太古に生きた人々

エイラ地上の旅人  アリューシャン黙示録

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エイラ地上の旅人  ジーン・アウル

 1936年、シカゴ生まれ。18歳で結婚、25歳で五人の子の母となる。エレクトロニクスの会社に就職、そのかたわらポートランド州立大学で学び、1976年MBAを取得。エイラの物語の執筆を思い立ち退職。執筆活動に入る。2005年現在69歳。IQ148以上の人たちのメンバーに迎えられる。
 著者は、自分の手で石器を作ってみたり、鹿皮をなめして財布を作ったり、厳寒の高山に雪の洞穴を掘って一夜を過ごしたり、薬草の勉強をしたりして得た知識を元に、ゆたかな想像力を加え、生き生きとした氷河時代の生活を見事に描いている。



ケーブ・ベアの一族
エイラ 地上の旅人
ジーン・アウル 著
大久保 寛 訳
ホーム社





2005/3/10
 20年前新聞で、『すばらしい本を見つけたので翻訳をします・・・』という中村妙子さんの記事を見かけたのがこの本との出合いだった。その時は評論社から「始原への旅立ち 第一部『大地の子 エイラ』」として出版された。

 今回は集英社が大人向けに翻訳もやり直して出版したものである。

 時は紀元前三万年ごろ、更新世(洪積世)の最終氷期。舞台は黒海に突き出ているクリミア半島山服の洞穴と、その周辺のステップ(草原)。
 大地震で家族と生き別れ、一人でさまよいケーブ・ライオンで傷を負い瀕死の状態だったクロマニヨン人の女の子エイラは、新しい洞穴を探していたネアンデルタール人ケーブ・ベア(洞穴熊)の一族に拾われ、育てられる。
 しかし、エイラが成長し、その個性を発揮しはじめるにつれ、一族の人々に反感と憎しみが生まれる。不本意だったが授かった最愛の子ダルクに後ろ髪を引かれながらも、エイラは一族に別れを告げ、自分と同じ種族に連れ合いを探す旅に出る。
 太古の人々の生活やエイラの成長を描きながらエイラを通して男女の相対的地位の問題差別の問題障害者や老人の問題などに光を当てている。
 それなりに進化の絶頂に達していた旧人と、彼らに代わって地球のあるじとなり、やがて人類の歴史の担い手となる新人の運命の消長が描かれていく。 
 

野生馬の谷

ジーン・アウル 著

佐々田 雅子 訳

ホーム社





2005/4/12

育ててくれたネアンデルタール人と別れて一人北をめざして旅をするエイラ。自分と同じクロマニヨン人を探すが野生のけものばかり。冬に備えて洞窟を見つけ、食料を蓄え、寒さに備え外皮の支度もする。

 孤独なエイラは母を失った子馬を育て、心を通じ合い、乗ることも覚え、乗って狩もできるようになる。けがをして親に見離されたケーブ・ライオンの赤ちゃんも育てる。洞穴で馬のウィニーとライオンのベビーたちと暮らし始める。一つの洞穴で馬とライオンが暮らしていく面白さ。この部分はワクワクしながら読んでいける。 

 平行してゼランドニー族のジョンダラーの物語もすすんでいく。

 出会いは衝撃的に始まった。ゼランドニー族のジョンダラーと弟のソノーランは大河の果てへの旅の途中ライオンに襲われ、弟は死に、ジョンダラーは瀕死の大怪我をしたところをエイラに助けられる。襲ったライオンはエイラの元から巣立って家族を作っていたベビーだった。ウィニーも馬の群れに一度は入ったが妊娠した状態でエイラの元に戻って出産した。

 エイラの献身的な看病、ジョンダラーに言葉を教えてもらい、少しずつお互いを理解していく。言葉を身につけていく過程、抽象概念を教えることの難しさ、男女の心のすれ違いや旧人と新人との差から来る誤解などが良く書き込まれている。少し性描写が詳しすぎると思ったが、このストーリーには必要かもしれない。途惑いながらもジョンダラーと愛し合うようになる。この巻は恋を知ったエイラについて描写しており、評論社版では「恋をするエイラ」がタイトルだった。

