、今夜、待っていたのは大学の後輩。同棲している彼女が戻ってこないという。どうせたいしたことはあるまいと思いながら引き受けた相談ごとは、いつのまにか怪しげな殺人事件に発展し・・・・ヤクザに脅されても見栄をはり、女に騙されても愛想を忘れない。真相を求め<俺>は街を走り回る。 東氏のデビュー作。(裏表紙より)

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 思っていることを、解説の村上貴史氏が過不足なく書いているので、拝借すると、

 まず台詞回しがよい。カギ括弧で示される台詞もよいし、地の文で綴られる〈俺〉の言葉もよい。両者のバランスも絶妙だ。

 そしてその台詞は単に心地よいだけでなく、登場人物たちを実に的確に描きだす。甘ちゃんのボウヤであったり、安っぼいチンピラであったり、無自党なままに人を傷つけ、そのことにも気付かないバカであったり、あるいは軽口をたたき合いつつも、ひとたびしくじれば大けがを覚悟したければならないヤクザ者であったり、だ。

 東直己は、これらの人物たちめ考え方を、説明めいた文章なしにとことん鮮やかに造形しているのである。

 軽妙な語り口や〈俺〉の減らず口に陶酔し、登場人物たちの接触が生む刺激にときめく

 ハードボイルドなのに、便利屋は口数が多く、ユーモラスで、そこが魅力のようだ。

 俺はいつもダブルのスーツを着る。 ロング・ターン、サイド・ベンツ。シャツは黒か紺で、ネクタイは暗い色の派手な柄が好きだ。すると回りの連中はヤクザみたいだと言う。こだわりの、この格好もなんか、可笑しい。
 

 デビュー作にしてすでに完成された東ワールドが出来上がっている。

 映画になった。「バーにかかってきた電話」が原作だが映画タイトルは「探偵はBARにいる」だそうで、まぎらわしい。大泉洋が〈俺〉を演じるから、ユーモラスで見栄っ張りでかっこつけたがりの原作の人物像がうまく出そうな気がする。


探偵くるみ嬢の事件簿

連作推理小説


東直己


光文社文庫





2012/3/28

2002/6/20 発行
 舞台の来内別(きないべつ)市は、「原始林の中に突如出現したピンク街」人口1万人前後。ほとんどソープランドと見分けがつかない「家族風呂」や「ファッション温泉」が60軒を超え、豪華な「非日常空間」であるところの「バラエティ・ホテル」が30軒以上。風呂や温泉よりも安価に満足できるキャバレー、サロン、マッサージのたぐいは百軒に近い。ストリップ劇場も10軒を超える。オカマ・バー、ショー・パブもあり、18歳から35歳までの独身女性が人口の7割を占め・・・・・・・警察も保健所も黙認し・・・・・・・そんな場所があるわけないが、主人公くるみは、そういう町のソープランド嬢という設定である。
 
 人気風俗嬢・岸本くるみは、明晰な頭脳と魅力的な身体で鮮やかに謎を解く。
大真面目でユーモラス。不思議な読後感の一冊。
 くるみ観音
 くるみVS聖人様
 くるみと猛犬
 破れたページ
 くるみと大スター
 消えた醤油皿
 くるみと乱暴者     

 謎のソープ嬢かと思ったら、家庭環境がのぞける部分があった。
 「真面目くさった顔つきで、ワインや美術や文学のウンチクを重々しく傾けるお父さん。古臭い説教をするくせに、自分は、本当はお金集めにしか興味が無い。そして、知事の座を狙って、暗躍している。
 お母さんは、お父さんの言いなりになっているように見せかけて、ちゃんと陰で浮気している。あんなにコソコソせずにいっそ堂々と浮気を見せ付けてやればいいのに。
 政治家秘書をしながら、お辞儀と裏帳簿操作がどんどんうまくなっていく、ただそれだけでほかに取り得の無いアニキ。
 最悪なのが「許婚」。ブランド物のスーツがよく似合うだけの、バカ。漢字もろくに読めないくせに、通産省のホープ。「ママァ?ボクさぁ・・・・・・」
  どういう家族だ、それらに嫌気がさして、この生活に入った?

