海外SF

アーサー・C・クラーク  グレッグ・イーガン   ロバート・J・ソウヤー

ダン・シモンズ   アイザック・アシモフ
  

上記作家以外のその他

月は無慈悲な夜の女王
The Moon is a Harsh Mistress

ロバート・A・ハインライン
Robert A.Heinlein

矢野徹 訳
早川書房



2023/10/4
1976/10/15 発行
 2076年、圧政に苦しむ月世界植民地は地球政府に対し独立を宣言した!流刑地として、また始原豊かな植民地として、月は地球から一方的に搾取されつづけてきた。革命の先頭に立ったのはコンピューター技術者マニーと、自意識をもつ巨大コンピュータ<マイク>。だが、彼ら月世界人は一隻の宇宙船も、一発のみさいるも保有していなかったのだ・・・・・・・・・・・ひゅーごー賞受賞作の中でも最高級との誉れ高い、傑作長編。 

        *********************

 マンガオタクの岡田斗司夫氏の一押しのSFなので読んでみることにした。
「機動戦士ガンダム」の元ネタだという。
フィリップ・K・ディックの「アンドロイドは電気羊の夢を見るか」の元ネタでもあるという。

 慌てて読んだので、いまいち良さが分らなかったのかも。じっくり読めば革命に至るプロセスや戦闘や、政府のことなども頭に入ってきたのかな。


アルテミス
上・下
ARTEMIS
アンディ・ウィアー
Andy Weir
小野田 和子 訳
早川書房



2019/3/5
2018/1/25 発行
 人類初の月面都市アルテミス―直径500メートルのスペースに建造された5つのドームに2000人の住民が生活するこの都市で、合法/非合法の品物を運ぶポーターとして暮らす女性ジャズ・バシャラは、大物実業家のトロンドから謎の仕事の依頼を受ける。それは都市の未来を左右する陰謀へと繋がっていた…。(上)
 ジャズがトロンドから依頼された仕事は、企業買収が絡んだ破壊工作だった。普段の運び屋仕事と違う内容に戸惑うジャズ。だが、彼女は破格の報酬に目がくらみ、仕事を引き受ける。溶接工を父にもち、自らも船外活動の心得があるジャズは、友人の凄腕科学者スヴォボダの助けを借り、ドーム外での死と隣り合わせの作業計画を練っていく。地球の6分の1の重力下での不可能ミッションを描く、傑作サスペンスSF。(下)(Bookデータベース)

      **************************

 わくわくとハラハラと。
 女性の一人称で、軽いノリで読みやすい。翻訳がいいのかな。

 重力による水のふるまいの変化や空気のない場所で作る炎や作業に必要な熱の確保の仕方など、科学的な考証が豊富、著者はよほど頭がいいのだろう。
 軌道計算を暗算でするなんて!


 次回作を期待する。本作も映画化されるらしい。

 大森望氏の解説も有り難い。
 


火星の人
THE MARTIAN
アンディ・ウィアー
Andy Weir
小野田 和子 訳
早川書房



2019/2/9
2014/8/25 発行
 著者ーーーカリフォルニアに素粒子物理学者でエンジニアの息子として生まれた。15歳で国の研究所に雇われ、現在までプログラマーとして働いている。科学、とくに宇宙開発に強い関心を寄せ、作家志望だったウィアーが初めて発表した小説が本書。まず自らのサイトに公開され、その後キンドル版を発売。発売後3ヶ月で35000ダウンロードを記録した。その後、2014年に紙書籍版が発売された。20世紀フォックスによる映画化が決定している。

 有人火星探査が開始されて3度目のミッションは、猛烈な砂嵐によりわずか6日目にして中止を余儀なくされた。だが、不運はそれだけで終わらない。火星を離脱する寸前、折れたアンテナがクルーのマーク・ワトニーを直撃、彼は砂嵐のなかへと姿を消した。ところが―。奇跡的にマークは生きていた!?不毛の赤い惑星に一人残された彼は限られた物資、自らの知識を駆使して生き延びていく。宇宙開発新時代の傑作ハードSF。【「BOOK」データベースの商品解説】

      *****************************


世界の終わりの天文台
Good Morning、Midnight
リリー・ブルックス=ダルトン
Lily Brooks-Dalton
佐田 千織 訳
創元海外SF叢書