読み出したら止まらない。一気に読んだ。深い内容を含んだ物語なのでもっとじっくり読んだほうがいいのだけれど。 ぜひ、お薦めのシリーズだ。


マンモスハンター

ジーン・アウル 著

白石 朗 訳

ホーム社









2005/6/19

 ジョンダラーと心を通わせ愛し合うようになれた二人。すぐ戻る予定でジョンダラーとエイラは短い旅に出た。ライオン簇(むら)に住む〈マンモスを狩る者〉という異名をもつマムトイ族に出合って彼らの簇へ行く。彼らが平頭と呼ぶネアンデルタール人との混血で息子によく似たライダグという少年がいた。
 馬を自在に操り、新しい狩の道具を扱い、神秘的なエイラは、黒人のラネクから好意を寄せられ、ジョンダラーが嫉妬する。
 ライオン族の人たちから仲間に入るように誘われる。

 元の洞穴へ荷物を取りに帰っていた間にマムトイ族の人たちは、馬たちの為の場所も建て増ししてエイラを歓迎してくれた。その後は厳しい冬をライオン簇の(つちいおり)のなかでマムトイ族の人々と生活をしていく。長い冬の間は盧に閉じ込められるので、生活を楽しむ工夫がたくさんある。エイラの縁組の儀式も行い〈マンモスの炉辺〉の娘となった。黒い肌のラネクと床をともにし、ジョンダラーの嫉妬が増し、誤解しあった二人は苦悩する。狩に出たエイラは母を失った狼の子を連れ帰りウルフと名づけ育て始める。ジョンダラーが雄馬レーサー(ウイニー子)に乗る訓練も始めた。
 
 長い冬が終った後はライオン簇では春の祭り〉、そして、夏のつどい》にはマムトイ族のたくさんの簇が集まる祭典があり、「女の祝い」「縁結びの儀」、マンモス狩りなどが催される。狼と二頭の馬をあやつるエイラが注目を集めたり、ライダグがケダモノ扱いされて怒ったエイラが自分の出自を明かしたり、様々なことが起こる。
 それらの間、エイラとジョンダラーはお互い強く求め合っているにも関わらず、お互いを誤解し、心がすれ違うばかりで、メロドラマのようだ。
 《夏のつどい》の場にケーブ・ライオンのベビーが、エイラを捜してやってきた場面では、読んでいて涙が
あふれた。

 原始の生活ぶりの描写はやはりすごい。石器の作り方も薬草の知識も料理の作り方も、狼やオコジョの生態も詳細で作者の研究の深さが感じられる。赤足女や初床の儀や女の祝いなどの行事の様子は、いのちをつなぐ、種族の保存が大切なことだと思い出させる。

そんなことよりエイラが魅力的。評論社版では「狩をするエイラ」となっていて狩の場面でのエイラのハンターぶりに惹かれる。




平原の旅


ジーン・アウル


金原瑞人/小林みき 訳


ホーム社













 マムトイ族の人々の中にいた間、なかなか心を通じ合えなかったエイラとジョンダラーだったが、誤解も解けて、いよいよジョンダラーの故郷をめざしてはるかな旅に出た。
 紆余曲折があってお互いに相手を失うかもしれなかったことを思い出すと、二人で旅に出たことが嬉しく、何度も愛を確かめ合う。ただ、性行為の描写が具体的過ぎて、小、中学生や高校生には薦められない二人の人間と二頭の馬と狼の一行は、普通の人には理解され難く、声をかけても返事がなかったり、を訪ねれば逃げ出されたりしてしまう。

 緑豊かな谷で泊まったときは、雷雨と稲妻の中、あわてて場所を変えれば、元いた場所が土石流と濁流うずまく壊滅的な谷になったり、川を渡れば流されて離れ離れになったり、困難な旅を続け、シャラムドイ族に着いた。弟のソノーランが連れ合いを見つけたむらだ。そこではがけから落ちて腕を骨折したロシャリオの治療を始める。(上)
 
 広大な平原を進むと、地形の変化や季節の移ろいとともに、動物の種類や植物、野草や鳥、そして昆虫など、出会うものに変化がある。エイラは料理上手でもある。それらの説明が詳しくてためになる反面、冗長で読むのに少し疲れるときもある。
  「大陸はあまりにも大きくて、人があまりにもすくないわ」
 
 この巻になると展開が早くなった。シャラムドイ族のロシャリオの治療をてきぱきこなし、馬やオオカミに驚いた人たちもスムーズになじんだ。麻酔作用のある飲み物を使ったり、ギブスには変形させやすい皮を使うなど、知識の豊富さでやっぱり驚かされる。
 旅が順調に行くかと思ったとき、馬の群れにウィニーが連れ去られてしまう。ウィニーを見つける旅に出て、やっと見つけたときは、ハンターたちが崖下へ馬の群れを追い落とそうとしているところだった。やっとの思いでウィニーを救い出したら今度はジョンダラーが囚われてしまった。ス・アームナイ族、女だけのだった。 (中)

