海外ミステリー

背景の緑色は父の所有書


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修道女フェデルマの洞察
Hemlock at vespers 
and other stories 

ピーター・トレメイン
Peter Tremayne

甲斐 萬里江 訳

創元推理文庫



2022/6/3
2010/6/25 発行
著者ーーー1943年英国生まれ。本名はピーター・ベレスフォード・エリス。ケルト関係の学術書を数多く著し、学会の会長や理事もつとめる著名なケルト学者でもある。また小説家としても精力的に活動しており、ピーター・トレメイン名義の代表作《修道女フィデルマ・シリーズ》をはじめ、ホラーやファンタジー、ピーター・マッカラン名義のスリラーなどを刊行している。

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 法廷弁護士にして裁判官の資格を持つ美貌の修道女フィデルマが解き明かす事件の数々。宴の主人の死の謎を探る「毒殺への誘い」、殺人犯にされた修道士を弁護する「まどろみの中の殺人」、競馬場での殺人を扱う「名馬の死」、孤島での修道女の不可解な死を調べる「奇蹟ゆえの死」、キルデアの聖ブリジッド修道院での事件を解く「晩祷の毒人参」の5編。日本オリジナル短編集第2弾。(Bookデータベース)

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空白の時
THE EMPTY HOURS
エド・マクベイン
Ed McBain
井上 一夫 訳

ハヤカワ・ミステリ文庫



2021/4/18
昭和54/1/10 発行
著者ーーーエド・マクベイン(Ed McBain、1926年10月15日 - 2005年7月6日)は、アメリカの推理小説作家。 エヴァン・ハンター(Evan Hunter)など別ペンネームが多数ある。代表作に「87分署シリーズ」「ホープ弁護士シリーズ」がある。 1986年にアメリカ探偵作家クラブ・巨匠賞、1998年に英国推理作家協会・ダイヤモンド・ダガー賞を受賞している。

  
87分署シリーズ』(はちじゅうななぶんしょシリーズ、87th precinct)は、エド・マクベイン(エヴァン・ハンター)が書いた警察小説のシリーズ。多数の作品がある人気シリーズで、現在までに数多くの映像化がされてきた。1956年に「警官嫌い」が出版され、約50年にわたってシリーズは続いた。警察の捜査活動から登場人物の私生活にいたるまでをなるべくリアルに描く「警察小説 」(police story)というジャンルを確立した作品とされている。

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 都会は女だ。目を覚ましたときから、新しい一日におずおずと手をさしのべる女だ。最初、その扼殺された女を見たとき誰もが黒人だと思った。浴室以外には満足な居間もないアパートの絨毯の上に、仰向けに転がっていた。だが、その女は二つの銀行に六万ドル以上もの預金を持っていたのだ。安アパートに住みながら信じられぬほどの高額の預金。殺された女の正体は、また犯人は・・・・・・・・?

 上記の表題作をはじめ、ダイイング・メッセージの名編「J 」と犯人の意外性を秘めた「雪山の殺人」の三編を収録するシリーズ初の珠玉中編集!(Bookデータベース)

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 87分署シリーズ、他には「警官嫌い


シルフ警視と宇宙の謎
Schilf

ユーリ・ツェー
Juli Zeh

浅井晶子 訳



2021/2/22
2009/8/20 発行
 著者ーーーツェー,ユーリーー1974年ドイツ・ボン生まれ。『鷲と天使』(2001)『ゲームへの衝動』(2004)ほか著書多数。現代ドイツを代表する作家であり、ドイツ文学賞、ヘルダーリン奨励賞、カール・アメリー文学賞など数々の著名文学賞を受賞    
 物理学者ゼバスティアンは、提唱する「多世界解釈」理論をめぐって論争の渦中にあった。彼を鋭く批判していたのは、学生時代からの親友で天才物理学者のオスカー。親友との摩擦は、ゼバスティアンの望むところではないのだが…。ある時、テレビの科学番組でオスカーと激しく議論を戦わせた翌日、ゼバスティアンの息子リアムが誘拐される。犯人と思しき人物からの要求は、医療スキャンダルの秘密を握ると噂される妻の同僚を殺害することだった。息子を救うためゼバスティアンは要求に従うことを決意する。だがなぜ、ゼバスティアンが選ばれたのか?天才警視シルフの捜査は、事件の悲劇的な真相を明らかにしていく。ドイツ文学界の新星が放つ哲学的ミステリ。 (Bookデータベース)

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 「ミステリと哲学と文学の絶妙な融合」らしいのだが、何度も読むのをやめようと思った。解説を読んだら、もう少し読んでみようかとなり、最後まできたが、そうきたかと。オーウェルの本まで出てきた。
 う〜〜ん、時間をかけて言葉をじっくり解釈するべきだったか。


盗まれたフェルメール
A Private View
マイケル・イネス
Michael Innes
福森典子 訳

論創社



2021/2/11
2018/2/20 発行
著者ーーー906-1994 本名ジョン・イネス・マッキントッシュ・スチュワート。 スコットランド、エディンバラ生まれ。 オックスフォード大学卒。「学長の死」で作家としてデビュー。 1954年刊行の短編集“Appleby Talking"が〈クイーンの定員〉に選出される。 ミステリー以外にも本名で普通小説を書き、〈オックスフォード5部作〉などの作品がある。

 殺された画家、盗まれた絵画。フェルメールの絵をめぐり展開するサスペンスとアクション!スコットランドヤード警視監アプルビィが事件を追う!

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 謎の死を遂げた画家の内覧会で、アプルビイ夫妻は絵画の盗難事件に遭遇する。『学長の死』で活躍した若きアプルビイは警視監になっている。警視監ともあろう人が、まさかの単独行動。アプルビイのちょっと迂闊すぎるような動きと、夫人の貴婦人らしからぬ動きが愉快だが、そこへ行くまでの話の進み方が、途中でやめようかと思うほど、私には合わなかった。面白いシリーズらしいという解説に釣られて読み進んだのが本音。作者は文学者なのでイギリスの古典の一節がたびたび出てきて、わからないながらも勉強(?)できたかな。


ハリー・クバート事件
ジョエル・ディケール
Joel Dicker
橘 明美 訳



2020/1/21
2014/7/31 発行
 ディケール,ジョエルーーー1985年ジュネーブ生まれ。ジュネーブ大学で法律を学ぶ。2005年の短編で、ローザンヌの若い作家のための国際文学賞を受賞。2010年に第一長編で、ジュネーブ作家協会賞を受賞。2012年には『ハリー・クバート事件』で高校生が選ぶゴンクール賞、アカデミー・フランセーズ賞などを受賞

 デビュー作が大ヒットして一躍ベストセラー作家となった新人マーカスは第2作の執筆に行き詰まっていた。そんなとき、頼りにしていた大学の恩師で国民的作家のハリー・クバートが、少女殺害事件の容疑者となる。33年前の失踪した美少女ノラの白骨死体が彼の家の庭から発見されたのだ!マーカスは、師の無実を証明すべく事件について調べはじめる。(上)

ハリー・クバートの代表作『悪の起源』は、34歳のハリーと15歳の少女ノラの愛を下敷きにしていた! 少女殺しの嫌疑をかけられたハリーの無実を証明すべく青年作家マーカスは独自の調査をもとに『ハリー・クバート事件』を書き上げ、再びベストセラー作家となったが……。次々に判明する新事実、どんでん返しに継ぐどんでん返し……。(下)

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 欧州でダン・ブラウンの『インフェルノ』を ベストセラー・リストから引きずり下ろした傑作。といわれる。全欧州で200万部のメガセラーとなった若きスイス人作家ディケールの傑作ミステリ。

 とても読みやすかった。コレは原作が良かったのか、翻訳がうまかったのか。


ボーンズ
Break no Bones
命の残骸が放つ真実

キャシー・ライクス
Kathy Leichs
山本 やよい 訳
イースト・プレス



2019/11/25
2009/10/16 発行

ネイティブ・アメリカンの古い埋葬地の発掘にあたっていたテンペは、そこにはあるはずのない、数年前のものと思われる白骨化した遺体を発見した。当地の検視官で古くからの友人エマとともに、テンペはその事件の捜査に関わることになる。間もなく、近辺の森から首吊り死体、水中からはドラム缶に詰められた死体と、つぎつぎに不審な死体が発見される。テンペはそれらの死体の骨に共通する不可解な傷があることに気づき、一連の事件につながりがあるのではないかと疑いはじめる。やがて、首吊り死体で発見された男性の死因が、自殺を装った他殺であったことが判明。そしてその私立探偵の男が生前に調べていた事柄から、ある謎が浮かび上がってきたー。

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  テレビドラマで楽しんでいるので、原作が読みたくなった。
 ドラマとは違うのは当たり前だが、ドラマの方がわかりよいし、面白い。
 


カササギ殺人事件
MAGPIE MURDERS
上・下

アンソニー・ホロヴィッツ
Anthony Horowitz
山田 蘭 訳

創元推理文庫



2019/9/29
2018/9/28 発行
著者ーーーイギリスの小説家、推理・サスペンスドラマの脚本家。ヤングアダルト向けの代表作に「ダイヤモンド・ブラザーズ」、「女王陛下の少年スパイ! アレックス」、"The Power of Five" など。一般小説の代表作に"Mindgame" (2001年)、シャーロック・ホームズシリーズの『絹の家』(2011年)、『モリアーティ』(2014年)など。イアン・フレミング財団からジェームズ・ボンドシリーズの新作『007 逆襲のトリガー』(原題:Trigger Mortis )の著者に選ばれた。ITVの『名探偵ポワロ』や『バーナビー警部』などのテレビドラマの脚本も手広く手掛けており、他にも『刑事フォイル』や"Collision""Injustice" の筆頭脚本家を務めるとともに製作から携わっている。 (wikipedia)

 1955年7月、サマセット州にあるパイ屋敷の家政婦の葬儀が、しめやかに執りおこなわれた。鍵のかかった屋敷の階段の下で倒れていた彼女は、掃除機のコードに足を引っかけたのか、あるいは…。その死は、小さな村の人間関係に少しずつひびを入れていく。余命わずかな名探偵アティカス・ピュントの推理は―。アガサ・クリスティへの愛に満ちた完璧なるオマージュ・ミステリ! (上)

 名探偵アティカス・ピュント・シリーズ最新刊『カササギ殺人事件』の原稿を読み進めた編集者のわたしは激怒する。こんなに腹立たしいことってある? 著者は何を考えているの? 著者に連絡がとれずに憤りを募らせるわたしを待っていたのは、予想だにしない事態だった――。クラシカルな犯人当てミステリと英国の出版業界ミステリが交錯し、とてつもない仕掛けが炸裂する! (下)

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 私の好きな「刑事フォイル」の脚本を手がけていたとは。
 作中作品の「カササギ殺人事件」だけでも充分面白かったが、それを包む大きなミステリーという複雑な仕組みになっていて、解説を読んでなるほどと思ったり、そこまで凝らなくてもいいのにと思ったりもしたが、ミステリー論もたっぷり含まれていて楽しめた。作家はこんなに工夫をしているというのが面白かった。

 作中作品も、本体も、自分では犯人がわからなかった。


サルガッソーの広い海
Wide Sargasso Sea

ジーン・リース
Jean Rhys

小沢 瑞穂 訳

みすず書房



2019/2/26

1998/11/16 発行
 著者ーーーJean Rhys,1890年8月24日-1979年5月14日)は、イギリスの小説家。イギリス領ドミニカ出身のクレオール(父はウェールズ人、母はスコットランド人)で、本名はエラ・グウェンドレン・リース・ウィリアムズ(Ella Gwendolen Rees Williams)という。
 16歳から本国で教育を受けるべくイギリスへ渡るが、植民地育ちという疎外感から学校でなじめなかった。ほどなく実家は没落し、彼女はコーラスガールとして生活するようになった。やがて彼女はパリへ流れていき、多くのボヘミアン的芸術家らの中で暮らすようになる。この頃の貧窮した暮らしが、のちの作品『カルテット』に表れている。
 リースが作品を出版したのは1920年代から1930年代にかけてである。一度結婚したが、夫が第一次世界大戦中に行方が知れなくなり、食べていくためにペンを取った。その後30年以上沈黙を守り、1966年に出版された『広い藻の海』(日本語訳では『サルガッソーの広い海』というタイトルのものも出ている)で初めて注目を浴びた。『ジェーン・エア』に登場する精神障害者の、前半生を語る異色の小説で、後に映画化された。これをきっかけに、過去の作品群が再出版された。 (Wikipedia)より

 奴隷制廃止後の英領ジャマイカ。土地の黒人たちから「白いゴキブリ」と蔑まれるアントワネットは、イギリスから来た若者と結婚する。しかし、異なる文化に心を引き裂かれ、やがて精神の安定を失っていく。植民地に生きる人間の生の葛藤を浮き彫りにした愛と狂気の物語
 三十年の時を経て、劇的な復活を遂げた『早過ぎた作家』リースの代表作。(Bookデータベース)

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   「世界の終わりの天文台」の著者が、ジーン・リースへのオマージュとしてあったので、今まで知らなかったが読んでみようと思った。

 サルガッソー海はキューバ、ドミニカ、プエルトリコ諸島の東側、北大西洋の一部の海域を指す。本書の舞台はその反対側のカリブ海域であるが、積み重ねられていく不遇の果ての、不条理、状況の膠着状態を象徴して「粘りつくサルガッソー」といわれる、たくさんの船の難破や行方不明の多いこの地域の名前を使ったようだ。
 読むのは少ししんどい。

 「ジェーン・エア」を読んでいないので、読んでみるべきか?