 1997年に「ソープ探偵くるみ事件簿」として廣済堂文庫から出版されていた物の再刊。


半端者
ーはんぱもんー

東直己

早川書房



2012/2/17

2011/3/15 発行

 授業にも出ないで昼間からから酒を飲み、思い通りにならない現実に悩みながらも、また,酒を飲む。ひょんなことから知り合った謎のフイリピン女性、フェ・マリーンと恋に落ちた大学生の〈俺〉は、行方不明となった彼女を捜して、ススキノの街をひたすら走り回る。 若き日の〈俺〉、高田、そして桐原の人生が交錯し、熱く語らい、ときに本気で殴り合う.,デビュー作「探偵はバーにいる」の、甘く切ない前日譚。(裏表紙より)

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ススキノ便利屋シリーズではあるが、今は50代の中年になってしまった「俺」が、まだ若い北大生だったころの話。他の登場人物ももちろん若い。
  俺― … … 北大の学生
  高田― ― 大学の友人
  ミツオ … 橘連合菊志会の構成員   後の組長/桐原
  大畑… … 〈ケラー〉のマスター
  岡本… …… … 〈ケラー〉のバーテンダー
  篠原… … … 『札幌へんてこ通信』の発行人
 彼らレギュラーのほか
  フェ・マリーン ーフィリピン・パブ〈ジャスミン〉のダンサー.ピンキー
  飯島 … … 飲み友だちのチンピラ    が登場人物。

 「俺」は大学生の時から飲んでばかりだな。
同じアパートに住んでいた老人が、立ち退きでチンピラに嫌がらせをされているのに憤慨し、チンピラにやめるように言っては殴られ、顔をはらしたり、飲んだくれて朝帰りだったりするが、家庭教師だけはきちんと務めるなど、何とも言えない人物だ。

 「俺」は、ひょっとして作者自身がモデルかな?どうなんだろう.


猫は忘れない



東 直己

早川書房






2012/2/5


2011/9/25 発行
ススキノ便利屋シリーズ 第12作目

知り合いのスナックママ、ミーナから、旅行中の飼い猫の世話を頼まれた()は、餌やりに訪れたマンションで、変わり果てた姿となった彼女を発見する。行きがかりから猫のナナを引き取り、犯人捜しを始めたく俺)は、彼女の過去を遡るうちに意外な人物と遭遇、は予想外の方向へと進展するが・……猫との暮らしにとまどいながらも、(俺〉はミーナの仇を取るためにススキノの街を走り抜ける。人気シリーズ第12作。

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東さんは、猫を飼い始めたの?
猫の表現がとてもいい。
 猫相手に馬鹿らしい、とは思うが、黙り込んで世話をするのもなんだかおかしい。俺はなんだかんだと喋りながら、廊下を奥に進んだ。ナナは、「にゃ?あっん、にゃ?あっん」と何か訴えるような変な鳴き方をしつつ、俺のふくらはぎや足の甲に頭や体をこすり付けながら、俺と一緒に進む。そして
 猫に話しかけては、「話しかけるなよ」と自分につっこむのがおかしい。

 猫は不思議だ。伸びをする時、指を大きく開く。これでよく力が入るもんだ。ふと、息子が赤ん坊だった頃のことを思い出した。赤ん坊も、 一人前に仲びをする。なにかを考え込んでいるような表情で、う?ん、と伸びをする。その時は、握り拳を固く握っている。当然だろう。そうじゃないと力が入らない。なのに、猫は指を広げて伸びをする。不思議だ。こんな奴と付き合うのは難しいんじゃないだろうか。
 観察が細かいなあ、そういえばそうなのかな。

 ストーリーは、少しずつしか進まない。何も大きな事件に巻き込まれるのでもない。襲われた時、強い高田に助けられたり、新聞社の松尾に、情報を聞いたり、組長の協力も得たり、いつもの「ケラー」で飲んでいるうちに、少しずつミーナの死の真相に近づいていく。
 (俺)の周りの人たちとの会話は、独特の世界と雰囲気がある。今回はそれに猫が加わった。というより、猫のかわいらしさ、不思議さを書いた猫が主役の物語だった。これからも飼い続けるのだろうか。


沈黙の橋
東直己
幻冬舎

2011/4/23
1994/4/25 発行
日本共和国(南日本)の情報機関所属の諜報工作員・岡田隆は、東日本で捕捉された潜伏工作員の救出のため、東西に分断された札幌へ向かった。一方、日本民主主義人民共和国(北日本)の国境警備局次官の平良忠孝は、仲間の救出のため、越境潜入した南日本の工作員に、自身の亡命を賭けようとしていた。運命の瞬間は―――――?

