優れた児童文学

大人のために書かれた児童書の読書ガイド  「子どもの情景」 「ナルニア国ものがたり

子どもの情景        秋山さと子         大和書房

1923年東京に生まれる。文化学院、駒沢大学仏教学部を経て、1964年から68年までチューリヒのユング研究所に在籍。
著書に「聖なる次元」(思索社)「子どもの深層」(海鳴社)「悟りの分析」(朝日出版社)
「ユングの心理学」(講談社現代新書)「『恋人という他人』の深層」(大和書房) など

あとがき―― レイ・ブラッドベリ原作「華氏四五一度」という本、誰も本を読んではいけないという恐ろしい未来社会の話。本を持っているのが見つかると、たちまち消防自動車がかけつけて、火を消すのではなく、本に火をつけて焼いてしまう。本を持っている人は思想犯として追われる身になる怖い世界。その最後の場面で、本を抱えて森の中に逃げ込んだ本好きの人たちが、自分の一番好きな本を一つ選び、それを暗記して自分が本そのものになってしまうところがある。
 もし、そんな時代が来て、たった一つの本しか選べないとしたら、私は何にするだろうかと考えてみると、聖書や仏典からさまざまの小説まで、頭に浮かぶが、やはり最後はトールキンの「指輪物語」になるだろうと思った。― 以下略   ―  さて、自分なら?

第一章  指輪物語
   1 童話と大人  2 ホビットたち  3 妖精とはなにか  4 母なるもの  5 妖精の貴姫  
   6 父なるもの   7 その他のものたち

指輪物語 J・R・R・トールキン
 1 旅の仲間

 2 二つの塔

 3 王の帰還
イギリス文学には、古くから怪奇や妖精などをテーマにしたものが多く、ゴシック・ロマンの伝統もあって、ファンタジーものだから子ども向きというわけではない。
 堂々と大人向きの童話ともいうべきすばらしいファンタジーの傑作が「指輪物語」だ。最初から大人を対象にして書かれたものでありながら、子供たちも喜ぶような、童話的な描写が随所に見られ、全体の構成は現代の叙事詩のようで、多くの英雄や魔法使いや、王姫や王女が登場する。そこに妖精が絡み、小人が参加し、ウサギ足をした小さい人々が登場する。

第二章  飛ぶ教室
   1 “まえがき”  2 子どもの涙  3 垣根の外と内  4 永遠の少年  
   5 イニシエーション(成人式、加入礼)  

飛ぶ教室 エーリッヒ・ケストナー
男子の寄宿学校での生活の中で、子どもたちが大人に成長していく過程を描いたものである  高等科1年になった少年が他の子どもたちの考えも入れて、クリスマスに上演するための五幕物の劇を作る。その題が「飛ぶ教室」。

第三章  モモ
   1 永遠の少女  2 モモとジジの出会い  3 時間に生きる  4 時間の国  5 時間の花の使い方

モモ ミヒャエル・エンデ
時間泥棒と 盗まれた時間を人間にとりかえしてくれた女の子のふしぎな物語。時間に追われ人間本来の生き方を忘れている現代の人々に、時間の真の意味を問う。  エンデの魅力は彼の尽きない想像力から生まれる数多くの物語である。
 エンデは、そのファンタジーの世界こそ、人間の心のあらわれであって、人間の生活から想像力が失われたら、後には何も残らない事を訴え続けてきた作家である。多くの大人が考えているように、ファンタジーは意味のない現実逃避ではない。しかし、ファンタジーだけでは人は生きられない。その接点にいるのが子どもたちであり、子どもこそ、大人の世界に生活と夢と人生の余裕をもたらすものといえる。