 こんな感想を見つけた。どうか?ーーーポスコロのおかげでまた有名になっている。が、文学作品としてはまったくの駄作である。単にポスコロで有名なだけ。「ジェイン・エア」のほうが遥かに面白い。政治的に正しくても文学作品はダメなものはダメといういい例である

 


13番目の物語
The Thirteenth Tale


ダイアン・セッターフィールド 
Diane Setterfield


鈴木 彩織 訳





2017/10/10

2008/8/25 発行
 著者ーー英国ヨークシャーのハロゲート在住。19〜20世紀のフランス文学の専門家で、とくにアンドレ・ジッドの研究者。
 イギリスとフランスの大学で教鞭をとったあと、個人でフランス語を教える。
 作家のジム・グレイスに才能を見いだされ、本書で衝撃的レビューを果たす。

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 古書店で本に埋もれて働く目立たない「わたし」に、一通の手紙が届いた。
 差出人は、プライベートのすべてが謎に包まれた有名女流作家。手紙は、「私」を磁石のようにひきつけて離さなかった。
 なぜなら、自分についてのすべてを「わたし」に語るというのだ。 手紙に導かれた先は、作家が孤独に住まうヨークシャーの屋敷。
 そこで語られ始めたのは、驚くべき未完の物語だった・・・・・・・(上)

 著名なベストセラー作家でありながら、本当の姿を明かすことなく生きてきたヴァイダ。
 古書店を手伝いながら小さな伝記物を書いて静かに暮らしていたマーガレット。
 ふたりがひとつの作品に取り組んだとき、とてつもない「真実の物語」が産声をあげた。
 守り抜かれた秘密、禁じられた遊び、決して揃わないカード・・・・・(下)

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 何層にもなっていて複雑だったが、不思議な魅力があって一気に読み終えた。

 父から「なぜヴァイダ・ウインターの本を読むのか」と聞かれたマーガレットが考えたこと
 「わたしが読むのは古い小説ばかりだ。理由はかんたんだ。型どおりの終わり方が好きなのだ。結婚に、死に、気高い犠牲に、奇跡の復活。涙の別れに、思いがけない再会。転落に、夢の成就。わたしに言わせれば、そういった要素があってこそ最後まで読みとおす価値がある。冒険、危険、脅威、窮地というお膳立てが用意され、最後には突風が吹いてすべてがきれいに収束する。そういった結末を迎える作品は、最近のものよりも、昔の小説のほうが数が多い。だから、わたしは古い小説を読む」・・・・なるほど。


アジアン・カフェ事件簿 1
プーアール茶で謎解きを

オヴィディア・ユウ
森嶋 マリ 訳
コージーブックス



2017/07/18
2015/10/20 発行
著者ーーシンガポールの人気作家。医科大学を中途退学したのち、舞台用の脚本を書き始め、以降、30作品以上がシンガポール、マレーシア、オーストラリア、イギリス、アメリカで上演されている。

 シンガポールで名物カフェを営むアンティ・リーは、知りたがり屋で情深い裕福な老婦人。観光地セントーサ島の浜辺に打ち上げられた女性の遺体が知人のローラとわかると、メイドが止めるのも聞かず、探偵さながらの捜査を開始。死んだローラになりすまして、メールを送ってきたのはいったい誰なのか?長年、地元でたくさんの客と接してきた、人柄を見抜く達人アンティ・リーの目が鋭く光る!香辛料がぴりりと利いた伝統料理に色鮮やかなスイーツ―アンティ・リーが心をこめて作る料理は体を温め、癒しながら、食べる人の心にすっと沁みていく。そんな料理さながら、滋味豊かな推理がじわりと真犯人を追い詰める! (Bookデータベース)

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 シンガポールが舞台で、出てくる人物の人種もいろいろらしいので、スムーズにイメージができなかった。慣れていないせいか。
 内容は、可もなく不可もなし。


書店主フィクリーのものがたり
The Storied Life of A.J.Fikry

ガブリエル・ゼヴィン 
Gabrile Zevin
小尾 芙佐 訳

早川書房


2017/4/2
2015/10/20 発行
 その書店は島で唯一の、小さな書店―偏屈な店主のフィクリーは、くる日もくる日も、一人で本を売っていた。かつては愛する妻と二人で売っていた。いつまでもそうすると思っていた。しかし、彼女は事故で逝き、いまはただ一人。ある日、所蔵していたエドガー・アラン・ポーの稀覯本が盗まれる。売れば大金になるはずだった財産の本が。もう、なにもない、自分にはなにも。それでもフィクリーは本を売る。そしてその日、書店の中にぽつんと置かれていたのは―いたいけな幼児の女の子だった。彼女の名前はマヤ。自分も一人、この子も一人。フィクリーは彼女を独りで育てる決意をする。マヤを育てる手助けをしようと、島の人たちが店にやってくる。婦人たちは頻繁にマヤの様子を見に訪れるし、あまり本を読まなかった警察署長も本を紹介してくれと気にかけて来てくれる。みなが本を読み、買い、語り合う。本好きになったマヤはすくすくと成長し…人は孤島ではない。本はそれぞれのたいせつな世界。これは本が人と人とをつなげる優しい物語。(Bookデータベース)

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 構成が上手い。出てきた人物に無駄がなく、伏線はあとで関わってくる。結果を先に見せているがその原因が後からわかる仕掛け。
 悪人がいないので読後感もいい。
 マヤにあてたメモを見ながら、半ばまで来たら「あれ、なんでこんなものを書き残すの?もしかして亡くなってしまうの?」と気になりながら後半を読む。

 いろんな本が紹介されていたので、すべてを読めていたらもっと物語を楽しめただろうと思った。今からでもこの書店主のおすすめを読んでみてもいいかもしれない。


その女アレックス
ALEX
ピエール・ルメートル
Pierre Lemaitre
橘 明美 訳
文春文庫



2016/11/26
2014/9/10 発行
「週刊文春2014年ミステリーベスト10」堂々1位! 「ミステリが読みたい! 」「IN POCKET文庫翻訳ミステリー」でも1位。イギリス推理作家協会賞受賞作。

おまえが死ぬのを見たい―男はそう言ってアレックスを監禁した。檻に幽閉され、衰弱した彼女は、死を目前に脱出を図るが…しかし、ここまでは序章にすぎない。孤独な女アレックスの壮絶なる秘密が明かされるや、物語は大逆転を繰り返し、最後に待ち受ける慟哭と驚愕へと突進するのだ。(Bookデータベース)

 「この作品を読み終えた人々は、プロットについて語る際に他の作品以上に慎重になる。それはネタバレを恐れてというよりも、自分が何かこれまでとは違う読書体験をしたと感じ、その体験の機会を他の読者から奪ってはならないと思うからのようだ」(「訳者あとがき」より)。

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「悲しみのイレーヌ」のほうから読んだほうがいいかも・・・・らしい。カミーユの絶望と再生の二部作(連作)イレーヌを読むと、カミーユの同僚の性格もよりはっきりとつかむことができるらしい。

 日本人の作家の書いたものとは違って、違和感を感じるなあ。訳者のあとがきにあるほどすごい作品とは思えない。外人作家にはよくあるストーリーに思える。

 作者の作為的意図によって誘拐された可哀想な女性として第一部では印象付けられる。
 第二部になると、この女性は只者ではなさそうだとなる。
 作者がデータを出し惜しみすれば読者を簡単に騙せるので、これはずるい。
 


チャイルド44
上・下
Child44

トム・ロブ・スミス
Tom Rob Smith

田口 俊樹 訳

新潮文庫



2016/8/21

平成20/9/1 発行
著者ーーー1979年、ロンドン生まれ。英国人の父とスウェーデン人の母を持つ。2001年、ケンブリッジ大学英文学科を首席で卒業。在学当時から映画・TVドラマの脚本を手掛ける。処女小説「チャイルド44」は観光年前から世界的注目を浴びたのち、08年度、CWA賞最優秀スパイ・冒険・スリラー賞を受賞。

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 この国家は連続殺人の存在を認めない。ゆえに犯人は自由に殺しつづける――。スターリン体制下のソ連。国家保安省の敏腕捜査官レオ・デミドフは、あるスパイ容疑者の拘束に成功する。だが、この機に乗じた狡猾な副官の計略にはまり、 妻ともども片田舎の民警へと追放される。そこで発見された惨殺体の状況は、かつて彼が事故と遺族を説得した少年の遺体に酷似していた……。ソ連に実在した 大量殺人犯に着想を得て、世界を震撼させた超新星の鮮烈なデビュー作! (上)

 少年少女が際限なく殺されてゆく。どの遺体にも共通の“しるし”を残して―。知的障害者、窃盗犯、レイプ犯と、国家から不要と断じられた者たちがそれぞれ の容疑者として捕縛され、いとも簡単に処刑される。国家の威信とは?組織の規律とは?個人の尊厳とは?そして家族の絆とは?葛藤を封じ込め、愛する者たち のすべてを危険にさらしながら、レオは真犯人に肉迫してゆく。CWA賞受賞。(下)

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 スターリン体制下のソ連での悲惨な民衆の暮らしや常に密告される危険がある社会、取り締まる国家側の残虐性がこれでもかと書かれ、読んでて辛くなる。こんな時代と場所に生まれなくてよかったなあ。

 夫婦、親子について掘り下げて考えたり、上司と部下、友人、同僚の関係をあぶりだしたり、それらからいろいろと考えさせられる。
 不思議な魅力を持った作品だった。

 映画にもなっている。


プラド美術館の師
EL maestro del Prad

ハビエル・シエラ
Javier Sierra

八重樫克彦・八重樫由貴子 訳

ナチュラルスピリット


2016/5/9
2015/11/11 発行

 著者ーーー1971年、スペイン・テルエル生まれの作家・ジャーナリスト・研究家。マドリード・コンプルテンセ大学でジャーナリズム、情報科学を専攻。長年、月刊誌 『科学を超えて』の編集長を務め、現在は同誌の顧問をしている。1998年『青い衣の女』で小説家デビュー。2004年に出版された『最後の晩餐の暗号』 が英訳され、2006年3月に『ニューヨーク・タイムズ』紙のベストセラー第6位になったことで国際的にも注目される。現在、最も多くの言語に翻訳されて いるスペイン人作家のひとりである

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 かつてこのような絵画の見方があっただろうか?絵を通して霊的世界へと誘う!
見事な手法と解釈で名画に隠されているメッセージを読み解く。
そして、驚くべき結末が待っていた……。
「絵は霊的な世界への扉だといったのを覚えているか?」
約40点の名画を掲載!

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 キリスト教にも聖書にも縁のないものには、なじみが薄い。基礎知識がないから、画期的な発想なんだか、常識なんだかもわからない。
 
 プラド美術館長が言うように、絵画へいざない、作品の背景や歴史を知ることにより、絵画への興味も関心も深まることだろう。


マジック・サークル
THE MAGIC CIRCLE



キャサリン・ネヴィル
Katherine Neville



大瀧 啓裕 訳



学習研究社





2016/3/5


平成15/9/30 発行
 通俗小説の天才キャサリン・ネヴィルの「マジック・サークル」は、ネロ、アレクサンダー大王、ナポレオン、ヒットラーと歴代の成り上がり君主たちがこぞって求めた聖秘宝のナゾが、とある大富豪家族の確執に隠されていた、という伝奇ロマンス。壮大すぎるスケール、真っ赤なウソと知りつつ半分本気になってしまう陰謀論、複雑怪奇な家系図など、誘惑的なナゾに満ち満ちていてやめられない。(小谷真理)−−−という新聞の紹介記事を見て読みたくなったもの。

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 スケールが大きすぎるというかデータ量が多すぎて面白かったけど消化不良の状態。
 以下に訳者の解説の助けを借りよう。

 謎の死をとげた従兄。その従兄から遺贈されるという謎の文書。主人公が従兄の死を謎の文書に結びつけるや、それまで読者を油断させていたユーモラスな筆致に緊張がみなぎるとともに、カー・チェイスや雪崩が矢継ぎ早に起こって物語に勢いがつく。既にこの段階で、シビュラとイェスが物語にどうかかわるのかという大きな疑間に、従兄の謎の死と謎の文書がくわわって、謎が謎を呼んでいるにひとしい。主人公は謎の解明を目指すが、部分的な解答は新たな謎をもたらす。この疾風怒濤のクリフハンガーは、ひきもきらない謎の提示をエンジンとして、軽快な筆致で語りっがれるのである。

 物語が進展するにつれ、文書が聖遺物にかかわるものであると知れるが、作者の周到な遠近法はイエスの時代をはるかにさかのぼり、神話と歴史が混清する世界にまで行きつく。古くはギリシアやチュートンの神々、ソロモン、アレクサンドロス大王、チンギス・ハーン、テンプル騎士団、そして現代にいたって、カスパー・ハゥザー、ヒトラー、 ニコライ・レーリヒ、ァレスター・クロゥリイ、グルジィエフ、さらにはニコラ・テスラにまで詳しくふれられるのだから、ここまで大風呂敷を広げてどうするつもりなのかと不安になるほどだが、作者は二重の構造をもちこむ離れ業をおこなって見事にしめくくった。

 文書の謎があるいは明かされ、あるいは新たな謎を重ねるなか、主人公の家系について意外な事意の暴露がつづくため、作者の計算づくの語り口によって、読者の注意は揺れ動く。

 しかし文脈をたどる作業が身についていないと、本書最大の仕掛けである、もう一つの構造は見いだせないかもしれない。作者は最終章で何を描いているのか。見かけにあざむかれず、この疑間を読み解いたとき、本書全体が主人公のイニシエイションを描いたものであることが判然とする。

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 私には読み取れていないのかなあ。


ペナンブラ氏の24時間書店

Mr.Penumbra’s 24‐Hour Bookstore

ロビン・スローン
Robin Sloan

島村 浩子 訳

東京創元社




2015/5/28

2014/4/25 発行
スローン,ロビン
作家。ミシガン州出身。ミシガン州立大学卒業後、ジャーナリスト養成学校やテレビ局等で働く。2004年には情報社会の未来を予想したFlashムービー 「EPIC2014」を共同製作して話題を呼んだ。2012年、Webで発表した作品をもとにした『ペナンブラ氏の24時間書店』で作家デビュー

