読書日誌
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その他の紹介&感想(できるだけ短くするように心がけています




明治維新とは何だったのか
〜薩長抗争史から「史実」を読み直す

一坂太郎
創元社



2021/11/16
2017/11/20 発行



四千万歩の男
忠敬の生き方


井上ひさし

講談社




2015/2/5

2000/12/6 発行
 17年をかけて日本全土の実測を行い、「伊能図」と呼ばれる精密な日本地図を作成した幕末の測量家、伊能忠敬。本書は、その忠敬の人生を描いた原稿用紙 5000枚にも及ぶ著者の長編小説『四千万歩の男』のエッセンスを、対談、講演録、エッセイなどをもとに凝縮したものだ。なかでも忠敬本人や、内縁の妻・ 栄(えい)が登場するインタビューは、著者らしいユーモアに満ちている。

   また、忠敬の人物像や時代背景をわかりやすく解説するだけでなく、 NHK大河ドラマの原作を書きたかったという執筆動機や、有名なシーボルト事件の?末までを書き続ける予定だったことなど、創作の裏話も開陳されている。 さらに巻末には、間宮林蔵、山東京伝、平賀源内といった登場人物の紹介をはじめ、「中象限儀」「半円方位盤」など、忠敬が使用した道具類の写真や資料が収 録されている。まだ小説を読んでいない人にも、その作品世界をたどることができるようになっている点がうれしい。

   「人生50年」の 幕末において、56歳になってから3万5000kmを踏破するという大事業を成し遂げた忠敬の生き方が、今日注目されるのは、著者が『四千万歩の男』の前 書きで語っているように、高齢化社会において私たちが「『一身にして二生を経る』という生き方を余儀なくされている」からである。『厚生白書』に「新しい 高齢者像を求めて」という言葉が躍り、「高齢者の世紀の始まり」を前にした2000年に本書が刊行されたのは、決して偶然ではない。(中島正敏)


     ***********************

  読書会に参加するに当たり、小説は5巻もあり、大変そうだったのでとりあえずこちらを先に読む。作者が描きたかったことを手っ取り早く知ることはできたが、井上ひさしという作家の作品を感じるには小説を読まねばならないだろうなあ。
 伊能忠敬について知るには、わかり易かったけれど。
 日誌があるから、そこに作り事はないが、歩みを止めた夜にはサスペンスがいっぱいなのだそうでそこが小説の面白い所らしいが、伊能忠敬の人物像を作り過ぎたら違うのではないかと感じ、読むのならフィクションの少ない作家で読みたいとの印象を持った。
 ケプラーと同時代に麻田剛立がケプラーの法則を発見していた。こんな薀蓄はうれしい。


埋もれた古城

遠藤周作

集英社文庫




2014/12/11

昭和54/7/25 発行
栄枯盛衰、武士(もののふ)の夢のあと。日本各地にひろがる三千余の山城跡。遠藤周作が、幾多のドラマが演じられてきたこの山や城を尋ねて、戦国の世に思いを馳せ、武将たちの生死にかかわって、ユニークな洞察を繰広げる痛快歴史譚。

 関東小豪族の悲劇を象徴する箕輪城。
 家康の苦悩がこもる二俣城、高天神城。
 切支丹の哀史を秘める日の枝城。
 身近な城あと世田谷城。
 タイムマシンで見た清洲城。
 水攻め、高松城をめぐる武将たち。
 信長の栄華を偲ぶ安土城。
 小浜城に残る伊達政宗の戦略秘話。
 信州・真田の城跡に想う豪族の夢。
 武田家滅亡の前奏曲・長篠城の攻防。
 天王山の地形に想う光秀の心境。

   **************

 最初読み始めたときは、城の名前も武将の名前もメジャーでないので、それほど興味がわかず中断した。
 そして、武田信玄の一代記を読んだ後で再読すると、俄然面白くなった。
 ある程度の知識を持たねばわからない良書というのもあるのだなあ。


竜馬を斬った男
早乙女 貢
双葉文庫




2014/11/7 
2006/11/21 ?
昭和62/10/25 発行
ーーおれは、後世に頑迷固陋な佐幕の鬼として、悪名を残すことになるやもしれぬ。それでよい。おれは武士として、する事をしたのだ、知る人ぞ知ろうーーーー。公儀に弓をひく清河八郎を斬り、激しい情熱で歴史の変革に奔走した坂本竜馬を暗殺した佐々木只三郎。
 時代の流れに抗した佐幕の剣客の凄愴と孤独を描いた「竜馬を斬った男」「若き天狗党」「周作を狙う女」「ある志士の像」「最後の天誅組」「近藤勇の首」「逃げる新選組」

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 「竜馬を斬った男」は、京都の醤油商・近江屋でで勤王の志士・坂本竜馬を斬った幕府見回り組隊長・佐々木唯只三郎の波乱の半生を描いている。

 「近藤勇の首」「逃げる新選組」らは、幕軍の側から明治維新を描いている。

早乙女氏は、会津藩士の末裔、明治維新は所詮薩長の武士たちが天皇=錦の御旗を担いで徳川幕府という政権を倒し、自分たちが権力を掌中にした『権力闘争』に過ぎなかったのではないかと、正史に不信の目を投げかけ、虚偽を暴こうとするのではないか―――と解説で藤田昌司氏が書いている。権力闘争史観か。
 


水の中の砂漠

黒岩 重吾

角川文庫




2014/11/2

昭和54/10/30 発行
画商の佐来田(さきた)は、10年ぶりに水の都ベニスを訪れた。だが、そこには、才能を認められながらも絵筆を捨ててしまった挫折感と、妻ナターシャを交通事故で失った哀しい思い出だけしかなかった。
 そして今、過去の日々をたどりながら来たカジノで、彼はルーレットにん熱中する一人の日本女性、あのナターシャの面影を見出した。
 カンツォーネの聞こえるゴンドラの中で、夕暮れ迫るレストランの片隅で、二人の愛は育っていった。しかし、彼女には何かにおびえているような落ち着かぬ気配があった・・・・・・・。
 哀愁の恋を描く(表紙裏の紹介より)

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 エキゾチックな風景描写、ミステリアスな導入と展開、生彩のある会話、微妙にくいちがう男と女の心理、結末の意外性、作者の持ち味が出揃った好短編集。

 「黒い痣」−−−気まぐれな混血娘に振り回される週刊誌編集長の哀歓をテーマにした風俗小説
 「雨と青い花」−−−大人の眼からは無目的、無軌道にしか見えない青春が、実はもっとも純粋で無垢な魂を隠し持っている。大人の論理の前では余りに無力なので、いつかは敗れ去るーーそして自ら死を選ぶ
 「蟻の巣」---この作者が得意とする”西成兄妹”もの
 「幻の広告」−−−敗れ去る男ーー彼を裏切ったヒロインは自作の小説の中でこの男の生き方を否定している      (以上解説より)

           *   *   *

 哀愁の恋ーーーこういうのは、今は苦手だ。もっと若いときなら、関心を持って読んだかもしれないが。


判事よ自らを裁け

土屋 隆夫

角川文庫




2014/10/28

昭和51/1/10 発行
 戸狩裁判長が被告に対し死刑の判決を言いわたした時、傍聴席から突然、悲痛な少女の叫び声が起きた。「嘘だ、お父さんが殺したんじゃない!」その声は、それを黙殺し退廷する戸狩の頭に、こびりついて離れなかった。
 数日後、無実を叫び続けていた被告が獄中で病死、「全ての状況、証言があの男の有罪を示していたのだから」と戸狩は自分に言い聞かせた。だが、ある日、彼の元へ戦慄すべき運命の手紙が・・・・・・・・。
 裁判の非人間性に鋭い批判の目を向けた表題作ほか4篇。(表紙裏扉の紹介より)

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 父の本棚で見つけた古い本。「孤独な殺人者」は、初老のサラリーマンの”危険な曲がり角”を的確に描き出した作品。止むに止まれぬ殺意とその実行を描いた犯罪心理小説で、このパターンのものは、その後松本清張や森村誠一によって受け継がれ・・・・・・解説によるが、よほど先駆的な作品らしい。
 「奇妙な再開」は、政界出馬を夢見る退職判事を主人公として止むに止まれぬ殺人への経過を描いている。誤判による死刑の宣告、つまり法による殺人をテーマにしている。同じテーマの「判事よ自らを裁け」に到る過渡期の作品。
 「地図に無い道」は、思わぬ遠隔の地で変死した夫の死因を探ろうと、人妻が一歩一歩と推理の糸を手繰り寄せていく物語。
 「ねじれた部屋」は、初老の夫とではなく、夫の持つ財産と結婚した若妻が、手を換え品を換えして夫を殺そうとする。これに気づいた夫が、種々のトリックを弄して、返り討ちを図る。

  どの作品も、しっかりしていてしかも結末は皮肉であって読み応えがあった。
 


貴族探偵対女探偵

麻耶雄高

集英社




2014/9/22

2013/10/30 発行
貴族探偵」を名乗る謎の男が活躍する、本格ミステリーシリーズ第2弾!
今回は新米女探偵・高徳愛香が、すべてにおいて型破りな「貴族探偵」と対決!