 エイラはジョンダラーを助け、暴力で人々を抑え付けていたアッタロアを成敗し、平和で助け合うになるよう手助けをしてから旅に戻る。
 ロサドゥナイ族を訪ねた時は、ならず者集団チャロリの話を聞き、その被害にあったマデニアの清めの儀式を聖なる温泉で行う手伝いをする。
 女神の祭りでは、ジョンダラーはエイラに赤子が授かるように女神に祈願した。
 すぐに旅に戻り、噂のチャロリの一味が氏族を襲う現場に遭遇する。足を骨折した氏族の男、ガバンと意思の疎通を図り、治療をする。
 馬たちの足が傷だらけになったり、口けんかのあとエイラがクレバスに落下したりの苦労をしながら氷河をわたってジョンダラーの父、ダラナーの洞窟へ立ち寄る。その後は、いよいよゼランドニー族
簇へ。  (下)

 暴力からは、もっとひどい暴力と憎しみを生み出す。罪を犯したエパドアは罰ではなく償いをするべきだ
 少し用心をするのは悪いことじゃない。けど、相手がいい面を見せる機会を与えずに、その相手を悪人だと判断しちゃいけない
 正式な儀式を受けずに処女を失うと、その娘は・・・あまりいい噂をされない。

エイラは待望の、ジョンダラーの子を身ごもった。そしてジョンダラーの故郷へやっとたどりついた。しかも、そこはエイラの夢にいつも出てきた洞窟、はるかな遠い土地から困難を乗り越えて初めてたどり着いたはずなのに、「エイラの故郷でもある?」それってどういうこと?


故郷の岩屋


ジーン・アウル

白石 朗 訳

ホーム社



2006/2/7

 これまで一部から四部までは、評論社の訳で読んでいたものをもう一度、集英社の訳で読み直す形できたが、待ちに待ったここからは初めて接する内容なのでワクワクしながら読み始める。
 まず、著者による長い謝辞があったが、最初は読む気が起こらず飛ばした。ところが、本文を読み終わったときには、謝辞の部分もすんなりと頭に入ってきた。この作品を書くために膨大な研究論文や実地調査、助言が必要だったのが察せられたからだ。実際に調査されている、豊かで広大なロージェリー・オート洞窟を、著者はゼランドニー族〈九の洞〉と名づけてエイラの世界の舞台とした。

 二人と二頭と一匹は、長い旅を終えてやっとジョンダラーの故郷へやってきた。ジョンダラーのゼランドニー族に迎え入れてもらえるかどうかがエイラの試練。
 ここは、今まで出合った簇とちがって規模が大きい。大勢の人に紹介され、エイラ自身の生い立ちも、ジョンダラーとの出会いも、動物たちとの関係なども、皆に紹介する形で簡潔に繰り返され、おさらいしていく感じだった。好意的な人が多いのでまずは安心できた。
 エイラは美しいだけでなく、知恵があり賢く、また火起こし石や投槍機、動物を従えるなど、人に驚かれつつ受け容れられた。そうしながら人についての観察や、大きな岩屋の住まいの描写、心理学的考察、旧人と現生人類との違いなど、エイラの思考を通じて考えさせてくれる。
 
 旅が終ったので、ストーリーには今までのような大きな変化はないけれど、この時代の人々の日常の暮らしが目に浮かぶように細かいことまで描写してあって、石器時代のこととは思えない豊かな暮らしぶりが感じられる。

 ただ、まだ上しか読んでいないという限定付き感想だけど、「12年も待たされたのに、何の展開もないこれだけかい?」というのが正直なところ。
 


故郷の岩屋


ジーン・アウル

白石 朗 訳

ホーム社




2006/3/19
 読んでの感想ではなく、まず表紙絵について文句を言いたい。エイラが可愛くない、ジョンダラーが中年のおっさん風。金髪で完璧な美男子じゃなかったっけ?絵を描いているのは宇野亜喜良さん、今、日経新聞夕刊の連載小説の挿画を描いていてステキな絵もあるのに。