   *   *   *

 失業中の青年クレイが、ふとしたきっかけから働くことになった“ミスター・ペナンブラの二十四時間書店”は変わった店だった。まったく繁盛していないのに 店名どおり24時間営業で、梯子付きの高い高い棚には、存在しないはずの本(Google検索にもひっかからない!)がぎっしり詰まっているのだ。どうや ら暗号で書かれているらしいそれらの本の解読に、クレイは友人たちの力を借りて挑むが、それは500年越しの謎を解き明かす旅の始まりだった

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 読み始めてもすぐには熱中できなくて、これはファンタジーかな、SFかな、ミステリーかな?と不思議な気がしながら、読み進んだ。

 バストを世界一キレイに再現できるソフトウェア会社のCEOである友人や、Google社員である彼女と共に冒険に出かける。Google内での調査、必要な器具はDIYで作り、作り方はネットに残っている。足りない材料についてもネット上でお願いをして貸してくれる 人を探す。現実世界では知られていないが、ネット上で有名な人に貸してもらう。少し前の時代だったらあり得ない物語。

 500年前の稀覯本の謎を現代のハイテクで挑む。謎の解明にPCをフル活用する為IT用語がバンバン出て来る。ITの苦手な人には読みにくいかもしれない。
 現実にあるGoogleではないと思われるが、でもありかもと思わされて楽しい。
 


無垢なる骨 
The Innocents
リチャード・バリー  
Richard Barre
広瀬 順弘 訳



2014/10/23
1996/6/20 発行
 事故で息子を失い、すさんだ生活を送っていた私立探偵ハーデスティ。彼の元に仕事が舞い込んだのは、カリフォルニアの砂漠で七体の子供の白骨死体が発見された直後のことだった。死体のひとつが息子のものと知った父親が、事件の鍵を握る男を捜すよう求めてきたのだ。ハーデスティは調査を始めるが、思わぬ妨害が・・・・・・・・。

        *****************
 殺人と宗教、目的が善であれば、それを達成するためにどんな手段を用いても許されるかーーこれがバリーの作品のテーマという。
 募金活動みたいな大きな行事のための血の生贄ーーー狂信的な新興宗教が関わっていた。

 日本人には、なじみの薄い教会の募金活動や養子縁組が関係する物語だった。殺人の犯人は、いかにもそれらしい人物ではなかった。
 


異常気象売ります
ARE YOU AFRAID 
Of THE DARK?

シドニイ・シェルダン
SIDNEY SHELDON

天馬 龍行 超訳

アカデミー出版



2014/9/11

2006/11/1 発行
 気象を人為的にコントロールする可能性について言及しているのが本書だ。世界的に多発する異常気象の原因、それは科学者チームが開発した気象コントロールする技術だった。この技術の利権を巡って引き起こされる陰謀劇。世界中のあちこちで同時多発的に事故死する科学者たち。極貧の中からスターの座を勝ち 取る美女。美女を射留める醜悪な小男。渦巻く金欲と権力欲。
 巨悪に立ち向かう女性二人組の運命は?

   *********************

 アカデミー出版の英語学習教材「イングリッシュ・アドベンチャー」に小説を提供している。
 超訳とは、天馬龍行(アカデミー出版社長・益子のペンネーム)が考案した翻訳法で、作者が何を言おうとしているのかを主眼にして、読者が読みやすいよう自然に訳す、という概念の翻訳法だそうだが、あまり好きになれないので今までは避けてきた。

 ストーリーは展開が早くて退屈はしないが、あらすじの出来事を読んだだけの様な感じで、深見はない。原作は面白いが日本語になると、三流小説。


警官嫌い
COP HANTER
87分署シリーズ
エド・マクベイン
ED McBein

井上 一夫 訳
ハヤカワ・ミステリ文庫



2014/3/10
昭和51/4/30 発行
 夏の夜の大都会ーーーまばゆい照明のかげに、街があり、夜空の下でうごめく、暗い生活があった・・・・・・・・・。
 その夜、市警の87分署の刑事マイク・リアダンは、分署から三丁離れたくらい歩道で、二発の銃声に顔半分を吹き飛ばされ即死した ! 87分署づめの刑事15人は無残な死体を見て声もなかった。マイクはいい人間だったのだ。憤怒に燃え上がった彼らは、犯人検挙に全力をそそいだ。だが、警官殺しの犠牲者はつぎつぎと生まれていった・・・・・・・!
 大都会の喧騒の裏に隠された犯罪を執拗に追いつめ、探偵小説に新分野をひらく〈87分署シリーズ〉第一弾 !

      **********************

 ミステリーの中に「警察小説」という一つの分野を確立した。
87分署を書くというのは、ニューヨークを描くことにつながる。


  他に「空白の時」(87分署シリーズ)


偽りの名画
A Deceptive Clarity

アーロン・エルキンズ
Aaron Elkins

秋津 知子 訳





2013/12/7

1991/7/31 発行
美術館学芸員クリス・ノーグレンを探偵役とするシリーズ第一作。

エルキンズは、自分の書くミステリーはまず肩のこらないエンターテインメントであることと、読み終わったとき、知らぬ間にある特定の分野について物知りになっているような作品にしたいという。この作品では、名画や、贋作についてや、学芸員についてなども知る事ができた。

 主人公は、サンフランシスコ郡立美術館に勤めて5年になる34歳の学芸員で、気さくなナイスガイ。どこにでもいそうなふつうの人。権威には程遠く、他人からなかなか学芸員に見てもらえないのが悩みの種という人物。語り口にはユーモアがあって、ときに読者に語りかけたり、挑戦したり、自分の言動を弁護したり、皮肉な感想をもらしたり、読んでいて思わずにやりとさせられる。
 泥沼の離婚交渉中の様子も、まるで悲喜劇。

 大戦中、ナチスに掠奪され、米軍の手で取り戻された名画の展覧会を手伝うためにベルリンの米軍基地に派遣されて、出品作の中の贋作をめぐる事件に巻き込まれる。
 上司は殺され、自分も殺されかけたり、その犯人探しや、どれが贋作かを捜す仕掛けもあり、薀蓄もたっぷりあって、名画の一つ一つに映像がほしいところだ。そうすれば、絵の説明がより分かるのに。

 フェルメール、ティツィアーノ、ルーベンス、グレコ ほか

 他に 「古い骨」 「氷の眠り」


真夜中の滑降
NIGHTWORK

アーウィン・ショー
Irwin Shaw

中野 圭二 訳



2013/11/27

昭和60/5/20 発行
 人生にはいつ転機が訪れるか分からない。もとパイロット、今はニューヨークの冴えないホテルの夜勤係ダグラスは、ひょんなことから10万ドルを着服してしまった。ところが、それを元手にヨーロッパで新たな生活を営む決意をしたものの、金の入ったスーツケースをスイスの空港で紛失するはめに。
 奔走した末ようやく探し当てたスーツケースを持つのは中年紳士のギャンブラー。この出会いによって、ダグラスは未知の華麗な世界へと誘われていく・・・・・・・。
 ヨーロッパ各地を舞台に、奇妙な友情で結ばれた二人の心優しき男の生きざまを瀟洒に綴る。

    ***************

 いかにもアメリカらしい、ハリウッド映画のようなストーリー展開。次々とテンポが早く状況が変わっていく、場面もヨーロッパに広がる。
 フェビアンというのが、魅力のある人物なので、どんどんストーリーが進んでいく。

 スキーをする場面やテニスの場面が出てくる。活字では気分がよくわからないが、もし映画なら、さぞかしきれいな雪景色などがあるのだろう。

 タイトルが何故、滑降なのかがよくわからないけど・・・・・。
 最後に10万ドルを回収しに来たのは、誰だったのかな・・・政府関係者?財閥?飛ばし読みしたところにヒントがあったのかも。(早く結末を知りたくて、飛ばし読みしてしまった)


グッドナイト、アイリーン
Goodnight Irene

ジャン・バーク
Jan Burke

渋谷 比佐子 訳



2013/11/26 

1994/4/30 発行
著者 ジャン・バークは、1953年テキサス生まれ。カリフォルニア州立大学卒業。
カリフォルニア州シール・ビーチに夫とともに住み、アイリーンシリーズを既に3冊書いている。

タイトルに使われている『ヅッドナイト・アイリーン』は、黒人のフォークシンガー、レッドベリーの作った古い曲で、50年代にフォーク・グループ、ザ・ウィーヴァーズで大ヒット。

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 「グッドナイト、アイリーン」これが、アイリーンがオコーナーのから聞いた最後の言葉だった。そして次の日の朝、彼女はオコーナーの死を知らされた。カリフォルニアの地元新聞紙記者だったアイリーンが、社を止めたのは2年前。だが、敬愛する先輩記者オコーナーが自宅に爆弾を仕掛けられて殺されるや、事件究明のため復社を決意する。どうやら、彼の死には、35年前の殺人事件が絡んでいるらしい。ところが、調査を始めた彼女の身には次々と危機が・・・・・・・・・。シリーズ第1作。

     *****************

 読みやすく、面白かった。
 地下水にフッ素が多く含まれている場合、子供のとき影響を受けると歯にシミができるそうだ。


氷の眠り
Icy Clutches
アーロン・エルキンズ
Aaron Elkins
嵯峨 静江 訳
ハヤカワ文庫




2013/10/20
2010/4/27
1993/2/20 発行
 著者ーーー1935年ニューヨーク州ブルックリン生まれ。ハンター・カレッジで人類学の学士号を、アリゾナ大学で同修士号を取得している。その後博士号を取らないまま、ウイスコンシン大学を退学し、専攻を変えてカリフォルニア大学ロサンゼルス校で心理学の修士号を取り、続く数年間はアメリカの各地で教壇に立った。作家でビューは1982年。
 ギデオン・オリヴァー・シリーズの他に美術界の内側を描くミステリ・シリーズもある。
       ********
アラスカの氷河で発見された一片の人骨から、意外な事実が判明した。30年前に遭難したとされていた調査隊は、実は殺されていたのだ。
 骨の鑑定にあたったギデオン・オリヴァー教授は、「FBI捜査官のジョン・ロウとともに事件の再調査を開始した。だが、その直後に新たな殺人が・・・・・・。厳寒の地で深まっていく謎にスケルトン探偵が挑むシリーズの第5弾。

    *************

 人類学者を探偵役に持ってくるだけでもユニークだが、毎回、世界のさまざまな土地にギデオンが出かけていくのが面白い。「呪い!」のユカタン半島のマヤ遺跡、「断崖の骨」のイギリスの片田舎、「古い骨」のモン・サン・ミシェル、「暗い森」のワシントン州オリンピック国立公園など。

 あらいやだ、再読だった。

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   他には 「古い骨」 「偽りの名画」


古い骨
Old bones
アーロン・エルキンズ
Aaron Elkins
青木 久恵 訳
ハヤカワ文庫


2013/10/17
1989/1/10 発行
 レジスタンスの英雄だった老富豪が、北フランスの館に親族を呼び寄せた矢先に事故死した。数日後、館では第二次大戦中のものと思われる切断された人骨が見つかり、さらに親族の一人が毒で・・・・・・。
 現在と過去の殺人を解き明かす、スケルトン探偵ギデオン・オリヴァー教授の本格的推理ーーーーアメリカ探偵作家クラブ最優秀長編賞受賞の傑作

        *************

 スケルトン探偵とは、一片の白骨から性別、年齢、身体的特徴までも探り当ててしまうところから主人公につけられた異名。40そこそこのスポーツマンで、ユーモアの感覚にあふれた魅力的な人類学者。

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  他には 「氷の眠り」 「偽りの名画」


帰ってきたミス・メルヴィル
Miss Melvill Returns
イーヴリン・E・スミス
Evelyn E Smith
長野 きよみ訳
ハヤカワ文庫


2013/10/15
1989/8/15 発行
 ニューヨークの画廊でデビューしたての新進画家が麻薬の打ち過ぎで死んだ。警察は事故と断定したが、続いて画廊のオーナーが殺されて事件は思わぬ方向へ・・・・・・・。
 殺し屋から足を洗って画家として名を成したのもつかの間、美術界の黒い陰謀に巻き込まれ、ミス・メルヴィルは素人探偵に!お嬢様育ちの愛すべきオールド・ミスが活躍する人気シリーズ第2弾。

    *************

 この作品は、画廊や美術評論家、ファッションデザイナー、ヌードパフォーマンスをおこなう前衛芸術家、フィットネスクラブの経営をめざす体育教師など、現代の先端的人種を登場させ、本筋の殺人と麻薬密輸事件の進展にからませている。こうした時代風俗と古めかしいともいえるミス・メルヴィルとの対比が醸し出すミスマッチが、このシリーズの持ち味。
 中年の独身女性が現代の大都会を生きるむずかしさを、物静かで上品なミス・メルヴィルに殺し屋などという意表をついた職業をあたえて、ユーモラスに描いている。
 代理人として出てくるジル・ターケル、計算高く、ドライで直截的なキャリアウーマンタイプは、古風なミス・メルヴィルと対照的。(訳者あとがきより)

    ***************

 


ミス・メルヴィルの後悔
Miss Melville Regrets
イーヴリン・E・スミス
Evelyn E Smith
長野 きよみ訳
ハヤカワ文庫



2013/10/12
1989/3/10 発行
著者ーーー1927年ニューヨーク生まれ。クーパー・ユニオンと美術学生連盟で学び、美術に造詣が深い。雑誌の編集長、クロスワード・パズルの出題者として活躍し た。1950年代から雑誌にSFの短篇を発表しはじめ、デルフィン・C・ライアンズ名義のものも含めて多くの長篇がある。1986年に初めてのミステリで ある『ミス・メルヴィルの後悔』を発表し、好評を博した