    *************************


フリージア
FREESIA


東 直己

廣済堂出版



2011/2/16


1995
榊原健三シリーズ
時間的に後になる作品(残光疾走)を先に読んでしまい、過去の出来事というのが気になっていた.やっと謎が解けると思い楽しみに読んだ。 
 フリージアは、健三と多恵子が幸せに暮らしていたころのベランダいっぱいに咲いていた花。
 7年前、関西の暴力団が北海道進出を企てたのを、一人で始末した殺人マシーンが健三だ.その後、多恵子とともに堅気になるため、多恵子と別れ一人誰にも知られぬ山の中にこもった.多恵子は普通のサラリーマンと平凡に暮らしていた。
 
 再び、関西系が進出してきたので、かつての兄貴分が健三を呼び戻そうとした.一般人として幸せに暮らしている多恵子の存在をちらつかせて.(誰にも居所を知られていなかったはずの多恵子が、夫の転勤で北海道に戻って、人の目についてしまったのが事件の始まり。
 
 健三は、山を降り、多恵子の存在を知る者を消していく.ただひたすら、愛するたえこが平凡な幸せを続けていけることだけを願って.
 そして、あっけなく人が殺されていく。
 息子、恵太の絶体絶命の時身を投げ出して助けてくれ、殉職した警官との不思議な関係や、組長桐原との緊張感のある関係、山の土産物を扱う男も、わかっていながら何も言わず受け止めている、不思議な男たちの関係に魅力があるのかな。
 こんなに、たくさん殺人をしてしまうが、また静かに山奥に帰っていく。
 愛する女性と一緒の時間を過ごすわけでもなく、遠くにいて幸せを願うだけの関係は、なかなか理解はできそうもないが。
 ハードボイルドだなあ、タイトルはやさしく花の名前だったけれど.
 謎は、まだ残っている.どうして、二人は別れなくてはいけなかったのか?堅気になるためにはそうするしかなかったのか?


鈴蘭
東 直己
村上春樹事務所


2010/12/12
2010/6/8 発行
探偵/畝原シリーズ


旧友は春に帰る


東 直己


早川書房







2010/5/18

2009/11/20 発行

ススキノ便利屋シリーズ
「お願い。助けて」。モンローから25年ぶりにかかってきた電話は、俺の眠気を覚ますのに充分なものだった。どうしても事情を話そうとしない彼女を夕張のホテルから助け出し、本州へと逃がした直後から、俺の周りを怪しげな輩がうろつき始める。正体不明のトラブルに巻き込まれ、地元やくざに追われることになった俺は、ひとり調査を開始するが……旧友との再会、そして別れが哀切を誘うシリーズ第10作。(裏表紙)

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 読みなれた人には、ぼやいた一言も、そうだそうだと思ったり、にんまりしたりして読み進むのだが、なじんでない人にとってはただ退屈かも知れないと、ふと思った。ダブルのスーツを着て、いろんなこだわりやボヤキが面白い。

 「畏まりました。失礼ですが、お名前様と御連絡先様、承れましたでしょうか」こんなことを言われたら・・・・・どういう敬語だ。・・・・と1行ぼやく。

SO-RANダンスとかいう田舎モンのバカ踊りが流行ってる」

俺はケータイに電話をかけるのが嫌いだ。まず、音質が悪い。言葉がブツブツ切れる。そして相手が今、何をしているのか分からないので、迷惑なんじゃないかと思うと、ちょっと肩身が狭い。----と、携帯電話を持たないで、メールを外でする時は、面倒でもネットカフェを使う。

 「で?なんで朝日なんだ」と聞かれたら
 「そりゃそうだろう。出版杜は岩波。新聞は朝日。テレビはNHK。女とする時は正常位。血液型はA。ビールはスーパードライ。大晦日には紅白。胸には赤い羽根。青春の思い出はビートルズ。それが正しいイキザマってやつだ」と、人を煙に巻く。相手がヤクザのトップだとしても。だから、なんか、おかしい。

 アンジェラという、自衛隊出身でレンジャー徽章を持っている、明眸皓歯眉目秀麗のゲイがいる。メインの職業は、ショーパブのショーの演出や振り付け。ダンスを教えて、自分でもステージに上がる。、うっとりと見とれるほどの美女だが、実は男で、空手の達人で、そのほか格闘技のマニアだ。戦うDJ高田よりも強い。ときどき、手助けしてくれる心強い友人の一人だったりする。組長も退職警官もDJもいる。
 
 「俺」としかわからない便利屋で、大勢の人とつながりがあり、助け合いがあり、不思議な人間模様が魅力といえるのかな。
 この東ワールドは、人によって好きかどうか分かれるところだろう。