2019/2/2
2018/1/12 発行
 著者ーーーバーモント州出身、オレゴン州ポートランド在住の作家。10代の頃から世界中を旅した経験を持ち、2015年4月、自伝的ノンフィクションで作家デビュー。小説デビュー作の本書はオレゴン・ブック・アウォードの候補にもなった。

 どうやら、人類は滅亡するらしい。最後の撤収便に乗らず、北極圏の天文台に残ることを選んだ孤独な老学者オーガスティンは、取り残された見知らぬ幼い少女とふたりきりの奇妙な同居生活を始める。一方、帰還途中だった木星探査船の乗組員サリーは、地球からの通信が途絶えて不安に駆られながらも、仲間たちと航行を続ける。終末を迎える惑星の片隅で、孤独な宇宙の大海の中で、長い旅路の果てにふたりは何を失い、何を見つけるのか?終わりゆく世界を生きる人々のSF感動作。(Bookデータベース)

 ジーン・リースへのオマージュ 〔Good Morning、Midnight(1939年) という同じタイトルの作品がある〕

    ***********************

 


1984年
ジョージ・オーウェル
新庄 哲夫 訳
ハヤカワ文庫



2018/1/7
昭和47/2/15 発行
 “ビッグ・ブラザー”率いる党が支配する全体主義的近未来。ウィンストン・スミスは真理省記録局に勤務する党員で、歴史の改竄が仕事だった。彼は、完璧な屈従を強いる体制に以前より不満を抱いていた。ある時、奔放な美女ジュリアと恋に落ちたことを契機に、彼は伝説的な裏切り者が組織したと噂される反政府地下活動に惹かれるようになるが…。(Bookデータベース)

   ****************************

 被監視者からは認識できない不可視の監視者の存在、体制維持のための記憶や「歴史」の改竄および捏造、共同体をまとめるために内外に設置する仮想敵、等々。

 監視、盗撮、盗聴、密告で人々を恐怖で縛り上げ、思想統制をする社会。
党の方針に従わないと、思想犯として収容され、拷問を受ける。窮屈で息苦しい超管理社会。
絶対権力が存在し、共産主義もカルト宗教と変わりがない。

 1948年に書かれた未来小説。
 1984年の日本がこの小説のような社会になってなくて良かったと思う。でも、これに近い国は存在している。恐ろしいことだ。
 


星を継ぐもの
INHERIT THE STARS
ジェイムズ・P・ホーガン
James Patrick Hogan
池 央耿 訳
創元SF文庫



2017/1/4
1980/5/23 発行
 月面調査隊が真紅の宇宙服をまとった死体を発見した。すぐさま地球の研究室で綿密な調査が行なわれた結果、驚くべき事実が明らかになった。死体はどの月面基地の所属でもなく、世界のいかなる人間でもない。ほとんど現代人と同じ生物であるにもかかわらず、5万年以上も前に死んでいたのだ。謎は謎を呼び、一つの疑問が解決すると、何倍もの疑問が生まれてくる。やがて木星の衛星ガニメデで地球のものではない宇宙船の残骸が発見されたが……。

    **************************:

 書かれた時代が1970年代。SFの場合は時間がたつと科学の進歩があって、内容が陳腐化する恐れがある。この作品は、あまり感じなくても済んだが・・・・・・・。

 ネアンデルタール人をそう扱うのかと感心した。生物の進化について考えさせられた。
 ルナリアン--月面で発見された、地球以外で進化したと思われるが、地球人との差がないヒト。


マラコット深海
THE MARACOT DEEP
コナン・ドイル
A・Conan・Doyle
大西尹明 訳
創元推理文庫





2015/10/27
1963/12/6 発行
 大西洋の深海調査に出発したストラッドフォード号は突然、消息を絶ってしまった。しかし遭難したと思われた乗組員たちは恐るべき冒険にまきこまれ、驚異の新世界を目撃してきたのだった。八千年の昔、人知をきわめた大陸が大西洋の底深く陥没し、それと同時に海底に棲息する人類が誕生していたのである。目をあざむくばかりの海底の奇観、万能の邪神バアルとの死闘。驚嘆すべき科学的予見に満ちたドイルの空想科学小説の傑作。