         *********

名家の生まれだが貧乏暮らしのミス・メルヴィルは、突然唯一の収入源である美術教師の職を失ってしまった。これでは生活していけないーーー彼女は自殺を決意した。ところが・・・・・・・・ひょんなめぐり合わせでフリーの殺し屋にとらばーゆしてしまったオールド・ミスの危険な仕事の数々を、現代ニューヨークを舞台に描くシリーズ第1弾。

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 名家の人たちのつながりや交際の状況は、知らない世界なので興味深かった。そんな世界に、正規に料金を払わないで入り込んで料理を食べる、パーティもぐりがあることを知っておかしかった。
 
 パーティで、こっそりもぐりこんで、ターゲットを射殺し、こっそり立ち去るのがミス・メルヴィル。あまり存在感がなく、いたのかいなかったのか人の記憶に残りにくいから殺人者に向いているというのが、面白い。


暁の死線
Deadlin At Dawn

ウイリアム・アイリッシュ
William Irish

稲葉 明雄 訳

創元推理文庫



2013/10/10

1969/4/25 発行
 故郷に背を向けて、大都会ニューヨークの虜となったダンサー稼業の女性の前に、突然姿を現した風来坊青年。彼は奇しくも女と同じ故郷、おなじ町の出身、すぐ隣の家の子であった。その青年が、いま殺人の嫌疑に問われているという。潔白を証明するための時間はあとわずか五時間しか残されていない。深夜のニューヨークを舞台に、孤独な若い二人がくりひろげる犯罪捜査ドラマ。

     ***************

 若い二人が、死体のそばで、ポケットの中を調べたり、部屋の様子を調べたりして殺人の手がかりを推理して、犯人の可能性は、男が一人と女が一人とわかる。二人で手分けしてわずかな手がかりから犯人を追いかける。
 思い違いで、まったく別人を追いかけていたりもしたが、犯人にたどり着く。そして危機にもあう。
 朝一番のふるさとへのバスに乗れなければ二度と帰れないと思い込んで・・・・。

 いわゆるタイムリミットサスペンス。

 死体のそばで手がかりを物色するのは、非常に不思議だった。


富豪の災難
The Silver Ghost

シャーロット・マクラウド
Charlotte Macleod

片岡 しのぶ 訳

扶桑社ミステリー





2013/10/8

1991/3/28 発行
著者ーーーカナダ生まれの女流作家。セーラ・ケリングを主人公とするこのシリーズは8作目。他にシャンディ教授を主人公としたシリーズもある。

       ****

 ビリングスゲート家の貴重なロールス・ロイスのクラシック・カー・コレクションのうちの一台が忽然と消えてしまった。
 極秘の捜査を頼まれた探偵夫婦セーラとマックスは、依頼主が主催するルネサンス風野外パーティに招待客として潜り込み、調査を始めた。ところが、パーティの最中にまたしても名車が消えてしまった。それも完全に諦め切った車庫の中から。さらに、マロニエの樹に吊るされた死体も見つかり、富豪の家は大騒ぎ。全編にちりばめられた謎解きの醍醐味。ケーラ・セリング・シリーズ第8作。

    ***************:

 登場人物がおおくて、みんなが一族で、読んでいて混乱する。
 原題は、The Silver Ghost、夢の車、これが盗まれたのだ。
 ルネサンス風野外パーティだから、皆は仮装している。映画にすれば面白そうだ。予備知識がないので、人の名前や単語の意味など、括弧の中の説明がなければわからない。説明を見てもわからないものもあるが、著者はお茶目というか面白い人らしいので、よく読めばそれらしさを感じられたかも。

 父の本だが、父には翻訳物は楽しめたのかなあ?


ジョン・ブルの誇り
French Ordinary Murder

レイ・ハリスン
Ray Harrison

高田 憲子 訳

創元推理文庫



2013/10/5
1991/4/19 発行
 1980年晩秋。例のごとく深い霧のたちこめたロンドンの高架下で、その夜、一人の男が殺害された。状況からして追いはぎによる犯行のの線は消えたが、ではなぜ、かくも平凡な一市民がこのような最期を迎えたのか?
 被害者の未亡人を訪ねた市警察のブラッグ部長刑事は、相手の窮状に接して真相究明を心に誓ったが・・・・・・・。
 華やかなミュージックホールからうらびれた木賃宿まで、あのシャーロック・ホームズが闊歩した世紀末ロンドンを舞台に、たたきあげの硬骨漢ブラッグと貴族出身の新米巡査モートンが活躍する時代ミステリの新シリーズ、第一弾。

     *******************

 犯人が横領した現金から一束がなかった。それは刑事部長のポケットの中。そしてそのお金は被害者の未亡人へ。
 いいのかなあ、それって。気持ちはわかるけど。


目は嘘をつく
Trick of the eye

ジェイン・スタントン・ヒッチコック
Jane Stanton Hitchcock

猪俣 美江子 訳

ハヤカワ文庫






2013/8/21

1994/6/20 発行
主人公は、ニューヨークに住む39歳の独身女性、フェイス・クロウェル。騙し絵ーー目の錯覚を利用した装飾的な絵画ーーを専門に描く画家。
 ある日、有名な大富豪の未亡人で美術品のコレクターとしても知られるフランシス・グリフィンに仕事を依頼される。グリフィン家の屋敷〈ザ・ヘイブン>の舞踏室に壁画を描くことだ。そこは、15年前に、一人娘カッサンドラが惨殺された屋敷だった。犯人は未だ不明。被害者カッサンドラはフェイスとそっくりだ。ミセス・グリフィンはなぜこの仕事を依頼したのか・・・・・・・・。

      ************

 婦人の依頼の不思議、誰が犯人かという謎、それらが気になるが一気に読んでしまうというのではなかった。
 読んでいると他の事を連想したり、人生について考えてみたり、自分のことを考えてみたりしてしまうのだ。
 気になった言葉がある「彼女(ミセス・グリフィン)は、人生を生きるより、収集することに日々を費やしてきたかのようだった。そして山ほどの所有物の中に自分を生きながら葬ったのだ」
「ミセスは情熱のかわりに贅沢品で、感情のかわりに所有物で人生を満たそうとしてきたのだ」
たくさんの贅沢なものに囲まれているだけでは幸せではないのネエ。

 カッサンドラの夫が犯人だったように思えたり、思い通りに育たなかった娘を愛せなかった母親が殺したのか、父親が殺したのか・・・・・・。
 グリフィンは、フェイスを娘の変わりにしようとした。何年もかけて。

 著者は、一枚の騙し絵を描きたかった、つまり読者が自分でミステリを解いているような気分になれる作品、だという。テーマは錯覚。
 本書は殺人事件の謎解き以上に、作品の仕掛け、次々と意表をついてくる展開が魅力ーーーということだが、ミステリ作品でならふつうではないかな。


もの言えぬ証人
DUMB WITNESS

アガサ・クリスティー
Agatha Christie

加島 祥造 訳




2013/8/15

昭和52/2/25 発行
 70歳を越した老嬢エミリイが死んで、巨額の遺産の全部が、大勢の親族をさしおき、一介の家政婦に贈られた。彼女の死から二ヶ月ほどたったある日、一通の手紙がエルキュール・ポアロのもとに届いた。差出人はエミリイ。彼女の死の半月以上も前に書かれたものだった。しかもそこには、彼女自身がやがて殺されることを予感するかのような内容が・・・・・・・・。
 老嬢の死と手紙との不思議な暗合に興味を抱いたポアロは、調査に乗り出したが関係者は虚偽の証言しかしない。難事件に苦吟するポアロ。彼を見つめる、もの言えぬ証人、白いテリアの秘密とは?(裏表紙の紹介より)

    **************

 ヘイスティングズはポアロの友人、語り手。ホームズのワトソン博士に相当する?

 さすがはアガサ・クリスティ、安定している。
 読み進んでも、ポアロのようには推理できなかったな。


終わりなき負債
Payment Deferred
C・S・フォレスター
C・S・Forester
村上 和久 訳
小学館





2013/7/12 再読
2004/7/12
2004/1/20 発行
1926年
 海洋冒険小説「ホーンブロワー・シリーズ」で世界的人気を得た作者が放つ異色ミステリ。
 生活に追われる銀行員マーブル氏はある日、海外での事業に成功した甥の訪問を受ける。彼の財産に惑わされ、甥の金を詐取したマーブル氏は、その金で自分 の理想とする生活を築き上げようとするが……。  
 30年代のミステリ勃興期に、犯罪小説の分野でリアルな人間像を創造し、ジュリアン・シモンズやドロシー・セイヤーズなどの絶賛を浴びた長編。英米ミス テリ・ベストに輝く名作の本邦初訳、 作家としての彼の出世作であるミステリの紹介は、今回が初めてである。

    ***************

 金のために甥を殺した、マーブルの罪悪感と不安が、彼を自滅に追い込む物語。この手の話につきものの、脅迫者も 存在しないところがユニークで、犯罪の事実を知るものも、マーブルを愛する妻一人のみ。あ くまで、自分の内心の不安感のみが、マーブルを追いつめる。
 
 人は悪いことをしたまま、平気ではいられないモノなんだなあ。
 1926年という昔にもかかわらず、このようなミステリーが書かれていたというのは驚きだと解説にあった。
 
 再読だったことに最後まで気づかなくて、ショック!


撃たれると痛い
SHOT

パーネル・ホール
Parnell Hall

田中 一江 訳

ハヤカワ文庫




2013/6/4
1995/6/20 発行
 恋人の誠意を確かめてほしいーーーメリッサと名乗る、地味で気弱な中年女性の依頼は、たやすい仕事に見えた。予想通り、当の男と若い美女の密会現場をつきとめ、一件落着。と思いきや、その直後に男が他殺体で発見され、メリッサに殺人の容疑がかけられた。納得のいかないわたしは、密かに真相を探り始める。が、その矢先、このわたしが、何者かに撃たれてしまうとは!  ひかえめ探偵が絶体絶命の危機に立ち向かう第7作。

     *******************
 
 ひかえめっていうか頼りないというか、人がいい探偵に魅力を感じて読む人がいるからシリーズ化しているんだなあ。わたしは、人物像に魅力を感じられなかったので、ごちゃごちゃした感じがして、面白くなかった。
 


二人で探偵を
Partners in crime
アガサ・クリスティ
Agasa Christie
一ノ瀬 直二 訳
創元推理文庫




2013/5/31
1972/1/21 発行
トミーとタッペンス・コンビの短編集。
「過去10年間に発行された推理小説を残らず読破している」と豪語する二人が、ミステリ史上の名探偵の推理法を模して、事件解決に当たろうという、いささかパロディめいた作品集とのこと(解説より)
 数々の名探偵が登場するし、もじってある元の作品と照らしてニヤリとするところに妙味があるのだが、読み手が詳しくないとせっかくの試みのよさがわからない。もったいないことだ。

 シャーロック・ホームズ
 ソーンダイク博士
 G・K・チェスタトンのブラウン神父 他多数、


アリシア故郷に帰る
Last Seen Alive

ドロシー・シンプソン
Dorothy Simpson

佐々田 雅子 訳

サンケイ文庫




2013/5/30

昭和62/5/10 発行
ドロシー・シンプソン
1933年生まれ。英国ケント州メイドストン在住。〈サニット警部とラインハム部長刑事〉シリーズ7作のうち、5作目の本書で1985年度英国推理作家協会のシルバー、ダガー賞を受賞した。

          *

 英国ケント州の田園都市スチュレンドンがダイアナ妃訪問に沸いた日に、町のホテル〈ブラック・スワン〉で女性が殺された。彼女の名はアリシアーーー20年前、美しく快活な彼女は地元の中等学校(グラマースクール)の「女王」だった。その彼女が20年ぶりに帰郷したとたん、殺されてしまったのだ。なぜ?
 スチュレンドン警察のサニット警部とラインハム部長刑事が彼女の空白の20年と死に隠された真実をさぐる、1985年英国推理作家協会シルバー・ダガー賞受賞作!

    ****************

 


重要証人
Prime Wintness

スティーヴ・マルティニ
Steve Martini

白石 朗 訳

集英社文庫





2013/4/15

1994/6/25 発行

 カリフォルニア州プタ・クリーク周辺で、連続二重殺人事件が発生した。犠牲者は、まず大学生のカップルふた組、そして大学教授とその前妻。いずれも、残虐きわまる方法で殺されていた。この事件を担当することになったのが、臨時の地区首席検事であるポール・マドリアニである。
 マドリアニは、かつては一流の法律事務所に所属する弁護士だった。それが、ある殺人事件とそれにつづくセンセーショナルな裁判をきっかけに(その詳細は、前述の『情況証拠』に描かれている)、いまは個人で弁護士事務所を開業している。弁護士の彼が敵方ともいえる検事職についたのは、旧友で、病に倒れた首席検事から懇願されたからだった。しかしこの旧友は、連続殺人事件の解決を見ることなく世を去ってしまう。かくして事件解決の重責は、マドリアニひとりの肩にのしかかることになった。判事たちや地元政治家たちからはさまざまな圧力がかかり、お膝もとの検事局内部にも敵がいる四面楚歌の状況で、マドリアニは数すくない仲間の協力を得ながら、事件解決に力をつくしていた。
 捜査の結果、容疑者が特定された。事件は解決するかに思えた。だが、それから思いもよらぬ事態がつぎつぎ発生して、マドリアニはいやというほど翻弄されることになる。そして、白熱した法廷論戦の果てにあばきだされた、意外きわまる事件の真相とは?(訳者あとがきより)

   J・グリシャム絶賛の法廷サスペンス、ということだが、飛ばし読みしてしまった。
 なにがしんどいかって、まわりに登場する人たちをしっかりと書き込んである部分で、読んでおかないと先になって係わってくるかもしれないと思うものの、日本人とアメリカ人の感覚の違いか、説明がしんどかった。
 なぜあんなにくどく説明されるのか、重要人物だったのだな。
 アメリカって、重要ポストについている人間が、これほどひどいのかと驚きでもあった。主人公はすばらしい人物だと思うけど。


長いお別れ
The Long Goodbye
レイモンド・チャンドラー

ハヤカワミステリ文庫


2013/3/25
1976/04  発行

 コーヒーをつぎ、タバコに火をつけてくれたら、あとはぼくについてすべてを忘れてくれ一妻を殺したと告白して死んだテリー・レノックスからの手紙にはそう書かれていた。彼の無実を信じ逃亡を助けた私立探偵マーロウには、心の残る結末だった。だが、別の依頼でデリーの隣人の失踪の理由を探るうち、マーロウは再度事件の渦中へと……ハ−ドボイルドの巨匠が瑞々しい文体と非情な視線で男の友情を描きだす畢生の傑作。

  *****************

 ハードボイルドなら、チャンドラーを抜きにしては語れない。それほどの人なのに初めて読んだ。
 う〜〜ん、そんなに凄いのか??
 