英雄先生
東 直己
角川書店

2010/3/11
2006/12/20 発行


札幌方面中央警察署 南支署
誉れあれ
東 直己
双葉社


2010/1/17
2009/8/23 発行
 日頃から反目し合う二つの警察署、中央署と南支署。
 ある日、未解決事件を調べていた南支署の新米巡査が、犯人グループに拉致された。危ういところを助けだ されるが、その後、真相に蓋をするような圧力が中央署からかかる。
 そんな中、中央署の刑事のエスだと噂される男がベレッタを持って南支署に自首してきた。 しかし、男は何故か「自首を揉み消さない」という念書を書かない限り、証言はしないと言いだし黙秘する。
 中央署でいったい何が起こっているのか?身内の犯 罪を暴くため、支署の刑事たちは深く静かに捜査を開始する―。

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眩暈
東 直己
角川春樹事務所


2009/8/23
2009/3/ 発行

かつて殺人を犯した少年がこの街に。
連続殺人を発端に広がる闇。
噂と嘘で塗りかためられた真相とは。

依頼に奔走する畝原はある夜、なにかから逃げている様子の少女を目撃する。乗っていたタクシーで慌てて引き返すものの、少女の姿は忽然と消えていた。翌 日、無残な遺体となって発見される少女。自責の念から、独り聞き込みを行う畝原だったが、少女の両親でさえ口を開こうとしない。いったい少女にはどんな秘 密があったのか・・・・・・。聞き込みを続ける畝原は、かつて連続殺人を犯した少年が周辺に住んでいるという噂を耳にする。果たして少女殺害事件との関わ りはあるのか。そして第二の殺人事件が・・・・・・。連鎖する殺人事件のなかで、畝原は真相に辿りつくことができるのか。私立探偵・畝原シリーズ待望の書 き下ろし。

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探偵、暁に走る

東 直己

早川書房



2012/8/24 再読
2009/2/24

2007/11/15  発行

 地下鉄で乗客とトラブルになりかけていたところをとりなしたのがきっかけで、〈俺〉はイラストレイターの近藤と飲み友だちになった。その近藤が、深夜のさびれかけた商店街で何者かに刺されて死んだ。彼はなぜ殺されたのか?友の無念を晴らすべく、〈俺〉は一人で調査を開始する。やがて事件の背後に、振り込め詐欺グループ、得体の知れぬ産廃業者らの存在が……札幌の街を、孤高の〈ススキノ探偵〉がいく

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 2012年8月に再読。最後まで、再読だったことに気づかず、ショックだ。こんなに面白いのにすっかり忘れていたなんて!!!

 著者がみっちりと書き込んであって読み応えもたっぷり。東節というか、敬語の使い方に細かかったり、若いモノのマナーの悪さに腹を立てたり、というのは東氏の考えを近藤に言わせたり、行動で示したり(怒って足を蹴飛ばして若者を罵倒する)させている。それとソーラン踊りをめちゃめちゃ貶したり、小気味いいので、おもわずふふふと笑ってしまう。

 <俺>は50代になりデブといわれている。動き回っていて、殺されそうにもなるが、危機一髪で助かるのは、ヤクザではあるが、心でつながっている者のおかげ。今回は、桐原組の相田が、自由の利かない身体ではありながら助けてくれたようだ。


疾走



東直己


村上春樹事務所



2008/9/16

2008/4/8 発行
 榊原健三シリーズ
 多恵子、あるいはその子の恵太に危機があるといつの間にかやってきて、ピンチを救ったら人知れず去っていく、そのパターンは今回も同じ。
 他のシリーズの主人公達が少しずつ関わって手助けするオールスターキャストだ。

 未来エネルギー環境整備開発機構、低レベル廃棄物処理研究施設『えびす』に見学に行った小学生達は見てはならないものを見てしまった。不法入国の外国人たちをつかって核廃棄物処理をさせていたのだ。逃亡しようとする外国人労働者や、殺人を目撃されて,機構の人間がバスごと子供たちを崖下に落とし炎上させてしまう。

 危険を察知した恵太は友人一人を誘いこっそりバスを降りる。その後、健三に助けられ、機構の追っ手から逃げる。

 私立探偵〈持谷〉実は陰ながら助けているのは橘連合菊志会川村一家桐原組組長、桐原満夫で、健三が電話で助言など聞いてくる。前回は、便利屋が動いたが、今は沖縄に彼女とリゾートに行っているため、電話で補助をする程度だ。便利屋の代わりにブッチョ(賀茂田)が健三の電話を受けている。
 テレビ局の祖辺嶋はカメラ中継を計画し、私立探偵の畝原は追っ手を格闘して退け・・・・何人もが応援して助けているのを健三自身がしらないというのも面白みがある。