   **********************

 本書はドイルが死の前年に発表した作品であるから、現在のSFの水準から見れば、道具立ての古さは否定しえない(この解説すら63年のものだから、現代はSFより進んでいるかもしれない)ドイルは「ホームズもの」をいやいや書き続けていたらしいので、SFでは積極的に文明批評と自己主張を行っているんだとか。ミステリーよりはSFを楽しんで書いた。
 失われた世界  The Lost World    1912  チャレンジャー教授もの ギアナ高地
 毒ガス帯     The Poison Belt    1913  チャレンジャー教授もの
 霧の国      The Land of Mist   1925  チャレンジャー教授もの
 マラコット深海  The Maracot Deep  1929   以上がドイルのSF長編

 やはり古さを感じるが、書かれた時代を考えると凄いと思う。
 


図書室の魔法 上・下
AMONG OTHERS




ジョー・ウォルトン
Jo Wolton


茂木 健 訳






2014/9/28

2014/4/30 発行
ジョー・ウォルトン
 1964年英国ウェールズ生まれ。カナダ在住のSF・ファンタジー作家。2002年 にジョン・W・キャンベル新人賞を受賞。ファンタジイ長編『ドラゴンがいっぱい!』(ハヤカワ文庫FT)で04年度世界幻想文学大賞を受賞。06-08年 の歴史改変小説《ファージング》三部作(創元推理文庫)では、第二部『暗殺のハムレット』が08年のプロメテウス賞を受賞し、10年に邦訳された際には日 本のSFファン・ミステリファン双方より絶賛を浴びた。
      ***********
                
 15歳の少女モリは邪悪な母親から逃れ、一度も会ったことのない実父に引き取られたが、親族の意向で女子寄宿学校に入れられてしまう。周囲に馴染めずひと りぼっちのモリは大好きなSFと、自分だけの秘密である魔法とフェアリーの存在を支えに精一杯生きてゆこうとする。1979―80年の英国を舞台に、読書 好きの聡明な少女が秘密の日記に綴る、苦しくも愛おしい青春の日々。ヒューゴー賞・ネビュラ賞・英国幻想文学大賞受賞作。(上)

 本を心の底から愛したならば、本もあなたを愛してくれる――学校にも家庭にも居場所がない少女モリは、大好きな小説や魔法の秘密を心の支えとして辛い日々 をやり過ごす。やがて町の読書クラブに誘われた彼女は、そこで初めて共通の話題を持つ仲間と出会う。しかし母親の執拗な悪意は、彼女を苦しめつづけ……。 孤高の少女の青春を静かな筆致で描き、本を愛し本に救われた経験を持つ多くの読者の共感を呼んだ、感動の物語。解説=堺三保(下)

   *******************

 解説がすべてを表している。
 本書の中でモリが書いているあらゆる出来事には、嘘が含まれている可能性がある。つまり、モリの母は魔女などではなく、フェアリーも魔法も(もしかすると双子の妹であるモルさえも)存在せず、ただ、自分を虐待する母の元から逃げ出した少女が、現実と折り合いをつけていくために、実際に起こった出来事の上に空想の産物を書き加えていたという可能性だ。この場合、モリの「魔法」とは、虚構を構築することによって現実を克服し、「物語」ヘと昇華させていく豊かなイマジネーションそのものだということになる。
本書に描かれている最大の魔法は、「読書の愉しみ」なのだから。
 たくさんの本のタイトルが出たが、ほとんどは未読だった。今からでも読んでいきたいものだ。なんといってもSFだから。
 同感した言葉「SFを読んでいると、今まで想像すらしていなかったような視点を提示されることで、新たな考えが広がってゆく。そしてわたしは、それをとても嬉しく思う。