貴族探偵と名乗っているのに、推理して事件を解決するのはその使用人やメイド、運転手であるという発想を面白がる人たちがいるーー自分は推理しないけど事件を解決する貴族探偵と
優秀で頭も良く、推理も論理も素晴らしいのに解決できない女探偵の対決。

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 レビューを読むと「「探偵から何を取り除いても探偵でいられるか」という麻耶一連の取り組みのひとつ、貴族探偵第二巻。探偵か らモラルを取り除いたメルカトル、探偵からロジックを取り除いた鈴木太郎(これは神様ゲームのレビューでも書いたが本当に凄い)、そして探偵から推理とい う行為を取り除いた貴族探偵。ーーーーという具合に著者は変わった試みにこだわりがあるらしい。

 事件そのものに関心が湧かなかったことと、推理にも興味がわかなかった。
麻耶雄高ワールドを好きな人もいるようだが、私にはわからない。
 読みたい、.と思う本ではなくて暇つぶしになら読むかな。
 


モンフォーコンの鼠


鹿島 茂

文芸春秋






2014/9/7

2014/5/25 発行
 1831年、七月王政下のパリ。小説家バルザックのもとにカストリ侯爵夫人からファンレターが届く。同じ頃「危険思想」の集団サン・シモン主義者たちの捜 査を進める警視総監代行アンリ・ジスケは公衆衛生学者パラン・デュ・シャトレにパリ郊外モンフォーコンの廃馬処理場で出会い、パリの食糧問題と衛生問題に ついて滔々と語られる。モンフォーコンでは廃馬の内臓を餌に巨大化した鼠が出現しはじめていた。
 また同じ頃、サン・シモン主義をさらに推し進めた過激な社 会主義者フーリエと信奉者たちは男女が完全に平等に、自己の欲望に忠実に生きる理想的共同体「ファランステール」建設を目論む。ある日、バルザックのとこ ろに美女サン・レアル侯爵夫人がたずねてきて『デヴォラン組』なる小説の三巻本をおいていく。著者は「オラース・ド・サン・トーバン」。バルザックが昔 使っていたペンネームであるが、こんな本を書いた覚えはない。しかしやがてバルザックは何かに導かれるかのように第四巻『カリエールの死闘』の執筆を始め るのだった。
 ユートピア(ディストピア)小説でありエネルギー問題や地下王国を扱う元祖SFのような趣きもありバルザックの諸小説や「レ・ミゼラブル」を 下敷きとするメタ・フィクションでもある複雑な味わいの傑作長篇。(文芸春秋社の紹介)

 担当編集者の言葉ーーーー十九世紀フランスの専門家である鹿島茂氏。渾身の力が注がれた長篇小説には小説家バルザック、思想家フーリエなど実在の人物が登場するだけではなくジャ ヴェール警部テナルディエなど『レ・ミゼラブル』中の人物も入り込んでいます。七月王政下のパリの地上ではきなくさい陰謀が渦巻き、地下には異常な”理 想社会”がある。SF、メタフィクション要素十分、そして人間の崇高から卑小まで社会の全てを描き尽くそうとした小説家のなかの小説家、バルザックへの限 りないオマージュとなっています。

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 出版社の紹介文や編集者の言葉を借りなければ、自分の力だけでは理解できなかっただろう。基礎知識が無ければ面白さは半減したかも。空想社会主義やフェミニズムや環境問題をおちょくっているらしい。オスマン男爵の「パリの大改造」が1853?1870だから、この物語の展開(1831年11月?1832年5月)するパリは、まだ市街も狭く、汚い!


私の快適、気ままな老いじたく

吉沢 久子

三笠書房





2014/9/2

2011/5/10 発行
「老い」は、未知の土地へ行く旅の道すがら。
旅じたくのバッグに旅の楽しみを入れていくように、
「老い」も楽しまなければ、つまらない。
すべてを終える日まで、
無理なく、素直に、元気に、自分らしく生きる・・・・・・・・

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 気持ちよく、幸せに、老後を過ごすコツ満載!
  * 記憶力を訓練する
  * 自分で”元気さ”を演出
  * 苦労の先取りをしない
  * 日の扱いには十分注意
ご機嫌な生き方への必読書

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 何事も心がけ次第、見習いましょ

 他に 「素敵な老いじたく


司馬遼太郎が描かなかった幕末
ーー松陰・龍馬・晋作の実像

一坂 太郎
集英社新書



2014/9/2
2013/9/18 発行
 国民的作家として読み継がれている司馬遼太郎。そのあまりの偉大さゆえに、司馬が書いた小説を史実であるかのように受け取る人も少なくない。しかし、ある 程度の史実を踏まえているとはいえ、小説には当然ながら大胆な虚構も含まれている。司馬の作品は、どこまでが史実であり、何が創作なのか?吉田松陰、坂本 龍馬、高杉晋作が活躍する司馬遼太郎の名作をひもときながら、幕末・維新史の真相に迫る。

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 P109−−−「ーーーー手紙で送ったものが多い」と一言加える。おそらく存在していないだろう。このへんが司馬の罪作りなところである。ちょっとしたエピソードに、史料による裏付けがあるかのように書き添えてリアリティをくわえてしまう。
 P172−−−龍馬の行先を熊本から長崎に変えたのは、史実に従い小楠に面談させるより、亀山社中誕生に龍馬を立ち会わせたかったのだろう。

 私も長い間、騙されていた。他の作家より司馬は歴史の事実を書いているのだとばかり思っていた。
 最近はそうでもないらしいと気づいたが、これほどの作り話とは思わなかった。たしかに物語は劇的で面白い。事実ばかりでは、こんなに人を感動させるほどの出来事も起こらないだろう。
 改めて、司馬は物語のつくり手として凄かったと言える。
 でも、大勢の人たちに間違った歴史を思い込ませた罪はあるのではないかなあ。


氷川清話
勝海舟  勝部真長 編
角川文庫




2014/8/28
昭和47/4/30 発行
表紙は、勝海舟自筆の「咸臨丸」

幕藩体制瓦解の中、勝海舟は数々の難局に手腕を発揮、江戸城を無血開城に導いて次代を拓いた。晩年、海舟が赤坂氷川の自邸で、歯に衣着せず語った辛辣な人物評、痛烈な時局批判の数々は、彼の人間臭さや豪快さに溢れ、今なお興味が尽きない。

1823?99。幕末・明治期の政治家。海舟は号。日本の近代海軍の創設者。1860年、咸臨丸艦長として太平洋を横断。戊辰戦争のときは旧幕府側を代表 して新政府軍の西郷隆盛と交渉し、江戸を無血開城に導いた。維新後は参議兼海軍卿、完全在野の時期を経て、1887年伯爵、翌年枢密顧問官。明治政府の監 視役だった。著作に『海軍歴史』などがある。

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木乃伊館

柴田 錬三郎
講談社文庫




2014/8/20
1989/11/15 発行
備前、黒井山中に隠された宇喜田秀家の財宝は、はたしてあるのだろうかーーーーかげろう太刀で両断された冥官冑(めいかんかぶと)とその幻の剣法の使手、下山新八郎の妖気漂う死を結んで、黄金伝説を伝える「黒井館」の恐るべき謎が解かれてゆく・・・・・・・・・・「木乃伊館」他、
 「下郎君平」
 「八代目団十郎」
 「片耳奴」
 「寺田屋兇変」
<夢と恐怖と謎>をはらむ迫力の伝奇時代小説集。

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 柴田氏は「小説というものは元来、嘘を書くものである」という文学観にたって、一貫して虚構の面白さを追及した作家。『根も葉もある嘘』を書き続けてきたという。

 さすがにうまい作家だ。


ひたすら憲法

寿岳 章子

岩波書店





2014/7/26

1998/7/6 発行
著者は、じゅがく あきこ.
1924年、京都市に生まれる.東北帝国大学法文学部文学科卒業後、京都府立大学教授を経て、現在、(財)新村出版記念財団理事長、国語学者、エッセイストとして、また広く社会運動家として活躍中。

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 「オナゴは黙っとれ」に抗して「一番言いにくい事を一番言いにくい人に」忍従を強いられた女性たちは、語り、学び合うなかで姑や夫との関係を変え、行政を動かし、戦争と平和を問い続けてきた。著者が京都で30年余り続けてきた「憲法を守る婦人の会」の歩みを回想しながら数々の感動的な逸話を語り,暮らしのなかに憲法を,との熱い思いをつづる.

