東野 圭吾 (ひがしの けいご)

1958年大阪市生まれ。大阪府立大学電気工学科卒。
エンジニアとして勤務しながら小説を書き、
85年、「放課後」で第31回江戸川乱歩賞を受賞、その後執筆に専念。
99年、「秘密」で第52回日本推理作家協会賞を受賞。
2006年、「容疑者Xの献身」が第134回直木賞受賞。



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新参者

東野圭吾

講談社





2013/1/23

2009/9/18 発行
日本橋。江戸の匂いも残るこの町の一角で発見された、ひとり暮らしの四十代女性の絞殺死体。「どうして、あんなにいい人が…」周囲がこう声を重ねる彼女の身に何が起きていたのか。着任したばかりの刑事・加賀恭一郎は、事件の謎を解き明かすため、未知の土地を歩き回る。

「この町のことを思い浮かべるだけで、忽ち様々な人間が動きだした。そのうちの一人を描こうとすると、そばにいる人々の姿も描かざるをえなくなった。まる でドミノ倒しのように、次々とドラマが繋がっていった。同時に謎も。最後のドミノを倒した時の達成感は、作家として初めて味わうものだった」――東野圭吾氏の言葉

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主人公・加賀恭一郎は、いくつもの作品に出ている。依然読んだ「悪意」にも。
面白い嗜好の物語だ。

人形町にある面白いエピソード。そこに出入りしていた保険の外交員に嫌疑がかかったが、何故彼がアリバイを正直に述べなかったかーーー料亭にまつわることで、三井峯子の部屋にあったワサビ入りの人形焼に繋がるーーー三井峯子が通っていた瀬戸物屋、顔見知りだった時計屋、友人だった翻訳家ーーーいずれも事件と直接関わるような内容ではない、が、加賀は誰もが見向きもしないような些細なことに拘り、たとえ事件に無関係だとわかっていても、決して手を抜かずに真相を突き止めようとしていた。そして事件の周りにいる人に、暖かな気持ちを取り戻させてくれる――――不思議な刑事だ。


容疑者Xの献身


東野 圭吾

文芸春秋





2006/8/7
 「天才ガリレオ」「予知夢」とともに物理学者湯川シリーズ三作目。直木賞受賞。面白くて一気に読み終わる。

 天才数学者でありながらさえない高校教師に甘んじる石神は、アパートの隣人で弁当屋に勤める花岡靖子を密かに思っていた。靖子と娘が前夫を殺害してしまったと知った彼は二人に力を貸すと申し出る。

 湯川と石神は大学が同じ、石神が数学なら湯川は物理学でそれぞれ天才で、お互い尊敬しあう。数学者や物理学者の普通でない頭脳を描写している部分は興味深い。

 はじめに母娘が真犯人であることが明らかになっているので、石神がどのように彼女たちの犯罪を隠蔽したのかというトリックと湯川との「友情」と「湯川の推理」が読ませどころ。トリックは、何度も読者の予想を裏切り、最後は驚愕させられる。

 石神は、完全犯罪にするため、死体を片付け、凶器も隠し、母娘の警察への対応の仕方まで指導し、最後は自分を貶めた上で身代わりに自主をする。
なぜここまでして石神は、報われない愛なのに貫き通そうとするのか?」
 それが不思議だったが、なるほどと思う理由が示されていた。それでも、石神があまりにも哀れで、湯川の石神を思う気持ちがなかったら、全く救いようのない話で、後味が悪い。
 
 でも、考えようによっては、石神が研究者として大学に残れていたら、フィールズ賞でも受賞していたかもしれない。そして生涯恋をすることもなかったかもしれない。どちらが幸せなんだろう。



悪意


東野 圭吾


講談社NOVELS






2006/4/16

 人気作家が仕事場で絞殺された。第一発見者はその妻と昔からの友人。逮捕された犯人が決して語らない動機にはたして「悪意」は存在するのか。(カバーより)
 作者のことばがある。「殺人動機とは何なのだろうか。そのことを考えながら書いた」と。
 面白い。でも、やや複雑に懲りすぎてない?
ミステリー作者は読者にウソをついてはいけない。フェアじゃないもの。
ウソをつかないまま読者に勘違いや思い込みをさせてはぐらかしていくものだろう。だけど、登場人物の手記という形になると、作者のウソではなく、登場人物のウソだから読者はまんまとだまされる、ずるいなあと思った。

 作家が殺され、第一発見者は中学時代からの友人野々口修と、作家の妻。捜査を担当するのは野々口と元教師時代共に仕事をした加賀恭一朗。野々口は作家志望の元教師、現在は童話作家。事件の手記を書いて捜査に協力している。野々口の手記と加賀刑事の手記や独白などで物語りは進んでいく。