 不思議な、東直己の、男たちの世界。

 北海道の自然を守るべきか、地方の経済を潤すため多少のことに目をつぶるべきか、核燃料処理施設を誘致したのは間違いだったのか、いろんな事柄について、問題提起している。


後ろ傷

東 直己

双葉社



2008/8/17

2006/10/25 発行
「ススキノ、ハーフボイルド」の時、高校3年だった松井省吾は、北大受験に失敗し、偏差値の極めて低い道央学院グローバル国際大学、蔑称グロ大に進学した。浪人して北大を受験するべきかグロ大に行き続けるか、うじうじと迷う日々。
 ヤクザに襲われ交番に逃げたのに巡査に無視された大学生を助けてみれば同じグロ大生。
 グロ大地球市民学部学部長、猪俣春夫の話に魅力を感じて、グロ大に通い続ける決心をしたが、ススキノの便利屋さんに、猪俣学部長の黒い噂を吹き込まれる。

 はじめは松井省吾がダラダラと過ごす毎日が続き、事件はないのかと思い始めた頃、大学の教官棟からホームレスが転落、大学の留学生の行方不明、そして猪俣教授の若き日の反帝学同という大学紛争時の組織での活動と裏切り・・・・。猪俣教授には、後ろに傷がある。いつもにげるからだと向かい傷を持つ誠は言う。

 学生運動に関わっている学生達のことを、若いときノンポリだった死んだホームレス誠にこう言わせている。「あいつらは、1930年代のベルリンではナチスになって、帝政ロシアじゃボルシェビキになって、赤狩り時代のハリウッドじゃマッカーシーを熱烈に支持するような連中だ。流行に踊っているだけのバカどもだ」なるほどねえ。
 
 ススキノの便利屋さんとその仲間たちが出てきて後半にはバタバタと展開が忙しかった。松井省吾は、北大を受け直すんだろうか?恋人は現役で北大に入っている。


ライト・グッドバイ

東 直己

早川書房



2008/3/9

2005/12/10 発行
ススキノ探偵シリーズ
 馴染みの退職刑事種谷からの突然の連絡。呼び出しに応じた〈俺〉を待っていたのは「殺人容疑者と親友になれ」という頼みだった。未解決のままの女子高生行方不明事件の証拠を見つけるため、容疑の濃厚な男の家に上がるまでになれ、ということらしい。〈俺〉は、パーでの偶然の出会いを装い、男に近づくことを企む。そしてそれは生涯最低の冬の幕開けでもあった。〈ススキノ探偵シリーズ〉というより便利屋シリーズ。49歳
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 どんな大事件に発展していくのかと期待したら、ススキノの紹介を兼ねて、飲み歩きながら男に近づくだけ。ではあるものの〈俺〉の周りにいて便利屋を助ける友人達のユニークさが魅力かな。
 はかなく可憐な女子高生にしかみえないダンサーのアンジェラは、元自衛隊、素手で人が殺せるレンジャー経験者だったりする。(もちろん男)
 便利屋のぼやきや考えていることでストーリーが進んでいくが、時々面白い言葉で表現する。それが私のツボにはまるものだから、この作家のシリーズを読み続けている。
 


探偵はひとりぼっち
東 直己
早川書房


2008/1/13
1998/4/10 発行
ススキノ探偵シリーズ
みんなに愛されていたオカマのマサコちゃんが、全身をめった打ちにされて殺された。やがて、若いころ愛人同士だったという北海道選出の代議士に、スキャンダルを恐れて消されたのではないかという噂が流れはじめる。マサコちゃんの友人だった〈俺〉は、周囲が脅えて口を閉ざすなか果敢に調査に乗りだすが、身辺に次々と寄怪な出来事が・・・・・・!ススキノの便利屋探偵がかつてない強敵に挑む。
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墜落
東 直己
角川春樹事務所


2008/4/6

2006/6/8 発行
畝原探偵シリーズ・5作目。冴香は高校3年。姉川の娘、真由が入った北大をめざしている。「熾火」の時、保護した少女、幸恵を引き取るため、畝原と姉川は夫婦になった。・・・・・こういう経緯で夫婦になったのね・・・・・それが知りたくて、時間的に後の「挑発者」以来、読むのを遡ってきたのだ。

私立探偵の仕事柄「のぞき屋」と言われたり、警察から睨まれたり、蔑まれることも言われるが、畝原は心が優しいし、娘を大切にし、礼儀を重んじ、人として好感が持てるので読んでいける。ただし、仕事の中身は、売春中学生の素行調査、動物虐待など想像したくない場面も出てくる。