 印象に残ったのは女神の物語。ゼランドニが節をつけて歌う女神の物語は、天地創造とあらゆる生命の誕生、創造主が誰なのか記憶にとどめ、崇める気持ちを持つ知性の誕生と発達などすばらしい内容だ。女神があふれる乳を息子に与えたとき、熱い乳が大空に道筋をつくったという部分は、ギリシャ神話にあるミルキーウェイ(天の川)だなと思って私のホームページタイトルでもあり、ひとり嬉しくなった。

 神聖な洞穴の奥深くには、マンモス、馬、トナカイなどの生き生きとした動物の絵が描かれ、才能を持った絵描きが存在するなど芸術が生まれてきた様子がうかがわれる。
 人によって才能が異なり、個人の技術に値打ちが出て、他の物と交換する分業化が始まりかけている。このようにして始まったのだろうか。

 埋葬の儀式はすごいし、ソノーランを通して魂について考えたり、大掛かりな夏のつどいに行く様子や、数字のつく他の洞についての説明で納得したり、母親たちの様子、それらとゼランドニー族周辺の地形をみて私たちと変わらない生活者としての石器時代人が浮き上がってくる。

 夏のつどいの場所でエイラが方解石の結晶の純白の洞穴を発見する。これは、何を意味するのだろう。
 


故郷の岩屋


ジーン・アウル


白石 朗 訳



ホーム社






2006/4/3

 旅の間ずっと楽しみにしていた<縁結びの儀>が夏のつどいで行われる。決まりごとがたくさんあって、行動も拘束されたり、事前に本人と母親が集められて、女性としての心構えなどが教えられたり、厳かな儀式の様子はすばらしい。ゼランドニによる心構えなどの大事な話の場面は、性教育のテキストとしてもいいだろう。
 名前と絆が述べられる個人の紹介は長いが好ましい。
ゼランドニー族〈九の洞〉のエイラ、もとはマムトィ族のエィラ、ラィオン籏の一員にして〈マンモスの炉辺〉の娘、ケーブ・ライオンの霊に選ばれし者にして洞穴熊の霊に守られし者、ウィニーとレーサーという二頭の馬の友にして、四本足の狩人ウルフの友

 毛犀を狩ろうとして大怪我をした若者を助けたり、ウルフがオオカミに襲われ瀕死の状態で帰ってきたのを手当てする様子は、またもや人々を驚かせた。

 〈夏のつどい〉が終って、皆はそれぞれの洞へ帰って冬に備える。冬は、皮を処理したり、服をつくったり、装飾をしたり、手わざを覚えたり、手わざを磨いたり、若者を教育したりして過ごす。
 細かい作業の様子や手順は、アウルさんが洞穴で生活をしてみたり、作業もやってきたからここまでリアルに再現できるのだろう。研究の深さがしのばれる。

 エイラは女の子を出産した。
ゼランドニはエイラをゼランドニの一員へと誘う。

 氏族にいて、クレブと霊の世界へ入った時のことが何度も出てくる。今いる洞穴の姿もそのときにエイラは見ていた。後の私たちは、氏族が滅びていく種族だと知っているから、未来へ飛ぼうとしてクレブがエイラについていけない所があったのもわかるのだけど、あの霊界の様子はものすごく意味のある場面だったのだと今は感じる。これからのエイラを暗示していたのだな、と。




聖なる洞窟の地

The Land of Painted Caves

ジーン・アウル
Jean M Auel

白石 朗 訳
ホーム社


2017/10/29
2013/4/30 発行
 第一部
 ジョンダラーの故郷に、ともに帰ったエイラの一年後、また夏の集いの季節がめぐってきたところから
話が始まる。
 生まれた女の子はジョネイラと名付けられた。いつもエイラに抱っこされている。まだ母乳を飲んでいるし、少しはハイハイができる。