第四章  ゲド戦記
   1 叙事詩と心理学  2 魔法使い  3 名前の秘密  4 影について  5 英雄と女性
   6 迷宮の神秘  7 賢人と弟子

ゲド戦記 アーシュラ・K・ル・グウィン
 1 影との戦い
 2 こわれた腕輪
 3 さいはての島へ
 4 帰還
 5 アースシーの風 
この物語は作者がユング心理学を知った上で全体を考えたものと思われる。
 ただ、そのまま読んでも面白いが、ユング心理学を踏まえて、心の内的世界のありさまをを伝えるものとして考えると、さらに興味が深まる。御伽噺や叙事詩のようなものを心理的に読むことは、一般的には邪道であり、本当に物語を愛する人には、かえって邪魔になるかもしれないが、この本は、心理学を加えて読むことで面白みが増すという数少ない例の一つである。

第五章  グリーン・ノウの子どもたち    1978
   1 異次元の世界  2 人形の家とヒワ  3 まぼろしの馬とみどりの鹿  4 おもちゃ箱の秘密
   5 巨人の像と悪魔の木  6 クリスマス

グリーン・ノウの子どもたち ルーシー・M・ボストン
 この作品ではいつも一人で孤独な少年のまわりに自分の分身のような、たくさんの過去の子どもたちがあらわれ、これらの子どもたちと遊ぶことで彼は現実の他人を認識し他人の心を知って共感がもてるような一人の大人に成長していくという物語。
 ごっこ遊びとトーリーの幻想とおばあさんが話してくれる昔のことと、現実が交差してどれが実際にあったことなのかがわからなくなってくる・・・・。

第六章  トムは真夜中の庭で
   1 二つの時計  2 大時計の謎  3 月光と日光の下で  4 夜の世界の子どもたち
   5 幽霊は存在するだろうか  6 解決

トムは真夜中の庭で フィリパ・ピアス
昔を懐かしむ老人の回想と、未来を思い描く子どもの夢想が、たまたま交差して現れた一つの物語。
 トムはごく普通の男の子、大時計が十三時を打つのを聞いて、部屋を抜け出し、裏口から庭へ出ると、庭園が広がっていた。

第七章  ロールパン・チームの作戦
   1 子どもの自覚  2 母親の一典型  3 父親のあり方  4 兄と弟の関係  5 女の子の問題
   6 友だちとのかかわり  7 

ロールパン・チームの作戦 B・L・カニグズバーグ
あるアメリカの中流家庭の日常生活を、やがて13歳になる少年の立場から描いたもの。少年野球で勝ったり、負けたりするという日々の生活の中、親子や兄弟のあり方を描き、家庭内の子どもの心理がよくわかる。
 親しい仲にも適当な距離を持つ家族のあり方や、その中から自分の判断で物事を決めていかれるようになる子どもの心の成長が見事に描かれている。

第八章  ふくろう模様の皿
   1 伝承と児童文学  2 ふくろうと花  3 石と写真  4 ウェールズの神話  5 血の呪い

ふくろう模様の皿 アラン・ガーナー
主人公はおとなになりかかる年齢の子どもたち3人で、ガーナーが得意とする子どもたちの感性からみた世界が主題となっている。しかし、彼らの複雑な家族的背景が、ほとんど説明抜きで、ただ情景の描写と、子どもらしい短い会話の中から感じ取られるように構成されているので、よほど気をつけて読まないと、全体の意味がつかみ難い。
 子どもたちは、それまで知らなかった親たちの秘密や、この谷にまつわる呪いのような血の惨劇の歴史を知り、自分たちも又、繰り返す悲劇のパターンに陥りかけていることを知る。
 神話がらみのファンタジーと子どもたちや彼らをとりまく大人との会話の中で述べられているので、物語の背景を把握するのは容易ではない。


本書収録以外のの児童書

ナルニア国ものがたり

ナルニア国ものがたり(1)
ライオンと魔女
C・S・ルイス 著 瀬田 貞二 訳 岩波書店



2005/1/30
ディズニーが映画化するそうだ。それで読み始めた。本当は10年も前に読んでみようかな・・・というところまでまでいっていた。それというのも、小学校の高学年だった息子がこの本を読んでは、いかに面白いかというのを逐一話してくれていたから。子どもをそんなにまで夢中にさせた本とはどんなものか?と関心を持っていたから