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 タイトルからして期待して読んだが、がっかり。
 女性の権利などについて今までの活動を書いてある部分については悪くはないと思う。
 平和憲法を守る、ということについては、思考が停止しているとしか思えない。
 時代が変わり、周りの国の力関係が変化していく中で、平和という言葉を唱えるだけでは平和は守れないのに、と思って腹立たしい。

 ただ、面白い言葉があった
「男は職場で共産党、通勤電車で社会党、家へ帰れば自民党」


貴族の階段
武田泰淳
新潮文庫






2014/7/18
昭和43/5/10 発行
 2・26事件を背景に、貴族と軍閥の息詰まる暗闘の世界を、常に政治とは無縁に生きてきた女性の視点を設定して描き出した異色作品。
最高の血統を誇る西の丸公爵家令嬢であり、この作品の語り手である氷見子と陸軍大臣猛田の娘節子との屈折した愛情、氷見子の父秀彦と節子との人知れぬ交情、氷見子の兄義人と節子との清純な愛など、歴史の白熱点における人間関係の不可解さをえぐる。

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グループホームケア
痴呆を治す介護の実践


塚本 茂

講談社





2014/6/19

2003/4/15 発行

「グループホーム」の報道でギャラクシー賞大賞受賞!!
痴呆回復の切り札少人数ケアの驚くべき効果

特別養護老人ホームなどの大規模施設では、痴呆の進行を止めることがむずかしい。その反省からスウェーデンで生まれたグループホーム。少人数ケアによる痴 呆回復効果が注目され、2000年の介護保険開始とともにグループホームが増えつづけている。「グループホーム・ケア」の報道でギャラクシー賞を受賞した 著者が、「和笑庵」のケアの実際を中心に、痴呆回復の実例、介護者のありかたから、法整備の問題点まで、痴呆ケアの未来を明示する。


グループホームの特徴
●一人ひとりのスペースがゆったりあり、住む人の自由が大切にされ、穏やかな共同生活がおくれる
●痴呆の人が力を発揮しやすいような、住み慣れた暮らしに近い家庭的な環境
●その人の持っている残存能力を引き出すために、見守ることに重きをおいたケア
●いつも仲間やスタッフと一緒の暮らしと支え合いがあり、なじみの人間関係ができる
●一人ひとりの誇りと力をよみがえらせるための専門的なケアが24時間受けられる
●地域や自然に触れ合いながら、街の人々と行き来のある暮らし


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 とても参考になったし、目からうろこが落ちる、なるほどと思った事柄が多かった。
 本書で紹介されている「和笑庵」なら親を預けたいと思える。ただし、月に30万も40万もかかるのは、かなりきつい。誰にもできることじゃない、でもこれほどのことをしてもらえる
ならお願いしたいと思える。

   http://www.bettercare.jp/BC_10/10suginami.html


ホテルローヤル

桜木 紫乃
集英社






2014/6/18
2013/1/10 発行
 ホテルだけが知っている、やわらかな孤独
湿原を背に建つ北国のラブホテル。訪れる客、経営者の家族、従業員はそれぞれに問題を抱えていた。閉塞感のある日常の中、男と女が心をも裸に互いを求める一瞬。そのかけがえなさを瑞々しく描く。

恋人から投稿ヌード写真撮影に誘われた女性店員、「人格者だが不能」の貧乏寺住職の妻、舅との同居で夫と肌を合わせる時間がない専業主婦、親に家出された 女子高生と、妻の浮気に耐える高校教師、働かない十歳年下の夫を持つホテルの清掃係の女性、ホテル経営者も複雑な事情を抱え…。

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 上記のように紹介されている本書は、直木賞受賞作だ。

 「新官能派」のキャッチコピーでデビューした性愛文学の代表的作家なのだそうだ、ふ〜〜ん?
人間の本能的な行為としての悲哀を描いている・・・・・そうかなあ

 私にはさっぱり良さがわからない。
 それぞれの人の人生に何も関心が湧かなかったからだと思う。


娘に伝えたいこと
本当の幸せを知ってもらうために

町田 貞子
光文社



2014/6/13

1999/7/30 発行
1911年(明治44)、東京生まれ。19歳で結婚。以来、家族の健康と幸せを願って、一男四女の五人の子を育てる。心を使い、生活を大切に、をモットーに合理的な家事研究を続ける。
「婦人之友」と「友の会」を中心に、講演に、執筆にと活躍。
著書に「家事整理のヒント」「暮らし上手の家事ノート」「常識以前でございますが」「躾け以前でございますが」など。1999年1月24日心不全のため永眠。

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 第1章 大切なものを失っていませんか/第2章 家族・家庭のあり方をもう一度考えてみましょう/第3章 何のために結婚するのですか/第4章 人生はす べて整理/第5章 家事嫌いのお母さんへ/第6章 子育てが面倒だと思っているお母さんへ/第7章 夫婦の素敵な年のとり方/第8章 二十一世紀のお母さ んたちへ

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 あとがきは、死の五日前に追加があると、テープに語られたものだそうだ。解説で、娘の木元教子さんが書いている。
 若い主婦、若いお母さんに伝えたいことが、わかり易く語られている。
 わたしは娘を育てるうえで、このように伝えてきただろうか。そのように娘は育ってくれただろうか、反省しながら読み進んだ。
 若い人向けだけではなく、上手な年の取り方も、教えられた。

この本は、ここで 知ることができた..


オービタル・クラウド

藤井 太洋

早川書房





2014/6/10

2014/2/20 発行
 2020年、流れ星の発生を予測するWebサービス〈メテオ・ニュース〉を運営するフリーランスのWeb製作者・木村和海は、衛星軌道上の宇宙ゴミの不審な動きを発見する。それは国際宇宙ステーションを襲うための軌道兵器だという噂が、ネットを中心に広まりつつあった。同時にアメリカでも、北米航空宇宙防衛軍のダレル・フリーマン軍曹が、このデブリ(宇宙ゴミ)の調査を開始した。そのころ、有名な起業家のロニー・スマークは、民間宇宙ツアーのプロモーションを行うために自ら娘と共に軌道ホテルに滞在しようとしていた。
 和海はある日、イランの科学者を名乗る男からデビリの謎に関する情報を受け取る。ITエンジニアの沼田明利の助けを得て男のデータを解析した和海は、JAXAに驚愕の事実を伝えた。それは、北米航空団とCIAを巻き込んだ、前代未聞のスペース・テロとの闘いの始まりだったーーー近未来のテクノロジーを描くテクノスリラー

    *******************

 敵役は、JAXA(宇宙航空研究開発機構)からはじき出された過去を持つ日本人エンジニアの白石蝶羽。凄腕の北朝鮮工作員と行動をともにする白石の目的は?
 この物語は、12月11日から16日までのたった6日間の出来事。壮大なスケールと圧倒的なスピード感、さえたアイデアと細部のリアリティを兼ね備えた、天下無敵の世界水準エンターテインメント。(新聞の書評・大森望さんの絶賛のコメントを拝借)

 はじめのうちは、何がどうなっているのか、誰が関わっているのかが頭に入ってこなかったが、物語が進み始めてからは、面白くて難しいテクノロジーなどが気にならないくらい面白かった。


間違えてはいけない
老人ホームの選び方

本間 郁子
あけび書房



2014/6/8
2011/8/25 発行


かぐや姫と王権神話
保立 道久
洋泉社




2014/5/14
2010/8/21 発行


なぜ、「回想療法」が
認知症に効くのか

小山 敬子
祥伝社





2014/5/10
2011/3/10 発行


カノン


中原清一郎


河出書房新社






2014/5/8

2014/3/20 発行
 著者ーーー1953年、札幌市に生まれる.76年、東大在学中に、外岡秀俊名義で書いた『北帰行』で、第13回文藝賞を受賞し、デビュー.同じ年にデビューした村上龍とともに、その才能は大きな注目を集めた.
 77年、朝日新聞社入社後、小説活動を休止.社会、外報部、ヨーロッパ総局長、東京本社編集局長、編集委員などを歴任。在職中の86年、中原清一郎名義で、小説『未だ王化に染はず』を発表したが、外岡の作品であることは伏せられていた。
 現在、引き続き外岡秀俊名義でジャーナリストとしても活躍。『傍観者からの手紙』『3.11複合汚染』など、多数の著書があるほか、訳書に、ジョン・W・ダワー著『忘却のしかた、記憶のしかた――日本・アメリカ・戦争』がある。