 夏のつどいへ行くとき、三の洞と九の洞を合わせた250人もの大集団で移動した。
 いつものことだが、三頭の馬と狼をつれた家族は注目される。

 夏のつどいでは、「初床の儀」や「縁結びの儀」が行われる。儀式では大ゼランドニが「女神の歌」を歌う。

 エイラの住む九の洞以外の洞穴の話がいろいろ出てくる
。語り部の話には、人を愛したウルフをモデルにした物語も語られた。
 
 新しく見つかった洞穴を見に行く。「女神の聖なる隠世(かくりよ)」に追加されるかもしれない、と。
 
 夏の集いで、彼らの精神的指導者であるゼランドニとなるために必要な知識を学ぶエイラの姿が、今までの物語の回想や、今に残る洞窟の壁画や遺蹟などを材料に描かれてゆく。


 繰り返しが多く、変化が少ないので少し退屈な巻だ。


聖なる洞窟の地

The Land of Painted Caves

ジーン・アウル
Jean M Auel

白石 朗 訳
ホーム社


2017/10/29
2013/4/30 発行
 ゼランドニになるべく、修練を続けるエイラの物語が続く。

 3万年前の石器時代ではあるが、彼らは十分な食べ物を得、生活を維持し、子孫を増やしてゆく。
道具を作る者がいて、酒を造る者がいる。そこでは一種の分業が行われるほど、豊かな生活をしていた。
手に入る限りのものを工夫し、新たな物を作り出してゆく。


 第二部
 4年後。
 夏のつどいに出かける。
 そこから又エイラがゼランドニになる修行の為、「ドニエの旅」にでかける。各地にある聖地を訪ねてまわる。
 一の洞   四の洞   七の洞(知らずに馬を狩ろうとした若者の地)
 七の洞の聖地は黒鳥の丘、ゼランドニから効き目の強い飲み物を提供され、それを分けてもらう。
 三の洞では、最古の聖地を見る。

 洞穴に描かれている動物たちの説明が多いので、いささか読み疲れる。

女神の歌の最後の詩ーー「召命」の時賜る(下巻)
 女神の最後の賜物は 男にも役割があるという知識。
新たな命を芽吹かせるには、男の欲望が満たされなくてはならぬ。
男女がつがえば、それこそ女神を嘉すること。
なぜなら女が身ごもるは、歓びをわかちあうときなれば。
 大地の子らは祝福をうけた。これで女神は安らげる。



聖なる洞窟の地

The Land of Painted Caves


ジーン・アウル
Jean M Auel


白石 朗 訳


ホーム社


2017/10/29
2013/4/30 発行
 ジョネイラもすくすく育って、もう6歳!

 遠方の人々からもらった「麻薬」らしきものを、エイラがゼランドニとなる修行・天体観測の最中に誤飲してしまい、召命(暴走とトランス状態)聖なる泉ケ巌の深窟で<女神の歌>に新たな箴言・最終節を賜るエイラ。しかし女神の賜物へ支払う代償は高く、身籠った子を召されてしまう。
 「召命」で賜った箴言をゼランドニアに伝え、巫女(ゼランドニ)に昇華する。
 
 ところが、遅れて駆けつけた「夏のつどい」でジョンダラーの不倫を目撃。 メチャメチャ無軌道にお酒に酔い、他の男といるとき、ジョンダラーが嫉妬に駆られ相手の男を殺しかける。他の人々から羨望されるエイラとジョンダラーを憎む者がもたらす災い。マローナの毒はジョンダラーを籠絡し、エイラを「嫉妬」の毒で狂わせる。ララマー・ブルケヴァル・マドロマンと、エイラに悪意持つ3人も絡み再びすれ違い、互いに自身を責めるエイラとジョンダラー。ここは、メロドラマだ。

 危険な儀式で、氏族の時の「根」を不安定な状態で使ったために、彼女の霊は暗黒世界に彷徨うことになる。少しだけ飲んだ大ゼランドニは我に返りエイラを助けようとするがわからない。
 以前にも経験したマムート族のダヌーヴがエイラを冥界から連れ戻せるのはジョンダラーしかいないと探して連れてくる。こうしなければ二人の仲は戻らないのかなあ?エイラは他の人の気持ちにはすごく洞察力があるのに、なんで肝心の相手には変な思い込みするのだろう。

 何度も繰り返し出てきた「女神の歌」の最後の詩、これが、このテーマだった。

 テーマは、子どもがどうやって芽吹くのか、ということ。その概念が知識の賜物。
そしてとうとう、男の精髄が体内に放出された時ということが確信となり、大巫女の口から人びとに告げられる。
 「父親、それは子どもをもっている男に与えられる呼び名です。新しい命の芽吹きには男の存在が
 欠かせません。たしかに男は体内で赤ん坊を育てもしませんし、赤ん坊を産むことも、乳をのませる
 こともできませんが、母親に一歩もひけをとらないほど子どもを愛することはできます。
 子をもつ男は"遠い母親(ファー・マザー)"、すなわち父親(ファーザー)。です」