探索者
SEEKER

ジャック・マクデヴィット
Jack McDevitt

金子 浩 訳

早川書房





2013/7/4

2008/10/20 発行

すべては、若き古美術商アレックス・ベネディクトと、その相棒の美人宇宙船バイロット、チェィス・コルバスのところに持ちこまれた、ひとつのカツプから始まった。
 一見したところありふれたカップだったが、コンピュータの解析によれば、およそ9000年前に造られたものと判明したのだ。しかもそこに描かれている古代文字から、抑圧的だった当時の地球を脱出してユートピアを築くべく出発したものの、その後消息を絶ち、いまでは伝説と化している宇宙船〈探索者〉の備品であることが確定したのである!
 もし、いまも銀河のどこかを漂つているこの宇宙船を発見できれば、巨万の富は約束されたようなものだ。しかも〈探索者〉が見つかれば、彼らが移住したといわれる植民星マーゴリアも発見できる可能性はきわめて高い。そうなれば、史上空前の大発見だ! かくて調査を開始したアレックスは、かすかな手掛かりから次々に新事実を手繰りだしてゆく。そしてアレックスの指示のもと、チェィスは愛機〈ベルマリー〉を駆つてリムウェィを飛び出し、テレパシー能力を持つアシュール人の惑星や、人類の故郷である地球にまで赴いて調査を続けるが !?

          **********************

2007年ネビュラ賞受賞
 舞台は1万年後の未来。宇宙のあちらこちらに植民しているかもしれない、SFとしては珍しくない世界だ。
 訳者が言うには、肩の凝らない娯楽作、グレッグ/イーガンやニュー・スペースオペラなどの作品で疲れた頭を休めたいと思ったとき、そしてSFをそれほど読みなれていない読者が最近の作品を読みたいなら選択の一つになる、と言っている。そういう難しすぎない作品だと思う。


時の地図 上・下
EL mapa del tiempo

フェリクス・J・パルマ
Felix・J・Palma

宮崎 真紀 訳

早川書房





2011/7/9

2010/10/10 発行

1896年ロンドン。恋人を切り裂きジャックに惨殺され、大富豪の息子アンドリューは失:意の底にあった.。彼は「西暦2000年へのタイムトラベル・ツアーを催す時間旅行社を訪ねた 。時間をさかのぼり、切り裂きジャックから恋人を救おうというのだ。 だが方た旅行社は過去には行けず、彼は小説「タイム・マシン」を発表したHG・ウエルズの力を借りることに。一方、上流階級の娘クレアは、2000年へのタイムトラベルに参加するが……(上)

クレアはタイムトラベルで会った未来の男と、奇妙な恋に落ちていった。やがて、謎の武器で胸に大きな穴を開けられた死体が発見される。犯人の調査を開始したウエルズは、現場の壁に、書き上げたばかりで誰も知らないはずの小説「透明人間」の冒頭が記されていることを知り、愕然とする。そして、 さらなる殺人:事件が起き、意タトな犯人とウエルズ自身の想像を絶する秘密が明らかに! 愛と冒険と仕掛けに満ちた驚愕の小説。(下)

        *******************************

 舞台は19世紀末のロンドン。H・G・ウェルズが発表した『タイムマシン』がイギリスを席巻している。物語には、切り裂きジャック、エレファント・マン、ヘンリー・ジェイムズ、プラム・ストーカー(ドラキュラの作者)などの実在の人物や実際の事件を織り交ぜて、三部構成で進む。
 奇想天外で、展開も早く(初めのうちだけ、じれったかったが)一気に読み進んだ。


犬は勘定に入れません

コニー・ウィリス
Connie Willis

大森 望 訳

早川書房





2007/8/1

2004/4/10 発行
「SFがよみたい!2005年版」海外部門で3位。
海外では、ヒューゴー賞、ローカス賞のほか、クルト・ラスヴィッツ賞(ドイツ)、イグノトゥス賞(スペイン)など数々の栄冠に輝く、抱腹絶倒のヴィクトリア朝タイムトラベル・ラブコメディ

 抱腹絶倒のはずなのに、途中までさっぱり乗れないと思ったら、訳者あとがきで「最初のうち状況がよくわからなくても、あなたのせいではありません。ようやく話が見えてくるのは、ヒロインのヴェリティが颯爽と登場するあたりから」と書いてある。なるほど、ここから二人で歴史の齟齬を正そうとする悪戦苦闘が始まる。過去から物を持ち込むと、歴史が変わる。だから本来は持ち込めるはずがない。それなのにヴェリティは猫を連れてきてしまった。