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 海馬を交換するのは、末期がんを患う58歳の北斗と、記憶が退化する「ジンガメル症候群」を患う32歳の歌音(かのん)。他人になって生きることを選んだ 北斗は、心は男性のまま歌音の体に入り、4歳の男児の母親になり、仕事に復帰する。性が変わったことへの戸惑い、親子間のトラブルなどの葛藤を越えて、新 しい自分を受け入れるまでを描く

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  著者は、自らの父親が認知症になり母親とともに最期を見送った。その経験から、脳の衰えとどう向き合い、尊厳ある最期をどうまっとうすればいいのを考えた。
 「意識がしっかりして体が不自由なのと、頭は朦朧としていても体が自由なのと、どちらが幸せなのかしら?」と母上が良く言っていたそうである。そこで、一方には意識がいまだしっかりしていながら末期の肉体をもった人がおり、他方には健全な肉体をもちながら記憶を失いつつある人がいる。その二人が契約を交わして、脳の一部を交換したら?という物語が生まれることになった。

 ほんとにどちらが幸せなんだろう?

 この物語では、歌音(カノン)の夫がとても素晴らしい人物に描かれていたので、不幸にはならなかったが、人物によっては、とてつもなく不幸になる可能性があると思う。
 それでも、硬質の文体でしっかり書き込まれていて、考えさせてくれるだけでなく、感動もさせて貰えた。
 新聞の紹介では人間の存在と尊厳問う、とあった。


認知症
家族を救う対策集


主婦の友社編




2014/5/4
2011/3/10 発行
第1章  知っておきたい認知症の正しい知識
第2章  家族を救う認知症治療「コウノメソッド」
第3章  目からウロコの認知症対策
      ーー困った行動に対する具体的対策の提示は、参考になる
第4章  これだけは知っておきたい!介護保険の基本の「き」
第5章  認知症を防ぐ50のコツ

 「周辺症状」は、中核症状がもたらす不自由から生まれてくる。

 私が知りたかったのは、認知症が進んでしまった人を少しでも治す方法はないのか、だったので、予防法はもう遅かった。
 ひどくなかった認知症が、一日か二日で最重度になってしまったのはどうしてなのかが知りたい。
 
 今与えられている薬の副作用で認知症状が出ているのではないかと家族は希望的観測で考えてしまうが、どうなのか。

 なかなか、分からないモノだ。

 認知症についての入門的書物だと思う。


高血圧は薬で下げるな!

浜 六郎

角川ONEテーマ21







2014/5/1

2005/9/10 発行
第1章  医者任せにしてはいけない!
第2章  薬で下げる危険を示すこれだけのデータ
第3章  血圧は自分で測る
第4章  薬に頼らず生活習慣の改善を
第5章  薬の作用と副作用
終章  降圧剤をやめる方法

降圧剤に頼らずに賢く血圧をコントロールする方法
★   基準値の改定が膨大な「患者」を生んでいる
★   実は裏付けがない高血圧の新基準値
★   血圧180/100まで治療はいらない
★   降圧剤の使用が寿命を縮める危険性も
★   それでも薬を使う時はーーー薬の効果と副作用

         ****************

  私の血圧は、少し高めだったが、この本を読んで、今まで薬を飲まなくて良かったと思えた。
この本の時は、基準値が改悪された時期だが、今、2014年にはまた基準値が改定されて、
私の数値でも高血圧とは言わなくなった。
 まずは、これ以上にならないような生活習慣にしておくことだ。


俳人一茶捕り物帳
笹沢 左保
光文社時代小説文庫




2014/4/25
1996/1/20 発行


「終のすみか」は
有料老人ホーム

滝上 宗次郎
講談社




2014/4/3
1998/12/1 発行


謎解きはディナーのあとで 3
東川 篤哉
小学館




2014/3/30
2012/12/17 発行


私たち、主婦だけで、
理想の「終の住処」を
つくりました!


網中 裕之

PHP



2014/3/28
2009/11/30 発行


かがやく月の宮
宇月原 晴明
新潮社




2014/3/26
2013/11/20 発行
かぐや姫の物語のようでーーーー
物語を書きたいと願っている才女が、「かがやく月の宮」というタイトルの古びた巻物を読み返す場面から始まる。
「今は昔、竹取翁というものありけり」の書き出しで始まる今までよく知っている物語とは大いに異なっている。
 蓬莱島に生えている白玉の実の金の枝、龍の首にかけられている五色の玉などの難物を所望された五人の求婚者たちは、宮中の生き残りのためであったり、武人の誉れを守るためであったり、それぞれがわけありだ。
 体の弱い帝の姉宮への切ない思いとかぐやとの関わり、日の宮と月の宮。アルテミスとアマテラス、皇祖神話とギリシャ神話までつながってくる――どうなるのか??

 「かがやく月の宮」の巻物を読んでいる才女を暗示させるのは、有名なこの書き出し「いずれの御時にか、女御更衣あまたさぶらい給いける中に、いとやんごとなき際にはあらぬが、優れて時めき給うありけり」で書き始めたことだ。生まれるのが皇女ではつまらない、皇子ならばどうだろうと光り輝く皇子の物語を書き始めたのだった。

 かぐや姫の話が、宇月原氏によれば、このような物語になるのね。
 史実を綺想(きそう)でくるむことで、正史が黙して語らなかった、あり得たかもしれないひとつの”真実”を描いている作家らしい。(書評家の豊崎由美さんの書評を参考にした)


田舎の家のたたみ方
三星 雅人
コンタロウ
メディアファクトリー新書



2014/2/5
2011/6/30 発行
気になるけれど、帰れない !
郷里に家を残してきた人の悩みに、漫画と解説で答える

地方に生まれ育ち、都会に移り住んだ人にとって、田舎に残してきた家をどうするかは、頭の痛い問題だ。
売る、貸す、壊す、Uターン利用する・・・・・・など選択肢は多いものの、実際にやろうとすると、いずれも難題が山とある。
『いっしょけんめいハジメくん』のハジメ夫妻を例に、実家のいろいろな処分方法を徹底シミュレーション。
法律や手続きなども平易に解説した、完全マニュアル。

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京都の謎
日本史の旅 1



奈良本辰也 高野澄



祥伝社 ノン・ブック






2014/1/28


昭和47/5/10 発行
既成の歴史を変形させる炸薬(司馬遼太郎)
われわれこの現世に生きる者は、歴史という、ともすれば絶対化されようとする世界に対し、生身の健康な「なぜ」という質問を無数に発しては、その絶対化をふせぎ、自分の生身の世界に引き入れようとしている。
 しかしながら、その質問の多くは、むなしく跳ね返って、権威が作り上げた堅固な城郭の前で呆然とたたずむ以外にない。
 この書物は軽快な体裁ながら、きわめて良質な炸薬を充填させたもので、放たれる「なぜ」が城郭に炸裂するごとに既成の建造物が変形していくという、高度に知的な小気味よさを感ずる。

だれもが気づかぬ謎を追求(松本清張)
芭蕉の「嵐山藪の茂りや風の筋」は風景だが「うきふしや竹の子となる人の果て」は小督の局を詠んで、歴史となる。
 蕪村の「大寺に人の足らざる野分かな」は寺院風景。「鳥羽殿へ五六騎いそぐ野分哉」は歴史。−−−
 本書は、長く京都に住み、現在の京都はもとより、京都の歴史の表と裏を知りつくした歴史家の手になるものだけに、旅と歴史の融合が見事である。
 だれもが気づかぬ歴史の謎が、平易な文章で学問的に追及されていて、まことに興味深い。

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 上記は 二大巨頭が紹介文を書いているので拝借した。

 1 なぜ桓武帝は平安遷都を急いだか
 2 なぜ東寺が栄え、西寺は消えたか
 3 なぜ天神様が学問の神様になったか
 4 なぜ白川上皇は賭博を禁止したか
 5 なぜ『平家物語』は清盛ご落胤を説くか
 6 なぜ鞍馬山は天狗の巣になったか
 7 なぜ義仲は六十日天下で終わったか
 8 後白河法皇は本当に建礼門院を訪ねたか
 9 西芳寺の『枯山水』は古墳の跡だ
 10 銀閣寺は義政の妻のへそくりで建った
 11 大文字送り火は誰がはじめたか
 12 なぜ秀吉は聚楽第を破壊したか
 13 なぜ『京おんな』は心中が嫌いか
 14 井伊直弼はスパイに仕立てた?
 15 志士はどこから活動資金を得たか
 16 孝明天皇ははたして毒殺されたのか
 17 なぜ明治幼帝は倒幕を決意したか
 18 なぜ京都に日本初の市電が走ったか