 文章が素晴らしいらしいのだが、英文がわからなくて翻訳でしか読めないので、素晴らしさが半分しかわからないのだろう。
 粋な言い回しや、男性ならしびれるセリフがあるのだな。有名な言葉もあるのだ。


物的証拠
Physical Evidence

トーマス・ノグチ &
アーサー・ライアンズ

Thomas T.Noguchi、M.D.
Arthur Lyons

北條 元子 訳

扶桑社ミステリー







2013/2/10

1991/11/28 発行
 エリック・パーカーは、法医学調査会社を開業する元検死官。仕事一筋の性格が災いして離婚の憂き目にあうが、有名女優の恋人を持ち、女子学生にも人気の異色売れっ子法医学者である。
 ある日、美人弁護士に、彼女の母親の死因調査を依頼される。母親の死体は、怪しげな人体冷凍術で頭部を切断され、現在も冷凍されているという。
 この奇妙なケースに興味をそそられ、パーカーは調査を開始する。科学者として決して推定はせず、物証に基づいた見解だけを述べるパーカーだが、謎は謎を呼び、彼自身の身にも危険が迫る。(裏表紙より)

    ********************
 Thomas T.Noguchi,M.D −−− 元ロスアンジェルス・カウンティ主席検死官。マリリン・モンロー、シャロン・テート、ロバート・ケネディなどの検死を手がけたことで有名。本書は二作目。

 Arthur Lyons −−− ジェイコブ・アッシュで著名なミステリー作家。

   *****************

 訳者あとがきによれば、著者自身、著名人の検死を手がけているので、作品中の人物が大活躍をしても”作り事”と言う気がしなくて面白いし、医者でなければ書けないミステリーだと。
 わが国でも、前東京都監察医務院長・上野正彦氏による検死を扱った読み物があるとも言う。”死”の原因を第三者が冷静に、科学的に解明してくれると言うのが心強い、と。
 死んで、物体と化してしまった人間が、その死因をぜひとも解明してほしいと、体中で訴える。医師は、それを解明してやる義務がある。−−−それが死んだ者の人権を守るのが法医学者の務めなのだーーーーーと。
 今までの日本の一般人の感覚では、無残に殺された者を切り刻むのは惨いと思っていた。これは、眼からうろこだった。

 上野氏以外に、西丸氏などの法医学物も読んだし、TVでも見てきて、私は科学で謎を解明するのが好きだと思う。
 


魔術師

イリュージョニスト
The Vanished Man

ジェフリー・ディーヴァー
Jeffery Deaver

池田 真紀子 訳

文芸春秋





2013/2/5

2004/10/15 発行
ニューヨークの名門音楽学校で殺人事件が発生。犯人は人質を取ってリサイタルホールに立てこもる。駆けつけた警官隊が包囲し出入り□を封鎖するなか、ホールの中から銃声が聞こえてきた。ドアを破って踏み込む警官隊。だが犯人の姿はない。
人質もいない。ホールは空っぽだった……。衆人環視のなかで犯人が消えるという怪事件の発生に、科学捜査専門家リンカーン・ライムと鑑識課警官のアメリア・サックスは、犯人はマジックの修業経験があることを察知して、イリュージョニスト見習いの女性に協力を要請する。奇術のタネを見破れば次の殺人を阻止できる。しかし、超一流イリュージョニストの゛魔術師"は、早変わり脱出劇などの手法を駆使して次々と恐ろしい殺人を重ねていく一一一一。
[デヴ1ツド・カッパーフィールドとハンニバル・レクターを合わせたような]犯人を登場させ、「これまでの作品のなかで最高の゛どんでん返し度"を誇る」と著者が豪語する、イリュージョンのようなミステリ。

    *******************

著者紹介    ジェフリー・ディーヴァー    Jeffery Deaver
1950年シカゴ生まれ。父はコピーライター、母は専業主婦。妹はヤングアダルト小説家。11歳のとき初めての本を書く。ミズーリ大学でジャーナリズムを専攻、雑誌記者となる。その後、法廷記者になるためにニューヨークのフォーダム大学口−スクール(夜間)で学
位を取るも、路線変更して、ウォ一ルストリートの大手の法律事務所で弁護士として数年間働く。そのころ、長い通勤時間を利用して小説を書き始め、40歳にしてフルタイムの小説家となる。
主な作品に、〈リンカーン・ライム〉シリ一ズの「ボーン・コレクター」「コフィン・ダンサー」「エンプティー・チェア」「石の猿」(以上、文芸春秋、*は文春文庫もあり)のほか、「悪魔の涙」「青い虚空」(以上、文春文庫)、「眠れぬイヴのために」「静寂の叫び」「汚れた街のシンデレラ」「死を誘うロケ地」(以上、ハヤカワ・ミステリ文庫)などがある。

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 誤導というのか、騙されまくってしまう。
 イリュージョニストというのは、すごい!どういう頭の構造なんだろうと、ただただ驚く。
 活躍する女性巡査の活躍が気持ちいい。


心理学的にありえない
EMPATH(Y)

アダム・ファウワー
Adam Fawer

矢口 誠 訳

文芸春秋



2012/8/16

2011/9/15 発行
人の微細な表情から心理を読み取る才能を持つ心理アナリスト、イライジャ。聴衆に圧倒的な感動を与える天才ヴァイオリニスト、ウインター。接点のない二人は、いま、巨大な陰謀に巻き込まれた。
 破滅の時へ向けて、カウントダウンは着々と進んでいく。計画を阻止しようとする男女、ラズロとダリアン。そして奇怪なカリスマを発揮するカルト教祖ヴァレンティス。
 イライジャとウインターから奪われた銀のネックレス。突如として発現する特殊能力。すべての源流は二人の過去にあるーーーー(上)

 政府の秘密機関が運営する「学校」に収容されたイライジャトウインター。二人は人の心を読み取り、あやつる特殊能力の持ち主、エンパスだった。その能力を利用すべく、二人は徐々に洗脳されてゆく。
 かつて「学校」で何が起きたのか?いかなる悲劇が「学校」の子らを見舞ったのかーーーいま世界を襲おうとしている邪悪な計画の発端はそこにある。銀のネックレスの正体は?ヴァレンティヌスの究極の目的は?そして破滅は?(下)

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 キリスト教もローマ法王も関係のない人間が読むと、なんだかなあ〜  と思える。
 たとえ教皇が死んだって世界は終わらないのにーーーー。
心理を読んだり、相手を操るために心理を投射する行為は面白いと思ったが、この世の破滅への切羽詰まった感じは、共有できなかった。

 前作「数学的にありえない」の方が、面白かったかもしれない。


報復
Retribution
ジリアン・ホフマン
Jilliane Hoffman
吉田 利子 訳
ヴィレッジブックス


2012/7/16
2004/11/20 発行
太陽の街フロリダは、キューピッドに怯えていたーーーーそれは若い金髪美人ばかりを狙い、何日も被害者をいたぶったあげく、生きたまま心臓をえぐり出して殺す連続殺人鬼の名だ。捜査は難航したものの、偶然、キューピッドが捕らえられる。やり手と評判の女性検事補、C・Jが担当することになったが、法廷で犯人の声を聞いた彼女は慄然とした。それは今なお悪夢の中で響く、12年前に自分を執拗にレイプした道化師のマスクの男の声だった!
この男を無罪放免にしてはならないーーーー恐怖に震えながらも固く心に誓うC・Jだったが、次々と検察側に不利な事実が発覚しはじめ・・・・・・・・。

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 始まりは、レイプシーンだったので読んでいくのは気持ちのいい物ではなかったが、過去を乗り越え検事補となり、凶悪犯罪と闘っているヒロインを応援しながら、どんどん読み進み、とまらなくなった。
 訳者の紹介では、、法廷もので、サスペンス・スリラーで、警察小説で、しかも女性心理を描いた小説。裁判のおもしろさ、事件の進展のスリルや、捜査官の群像の楽しさもあるとのこと。


緋色の楽譜
上・下
DIE DUNKLEN
ラルフ・イーザウ
Ralf Isau
酒寄進一 訳
東京創元社



2012/7/1
2011/10/31 発行


コンチネンタル・オプの事件簿

ダシール・ハメット
Dashiell Hameeett

小鷹 信光 訳

ハヤカワ文庫






2012/5/28

1994/5/20 発行
 ハードボイルドの生みの親として知られ、数々の名作、傑作を世に送り出したハメット。
その彼が、探偵社の調査員時代に関わった事件や体験をもとに書き上げたのがコンチネンタル・オプものの作品である。
 本書は、初登場作の「放火罪および・・・・・・・」をはじめ、オプとギャングとの壮絶な闘いを描いた「血の報酬」、連作「ターク通りの家」「銀色の目の女」異色短編「ジェフリー・メインの死」オプ最後の事件「死の会社」など6編。(裏表紙より)

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 「禁酒法下の荒廃したアメリカ社会にあって・・・・・・・じゅうぶんにセンセーショナルな要素を持っていた犯罪事件にかかわってゆく、仕事だけが生きがいのプロの探偵が、彼の目にうつった事柄をありのまま上司に報告する興味深い調査報告書」の形式で語られている。

 物語の語り手であり、多くの場合は事件を”かきまわして”進行させる仕掛け人でもあるオプのことを、チビで、太った中年男としか記さず、姓も名前も与えなかった。ありふれた探偵だからという理由らしい。

 アメリカ社会になじみが無い部分で、ついて行きにくい。こういう雰囲気でかかれた、日本の社会を舞台にしたものなら、楽しめるだろう。東氏のススキノの便利屋の”俺”が、それにあたる。

 本文中にあったが、ハードボイルドは、冷酷非情と訳されるのか。
 


ガラスの鍵
The Glass Key

ダシール・ハメット
Dashiell Hammett

小鷹 信光 訳

ハヤカワ文庫





2012/5/20
1993/10/20 発行
賭博師のボーモンは、建設会社を経営する友人のマドヴィッグから大胆な計画を打ち明けられた。地元の上院議員の後ろ盾となって、市政の実権を握ろうというのだ。
が、その矢先、議員の息子が殺され、関係者のもとにマドヴィッグを犯人とほのめかす匿名の手紙が届けられた。窮地に立たされた友人のため、ボーモンは自ら事件の渦中に飛び込んでいく。
 非情な世界に生きる男たちを鮮烈に描くハードボイルドの雄篇。(裏表紙より)

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 翻訳した小鷹氏「ハメットもチャンドラーも、文体がいのちである作家の作品を、日本人読者は、翻訳でしか読むことができない」
 それだからなのか、日本人作家のハードボイルドを読むほどには、楽しめなかった気がする。翻訳がまずいと言うわけではないけれど。

 『ガラスの鍵』は、政治屋の食客で賭博師であるネド・ボーモンに視点をすえた、三人称一視点形式で書かれているが、物語の真の主人公は彼ではなく、彼の主人兼友人兼父親役であるポール・マドヴィッグである。最終章の終わりの十のパラグラフに収斂されている物語の悲劇性には、作品にふくらみをもたせる大いなる遡及効果がある。(小鷹)

 複雑で、読むのはなかなかしんどかった。

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 『ガラスの鍵』賞というものがあって、国際推理作家協会北欧支部のスカンジナヴィア推理作家協会が北欧5カ国(アイスランド・スウェーデン・デンマーク・フィンランド・ノルウェー)の最も優れた推理小説に贈る文学賞である。
 1992年に創設された。賞の名は、アメリカのミステリ作家、ダシール・ハメットの小説『ガラスの鍵』に因んで付けられた。

 なんだか、これは、すごい本らしい 

 

偽りの書
The Book of Lies

ブラッド・メルツァー
Brad Meltzer
青木 創 訳
角川書店



2012/5/6

2009/3/31 発行


モータウン・ブルース

ダグ・アリン

田口 俊樹 訳

創元推理文庫



2012/1/24


1993/10/22 発行
 冬のデトロイトを襲った凶悪な連続殺人。犠牲者は女性ばかりで、みな自分の車の中で咽喉を掻き切られて死んでいた。捜査は難航をきわめたが、市警殺人課のはぐれ刑事ガルシアは、ふとしたことから有力な容疑者に際会する。相手は郊外のカントリー・バーに出演中のギター弾き。妻殺しの過去をひきずっていた。追うほどに謎めいた貌をみせる、その男ヤーボロー。犯人か・・・・・?
 さまざまな軋轢を抱えながらも、無骨な生き方を通そうとする、刑事ガルシア。存在感あふれる人物描写が鮮やかな印象を残す、ハードボイルド。(裏表紙の紹介より)