 メインプロツトは、自分のせいで歴史の流れが変わっちゃいそうになる(運命の出会いを経てCさんと結婚したはずの女性が、「僕」のせいでべつの青年と出会ってしまう)のをなんとか阻止しようと奮闘する話だ。
 
 「僕」こと、オックスフォード大学史学部の大学院生、ネッド・ヘンリー。テニスンを引用しまくる夢見がちで善良なお坊ちゃん学生テレンス。わがままお嬢さまのトシー、読書家の執事。ブルドッグのシリルと猫のプリンセス・アージュマンド。彼らが織りなす恋あり冒険あり笑いありタイムパラドックスありのドタバタ劇。
 
SFでもあり、冒険小説でもあり、ミステリでもあり、コミック・ノヴェルであり、恋愛小説でもあり、歴史小説でもあり、そしてまた主流文学とジャンル文学のいいとこ取りしたスリップストリーム小説でもあり、欲張りな内容で、いろんな所を楽しめる。

To say nathing of the Dog or How We Found the Bishop's Bird Stump At last (犬は勘定に入れません―ーあるいは、僕らがとうとう主教の鳥株を見つけたいきさつ)


ソラリスの陽のもとに

スタニスワフ・レム

飯田 規和 訳

ハヤカワ文庫





2006/8/25

 スタニスワフ・レムの異質知的生命遭遇三部作「エデン」「ソラリス」「砂漠の惑星」のなかでももっとも知られ、読み続けられているのが本書「ソラリスの陽のもとに」である。

 
菫色の霧におおわれ、たゆたう惑星ソラリスの海。一見なんの変哲もないこの海だったが、内部では数学的会話が交され、みずからの複雑な軌道を修正する能力さえもっ高等生命だった!人類とはあまりにも異質な知性。しかもこの海は、人類を嘲弄するように、つぎつぎ姿を変えては、新たな謎を提出してくる一・・思考する<海〉と人類との奇妙な交渉を描き、宇宙における知性と認識の問題に肉迫する、東欧の巨匠の世界的傑作(カバー)

人類は宇宙へ進出した時、どんな生命体に遭遇するかわからない。想像を絶する生命がいるかもしれない・・・・というファーストコンタクトを描いている。人間は人間の認識に合わせて相手を理解しようとし期待をするが、〈ソラリスの海〉が決して人が求めるようには自分たちを理解することはできないことを知る。
 ただ、これはそれだけではない。この〈海〉は、人の脳の奥深くにしまい込んだはずの者の姿になってやってくる。排除してもまたやって来る。いつしか、仮の生命と知りつつ、ケルビンは10年前に自殺したはずの妻の姿をした者と愛し合う。
 SFは好きだけれど、いつもに比べて読みにくかった。この〈海〉をどう考えたらいいか受け止めかねてもてあました。まだテーマを読み取りきれていないのかもしれない。

 松本零士が、ソラリスにインスパイアされた作品を送り出している。『銀河鉄道999』に透明海アルテミスとして登場。

 1972年、アンドレイ・タルコフスキーによって映画化されている。スタンリー・キューブリックの『2001年宇宙の旅』(1968)と比肩されるSF映画の傑作といわれる。

 また、2002年には、スティーヴン・ソダーバーグ監督、 ジョージ・クルーニー主演で映画になっている。


マッカンドルー航宙記

チャールズ・シェフィールド

酒井 昭伸 訳

東京創元社



2005/12/3
 時空構造に関する太陽系随一の専門家、マッカンドルー博士。『究極の教授』と異名をとり、太陽系最高の知性を集めたペンローズ研究所でもひときわぬきんでた天才物理学者である・・・・が、それと同時に、その奇矯な人柄もよく知られていた。ミニブラックホールをこよなく愛し、やがて画期的な航行システムを開発した彼が、相棒の女船長ジーニーとともに大宇宙で出会う驚異の事件の数々!科学者シェフィールドが自らの知識を存分に駆使して描いた本格ハードSF集。(内扉の紹介文より)

 巻末には科学者である著者自身の解説があり、第一話のカーネルというブラックホールからエネルギーを取り出す概念の説明や、第二話以降登場する相殺(バランス)航法、これはたとえ500Gの加速度がかかっても、同時に反対方向へ500Gの重力で引っ張られて、何の力も感じなくてすむ、マッカンドルーが発見した航行法ということになっている。