 これらの謎について解きながら、京都の町を案内している。


中陰の花
玄侑 宗久
文春文庫



2014/1/26
2005/1/10 発行
中陰とは、この世とあの世の中間

自ら予言した日に幽界へ旅立った、おがみや・ウメさん。僧侶・則道は、その死をきっかけにこの世とあの世の中間=中陰の世界を受け入れ、夫婦の関係をも改めて見つめ直していくーーー現役僧侶でもある著者が、生と死を独特の視点から描いて選考委員全員の支持を集めた、第125回芥川賞受賞作。

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 先に、併録されている「朝顔の音』を読んだ。さっぱりわからなかった。


脳の病気のすべて
角南 典生
筑摩書房



2014/1/6
2013/11/15 発行


私の本棚
新潮社編


2014/1/6
2013/8/30 発行


貴族探偵
麻耶雄高
集英社



2014/1/6
2010/5/30 発行
1969年5月29日生まれ。三重県上野市(現・伊賀市)出身。
三重県立上野高等学校、京都大学工学部卒業。
在学中に推理小説研究会所属。
綾辻行人、法月綸太郎、島田荘司の推薦を受け、91年「翼ある闇 メルカトル鮎最後の事件」でデビュー。著書に「夏と冬の奏鳴曲」「鴉」「神様ゲーム」などがある。

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 初出 小説すばる
 2001年2月号  ウィーンの森の物語
 2001年9月号  トリッチ・トラッチ・ポルカ
 2007年4月号  こうもり
 2008年4月号  加速度円舞曲
 2009年9月号  春の声

  


不格好経営
チームDeNAの挑戦



南場 智子



日本経済新聞出版






2014/1/5

2013/6/10 発行
著者ーーー株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)ファウンダー
 新潟市生まれ。津田塾大学卒業後、1986年マッキンゼー・アンド・カンパニー入社。90年ハーバード・ビジネス・スクールでMBA取得、96年マッキンゼーでパートナー(役員)に就任。99年同社を退社してDeNAを設立。代表取締役社長に就任。2005年東証マザーズ上場を果たす(07年東証大一部に指定替え)。
 11年病気療養中の夫の看病に力を注ぐため、代表取締社長兼CEOを退任、代表権のない取締役となる。03年内閣IT戦略本部員、04年規制改革・民間開放推進会議委員などを歴任。

   *****************

  「それにしても、マッキンゼーのコンサルタントとして経営者にアドバイスをしていた自分が、これほどすったもんだの苦労をするとは……。経営とは、こんなにも不格好なものなのか。だけどそのぶん、おもしろい。最高に。」――創業者が初めて明かす、奮闘の舞台裏。

なぜ途中で諦めなかったのか、いかにしてチーム一体となって愚直に邁進してきたか。創業時の失態や資金集めの苦労、成長過程での七転八倒など、ネット界に 新風を巻き起こしたDeNAの素顔を同社ファウンダーの南場智子が明らかにする。華やかなネットベンチャー創業の舞台裏で、なにもそこまでフルコースで全 部やらかさなくてもと思うような失敗の連続――こんなにも不格好で、崖っぷちの展開があったのかと驚かされる。当時の心境も含めて綴られた文章は軽快で、 ビジネス書として示唆に富むだけでなく、読み物としても楽しめる。スピード感あふれる人材育成の現場も垣間見ることができる。

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   夫の介護のため、創業した会社を手放したと聞いた時には驚いた。苦労して育て上げてやっと大きくなったのに、他の人に任せるなんて――。手放したわけではなく、後任に後を託したようだが、それにしても興味が尽きない人だ。後継者を育てていたとは、もっと凄い !!
 
 テレビで見かけた程度しか知らなかったが、創業時の苦労は凄い。ベンチャー企業を立ち上げるとはそういうものかもしれないがーーー
 創業を一緒にした人たちも、入社してから社長についてきた人たちも、南場社長の人柄と手腕に魅せられたのだろう。

 文章も読み易い、内容がわかり易く整理され、しかもユーモアもあり、周りの人たちの有能さも魅力もよくわかる。さすが南場社長だと思う。


空海

稲垣 真美

徳間文庫



2013/10/2
1984/3/15 発行
本作品は、映画「空海」早坂暁氏の脚本をも参考にした小説ーーーーだそうである。

弘法大師として多くの人々に信仰され、また文芸・美術・土木と多方面に巨大な足跡を残した天才空海ーーーその御入定千百五十年の御遠忌を記念する映画の完璧の小説化。
 真言宗開祖空海は十八歳のとき都の大学に入るが、やがて山林に身を投じての苦行の末に得度、三十一歳のとき渡唐し、恵果の阿闍梨から真言密教の大法を伝授される。そして高野山に金剛峰寺を建立するまでの巨人の六十余年間の大絵巻を活写する。

    *****************

 子供の頃から身近に存在していた弘法大師なのに、少しも知らなかった。数十年前に司馬遼太郎の「空海の風景」を読んだことはあるが、今回読んだときのほうが、空海の凄さを感じた。
 
 遣唐船に乗るだけでも大変な事だし、唐に渡っても貴重な経典を手に入れるのも、もって帰るのも、高名な僧から灌頂(かんじょう)をうけるのも、困難な事だから天才なればこそできたことなんだろう。そんなこともこの本を読むまでは、あまり気づかなかった。

 四国八十八箇所については書かれていなかったが、讃岐生まれである事、室戸の海上に見ていた日の出、空と海がまさしくひとつになって、陽光とともにわが口中に飛び込んできたという体験が空海という名前になったらしい。全国で伝説も多い。


諸葛孔明

植村 清二

中公文庫




2013/9/26

昭和60/10/25 文庫発行
昭和39/5/ 筑摩書房刊

14世紀、元末明初を生きた羅漢中という貧乏書生の作った『三国演義』が日本に伝わり、翻案されて、元禄年間に『通俗三国志』が上梓された。
 日本人の「通俗三国志」愛好熱は明治・大正と続いて耐えることなく、昭和15年になって吉川英治の「三国志」を生んだ。
 小説三国志をもりたてる蜀漢四人組の、関羽がまず敗死し、張飛が暗殺され、劉備が没し、そして五丈原の陣中で死んだ孔明が生ける仲達を走らせたところで、読者は長大息する。
 実はこの後30年、蜀の滅亡まで延々と続くのだ・・・・・・・私もかつて、ここまでしか読めなかった。孔明がいかに活躍するかが関心のほとんどだった。   (解説 参考)

   *************

 孔明は魅力的だ。だけど、魏の曹操は素晴らしく魅力があるのに、三国志は蜀のほうが主役で、魏の曹操は敵役のようであるのが不思議だ。曹操はまるで、信長のようだ。

 著者の植村氏は、日本の歴史や人物に例えて示してくれるので、理解しやすい。
例えば、中平6年、董卓軍が洛陽で劫掠のかぎりをつくしたことを述べて、「それはあたかもわが木曽義仲が平家没落のあと都に入った時や、六波羅滅亡の後に大塔宮の兵などの官軍が入都した時の状態に似かよった点がある」と説明する。時空を超えた類似説明の面白さ、この類似対比は、古今東西の歴史に通じた植村氏にして始めて使える。

 


億単位の男

半村良

集英社




2013/9/12

1996/5/30 発行
今世紀最後の再建王。坪内寿夫翁の痛快人物立志伝。戦後の焦土から、高度成長を経て、バブル経済がはじけた今日。その50年を全力で走ってきた男のケタ外れ人生。

    *****************
 
 坪内寿夫氏に対しては、今までいい印象は持っていなかった。奥道後なるものを造ったりしたことや、地元ではよく思われていなかったからだ。
 毀誉褒貶の激しい人物、地元愛媛でも、坪内を英雄視する人々と、強引なエコノミック・アニマルとして嫌う人に二分される傾向が強いと書かれている。