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 登場人物が多すぎるし、最初の子供が氷の中に落ちて死ぬ場面が何で必要なのか、ほかにも複雑でごちゃごちゃした印象だ。
 他に読む本がないから最後まで読んだが、熱中できる本ではなかった。アメリカの下層の生活や取り締まる警官の危険さなどは、少し感じられたかな。なにしろ傷だらけになってしまうのだから。

 「ダーティー・ハリー」のようでもあるが、解説によれば、ヒスパニック系刑事の屈託が作品の主調低音になっていると。ガルシアは”シスコ・キッド”と異名をとり、捜査のためになんの罪もない弱者を痛めつけたりして、どこまでもかっこ悪いので、ハリーの”白いかっこよさ”とは無縁ーーなのだそうだ。かっこ悪いので、爽快感に欠けるのだ。
 容疑者とガルシアの間で揺れるリンダも、なんだかなあという人物像だった。


秘密の巻物
The Secret Scroll

ロナルド・カトラー
Ronald Cutler

新谷 寿美香 訳

イースト・プレス






2012/1/7

2008/10/1 発行
考古学者のジョシュは、長期休暇を取って訪れたイスラエルの洞窟で、ある壺を発見した。まるで、目に見えない何者かの手でいざなわれたかのように。そのな かに入っていたものは古びた巻物。保存状態を見るかぎり、それは二千年ほど前のもので、しかもそれを書いたのはナザレのイエス―現代ではイエス・キリスト と呼ばれている人物と思われた。ジョシュは、イスラエル考古庁の古文書解析チームに解析を依頼するが、その直後から怪しい人影がジョシュのまわりをうろつ くようになり…。 (裏表紙より)

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 非常に読み易くサクサク読み進んだ。ただ、これまでに読んできた聖書やキリスト教を扱ってきた作品より、中身が薄いと言ったらいいのか、読むだけで知識をたっぷり与えられるというわけにはいかなかった。
 ジョシュが夢中になってしまうヒロイン美女への気持ちや態度などが、お手軽小説っぽかったという印象だ。

 ネットにあった書評を拝借
 −−−本書の一貫したテーマは不寛容に対する怒りである。残虐な行為を正当化するために宗教が悪用されることへの怒りである。もともと主人公は独善的な非寛容に対する怒りを抱いた人物として描かれているが、巻物をめぐる争いを経て、その思想はより強化された。

しかし、パレスチナ問題の現実を踏まえるならば本書の寛容には限界がある。主人公側の寛容の精神はイスラム教徒にも向けられているが、イスラエルの存在は当然の前提としている。イスラエルがパレスチナ人の土地を奪って建国されたという現実には目を向けていない

土地を奪った人間が寛容の精神を説いたところで、土地を奪われた被害者が受け入れる筈がない。国際社会がイスラエルの暴虐を非難するにもかかわら ず、アメリカだけがイスラエルを擁護している。その背景としてイスラエル寄りの発想がアメリカ社会に根付いていることを感じさせる一冊でもあった。


狙撃
The run around


フリーマントル
Brian Freemantle

新潮文庫





2011/12/17


平成5年1/20 発行
 MI6の上級職員として復帰したチャーリー・マフィンだが、待っていたのは経費にうるさい次長と無能な新人。憂鬱な日々を送っていたが、ある亡命ロシア人の情報から要人暗殺計画の存在を嗅ぎつける。暗殺者も標的も、日時も場所も判然としないその計画とは?チャーリーは独自の推理でテロリストを追う。(裏表紙)

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 腕力も体力もなく、武器操作もかいもく駄目な一介の公務員でしかないこの主人公が、自らの所属する英国情報部からも孤立して、ことごとに上司や同僚から濱斥(ひんせき)を受けながら、もっぱら卓抜な知力と経験だけを頼りに”社命”をこなして生き延びていく姿が、読者(サラリーマン)に受け入れられている。
 ソ連からの亡命者ノヴィコフに対する事情聴取のテクニック(未熟な同僚や他の西側諸国の事情聴取官たちの拙劣さとの対比において)の秀抜さ。狙撃の名人として選ばれるゼーニンが受ける最終詮衡(せんこう)の言語に絶するものすごさ、チャーリーがロンドンを留守にしているすきに彼の自宅に、素行を疑っている英国情報部による家宅捜査の手がのびるが、そのさいの捜査担当官と被捜査者との間の、プロとしてのテクニックの競い合いなど、エピソードに事欠かない。

 おおきなどんでん返しがあるのもフリーマントル作品の特徴だが、世界情勢をめぐる各国の思惑や謀略が、読者の心に映し出される仕組みになっている。

 本シリーズは、スパイものとして括ることができない、ミステリー、企業サラリーマン小説、私小説、政治小説としての要素を兼ね備えている。
 さまざまな箇所にあらかじめ微妙な伏線をめぐらしておく作者だから、たんに筋を追って直線的に読み飛ばさず、時には微細なニュアンスを味わいながら読めば、より深く楽しめる(以上、稲葉明雄 解説より)

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 解説を先に読んで置けばよかったかな。解説者が言うように、筋ばかりを追い、読み飛ばしてしまった。それでも、充分楽しめた。

 

疑惑の薬
INSECURITY

マシュー・リン
Matthew Lynn

広津 倫子

徳間文庫



2011/8/25

1998/8/15 発行
イギリスで屈指の製薬会社〈キソーグ〉に勤めるエリート社員ジャック・ボロディンは、会長サー・カードの特別補佐に抜擢される。会長はスイスの製薬会社を買収するために、アトールという伝染病のワクチンの開発を女性研究者タラ・リングに委ねていた。だが〈キソーグ〉は裏では生物兵器研究や薬品偽造に関わっており、ジャックとタラは自分たちがその罪をかぶるスケープゴートに選ばれたことを知る -- 。

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 父の本棚から探し出して読んだのだが、父には理解できたのだろうか.
 会社の悪事を証明するために、会社のコンピューターに侵入し、資料を手に入れなければならない。
 フォーン・フリーキングという電話を無料で使えて、接続元をわからなくさせる方法とか、ファイヤーウォールの下のトンネルを通し、メインコンピューターにアクセスし、データをダウンロードしプリントアウトする、などと、パソコンに詳しくなければわからない言葉の連続だ.

 後半はそういうサイバースペースの内容になってくる。そこが私の好みである。

 会社とは何なのか、勤め人が会社のために良かれと思い、またそこでの自分の出世を願うあまり、非合法なことにまで手を出さざるを得なくなり、あげくのはてにそれが発覚して罪に問われる。すると会社は手のひらを返したように、すべての責任を押し付け、会社から切り捨ててしまう。会社の裏切りは、恐るべきショックだろう。

 逃亡しながら会社への反撃を試みるジャックは、そのついでに自分の握っている情報を活用し、一獲千金を狙う。株価の暴落を知っているので事前に売付オプションを購入して大儲けしたのだ。
 
 なかなかスリリングで、ハラハラしながら楽しむことができた。
 


あたしにしかできない職業
TWO FOR THE DOUGH
ジャネット・イヴァノヴィッチ
JANET EVANOVICH
細美 遙子 訳


扶桑社ミステリー
2011/8/18
1997/10/30 発行
「あたし」ステファニー・プラムは、保釈中の逃亡者を捕まえて警察に引き渡す、逃亡者逮捕請負人、通称バウンティ・ハンターだ。今回もなかなか捕まらない逃亡者ケニー・マンキューソを追っていると、地元の葬儀屋スパイロから妙な依頼が。なんと棺桶二十四個を探してほしいというのだが・・・・・・・・?
天下無敵の二人組、ステファニーとメイザおばあちゃんが大活躍!
CWA(英国推理作家協会)賞最優秀ユーモア賞に輝くスクリューボール・コメディ、〈ステファニー・プラム・シリーズ〉第二弾!

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四日間の不思議
Four Day's Wonder

A・A・ミルン
Milne,A・A

武藤崇恵 訳

原 書房





2011/7/23

2004/6/27 発行


A
A・ミルン
 アラン アレグザンダー ミルンはイギリスを代表する大衆作家。『クマのプーさん』をはじめとして多くの名作を生んでいる。1922年に発表された本格ミステリ『赤い館の秘密』は占典的名作として読み継がれている。この作品に登場する探偵アントニー ギリンガムは金田一耕助のモデルにもなった。

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 かつて暮らしていた邸宅に足をのばしたジェニー。そこで叔母の死体を発見した彼女は驚きのあまり、”凶器”の位置を変え、自分のイニシャルの入ったハンカチを落とし、さらに窓下には盛大に足跡を残して逃走してしまう。警察はジェニーを被害と加害の両面から探すのだが・・・・・。

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 干し草の山の上で眠ることもいとわない冒険好きでミステリ好きの十八歳のヒロイン、ジェニー。その親友のピンチにみずからが創り出した架空の人物に扮して駆けつける、やはり冒険好きでミステリ好きの幼なじみナンシー。ナンシーが秘書を務める人気作家の弟であり、ジェニーに好意を寄せて手助けをする青年デリク。この愛すべき二人が織りなすドラマは明るく愉しく、そのうえ感動的ですらある。事件を通して成長したジェニーが少女からおとなの女性へと階段をのぼり始めたことを示す甘酸っぱくせつないラストシーン・・・・(解説・森英俊)

 空想好きの少女は、次々と現実から離れたことを思い浮かべる。若いころは、そうだったかなあと思いだしながら、ほほえましく読んだ。


冬の棘
THE RAGE OF INNOCENCE

ウィリアム・D・ピーズ
William D Pease

田村 義進 訳

文春文庫



2011/1/28

1994/11/10 発行
 
 ワシントン郊外、チェサピーク湾にそそぐ川を一望する霧深き高級住宅地。地元社交界の華と謳われる夫人の殺害、財界の寵児と目される夫への疑惑、犯人別人説にひとり固執する女性刑事ーーー。
 濃密・細緻な描写で綴られる謎は奥が深く、結末は電撃的。推理・捜査・法廷小説の傑作。(裏表紙より)
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 法医学と心理学の修士号を持つ切れ者の女性刑事クリスティーン・ボーランドが予測したとおり、事件の奥は意外に深く、捜査は難航する。証拠を集め、分析し、裏付ける作業は、重箱の隅をつつくような緻密さで行われる。判明した事実の意味は、見方によって、すべて180度違ったものになる。裏が読まれ、さらに裏の裏が読まれ、捜査員の間にも深刻な意見の対立が生じる。
 サスペンスは法廷に持ち込まれる。野心家の州検事と『真実も正義も語るに足りない。ゴム粘土のようにこねくりまわされどんな形にでも変わる』とうそぶく弁護士とのやり取りや、虚虚実実の法廷戦術は絶妙。作者が、元検事補ならでは、というところ。(訳者あとがきから抜粋)

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 法廷でのやり取りで決着がつくわけでもなく、昔の事件に端を発した意外な結末につながっていく。
 全体に曇天のような雰囲気の作品。(ゲルマン的なメランコリーを背景に漂わせる作家)という解説だ。
 陪審員のいる裁判は、印象を強く植えつけた方が勝ち、のような、納得しがたい弁護士のテクニックだった。日本なら、もう少し違った裁判劇になるのではないかと思った。

 


皇帝のかぎ煙草入れ
THE EMOEROR’S SNUFF/BOX
ディクスン・カー
Jおhn Dickson Carr
井上 一夫 訳
創元推理文庫

2011/1/21
1961/8/18 発行
向かいの家で、婚約者の父親が殺されるのを寝室の窓から目撃した女性。だが、彼女の部屋には前夫が忍び込んでいたので、容疑者にされた彼女は身の証を立てることができなかった。絶体絶命、物理的には完全な状況証拠がそろってしまっているのだ。「このトリックには、さすがの私も脱帽する」とアガサ・クリスティを驚嘆せしめた不朽の本格編。(裏表紙より)

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盗まれた貴婦人
Painted Ladies

ロバート・B・パーカー
Robert B・Perker

加賀山卓朗 訳

早川書房






2010/12/16

2010/11/10 発行

 ロバート・B・パーカーは1932年生まれ.ボストン大学でハードボイルド作品に関する論文により博士号を取得。1973年、私立探憤スペンサーか初登場する『ゴッドウルフの行方』で作家デビュー。1976年の「約東の地」でアメリカ探偵作家クラプ賞最優秀長編賞を受賞し、2002年には|賞の巨匠賞を受賞した。代表作であるスペンサー・シリーズの他、警察署長ジェッシイ・ストーンーシリーズ、女性探偵サニー・ランドル・シリーズ、ウェスタン小説やヤングアダルト向けの単発作品など、精力的に作品を発表し続けた。2010年没。

 17世紀の名画「貴婦人と小鳥」が美術館から盗まれた。犯人からは絵に身代金を払えとの要求があり、美術史教授プリンスが受け渡しに向かうことになる。その護衛を務めることになったスベンサーだったが、受け渡しは悲惨な失敗に終わった! 絵は戻らず、プリンスは命を落としてしまう。スペンサーは依頼料を美術館に返し、自らの手で事件に片をつけるべく動き出した。調査の糸口を探し、美術館の顧問弁護士、絵の保険を引き受けていた保険会社の担当者、さらにプリンスの教え子らに聞き込みを試みるものの、事件の全容は杏として知れない。そんな中、スペンサーのオフィスを武装した男たちが襲撃する。間一髪、スペンサーが撃退した彼らの腕には、奇妙なことにアウシュヴィッツの強制収容所でユダヤ人捕虜に彫られたものと同じ刺青が……。、点と点とをつなぐ線、それは『貴婦人と小鳥』のたどってきた激動の来歴そのものに隠されていた―ー。シリーズ初期を思わせるアクションとサスペンスに満ちた注目作。