 子どもの誕生に男性がどうかかわるかを知れば どうなるのか、人類はこうやって少しずつ変化していったのかな。

 このテーマだから、こども用に翻訳したのではいけなかったのだろう。それでも途中までは、命の大切さや古代の人の暮らしなど、また動物を慣らしていくところなど、子どもが喜ぶ内容なのでそれなりにまとめたらいいと思うのだけど。



アリューシャン黙示録
    スー・ハリソン

1950年、ミシガン生まれ。作家。レイク・シューピリア州立大学卒業。
アリュート語など六つの先住アメリカ人の言語に加え、考古学、人類学、地理学を学び、
十余年を費やして三部作を書き上げた。全米でミリオンセラーを記録。世界十四か国で出版される。


母なる台地 父なる空 上 下
スー・ハリソン 著
河島 弘美 訳
晶文社
紀元前七千年、氷河時代のアリューシャン列島。
大波が押し寄せ、火山がとどろく極北の地。
第一等族の娘、<黒曜石>は、短身族に村を襲われ、小さい赤ん坊とたった2人、生き残ります。
そして、<黒曜石>は生きてゆくために、赤ん坊を守るために、
死に絶えた村を後にし、ラッコの精霊に導かれ小さなカヤックで海へと旅だちます。
黒髪をなびかせながら進む彼女のゆくてに、やがてクジラの彫像をもつ謎の老人が…。


姉なる月  上 下
スー・ハリソン 著
行方 昭夫 訳
晶文社

運命の定めた結婚は少女〈誰〉を父の虐待から救うが、彼女が真に愛するのは夫の兄〈ナイフ〉であった。別れの夜、二人は深く結ばれるが、やがて〈誰〉は他部族へ身を売られる…。

兄なる風  上 下
スー・ハリソン 著
河島 弘美 訳
行方 昭夫 訳
晶文社
第3部のヒロインは、「誰」。セイウチ狩り族の「大鴉」の妻になることで、「ナイフ」を守るシーンから始まります。第3部は、「誰」と「ナイフ」の純愛物語と言えるのです。
 「誰」や「ナイフ」が属する「第一等族」、「セイウチ狩り族」、「クジラ狩り族」について、代わる代わる語られて物語りは進みます。初めのうちは全然別個のお話ですが、次第に「誰」と「ナイフ」を軸に一つの物語に寄り合わされていきます。。「誰」を支えていたのは、「ナイフ」への愛と、双子の「第一」と「第二」への思いでした。不幸の元となる「大鴉」や「哀しみ」、「レミングの尾」は、いずれも悲惨な最期を遂げ、薄幸の「若いケワタガモ」や「誰」が愛する相手と結ばれて。太古に飢えと隣り合わせの厳しい環境(なんといっても寒いアリューシャン列島が舞台ですから)で、一生懸命一族のために生きる人々の姿は、混じりけなしに感動的です。


その他の文献

人類進化の神話 N・エルドリッジ I・タッターソル
ヒトの進化 新しい考え ロジャー・レウイン
太古の呼び声 ジャック・ロンドン
ネアンデルタール
ネアンデルタール人が、まだ現代に生息している!?人類学者の失踪を巡る謎を追跡する。
ジョーン・ダートン 嶋田洋一 訳 ソニー・マガジンズ
ネアンデルタールの悩み ウイリアム・オールマン 堀瑞絵 訳 青山出版社
ネアンデルタールの謎 ジェームズ・シュリーヴ 名谷一郎 訳
ネアンデルタール人とは誰か クリストファー・ストリンガー  クライヴ・ギャンブル 土屋京子 訳 朝日新聞社
2万5千年の夜明け マーク・カンター 土屋京子 訳 講談社
人類の隠された起源 マイクル・A・クレモ リチャード・L・トンプソン 吉岡晶子 訳 翔泳社
進化の傷あと 
   身体が語る人類の起源
エレイン・モーガン
ルーシーの膝 イヴ・コパン 馬場悠男 奈良貴文 訳
イヴの7人の娘たち ブライアン・サイクス 大野晶子 ソニー・マガジンズ
ネアンデルタール・ミッション 
 発掘から復活へ フィールドからの挑戦
赤沢威(たける) 岩波書店
ネアンデルタール・パララックス ロバート・J・ソウヤー 内田昌之 訳 ハヤカワ文庫
アダムの旅 スペンサー・ウェルズ 和泉 裕子 basilico


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