 先に、坪内寿夫がモデルの藤本義一「天井知らず」を読んだのがきっかけで、地元出身の人物についてもっと知りたいと思い、いろんな人が書いていた中で、半村氏の物を選んで読んだのは正解だった。小説ではなく、坪内氏自身を取材して詳しく書いてあったからだ。
 坪内氏は、ずいぶん誤解されてきた。強引な乗っ取り屋のように見られたりするが、会社再建も執拗に請われて始めたらしい。そして取り組むからには徹底的にやる、そのやり方の強引さによる悪印象なのだろう。頼まれると億単位の資金を持って再建すべき会社に乗り込んでいった。成功して巨額の儲けを出すが、失敗すれば自分が大損を抱えるリスクと隣り合わせだった。
 本書を読んでいると、お金を持っている坪内氏は、政財界にうまく利用されていたような気がする。人が良くて男気があったから断りきれなかっただけのような印象だ。それなのに、守銭奴のような言われ方をしてきたが、郷土を愛し、国を愛する故だった。
 
 初出誌 「Bart]95・3・13号〜96・1・22号
繰り返しの表現が多いのが気になったが、雑誌掲載だったからだろうか。


106歳のスキップ

私は96歳まで
ひとのために生きてきた

昇地 三郎

亜紀書房



2013/9/10

2012/12/5 発行
 二人の知的障がい児を育て、看取り、パーキンソン病の妻に先立たれ、もう一人の子どもは、58歳で他界し、「私は95歳で天涯孤独の身となった。これから は自分のために生きよう」 ☆99歳でほぼ毎年世界一周の旅 ☆101歳でロシア語の勉強開始 ☆103歳のときでもステーキをもりもり食べる ☆104歳で年に70回をこす講演。毎日、65歳でおぼえた韓国語で日記を書く。

    ***************

 上記の紹介文を読んで、関心が湧き、読んでみたくなった。106歳まで生きた人だから、といっても特に目新しくはなかった。

第1章 充実して生きる(九七歳からは自分のために生きる/人に支えられるだけの老後ではいけない ほか)/第2章 工夫して生きる(趣味は人をびっくり させること/韓国語は六五歳から ほか)/第3章 鍛えて生きる(日記を書く/口と手と足を鍛える ほか)/第4章 教え教えられて生きる(金を恐れない /前例がないからやる(1)-二五歳のベストセラー ほか)
 前向きに生きる、なにごとも手間暇かけ丁寧にすることが、ボケないで長生きできる秘訣のようだ。長寿の家系で長寿遺伝子をお持ちのようだが、心がけでもっと寿命を延ばされたようだ。
        ***********
 著者 しょうち さぶろう
 1906年、北海道生まれ。広島師範、広島高等師範、広島文理科大学卒業。小学校、女学校、師範学校の教員を経て、福岡学芸大学(現福岡教育大学)教授に 就任。1954年、知的障がい児のための施設「しいのみ学園」を創設、同盟著書がベストセラーになり、映画化される。1970年、福岡教育大学を退官。同 大学名誉教授。医学・文学博士。1982年、韓国大邱大学教授兼大学院長に就任。2005年、世界一周公演行脚を始め、2012年、「世界最高齢の世界一 周を行う。著書多数。


残り時間には福がある
桐島洋子
海竜社


2013/9/10
2006/2/20 発行
若い時には、何冊も読んで、生きる指針にさせて貰った。
文章が歯切れがよく、生きざまも潔かったからだ。

老年期に入り、またそうなるか・・・・・・・・と期待して手に取ったが、少し期待外れ。

セレブなお仲間たちと何をしたとか、どういう集まりだったかと、過去5年間のブログをまとめ直したんだとか。
 
感想は不完全である。
あまりにも飛ばしてななめ読みにしてしまったから。

ただし、女流文学会に出席した顛末と、他の女流作家のエピソードがおかしくて印象に残った。円地文子と幸田文、気配りもできて完璧すぎて姑だったら嫌だという佐多稲子の話など。

 飛ばしたところにいいお話があっただろうか。


竹に紅虎



下川 博


講談社







2013/9/9

2012/8/2 発行
 キリシタン弾圧の余熱冷めやらぬ江戸初期。磁器の町、肥前有田の地で、夫婦となる男女が出会った。長崎の商家の放蕩息子、二胡弾きの達人にして語学の天 才・昇蔵。朝鮮人陶工を率いた百婆仙の曾孫、色絵師・香丹。数年後、愛娘・秋香を授かるが、有田焼の急激な発展にともない、昇蔵は海を渡り、香丹は有田に 残ることに。有田焼に命を賭した二人の道は、抗いようもない運命の波に分かたれる―。( bookデータベースより)

    *************

 真っ当な歴史小説と思って読んでみたら、エロ小説だったみたいな。

 有田焼を世界に通用する磁器にするために苦難を強いられる夫婦と娘を描いた磁器職人の話かと思えば、新商品開発や流通の描写は浅い。
 夫婦や親子の人間ドラ マも中途半端、宗教物でも無し何がメインなのか分らない。話は中国やマカオ、果てはアラビアまで飛んで。しかもキリスト教にイスラム教まで絡めて。壮大な大河ドラマのごときだが、舞台を広げ過ぎて散漫だ。

 いったい何が言いたいの?

 回りくどく焦点がぼやけた語り口で読みにくく途中で投げ出しそうにもなった。濃厚な性描写も何の意 図か分らない。
 語られる磁器や時代背景、宗教は説明的なだけでストーリーにあまり絡んでこず、何のための登場か。「葉隠」の作者を出したり、ジャガタラお春を出してみたりして人の注意を向けてみただけ。長編デビュー作が評価されたので、今回は気負い過ぎて風呂敷を広げ過ぎて、まとまらなくなりました、ということか。

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著者  1948年生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、脚本家としてNHKにて「武蔵坊弁慶」「中学生日記」「はやぶさ新八御用帳」などを手掛ける。2006年、「閉店まで」で堺自由都市文学賞を受賞  。2009年南北朝時代、武器を手に、悪党に挑んだ農民たちの戦いを描いた「弩」を上梓し、各メディア・書評家の激賞を得る。

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 焼き物に関する著作としては、澤田ふじ子「修羅の器」(常滑焼)の方が良かった。


室町抄


南條 範夫


講談社文庫





2013/8/4

1991/7/15 発行
何もしない文人将軍足利義政に嫁いだ日野富子が、天性の資質で幕府を牛耳り、応仁の乱を切り抜けて強大な御台政治を貫く面白さ。酒色に溺れ滅んでいった、足利家の男たちの文化の素晴らしさ。権勢の近くにうごめく武将たちの、壮絶な闘い。富子を中心に、刺激と活気にみちた室町時代を縦横に描く。

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 日本古来の文化と考えるものの大方がこの時期に発祥している。住居は寝殿造に代わって書院造となり、小袖が一般に用いられはじめ、能・狂言・立花・茶の湯などもこの頃に始まった、という。それなのにあまりなじみのない時代だ。

 日野富子は大名たちに金貸しをして蓄財をした、というぐらいしか知らなかったが、かなり個性の強い女性だったようだ。
 この作品の中では、4人の男性に富子を語らせるという形をとっている。

 第1部は、押大臣(おしのおとど)日野勝光、異常に権勢欲が強く、富子と協力して大臣の位にまで上りつめる。
 第2部は、第九代将軍・足利義尚、富子の愛児。息子から見た母親としての富子像。たっぷりの愛情と期待をかけられたが、武よりも文を好み、愛情を注がれすぎて息が詰まって自立しようと、戦に出るが、陣で酒食に溺れ25で早世。
 第3部は、第八代将軍足利義政、富子の夫。政略結婚でもあり、性格も合わなかった。富子のほうが政治好きで権力を愛し、義政は根っからの趣味人で、建築作庭を好んだ。富子は蓄財好きであり、義政が浪費家である。
 晩年、義政は富子から逃げるため、東山に山荘を建てることに執心する、それがいわゆる銀閣寺と呼ばれるもの。
 第4部は、狂管領細川政元、世人から狂管領と呼ばれ、変人扱いされた政元にとっての富子は永遠の女神である。稀有な女性、富子の魅力に深く捉えられ、感じやすく純粋な男性として描かれている。

 それぞれの人物の感じ方を通してみた富子の凄さもわかるが、4人の人物の造形も面白く、富子との関係と、残された歴史の事実とが納得できる形で語られていた。こんな事(山名と細川の権力争い)で応仁の乱は始まったのかと驚く。富子のせいだとも言われてきたらしいし、義視・義尚の家督争いとも言われてきた。
 濃い物語だった。


僕の死に方
金子哲雄
小学館




2013/7/19
2012/11/27 発行
 2012年10月、「肺カルチノイド」という急性の難病により、41才という若さで急逝した流通ジャーナリスト、金子哲雄さん。死期を悟った金子さんは、 会葬礼状まで生前に用意して、自分の葬儀を自分でプロデュース、自らの死をも「流通ジャーナリスト」としての情報発信の場にしたのでした。まさに、みごと というほかないその最期・・・。しかし、彼が「余命0」宣告を受け入れて死の準備を整えるまでには、乗り越えなければならない悲しみ、苦しみ、そして何よ り、最愛の妻を残していくことへの葛藤がありました。死の1か月前から、最後の力を振り絞って書き上げた本書(BOOKデータベースより)

   ****************
 
 若く、道半ばにして早逝された人の話は、気の毒だから読みたくないと思ってなかなか手を出す気になれなかった。夫が図書館から借りていた本だった。

 そこまで頑張らなくてもいいのにって思ってしまう。でも、何かをやらないといられない心理になるのかもしれない。
 すごい精神力だと感心するのみだ。
 


火の粉

雫井 脩介

幻冬舎





2013/7/9

2003/2/10 発行
「私は殺人鬼を解き放ってしまったのか?」元裁判官・梶間勲の隣家に、二年前に無罪判決を下した男・竹内真伍が越してきた。愛嬌ある笑顔、気の利いた贈り 物、老人介護の手伝い・・・。竹内は溢れんばかりの善意で梶間家の人々の心を掴む。しかし梶間家の周辺で次々と不可解な事件が起こり・・・。最後まで読者 の予想を裏切り続ける驚愕の犯罪小説!