 今回の事件は、
 女子高生の素行調査を引き受けた私立探偵畝原は、その行動に驚愕した。
ホストクラブに出入りし、そのお金を稼ぐために老人に身体を売っていたのだ。
一方、猫の首なし死体が投げ込まれるという相談を受けた畝原は、依頼主の経営する駐車場で、殺人事件に巻き込まれる。
畝原を狙ったものなのか?彼が受けた二つの依頼に、ある共通点が見えた時、事件の恐るべき実体が明らかになる―。


熾火

おきび


東 直己


角川春樹事務所






2007/11/12



2004/6/28 発行
 畝原探偵シリーズ・4作目。冴香は高校1年になった。
 このシリーズの特徴の一つは、娘冴香との二人暮らしのいい父親振りが描かれていること。「私と冴香だげの秘密、こういう秘密が、高校一年生の娘と、その父親の間で成立する、というのは珍しいのではないかな。……と、ほのぼの喜んでいる私は、愚かな父親か?」こんなことを朝の食事を二人で作りながら考えている。

 いま一つは、通常の難しくない探偵の仕事をこなしている途中で、大きな事件に遭遇し巻き込まれていくことだ。

 突然、右足に、血塗れの女児がしがみついた。翌日保護した少女を見舞いに行くと、何者かが少女を襲い、守ろうとした畝原の友人姉川が拉致されてしまう。
 友人の探偵事務所・横山、元刑事の玉木らの力を以てしても情報が集まらない。警察の動きが遅い。少女の虐待や、拉致の犯人は、道警と繋がっているのかもしれない・・・・・と。

 畝原と姉川は、それぞれの子供同士も仲がよく、二人が結婚すればいいと子供らは思っているが、当人達は微妙な距離を保っていた。いままでは。姉川が拉致された後、畝原は死にものぐるいで救出に向かう。

 前の事件で、冴香を助ける為に事故に遭い、半身不随になった玉木と畝原との微妙でややこしい関係や、友人との会話の妙が、このシリーズの魅力ではないだろうか。男同士の、べとつかない、友情と言ってしまうと何かが違う、それでも困った時一番に助けてくれる関係。

 事件の真相は、『まだはっきり事情が語られないので、憶測が憶測を呼び、ススキノの酒場や高校の昼休みや、インターネットの掲示板は、とんでもない騒ぎになった。憶測と恐怖が燃え上がる様は、まるで、なんの火の手もない、と思っていた世界の片隅に、静かに・しかし熱く熾きていた火が、なにかのきっかけで突如燃え上がったかのようだった。』
 
 ATBの『ザ・フォーカスSP」が放送され、北海道全体が、道警の腐敗の追及に燃え上がった。道警の裏金作りの告発があちこちで起こった。

 こんなに道警を悪く書いて大丈夫なんだろうか、と心配になるくらいの書き方をしている。


探偵は吹雪の果てに
東 直己
早川書房

2007/10/21
2001/12/20 発行

ちんぴらに袋叩きにされて、〈俺〉は入院した。そこで偶然、若いころ一緒に暮らした昔の恋人と再会し、彼女の頼みで一通の手紙を届けるために雪の田舎町を訪れる。そんな〈俺〉の身辺に不審な男たちの影が。理由は何か?抵抗も虚しく、〈俺〉は町を追い出されてしまうが、ふたたび舞い戻った。やがて吹雪の雪原に繰り広げられる死闘……ススキノ便利屋シリーズ、最新作。日本推理作家協会賞受賞後第1
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駆けてきた少女

東 直己

早川書房




2007/10/19

2004/4/10 発行
「ピッチ、このオヤジ、殺して」少女が叫ぶと、若い男は探偵の腹にナイフを突き立てた。入院した〈俺〉を見舞いにきた自称「霊能力者」のオバチャンの依頼で女子高生の家庭調査の依頼を受けることに。軽い気持ちで引き受けた調査と、自分を刺した犯人捜査とが交錯した時、〈俺〉は札幌の闇に渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていることに気づくのだった……〈ススキノ探偵シリーズ〉、待望の長篇書き下ろし
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悲鳴
東 直己
角川春樹事務所