 これらの理論説明と平行して、ジーニー・ローカー船長の視点で物語が語られる。マッカンドルー博士の天才ぶり、危機に面した時のローカー船長の判断力がすばらしい。
 難解なイメージを与えがちなハードSFだが、楽しく読めるシェフィールドだった。私好みの本なのに最近まで知らずにいたことが悔やまれた。



タイムトラベラーズ・ワイフ
上・下

オードリー・ニッフェネガー

羽田 詩津子 訳

ランダムハウス講談社





2005/8/20
 
 タイムトラベル物は今までにもいろいろあったが、これはユニークだ。SFかと思って読み始めたら、そうではなく、ラブストーリーであり、成長小説である。

 ラブストーリーは障害がなくては成立しない。愛する二人が障害を克服していく過程を描いたものである。ヘンリーとクレアの間には「時」が障害になっていた。

 ヘンリーは自分の意志とは無関係に、おもにストレスが引き金となって、過去や未来にタイムトラベルしてしまう病気を抱えている。過去や未来に現れるときは、全裸で何も所持することができない。別の時へ行くと、まず、服を調達し、食べものや、寝場所も確保しなければならない。数分なのか、数時間なのか、元の世界に戻るにも決まりがない。5歳の自分と会えばサバイバルの方法を教える。

 ヘンリーとクレアが初めて出会ったのはクレアは6歳、未来から来たヘンリーは36歳だった。それからクレアが少女から大人の女性へと成長していく間、さまざまな時代からタイムとラベルしてくるヘンリーと152回も会って、ついに、現在の時の中で会った時は、クレアは20歳、ヘンリーは28歳だった。

 現在の時間の流れと、過去や未来との交錯が、複雑だけれど不思議な魅力をかもし出している本だった。

 


文学刑事
サーズデイ・ネクスト
 
2

さらば、大鴉


ジャスパー・フォード

田村 源二 訳

ソニー・マガジンズ





2005/9/21


 前作での活躍で超有名人になった文学刑事局のサーズデイは、インタビューやTV出演に忙殺される日々。ランデンとの結婚生活に満足して生活していたのだが、ゴライアス社&クロノガードによって彼は根絶されて、記憶の中にしか残らなくなってしまう。

 何度も命を狙われて、間一髪の所で元時間警備隊員の父さんに助けられたものの、その父さんからは地球がピンクのねばねばになって滅亡してしまうと教えられ、原因を探りはじめる。

 サーズデイの仕事は前作のように本の中に入って、派手に立ち回りをして悪党をやっつけ、文学作品を守ることだと思い込んでいたが、どうも今度は様子が違う。

 
ブックワールドという本の世界があって、作中人物たちが集まり、ジュリスフィクションなる保安組織を作って、文学作品内での犯罪行為を取り締まっている。そのメンバーでもある、ディケンズの「大いなる遺産」の中に住む、ミス・ハヴィシャムは高名なブックジャンパーで、サーズデイを大いに助けてくれる。本の中へ入る方法を教わるため、サーズデイは、オオサカへ行き、ミセス・ナカジマに会う。

 後半になると動きが激しくなり、夫、ランデンを救う交換条件のため、エドガー・アラン・ポーの詩「大鴉」の中に閉じ込めた悪党のジャック・シットを連れ出しに行く。ピンチになるとミス・ハヴィシャムに助けられ何度もブックジャンプをする。

 クローンマンモスが闊歩し、ネアンデルタール人が働き、時間警備隊と文学ファンが走り回るパラレルワールドのイングランドを舞台に、ばかばかしいユーモアと深い知識を巧みに同居させたユニークな物語。
 細かい説明がないけれど、たくさんの名作があちこちに顔を出している。「ね・・・・ヒツジの絵をかいて!」こう言った少年が王子様だというくらいは私にもわかった。これを機会にあれもこれもと読んでみたくなった。