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おしゃれな会話の妙を楽しめる


氷の眠り
ICY Clutches
アーロン・エルキンズ
Aaron Elkins
嵯峨 静江 訳


2010/4/27
1993/2/28 発行
 アラスカの氷河で発見された一片の人骨から、意外な事実が判明した。30年前に遭難したとされていた調査隊員は、実は殺されていたのだ。骨の鑑定にあたったギデオン・オリバー教授は、FBI捜査官のジョン・ロウとともに事件の再調査を開始した。だが、その直後に新たな殺人が・・・・・・・・厳寒の地で深まっていく謎にスケルトン探偵が挑む、人気シリーズ第5弾。

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運命の書
上・下


ブラッド・メルツァー
BRAD MELTZER


角川書店






2010/1/28

2008/1/31 発行
 ブラッド・メルツァーBrad Meltzer
1970年生まれ。ブルックリンとマイアミで育つ。コロンビア大学ロースクール在学中に書いた『最高裁調査官』で華々しいデビューを飾り、瞬く間に既刊の売り上げ累計が全米で300万部を超える超人気作家となる。その他の作
品に『好敵手』『大統領法律顧問』(いずれも早川書房〕など。

 越前敏弥(えちぜん.としゃ)
1961年石川県生まれ。東京大学文学部国文科卒業。
翻訳家。ダン・ブラウン作品の翻訳などで知られ、海外の作家からも厚い信頼を得ている。訳書にディーヴァー『死の開幕』(講談社文庫)、ブラッドベリ『さよなら、コンスタンス』(文芸春秋)など多数。

 大統領専用車を3発の銃弾が襲った。弾は大統領の心臓をそれ、狙撃犯は逮捕されたが、側近のひとりは無残にも命を落とした。その8年後…。フリーメイソンの謎や暗号を盛り込んだサスペンス・スリラー。 (上)
 死んだはずの男を目撃した前大統領補佐官のウェスは独自に調査を開始するが、何者かに命を狙われはじめる。同僚の死に大統領が関与しているのか…。クロス ワード・パズルに隠された暗号の解読に挑むウェスに、反フリーメイソンの狙撃犯ニコが迫る!世界20カ国で200万部を超える大ヒットを記録したベストセ ラーが登場。(下)

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 前半は、次々と場面も変わるし登場人物が出てきて、把握できない。少しずつそれぞれの人物の役割と関係がわかってくるが、だからどうなの?
としか思えなくて、蘊蓄もなく、期待はずれだった。
 フリーメーソンも、狂信者も取ってつけたような感じだ。


メルトダウン
MELTDOWN
日米同時崩壊

ピーター・タスカ
笹野 洋子 訳

講談社文庫

2009/11/25
1993/10/15 発行


山をも動かす

The Grub-Stakers Move a Mountain
アリサ・クレイグ
Alisa Craig
森下 弓子 訳
創元推理文庫




2010/1/6
1994/1/28 発行

ここロベリア・フォールズではアーチェリーが盛ん。その朝、秘書代行サービス業を営むディタニーも矢筒を背負って散歩に出かけたのだが――突如一本の矢が風を切り、目の前の木に深々と突き刺さった。発射されたあたりに行ってみると、町の水道課長が矢で射殺されている。ディタニーは、ぼやきながらも素人探偵を始めるが・・・・・・・・。奇抜でにぎやかなシリーズ。

町有地で変死体が発見されたことから、貴重な野草のある土地を私物化しようとする有力者の企みを知り、開発を阻止するために選挙運動に乗り出すという話。

   ****************

チョーサーの引用やサー・パーシー、カンタベリー物語、よくわからない物語の引用が出てくるのは付き合いきれなかったし、料理やお菓子のアレコレが出てきて、興味のある人にはそこが魅力なのだろうが、私には理解不能だった。
ただ、ディタニーと友人たちのパワーあふれる活動は楽しかった。シリーズを続けて読むと、味わいが増すのかもしれない。


ピラミッド
封印された数列

上・下
ウィリアム・ディートリッヒ
村上 和久 訳
文芸春秋



2009/7/4
2009/1/10 発行


テンプル騎士団の遺産
上・下
THE TEMOLAR LEGACY

スティーブ・ベリー 著
Steve Berry

富永 和子 訳




2009/3/1

2007/2/12 発行


マギの聖骨
上・下
Map of Bones

ジェームズ・ロリンズ
James Rollins

桑田 健 訳

竹書房





2009/1/3

2007/10/4 発行

 ドイツのケルン大聖堂で行われていたミサの最中、修道服姿の侵入者たちが出席者と司祭を惨殺した。犯人の目的は黄金や貴重な美術品ではなく、内部に保管されていたマギの聖骨。キリストの生誕を祝いに訪れた東方の三博士の聖骨だ。聖骨を奪った襲撃者たちは、世界を一変させる力を手にする。事態の収拾に追われるヴァチカンは、ローマの国防省警察讐察に所属するレイチェル・ヴェローナ中尉に調査を依頼。だが、彼らだけではこの奇怪な盗難と殺人事件に対処できない。そこで、米国国防総省内の機密組織、シグマに応援の要請が屈く。グレイソン・ピアースは、科学者と特殊部隊の隊員から成る即席のチームを編成し、奪われた聖骨の謎の解明に取り掛かる。彼らは暗い過去の歴史を暴きながら、古代の秘密が眠るアレクサンダー大王の遺跡へと向かう。その先には、神秘と恐怖のべールに包まれたドラゴンコートが待ち構えていた。(上)

 古代の錬金術師と暗殺者という二つの顔を持つ秘密結社ドラゴンコートが、マギの聖骨を手に入れた目的はただ一つ。狂信者のみが夢想しうるような恐るべき殺戮を実現するためであった。グレイ、レイチェル、そしてシグマの隊員たちは聖骨に記された謎を解きながら、ドラゴンコートと激しい戦いを展開する。聖骨の行方を追い、ケルンからミラノ、ローマ、ヴァチカンとめまぐるしく移り変わる。やがてファロス島の海底に眠るアレキサンダー大王の墓から黄金の鍵を見つけ出した彼らは、最終決戦の地へと向かう。古代から中世へと続く闇の歴史の中に埋もれたその場所では、宗教と科学の力が一体となって、人類史上かつてない恐怖が生まれようとしていた。(下)
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 「ダヴィンチ・コード」や、映画「インディー・ジョーンズ」とよく似ている、ノンストップ・アドベンチャー。
 アレキサンダー大王と世界の7不思議を扱っているのが、これまでのキリスト教や、ヴァチカン物と比べ少し目新しいかな。どちらも私が大好きな対象だ。
 
 文章がやや説明的過ぎるのが気になったかな。


薔薇の名前



ウンベルト・エーコ

Umberto Eco

東京創元社






2008/10/31


1990/1/25 発行

 宝島社「このミステリーがすごい」1991年版海外編で一位。そして『このミス』が選ぶ 過去10年のベスト20でも海外ベスト1に選ばれている。なんと、あの「羊たちの沈黙」を抑えての1位だ。

 著者は、1932年、北イタリア、アレッサンドリアに生まる。トリーノ大学で、中世美学、トマス・アクィナスを研究。卒業後、イタリア放送協会(RAl)の文化番組やボンピアー二出版社の評論部門の仕事に参画、協力。ミラーノ大学、フィレンツェ大学で教鞭を執り、現在ボローニャ大学教授。世界的な記号論学者として国際記号学会会長をつとめている。
 主な著書:『トマス・アクィナスにおける美学的問題』、『開かれた作品』(青土社)『記号論』(岩波書店)、『大衆のスーパーマン』(東京創元社刊予定)、『フーコーの振子』他多数。本書『薔薇の名前』は伊・ストレーガ賞、仏・メディシス賞受賞。

 ストーリーは、ベネディクト会見習い修道士・メルクのアドソが若き日、フランチェスコ会修道士・バスカヴィルのウイリアムの弟子として旅のお供で僧院で過ごした日々の出来事の記録である。物語は、もともとラテン語で書かれ、フランス語に訳されたメルクのアドソの手記を「私」が手にし、その真偽を疑いながらも内容を明らかにし、イタリア語で出版したという形式をとっている。
 中世イタリアの修道院で起きた連続殺人事件。事件の秘密は知の宝庫ともいうべき迷宮の図書館にあるらしい。記号論学者エーコがその博学で肉づけした長編歴史ミステリ。

ウィリアムの本来の目的は、当時「清貧論争」と呼ばれた、フランシスコ会とアヴィニョン教皇庁のあいだの論争に決着を付ける会談を調停し、手配することにあった。ところがその修道院において、両者の代表の到着を待たずに奇怪な事件が次々と起こる。二人は文書館に秘密が隠されていることを察知し、これを探ろうとするがさまざまな妨害が行われる。修道院内で死者が相次ぎ、老修道士がこれは黙示録の成就であると指摘すると、修道士たちは終末の予感におののく。(ウィキペディアによる)

「過ギニシ薔薇ハタダ名前ノミ 虚シキソノ名ガ今ニ残レリ」

中世が舞台だし、日本人にはなじみが薄いキリスト教が題材になっているし、難解な物語かもしれないと思ったが、意外にとても読みやすい文章だった。ただ、タイトルがなぜ「薔薇の名前」なのかがとうとうわからなかった。内容は奥が深いが、人によって、わかる程度はまちまちなのだろう。


女検死官
ジェシカ・コラン

KILLER INSTINCT


ロバート・ウォーカー
ROBERT W WALKER
瓜生知寿子 訳
扶桑社ミステリー




2008/6/11

1997/3/30 発行
逆さ吊りにされ、大量の血液を抜き取られた若い女の死体。片腕は落ち、乳房や性器はめった切りにされていた……最近アメリカ中酉部で連続して起きた残虐な殺人事件を追っているFBlの心理分析官オットーは、、犯人のプロファイリング強化のため、検死官のジェシカに協力を求めた。ジェシカは目につくすさまじい損傷の陰に、犯人が穏そうとした小さな傷跡を発見する一処女の血を飲み、血の浴槽に浸かる人間吸血鬼の目的とその人物像は? FBlの女性検死官が、現代の異常な殺人事件に挑む衝撃のシリーズ第一弾!(カバーより)
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シャッター アイランド
Shutter Island

デニス・ルヘイン
Dennis Lehane

加賀山 卓朗 訳

早川書房





2007/7/14
2003/12/15 発行

 ボストン沖のシャッター島に、アッシュクリフ病院という、精神を病んだ犯罪者のための病院があった。1954年、そこで一人の女性患者が行方不明になり、捜査のために連邦保安官のテディ・ダニエルズと、相棒のチャック・オールが派遣された。行方不明になった女性患者は、鍵のかかった病室から抜け出し、誰にも見られずに姿を消したのだという。そして、病室には「4の法則」という謎のメッセージが残されていた。実はテディには、島へ来る別の重要な目的があった。彼のアパートメントに火をつけて妻のドロレスを殺した男がこの病院に収容されていることを知り、彼を捜し出そうと考えていたのだ。病院側のよそよそしい態度にあいながらも、嵐が接近する中、テディはチャックとともに捜査を進めるが、謎のメッセージがさらに発見され、次々と不可思議な出来事が起きる。そして、ついに想像を絶する真相が明らかに!

 ミステリ界の話題を独占した傑作『ミスティック・リバー』の著者が、大胆な仕掛けで新境地を切り拓く最新作。(カバーより)

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 登場人物
  テディ・ダニエルズ…・・連邦保安官
  チャック・オール……・テディの相棒
  ドロレス・シャナル…・テディの妻
  ジョン・コーリー・…・アッシュクリフ病院の医長
  アンドルー・レディス…・・放火魔

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数学的にありえない
上・下
アダム・ファウアー

矢口 誠 訳

文芸春秋



 

2007/5/19
2006/8/25 発行
これは、SFなのかミステリーなのか、それとも両方。

作品の随所にちりばめられた量子力学、統計学、確率論などの専門知識、もちろん読んでもわからないのだが、それでも面白い。専門分野の難解な理論を明快に解き明かして読者の知的好奇心を刺激しつつ、スピード感のある展開。

 破滅寸前の天才数学者ケイン。彼を悩ませる謎の神経失調には大きな秘密があった。それは、世界を根底から揺るがす「能カ」の萌芽だったのだ。それを狙い、政府の秘密機関《科学技術研究所》が動き出し、その権カを駆使してケインを追いはじめた。
 数学者ケインとCIA工作員ヴァナー。圧倒的窮地に陥った二人が共闘を開始した。一方ケインを追うフォーサィス博士も戦闘のプロを動員、火力とマンパワーを増強して捕捉作戦を過激化させる。(カバーより)
 
 ケインは、確率的にありえない連鎖反応を引き起こし、前半のいくつもの伏線が後半になって思いがけない一つに集約していく。
 
 結末は、「ええっ!」だったが、パズルのピースがピタリとはまって行く面白さがあった。風が吹けば桶屋が儲かる、式の連鎖反応も、オドロキだった。


ラビリンス
上・下


ケイト・モス

森嶋 マリ 訳

ソフトバンク クリエイティブ





2007/4/5

2006/9/15 発行

 20057月。フランス南部の山で発掘作業に携わったアリスは、洞窟の奥深くで骸骨を発見した。そこにあった指輪と洞窟の壁には、同じ迷路の模様が刻まれていた。迷路には何の意味が?その直後、指輪が何者かに盗まれ、アリスの身辺にも不可解な出来事が次々と起こる……

 12097月。フランス南部の町で、若き人妻アレースは旅立つ直前の父親から、3つの書と、迷路の模様が刻まれた指輪にまつわる秘密を明かされた。それは、太古のエジプトに端を発する、聖杯の真実の物語だった……

 迷路の模様が刻まれた指輪は、聖杯の秘密が記された書を持つ「守護者」の証だった。3人の守護者に預けられた3つの書がすべてそろえば、聖杯の謎が明らかになるという。父親に代わって守護者となったアレースは、書を狙う数々の敵から逃れるため、別の守護者の元へと危険な旅に出発する……