    *******************

 かつての被害者の身内、池内から聞いた話を認め、家に迎え家族に説明する嫁の雪見、全く信じない梶間家の人たち。ここで竹内を呼び、対決する。
 ところが、竹内の話を聞くうちに、こちらの方が正しいのか?池内の方が異常なのか?
と、雪見だけでなく読んでいる私自身もわからなくなってくる。
 ここが上手くて凄いと思った。

 後半になると、わかってきて、危機が迫り、どうなるのか、間に合うのか・・・・と緊迫感が増す。読み始めたら止まらない、こんなことが自分にもいつ起こるかわからないなんて恐ろしい。
 悪意を持って何かをされたら、真実には気づきにくいものだ。家族間の亀裂や溝も作られてしまうのか。

 表題の『火の粉』は、「あなたは今まで裁判官席という風上から、下々で起こる事件をまさに他人事として裁いていた。ところが今度、急に風向きが変わって自分のところに火の粉が降りかかってきたものだから、びっくりして慌てふためいている」と人から言われたことによる。
 


親が死ぬまでに聞いておきたい45のこと
米山 公啓
中経出版



2013/7/4
2010/12/18 発行


親のためにできることできないこと

和田秀樹

主婦の友社



2013/6/28

2012/12/31 発行
どこかで見かけた本の紹介で
「一人暮らしの高齢者より、家族と同居している高齢者の方が自殺率が高いのです」というのが衝撃的で、、これを読んでみようと思ったのだ。

 本書は、親のために良かれと思うことを、質問に答える形で書いている。
 思い込みとはすごいモノで、親のためにと思ってしていることが、逆に親の苦悩だったりすることに気づかされたり、若く健康な者の思い込みは、全く高齢者を理解していなかったと思わされたのだ。

  そして、認知症よりうつ病を心配した方がいいとも書かれている。なぜって、認知症よりうつ病の方が本人にとってはつらい状態だから。認知症の人は「自分はボケてしまった」という自覚がないので、精神的に苦しめられるようなことがないという。

 自分の親は、今、どの状態にいるのか・・・・・・・?


そして、一緒に住んであげることよりも、介護のプロに面倒を見てもらえる施設の方が親のためになるという考え方もあるのだと教えられた。


天井知らず
藤本義一
集英社文庫



2013/6/25
昭和57/11/25 発行
 戦後の混乱期に、裸一貫から身を起し、奇抜なアイデアと、堅実な実行力で、今太閤と呼ばれ、佐世保重工業の再建で脚光を浴びた、造船界の風雲児、坪内寿夫。
 『天井知らず』の夢にすべてを賭け、豪快に現代を生きる男の波乱万丈の半生を描く異色モデル作。

    *****************

  あまりにも豪快で、にわかには信じがたいほどの魅力的人物に描かれている。どのくらい真実でどれだけ著者が作り上げたんだろうと思う。
 地元、愛媛の人物だから昔から名前は知っていたし、中学生の時には『奥道後』ができたので行ったこともある。
 作品中、金閣寺を作る・・・・という言葉が出てくるが、それが奥道後だったんだなあ。

 別の作家が書いた坪内伝も読んでみたい。
  • 柴田錬三郎『大将』(集英社文庫、1982年)- 坪内をモデルとした小説・柴田と坪内は個人的にも交友関係が深かった
  • 高杉良『小説会社再建-太陽をつかむ男』(集英社文庫、1991年 - 佐世保重工業の再建にあたり坪内を社長に起用することの経緯
  • 半村良『億単位の男』(集英社、1996年)- 坪内寿夫の人物立志伝
  • 落合信彦『戦い、いまだ終わらず』(集英社文庫、1990年)- 佐世保重工業の再建を中心に描く
  • 青山淳平『夢は大衆にあり〜小説・坪内寿夫』(中央公論新社、2004年)
  • 佐伯正夫『坪内イズムの真実を今 再建人生ここにあり』(愛媛ジャーナル、2008年)


天目山に桜散る

滝口 康彦

PHP文庫




2013/6/9

1989/4/17 発行
大正13年(1924)長崎県生まれ。本姓原口。昭和8年より現在の佐賀県多久市に在住。高等小学校卒。運送会社事務員、炭鉱鉱員などを経て、数種の懸賞小説当選を機に昭和33年ごろから文筆生活に入る。「高柳父子」その他により直木賞候補6回。武家物の歴史時代小説一筋。短編を好み、主な作品に「拝領妻始末」「薩摩軍法」「葉隠無残」「恨み黒髪」「粟田口の狂女」ほか。長編では「落日の鷹」「主家滅ぶべし」「乱離の風」「流離の譜」など。

               *   *   *

 戦国・幕末維新といった歴史の転換期には、一見華やかな表舞台の裏に、虚々実々のかけひきがあり、悲哀に満ちた人間ドラマがある。人質時代の徳川家康がどのような思いで屈辱の時期を耐えたのか。明治新政府の重役に劣らぬ知識・教養を持ちながら”人斬り彦斎”の名に甘んじた河上彦斎は維新をどんな形で迎えたのかーーー正史ではふれられぬことのない逸話をまじえながら、歴史に鋭いメスをいれる短編小説集。

      ****************




謎解きはディナーのあとで
 2

東川 篤哉
小学館



2013/5/19
2011/11/15 発行
謎解きはディナーのあとで』の続編。
 宝生麗子は、世界的に有名な宝生グループのお嬢様にして、国立署の新米刑事。麗子は、上司でかつ風祭モータースの創業者の御曹司である風祭警部と捜査に当たりますが、真犯人を特定するまでにはいくつかの謎があり、捜査は難航するかに思えます。
 そこに現れるのが、宝生家の執事にして、麗子のお抱え運転手である影山です。「本当は、プロ野球選手かプロの探偵になりたかった」という影山には、麗子の 話を聞いただけで、事件の謎を解いてしまうという眼力がありました。麗子に向かって時に厳しい毒舌を吐くのが、玉にキズなのですが……。
 テンポのいい二人の会話や、風祭警部のミョーな存在感など、前作同様の楽しさいっぱいの本格ユーモアミステリです。
小説誌「きらら」に連載された5編に、書き下ろしを加えた全6編。

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 絶対に読みたい、というほどではないが、何となく読み進む。適度にユーモアを感じながら、解決はそこか?という意外性を楽しめた。
 二人の仲は、ひょっとして進展するのでは?  と、思わせる麗子のセリフもあったが、そうはいかないだろうな。


カラマーゾフの妹

高野 史緒

講談社





2013/5/17

2012/8/1 発行
 世界文学の最高峰として名高い『カラマーゾフの兄弟』には第二部がある。
ドストエフスキーはその予告をしながら、ついに書き上げることなく世を去った。
そしていま、文豪の残した壮大な謎に緻密な推理で挑む、
かつてなく刺激的なミステリーが誕生した。

 トロヤノフスキーは愕然とした。当時の弁護士は真相まであと一歩というところまで迫っておきながら、最も重要な点を見逃している。極めて重要な、絶対に見 逃してはならない点をだ。不可解な「父殺し」から13年。有名すぎる未解決事件に、特別捜査官が挑む。第58回江戸川乱歩賞受賞作。

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 「カラマーゾフの兄弟」は、かつて筑摩書房で読んだことはあるが、何にも覚えていない。ただ、TVのドラマになったのを見たので、かろうじてあらすじがわかる程度だ。