2007/9/30
2001/2/8 発行
聴こえるか、人の心が音をたてて壊れるのを―ー。畝原浩一探偵シリーズ3作目。


流れる砂


東 直己

角川春樹事務所



2007/9/24

1999/11/8 発行
畝原浩一探偵シリーズ2作目。
 いきなり、素行の悪い息子を父親が刺し殺すという修羅場に立ち会った場面から始まる。
 息子は、マンションの管理人の依頼で行動を調査していた男だった。父親の依頼で調査していた探偵・柾越は、調査内容を利用して金儲けしようと畝原に誘いをかけてきたが、焼死した。誰かに殺されたのか。

 かつての恩人、テレビ局の近野は行方不明の女性の調査から保険金詐欺の調査をする中、行方不明になり、そして遺体で発見される。
 役所は福祉の不正受給をしている。COLと称するあやしげな宗教団体もからんでいるらしい。
 消費生活センター所長とも協力し合って、暴こうとするが、畝原の身辺に危険が迫る。娘は警護を頼んだ青年と共に拉致される。

 青年の父親、横山は高校の同級生、畝原が新聞社を追われて生活に困った時、横山の興信所に雇ってくれた。その後独立したが、お互いに今でも助け合っている。いつも二人のやりとりがおかしい。信頼しあった者同士の遠慮のない会話だ。
 その二人がそれぞれの自分の子供を奪還しに行く。

 現実にも保険金殺人や宗教団体が後を絶たないので、それらについて、悪い者の存在に怒りをこめて描いている。畝原は普通の感覚を持った常識的な人物である。坂道を上がるのが苦しい程のターセルに乗っている。

 娘冴香と仲良し真由の母親とは、まだ微妙な関係が続いている。子供は恋人同士だと認めているのに。
 冴香小学校6年。畝原46歳。



渇き

東 直己

ケイブンシャ ノベルズ



2007/9/22

1999/10/10 発行
1996/12  上製版 
 卑劣な罠で新聞社を追われた畝原浩一は、今は私立探偵として一人娘の冴香と暮らしていた。その畝原の許に、就職を餌に女性を食い物にする会社社長梶山の決定的証拠を握って欲しいという依頼が舞い込んだ。だが、囮となった女子大生が殺され、梶山も自殺してしまう。その後、不審な男たちが冴香に触手を伸ばしてきた……。愛する娘を守るため畝原は孤独な闘いを挑む。北の街を舞台に気鋭が描く長篇八一ドボイルド。(カバー)

 素行調査、尾行など小さな仕事のいくつかが、裏で大きな事件につながっている。社会性のある事件を扱っているが、それより魅力を感じるのは、畝原が娘第一に考えて行動すること。
 自分の娘に誇ることができる仕事をしている男が何人いるか。すべて娘に話して、そして尊敬を勝ち得ることができる男が何人いるか。いや、そもそも、四十五にもなって、小学校五年生の娘の尊敬を願うなど、ちょっと私はどうかしてしまったのではないか。
 こんなことを考えている愛すべきお父さん探偵。

 危ない仕事の場合、娘が危険に曝される事もある。友人の興信所社長の息子に、娘に付き添ってもらったり、危機には駆けつけて助けてくれる友人や、何人かの周りの協力者たちとの距離感や会話、関係がなかなかいい味わいなのだ。

 ススキノを舞台にした探偵・畝原シリーズの第一弾。畝原は45歳、娘冴香は、小学校5年。ダイエーや生協で買った服を着、ボロボロのカローラに乗っている。冴香と学童保育所で仲良しの真由の母、姉川と畝原は微妙な関係で、それも気になるところ。


挑発者

東 直己

角川春樹事務所



2007/9/5

2007/6/8 発行
 探偵・畝原シリーズ6作目。元新聞記者、ある出来事があって新聞社をやめた。ある出来事というのは既刊にあるらしい。既刊を先に読む方がよかったかも。

 依頼は三件、それらは関係があるような無いような。
 主婦からの依頼で、挙動不審の夫に対する尾行。
 札幌の地元の雑誌社からの依頼で、キャバクラ嬢対象のミスコン入賞者4人の身辺調査。
 そして、カルト商法に嵌っている地元有力者の父親に、目を覚ましてもらいたいという息子からの依頼。クラブの客を装い、エス パーこと巽と社長に接近した畝原は、巽の虚言と嘘だらけの経歴を暴くことに成功した。
 
 特に大事件は起こらないし、普通に探偵の日常の描写である。
 キャバクラ嬢や友情に厚いヤクザを描写する為のストーリーだったのかと思うくらい、事件はあやふや。
 バラバラ死体と犯人との関係は、ええっ!だし、、夫婦は最後に・・・・・、大詐欺師のエスパーと称するカルト商法の巽大人からは命を狙われるが、本人たちは・・・・・・。