 作家の元妻と野々口の不倫?二人で日高を殺そうとした為、日高に脅され作家のゴーストライターに甘んじることになった野々口。
 加賀刑事は執念深く事件を掘り下げて少しずつ明らかになる部分をつないで犯人を割り出して動機を発見したと思ったが・・・・・・。

 ずるいと思ったのはここから。ああ、すっかり騙された。こんなに複雑なことをよく考えると驚嘆した。
 加賀恭一郎は主役ではないものの、東野圭吾長編作品最多出場のキャラクターらしい。私はまだ他の作品を読んだことはない。



幻夜

東野 圭吾

集英社





2006/4/13
 阪神淡路大震災の時に出会ったふたり。水原雅也は、地震のどさくさで叔父を殺し借金の証文をなかったことにした。殺人の現場を見た新海美冬も両親を亡くし、二人はともに東京に出た。
 美冬は美容院経営の構想を持ち、オーナーとして成功する。宝石店に勤め、実力を発揮する。
 宝石店で異臭騒ぎ、ストーカー騒動、美冬に会おうとした男は行方不明、雅也の就職には前任者の傷害事件。
 美冬は男を虜にする妖しい魅力があり、頭もよく、事業に成功もすれば、男を自由に操る。自分にとって都合が悪い人間は、雅也を使って排除する。過去も謎である。
 
 半ばまで読んだときにはミステリーなのに早々と予測ができてしまい、ネタバレしては興ざめではないかと思った。基本設定に松本清張の「砂の器」のようなところもあり、謎は早々になくなったが結末は予想外だった。
 話は面白いし、文章も読みやすいが、東野氏の作品に私があまり惹かれないのはなぜかと考えた。私にとって登場人物に魅力が感じられないからだと気付いた。雅也は愚か、刑事の加藤はむさくるしいイメージだし・・・・・・。美冬もすごい美人で切れ者なのに魅力的でない。
 すくわれない結末で、後味が悪かった。



手紙

東野 圭吾

毎日新聞社





2006/4/1

 両親を亡くし、弟と二人暮らしの心優しい兄武島剛志が、弟を大学にやりたいばかりに空き巣に入った。家人に見つかり、強盗殺人となった。  弟直貴は、そのときから自分で働いて生きていかねばならなくなった。働きながら、高校もきちんと卒業した。
 こんな少しの手違いで大変なことが起こり、優しい男が強盗殺人犯になってしまう。
弟は自分のために罪を犯した兄を恨むことも責めることもできないでけなげに働く。
 兄からは毎月手紙が届く。次第に手紙は鬱陶しい物になっていく。
 頑張っても、兄のせいで世間から差別を受ける弟は、兄と縁を切ろうとし始めるが・・・・・。

 余分な装飾もなくすらすら読める文章なので一気に読み終えた。読みながら様々なことが連想される。自分が弟の立場ならできるだろうか、頑張れるだろうか、世間の立場なら差別をしないで親身になれるだろうかなど。
 兄が手紙を出す気持ちもわかる、手紙をもらいたくない弟の気持ちもわかる、世間の反応もわかる、だから難しい。
 連想と共にさまざまなことを考えさせてくれた。



分身

東野 圭吾

集英社文庫





2006/3/30

 函館市生まれの氏家鞠子は18歳。札幌の大学に通っている。最近、自分にそっくりな女性がテレビ出演していたと聞いた―――。小林双葉は東京の女子大生で20歳。アマチュアバンドの歌手だが、なぜか母親からテレビ出演を禁止される。鞠子と双葉、この二人を結ぶものは何か?現代医学の危険な領域を描くサスペンス長編。(カバーより)

 
読みやすい文章なのでどんどん読み進むが、二人の物語が交互に語られることと、鞠子は東京へ、双葉は北海道へと、それぞれが故郷から離れ逆の場所を訪れて謎を解こうと動くので、うっかり錯覚したまま読みそうになる。頭が混乱して著者の思う壺だったかも。

 複雑な事情(二人の出生の謎)が少しずつ明らかになっていくが、自分のクローンに出会うとどんな感情になるのか、1卵生双生児とどう違うのか、クローン技術、代理母、育ての母の愛情について考えさせられる。結末は微妙に辛くもあり救いもあり、素晴らしい風景の中でピタッとはまる終り方だった。
 「小説すばる」に連載した時は「ドッペルゲンガー症候群」だったそうだが、改題した「分身」のほうがいい感じ。


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