文学刑事
サーズディ・ネクスト


ジェイン・エアを探せ

ジャスパー・フォード 著

田村 源二 訳

ソニー・マガジンズ



2005/7/13
 
 舞台は1985年の《もうひとつ別の》現代イギリス。いまだクリミア戦争が終結せず、ゴライアス社なる超巨大企業に事実上支配されている。ウェールズは共産化して独立。タイムトラベル術を会得して自由に行き来できる者たちがいる反面、コンピューターはなく、空の旅も飛行船に頼る。文学が異様な力を持ち、生活の隅々まで浸透している。

 そんな奇妙なズレた世界で、クリミア戦争帰還兵でもある、36歳になる女性サーズディ・ネクストは、文学刑事として活躍する。
 
 文学刑事って何?
文学に関する、不法売買、著作権侵害、詐欺などを摘発する。ところが普通でないのは、犯罪団がジョナサン・スウィフトの文書を「人質」にして「身代金」を要求したりする。直筆原稿は特に至宝のようであって、直筆原稿が変更されたら世界中の印刷された本が変更されてしまうのだ。ディケンズやブロンテの直筆原稿が盗まれてしまった。

 伯父のマイクロフトが本の中に入っていける装置を発明したものだから大悪党が悪用しようとしたり、それを阻止しようと本の中で対決したり、ジェインの愛するロチェスター氏と接したり、ストーリーが書き換えられてしまったりする。
 「ジェイン・エア」の文章、ワーズワースの「水仙」の詩、シェークスピアの戯曲、ほか引用され、文学に詳しい人なら楽しめる要素が満載。

奇妙で、可笑しく、なつかしい。甘く、真面目で、おバカ。元気で、せつなく、苦くて、かわいい。痛ましくも、なごめる、楽しい、元気の出る物語(訳者あとがきより)
 



スーパートイズ

ブライアン・オールディス

中俣 真知子 訳

竹書房



2005/7/7

「スーパートイズ」は映画「A.I.」の原作といわれる。
 短編「スーパートイズ」(いつまでもつづく夏)は、近未来の物語。さる先進国では人口過密を避けるため、出産には政府の許可が必要とされた。デイヴィッドは親となる権利を持たない夫婦のために開発された子供型の人工知能(A.I.)である。だが、その事実をデイヴィッドは知らない。何をやっても母親を喜ばせることができない。自分はホンモノだと信じ続ける姿が読む者に涙を誘う。

 これが、スタンリー・キューブリックの心を揺り動かした物語だった。映画化に向け共同で脚本作りをしたが完成できず、亡くなったあとスピルバーグが権利を相続した。
 そこで30年を経て、オールディスは、(冬きたりなば)と(季節がめぐりて)を書き足し、3部作とした。それをスピルバーグが映画化した。

 本書はスーパートイズ3部作の他、近未来を描いた短編を収録。
 そして、「スーパートイズ」がいかにして「A.I.」となったか、天才たちのエピソードが興味深い。
 スピルバーグはキューブリックの意向を尊重し、ピノキオの要素を入れて仕上げたようだ。


サラマンダー
― 無限の書 ―
トマス・ウォートン 著
宇佐川晶子 訳
早川書房



 

2005/1/13
 スロヴァキアのある伯爵のからくりに満ちた奇妙な城で「始まりも終わりもない無限に続く本を作成せよ」と命じられた印刷工フラッドは伯爵の娘イレーナと恋に落ちるが地下牢に閉じ込められる。11年後に娘パイカが現れ、究極の書物を作る為、不思議な冒険の旅に出る。魔法の活字、悲しみを誘うインク、伝説の製造法による最高級紙を求めて。
 機械仕掛けで壁や部屋が動き続けている図書館のような城の様子や印刷の様子はうまく想像しきれない程の奇想天外さだ。
 本についての哲学的考察も挿入され難しいがどこへ連れて行かれるのか想像できない期待で読み進んだ。
 タイトルのサラマンダー(火蜥蜴)は、火の中に住み、永遠に生き続けるというドラゴンをシンボルマークとする本だから、または少女パイカの皮膚病がサンショウウオの膚を連想させることからパイカの象徴ではないかともいわれる。(辞書で引くとパイカとは欧文活字の欧文組版のポイント制の基準のこととある。関係があるのかな)
 表紙の絵とタイトルに興味がわいて手にとり、読み始めて奇妙な世界に巻き込まれ不思議な余韻を残した1冊。



inserted by FC2 system