 人間の世界とはまったく別の空想上の国ナルニアの誕生から死滅までを描いた、壮大な7冊からなる物語。
 ナルニアが生まれて数世紀後、白い魔女のせいで永遠の冬にされたナルニアに、衣装だんすにできた入り口からピーターたち4人がきて、偉大なライオンのアスラン、ヤギと人との入り混じった、野山の小さな神フォーンのタナムスさんや、ビーバー夫婦らと協力して、魔女の力をくだいていく。
  そして2巻「カスピアン王子のつのぶえ」へとつづいていく。
一冊ずつでも楽しめるが全体で大きな物語にもなっている。
 作者は学者としての豊かな知識をうまくあしらっている。聖書、ギリシャ神話、アラビアンナイト、北欧神話、ほか探検記(バウンティ号の反乱事件など)まで・・・・どこがそうなのかと考えたら大人は子どもとは違う読み方もできそうだ。すぐれた児童書は奥が深い。
ナルニア国ものがたり(2)
カスピアン王子のつのぶえ
C・S・ルイス 著  瀬田 貞二 訳  岩波書店


2005/4/2
 冬休みに「ライオンと魔女」を再読した息子は、今度は春休みに「カスピアン王子のつのぶえ」を再読し、「やっぱり、読んでしまうんだよなあ」と20歳になっても嬉しそうだった。

 ナルニア国で王や女王として国を治めたあと、元の世界へ戻っていたピーター、スーザン、ルーシィ、エドマンドら4人はまた突然別の世界へ引き戻される。
 学校の寄宿生活に戻る途中、駅のホームで強い力に引っ張られて数百年後のナルニア国へ来てしまったのだ。
 カスピアン王の使者の小人と出会い、詳しい話を聞くことになる。(カスピアンがおじの宮中で育ったこと、小人たちナルニア人の味方になったこと、おじのミラース王との戦いで危機に陥って角笛で助けを求めたことなど)
 この角笛は危険になったときいつ吹き鳴らしてもたちどころに助けがやってくる魔法の角笛でスーザンがなくしたと思っていたものだった。
 このあと、ライオンのアスランとも出会いながらカスピアンを助けに行く。次々と困難に出あい、子どもにとってはどんな場面もハラハラ、ドキドキしながら読める。
 元の世界に戻る時、アスランからはピーターとスーザンはもう今度はナルニアには戻らないと聞かされる。二人とも、年をとりすぎているからと。

 それは何を意味するのか?


ダレン・シャン
ーーー奇怪なサーカスーーー

作・Darren Shan

訳  橋本 恵



2012/7/26

2001/7/10 発行
主人公ダレン・シャン少年は、偶然に奇怪なサーカスのチケットを手に入れた。そのサーカスを見にいった夜から、彼は数奇な運命を背負ってしまう。親友の命を救うために、ダレンが正体不明のバンパイアと取り引きしたこととは…。

    ****************

ワーナーブラザーズがこの小説の映画化権を取得し、米国では発売早々、児童書ベストテン入り。ドイツでもすぐに初版を売りきったという、話題の英国産ベストセラーのファンタジーミステリーです。『ハリー・ポッター』が大きな話題を提供しましたが、その作者が激賞したという小説です。『ハリー・ポッター』が空想の世界のイメージをふくらませる本ならば、この『ダレン・シャン』は実際に起こるかもしれないと思うような現実味をおびた世界を舞台に選んでいます。英国の子どもたちが作者のホームページにメールを寄せています。「今まで読んだ本の中で、最高におもしろかった。ハラハラ、ドキドキの連続で……他の本のように退屈する暇がない」などなどと。

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 バンパイヤになって終わったこの物語は、ずっと続いていくらしい。
 これが子供向け・・・・かな?面白いようでもあるけど、サーカスのメンバーの特徴に対し、不快な念を抱く人に配慮をしている。子供は大丈夫か?気持ちのいい話ではない。
 
友達を救うために、バンパイヤになってしまう、それは死ぬことでもあるが、友のためにそこまでする話は、走れメロスを思い出した。


                            

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