 一方、アリスは、盗まれた指輪の行方を遣う者たちに執拗につきまとわれていた。やがて指輪と3つの書をめぐる陰謀は、殺人事件へと発展する!(カバーより)

 上巻を読んでいる時には、二つの時代の二人の女性が互いに呼応しているとは思うものの、関連が薄く読んでいてじれったかったが下巻に入ると、今までの物や人や地名や言葉がどんどん意味を持ってきて、ぐいぐい読ませる。
 十字軍はエルサレム奪回の為だと思っていたら、南フランスに広がった異端宗教の弾圧にも派遣されていたとは知らなかった。また、聖杯伝説の解釈も興味深かった。
 
 訳者あとがきの冒頭にあるように「歴史が好きなら、聖杯伝説に興味があるなら、まずは読んで欲しい。ミステリ小説の愛読者も、ロマンス小説の愛読者も、ファンタジー小説の愛読者もぜひ・・・・」
 洞窟で発見された800年前の骸骨がロマンスと関係があるなんて、にくい演出。
 
 十三世紀のアルビジョア十字軍によるフランス南部の町の攻囲と征服といった壮絶な歴史が背景になっている。
 舞台となった南フランスのカルカソンヌの町 (佐野研究室)世界遺産
歴史的城塞都市 カルカソンヌ(Wikipedia


The
Historian


ヒストリアン

T U

エリザベス・コストヴァ


高瀬 素子 訳

NHK出版



2006/6/4

 竜の挿絵がひとつある奇妙な本を少女が見つけた。父は、ヨーロッパ各地の史跡へ娘を連れ出し彼の学生時代の物語をぽつぽつと語り始めた。敬愛していた歴史学の恩師がある日「竜の本」にまつわるすべての資料を教え子()に託し、「ドラキュラは、ヴラド・ツェペシュはいまも生きている」という言葉を残して突然失踪してしまった事を。魅惑的な東欧世界に散らばる古文書資料と伝説、そこに隠された暗号を解き明かしながら失踪した歴史学教授を捜す旅の物語を。
 そして、父自身も少女の前から姿を消してしまう。父が残した手紙だけを頼りに、少女の父を捜す旅が始まる。
 国境を越え、時間を超え、そして世代を超えて、闇に葬られた歴史に挑むヒストリアンたちの命がけの物語。

 イスタンブール(コンスタンティノポリス)、オスマン帝国、スルタン、ビザンティン帝国、ドラゴン騎士団、ドラキュラのトランシルヴァニア、ルーマニアなど興味をそそるキーワードが満載。それにも関わらずなかなか読み進まなかった。
 3世代にわたるロマンスや歴史と地理のお勉強がもう少し整理した状態で提供されていればもう少し面白くなっただろう。リサーチにかなりの歳月が費やされているらしいが、それをすべて読者に押しつけるのはどうかと思うし、ご都合主義で進みすぎるのも底が浅い気がする。
 
 映画化されるようだ。歴史物語というより映像向きの旅の紹介物語の要素が強いので映画のほうが向いているかもしれない。



侵入社員
上・下

ジョゼフ・フィンダー

石田 善彦 訳

新潮文庫



2006/5/9
 米国のハイテク企業に勤務するアダムは、いわゆるダメ社員。待遇の低さにも嫌気が差し、遅く出社、早く帰宅がモットー。ある日、友人の退職パーティを企画するが、経費は会社のコンピューターを不正に操作して捻出する。しかし、それがバレて上司から厳しい選択を迫られる。横領罪で55年の服役か、ライバル会社にスパイとして入社するか。アダムはこの窮地を切り抜けられるのか(上、カバーより)
 企業スパイとなるべく、アダムの特訓が始まった。よれよれのジャケットを捨て、一流ブランドのスーツを着こなす。上司から経営学、ハイテク知識、盗聴などのスパイ技術を叩き込まれる。そんな努力が実り、アダムは見事にライバル会社への再就職に成功。そこで意外な才能を発揮し、出世街道を爆走する。そして夢のような生活を手に入れたと思ったのだが。新感覚の企業スパイ小説!(下)
 
 新聞で、ITも企業社会もスパイも、すべて嫌いなあなたでも文句なく面白い、と紹介されていたので、ITも企業社会もスパイも好きならこれは読むしかない!と思った。
 スパイ技術の専門用語をつかった章タイトルも楽しい。
 テンポよく読みやすく面白い。一気に読める。
 



半身

サラ・ウォーターズ
中村 有希 訳

創元推理文庫



2006/1/23
 サマセット・モーム賞受賞作。雑誌「このミステリーがすごい」2003年版で、外国部門一位に選ばれている。
 
 19世紀イギリスに実在したミルバンク監獄へ慰問をする貴婦人マーガレットと、特に興味を惹いた女囚シライナとの不思議な交流。
 シライナの秘密が徐々に明かされる過去の物語と、マーガレットの現在との1年を隔てた二つの物語が、日記形式で交互に語られていく。
 監獄の描写は怖ろしいものだし、マーガレットの過去にも、シライナが監獄に来ることになった事件も、霊媒としてのシライナも、そして二人の微妙な関係の描写も謎に包まれていて、先へ先へと読み進む。この時代の貴婦人の生活ぶり、小間使いの仕事、優しくても保護者のように振舞う男性たちなどビクトリア朝時代を感じられて興味深い。

 「霊界に行ったら・・・・・霊は誰かの元へ飛んでいく。ふたりでひとつの光り輝く魂に戻る。裂かれた魂のかたわれと、ふたりでひとつ。魂の半身と。」
 魔術的な筆さばきで不思議な世界へといざなわれる。

 著者二作目の作品。三作目は「荊の城」



荊の城
上・下




サラ・ウォーターズ


中村 有希 訳



創元推理文庫




2005/12/23
 
 すぐれた歴史ミステリーに授けられる英国推理作家協会のヒストリカル・ダガー賞に輝いた作品。ヴイクトリア朝という時代の空気が作品の隅々にまで満ちている。

 19世紀半ばのロンドン。17歳になる孤児スウは、〈紳士〉とあだ名されている顔見知りの詐欺師からある計画をもちかけられる。とある令嬢をたぶらかして結婚し、その巨額の財産をそっくりいただこうという。スウの役割は,令嬢の新しい侍女。スウはためらいながらも,話にのることにする。
 俗世間とは隔絶した辺鄙な地に建つ城館ブライア(荊の意)城。スウが世話をする令嬢モードとその伯父と使用人たちが住んでいる。モードは親しい友人もなく、蔵書狂の伯父の手伝いをして暮らしていた。
 そこへ〈紳士〉がやってきてモードをたぶらかし、駆け落ちをする。スウはそれを横から補助していたはずだったが・・・・。

 第一部はスウの語りで、第二部はモードの語りで同じ出来事を異なる立場から描写する。そして思いがけない展開の第三部へ。
 物語は19世紀の下町の人々の暮らしを知ることができ、予想を裏切るどんでん返しがありスピード感があって面白い。
 ディケンズにゆかりの地名や作品への言及もあり、わかる人にはプラスαの楽しみ方もあるらしい。

 宝島社の「このミステリーがすごい」(海外篇)2004年度版で「荊の城」が一位となったのも頷ける、そして、前年度版で一位だった前作の「半身」も読んでみようと思った。ディケンズの、ある作品を意識して書いてあるそうなので、その作品のチェックもしなくては。

 イギリスではTVのミニシリーズになるんだそうで、見られないけれども気になる。
  http://www.bbc.co.uk/drama/fingersmith/


イデアの洞窟

ホセ・カルロス・ソモサ

風間 賢二 訳

文芸春秋



2005/11/3

 古代ギリシア、アテネ。野犬に食い殺されたとおぼしき若者の死体が発見される。だが不審を抱いた者がいた――〈謎の解読者〉と異名をとる男、ヘラクレス。調査に乗り出した彼の前にさらに死体。この連続殺人事件の真相は・・・・・。
 ・・・という書物『イデアの洞窟』の翻訳を依頼された後の時代のわたしは、この物語にはギリシアでの「直感隠喩」という技法がちりばめられていると感じる。この「翻訳者」わたしは、訳注の形で自分の考えを記録している。やがて、作品の中に自分が登場していると不審を感じたころ、何者かに監禁され、翻訳を急がされる。『イデアの洞窟』の作者は誰か?この書物の鍵は何か?
 いわゆる脚注小説で、脚注の中で本文とは異なるもう一つの話が展開していく。プラトンが創設した学園アカデメイアやその生徒が登場し、哲学者やカルト教などがからまりあいながらイデアについて何度も語られる。

 本書は、世界最大のミステリ大賞として有名な英国推理作家協会最優秀長篇賞受賞に輝いた作品なのだが、二重、三重に仕掛けられた語りの罠に翻弄されてしまった。作者は、スペインのマドリッド在住の元精神科医。他に9冊あるが、いずれの作品も現実と虚構、夢、狂気、記憶などを題材に、マジックリアリズムの手法でミステリアスに語られているらしい。

 読み終わってもなにやらわからなかったので、『翻訳者あとがき』を読んだ。これがまた本文の続きのような形であったが、本文の仕組みが分かると共に、ミステリの歴史やテクニックまでが分かりやすく、ユーモアたっぷりで面白かった。
 だが、この小説は私には把握しきれなかった。哲学に関心はあれど理解力が足りず消化不良だった。

 イデアとはプラトン哲学の中心概念で、理性によってのみ認識される実在。価値判断の基準となる、永遠不変の価値。実在とは、観念、想像、幻覚など主観的なものに対し、客観的に存在するもの、またはその在り方。


アヴェンジャー 
上・下

フレデリック・フォーサイス

篠原 慎 訳

角川書店



2005/7/21

《アヴェンジャー》とは復讐者のこと。
 弁護士をしていたキャルビン・デクスターは、娘を殺された経験から、自分の子どもを殺され、犯人は国外へ逃亡という経験をした人にかわって、情報収集をし、探索をし、犯人を連れ戻す、復讐代理人となった。

 ボスニア紛争時にボランティアとして現地で働いていたアメリカ人の学生を残忍なやり方でなぶり殺しにし、南米に高飛びしたジリチというセルビア人を捜しだし、身柄を押さえてアメリカ司法当局に引き渡してほしいと依頼を受けた。
 また、CIAテロ対策本部のデブローはジリチを利用してアルカイダをつかまえ、もしくは抹殺によってアメリカ本土に対するテロ攻撃を阻止しようとしていた。
 
 デクスターは単身、南米、エル・プト岬の要塞農場に潜入し、ジリチを拉致しようとする。完璧なセキュリティをどうやって突破していくのか、ベトナム戦争の経験を生かして見事にやってのけるさまは小気味いい。しかし・・・・。

 20世紀の、第二次大戦、ユーゴ紛争、ベトナム戦争、湾岸戦争について語り、闇の兵器商人、CIAやFBIの動き、21世紀の戦争とアルカイダ、そして2001.9.11へ。
 
 軍事スリラー長編である。ひといきで読んでしまう面白さだった。
 



カードミステリー
失われた魔法の島

ヨースタイン・ゴルデル 著

山内 清子 訳

徳間書店



2005/6/5
夏、北欧からギリシャへ、美しい母を求める息子と父は旅に出た。途中、ルーペと小さな「魔法の本」を手にしたハンス・トマスは父に隠れて本を読む。
 物語は入れ子細工の箱のように展開していく。パン屋の老人がくれたパンの中に豆本はあった。魔法の本によると、パン屋の老人アルベルトは、ドイツを出てドルフの村にきたルードヴィヒに前のパン屋ハンス老人から聞いた魔法の島の話を聞かせる。島にはフローデという老人とトランプたちがいた。
 ハンスじいさんが遭難してフローデと出合った時が52年目のジョーカーゲームの日だった。読み進むうち、ハンス少年は自分の旅と魔法の本の話がつながっていることに気づく。
 
「ガリバー旅行記」と「ニルスの不思議な旅」と「不思議の国のアリス」の面白さを合わせ持っている、とノルウェーの批評家がいっているそうだ。それに、家族の絆、哲学など盛りだくさんな要素があり、複雑で、簡単に理解しにくいが終わりに近づくにつれジグソーパズルのピースを埋めていくように話が繋がっていくので面白い。
「ソフィーの世界」に先立って、「ほんとうに面白い小説」として欧州各国で話題になった。
 ノルウェー批評家連盟賞、ノルウェー文化庁文学賞受賞。
 


レベッカ
上・下

デュ・モーリア

大久保康雄 訳

新潮文庫



1984/1/13

昭和46/10/30 発行
【著者情報】(「BOOK」データベースより) モーリア,ダフネ・デュ(Maurier,Daphne du)(モーリア,ダフネデュ) 1907-1989。ロンドン生れ。祖父はフランスから移住した人気画家、父は有名俳優という芸術家一族に育つ。二十代でイギリス軍人のブラウニングと結 婚、一男二女をもうける。1938年に発表した『レベッカ』は、英米でベストセラーになり、’40年にヒッチコックによってハリウッドで映画化され、アカ デミー賞を受賞。また、’78年にはアメリカ探偵作家クラブ(MWA)賞グランドマスター賞を受賞している

 ヒッチコックの「鳥」の原作者として有名なデュ・モーリアの代表作。

     ***

 【内容情報】(「BOOK」データベースより) ゆうべ、またマンダレーに行った夢を見たーこの文学史に残る神秘的な一文で始まる、ゴシックロマンの金字塔、待望の新訳。海難事故で妻を亡くした貴族のマ キシムに出会い、後妻に迎えられたわたし。だが彼の優雅な邸宅マンダレーには、美貌の先妻レベッカの存在感が色濃く遺されていた。彼女を慕う家政婦頭には 敵意の視線を向けられ、わたしは不安と嫉妬に苛まれるようになり…。

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