 妻の連れ子の真由の検索技術には関心が湧いた。東氏の作品は、軽妙な語り口や、面白みのある人物とのやりとりが魅力。なんとなく、作品からかもし出されてくる雰囲気が好き。だから、これまでのいきさつを知る作品を読んでみようと思う。

 ハードボイルドからは少し遠い気がするが、畝原が年を重ね、ハードでなくなってきたとも考えられる。


残光


東 直己



角川春樹事務所






2007/8/19

2000/9/8 発行

 寡黙で凄腕の始末屋今は、人目を避けて山奥で暮らしている。ところが、昔の恋人の子どもが人質事件に巻き込まれ、多恵子の所在が人に知られた・・・と感じた男は、山を降りた。彼女とその子どもを守るため。・・・・・・かっこいいんだけど、ナンテひとりよがりなの・・・・いくら陰で幸せを願ってくれるからって、女性は身を引いて山奥に去っていかれるより一緒に暮らしたかっただろうに。
 

 この不可解さは、過去の事件と関係があるらしい。かつて彼女が札幌で事件に巻き込まれた際、彼は山を下 り、札幌への進出を目論む関西系の暴力団を、ただひとりで壊滅に追い込んだ。そして健三の昔の女多恵子が再び札幌に住むことを知るものはいなくなったすごい
 日本推理作家協会賞を受賞したということだけで、すぐにこの本を手に取ってし まってはいけないというレビューを見たときは、「しまった」と感じた。かつての事件は「フリージア」という作品になっていたり、かつての作品の人物がワケありのサポートをしたりするので、知っておいた方が楽しめるのだ。
 
 礼儀正しくて健気な少年、ちゃらんぽらんとした探偵、人情に厚いやくざ、酷薄でいけ好かない悪徳警官、そして、東映任侠映画の定番、高倉健を連想する主人公・榊原健三らがおりなす物語。
 警察が保母と犯人を射殺した。汚職事件に蓋をするために・・・。人質だった恵太が 真実を語ろうとしたとき、恵太に魔の手が伸びる間一髪で榊原が救い出し、二人の逃避行がはじまる。

 恵太は母が寝言で「ケンちゃん」というのを聞いたことがある、助けてくれたおじさんがケンちゃんだと感づいている。こういうところも、小学2年の少年だが、男同士は黙って分かりあえる・・・・ということなのかなあ。
 命を賭けて、不良警官とヤクザから恵太を守り、両親の元に送り届け、そっと姿を消す。男ってものは・・・・・もう!
 ハードボイルドだ。


抹殺

東 直己

光文社


2007/8/9
2007/5/25 発行
 車椅子の殺し屋・宮崎一晃は、少しずつ体の自由がきかなくなっていくというシュタインブルク・ブレ症候群。美貌の介護者は、ヘルパー兼愛人の篤子。表向き画家である宮崎の裏の本当の仕事は知らないので介護の月給100万円がどこから出ているのか、不思議に思ったりしている。
 特養ホームの理事長、黒田龍犀は、脂ぎった精カ的な風貌で、ダブルのスーツを着て、サングラスをかけると、誰もそばに寄ってこないほどの、物騒な迫カに満ちた男で、宮崎に仕事を依頼している。

 「阻止」−−命を狙われている男をさりげなく守り、ドイツの過激派テロリストの幹部を殺す。警察は、何が起こったかわからないまま、置き土産の手配犯に喜ぶ。

 「抹殺」−−インチキ宗教の現実と、女性幹部とのスキャンダルをあばき、社会的に抹殺する。

 他には「別れ話」「敵討ち」「氷柱」「奇跡」「極刑」「私怨」などの短編。どの話も、シニカルでどこかユーモラスで優しいハードボイルド。


ススキノ、ハーフボイルド

松井省吾は高校3年の受験生だ。夜のススキノで働く真麻という素敵な彼女(ベタ惚れ)もいる。客引きのアキラさん(いい人!)や土建屋社長の千葉さん(オヤジ)など、友人も増え、最近ようやくススキノが「自分の街」になってきたところだ。
夏休みに入ったばかりのある日、同じクラスの勝呂麗奈
(誰だっけ?)が覚醒剤で警察に捕まった。暴力団の組長である森野という男と一緒だったらしい。何とか助けだそうとする同級生の金井茉莉奈(かわいんだけどなあ…)のおせっかいや、怪しい動きをみせる同じく同級生の柏木(ウザイ!)らに、省吾はむりやり巻きこまれ・…青春ユーモアハードボイルド。


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