 そんな長大な作品を把握し咀嚼し分析し発展させて続編を書いてしまうなんて、なんと大それたことだ。

 読者のためにあらすじを書いてくれているので助かる。前提になる事件のことを知らなければ、続編の理解もないのだから当たり前か。

 ドストエフスキーが書こうとしていた続編に添ってストーリーを作るだけでなく、時代背景など革命の思想なども書き込んで、素晴らしかった。

 元の作品を見直してみたい気もするが、なにしろ大長編なので気おくれがする。それにしてもすごい。
 
 歴史改変小説が高野の十八番という。フョードル殺しから13年後に真相が明らかになるという設定だから、「カラマーゾフの妹」の時代背景は1880年代初 頭となる。ニーチェが注目を浴び、精神分析が確立した時期、内務省特別捜査官になったイワンは多重人格者として描かれ、協力者であるトロヤノフスキーが催 眠療法を施している。ちなみに、イワンの内部で対峙するのは神と悪魔である。SFチックな革命集団の描き方は作者の遊びで、デビューしたばかりのホームズ の探偵術が英国から伝播していた。(ブログから拝借http://blog.goo.ne.jp/ck1956/e/574317b307ce015138430ba71c09cb48)


猫はときどき旅に出る

高橋 三千綱

集英社






2013/5/11

2013/2/28 発行
 1948年1月5日大阪府生まれ。小説家・高野三郎の長男として生まれる.高校卒業後、サンフランシスコ州立大学入学。帰国後『シスコで踊ろう』を自費出版。早稲田大学へ入学するが中退し、東京スポーツ新聞社入社。1974年『退屈しのぎ』で第17回群像新人文学賞、78年『九月の空』で第79回芥川賞受賞。83年『真夜中のボクサー』映画製作。

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「正しい人生の過ごし方とは、不意に遭遇する刹那の快楽を求めて生きることなのだ」と語る小説家、楠三十郎。「作家兼脚本家兼映画監督兼劇画原作者兼誠実 なる酔っぱらい人間」を自称する彼は、三十代にして作家としての羅針盤を失いつつあると感じており、時折突き上げてくる旅への飢餓感があった。
 青春時代を過ごしたサンフランシスコ、憧れの南極、自作映画の売り込みに行くニューヨーク。旅先で出会う暴力や女達との思い出。去来する様々な記憶はやが て、やはり小説家であった父の思い出へと至る。小さな犬の命ひとつ救おうとしなかった父に対して、作家にとって文学とは何ほどの意味があるのかとの疑問は 残ったままだった。
 2001年第一部「すばる」掲載から十一年を経て完成した著者渾身の長編小説であり、居場所なき魂の彷徨を綴った原点回帰にして最高傑作。

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 読むのがしんどい場所と魅力のある場所とがあった。自分の知らないアメリカの裏町の治安のよくない場所とか、極貧生活とか飲んだくれて、それでも何とかなっているところとか、猫の命を救ってやることとか、自分とは関わりたくない人間だが、人としては面白味もあるかもしれない。
 
 新聞でこの作品が紹介されていたので読んでみたくなった.。昔、見た記憶があったのだ、この名前は。40年ほど前に賞を取ったり映画を作ったりした人だったらしい。やや自虐的に描いた自伝なのか。


虐殺器官

伊藤 計劃

早川書房





2013/5/8

2007/6/25 発行
 9・11以降、激化の一途をたどる“テロとの戦い”は、サラエボが手製の核爆弾によって消滅した日を境に転機を迎えた。先進資本主義諸国は個人情報認証に よる厳格な管理体制を構築、社会からテロを一掃するが、いっぽう後進諸国では内戦や民族虐殺が凄まじい勢いで増加していた。その背後でつねに囁かれる謎の 米国人ジョン・ポールの存在。アメリカ情報軍・特殊検索群i分遣隊のクラヴィス・シェパード大尉は、チェコ、インド、アフリカの地に、その影を追うが…。 はたしてジョン・ポールの目的とは?そして大量殺戮を引き起こす“虐殺の器官”とは?―小松左京賞最終候補の近未来軍事諜報SF。

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 表紙もタイトルも凄いが、読んでみるとそれほど暗く感じない。表現では惨い状況が語られているが、かなり理屈っぽくて、テロや殺人などについて言葉で考えを編み出しているような。
 著者は書いている時は闘病中だったそうで、しかも今はもう亡くなっている。死への対し方が変わっているのか、死んだ母と対話したり、死者の世界を見たという場面がある。

 主人公は、アメリカ人で白人。クラヴィス・シェパード大尉

 アメリカ人をテロから守るために、発展途上国で内乱を起し、虐殺を起させる――という考え方には唖然とさせられる。
 その反対に、アメリカ国内に内乱、虐殺を起させ、アメリカ以外の世界の人々を守るーーーという考え方も存在する。

 考えさせられる作品だった。とはいうものの、言葉が私の上を通り過ぎて行っただけ。思索を深めることにならなかった。


猛医 武見太郎
三輪和夫
徳間文庫




2013/4/11
1995/11/15 発行
二十五年間日本医師会長を務めた武見太郎は、「喧嘩太郎」の異名のごとく官僚や政治家と渡り合い勇名を馳せた。「国民がわからなくても結構」「日曜日に病気になる奴が悪い」などの発言から時代の悪役に仕立て上げられた武見だが、開業医として人と人との触れ合いを重視する「地域医療構想」の実現にその半生を捧げた。武見の人物像に迫り、現在の医療問題を衝く力作評伝。

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赤朽葉家の伝説

桜庭一樹

東京創元社





2013/3/16

2006/12/28 発行
「山の民」に置き去られた赤ん坊。この子は村の若夫婦に引き取られ、のちには製鉄業で財を成した旧家赤朽葉家に望まれて輿入れし、赤朽葉家の「千里眼奥 様」と呼ばれることになる。これが、わたしの祖母である赤朽葉万葉だ。――千里眼の祖母、漫画家の母、そしてニートのわたし。高度経済成長、バブル崩壊を 経て平成の世に至る現代史を背景に、鳥取の旧家に生きる3代の女たち、そして彼女たちを取り巻く不思議な一族の血脈を比類ない筆致で鮮やかに描き上げた渾 身の雄編。

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 作者の桜庭が自身の故郷である鳥取県を舞台に、架空の村である紅緑村に古くから続く製鉄業を営む名家、『赤朽葉家』の女三代の1953年から21世紀にわたる歴史を描く大河小説である。
 物語は三部で構成されており、第一部は1953年から1975年、語り部の祖母である赤朽葉万葉を中心に語る「最後の神話の時代」。第二部は1979年から1998年までを、万葉の娘である毛毬を中心に語る「巨と虚の時代」。第三部は2000年から未来にかけて、万葉の謎の言葉の意味を、語り部である瞳子が調べる「殺人者」となっている。
 三部にわたり赤朽葉家の歴史が描かれる一方で、所々で戦後史が挿入され、赤朽葉家と日本の戦後が連動するように物語が進む。(ウィキペディア)

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 これまではライトノベルを書いていたというが、なかなかすごいモノもかける人だ。ガルシア・マルケスの「百年の孤独」がすきだというので、第1部はそのような作品になっている。第二部はライトノベル風に。第三部に至ってはミステリーになってずいぶん楽しめる作品だった。
男性のような名前だが、れっきとした女性でしかも若いのに、こういうものを書くのだなあ、という驚き。


心霊探偵 八雲B
〜闇の先にある光〜

神永学

文芸社



2013/3/14

2005/7/15 発行
 八雲にまた新たな相談が持ち込まれた。なんでも、飛び降り自殺を延々と繰り返す、女性の幽霊が出るという。しぶしぶ調査を引き受ける八雲だったが、そんな 八雲の前に“死者の魂が見える”という怪しげな霊媒師が現れる。なんとその男の両目は、燃えさかる炎のように、真っ赤に染まっていた!?
 真琴はスナックで旧友と会ったが、その店のトイレにも女の幽霊が出た。旧友のマンションにも。そして旧友は消えてしまう。

 斉藤八雲ー大学生   小沢晴香ー八雲と同じ大学の学生   
 後藤和利ー刑事   石井雄太郎ー後藤の部下
 土方真琴ー警察署長の娘で事件記者


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3巻まで続いたところでシリーズ化することに決まったそうだ。登場人物は時間経過とともに関係も距離も感情も変化させていきたいと著者があとがきで書いている。人物の成長物語になるようだ。

  場面がころころ変わり落ち着かない。それらが後になってすべてつながるのだろうとは思うけれど。

 今後、読み続けるかどうかは、まだわからないなあ。


本にだって雄と雌があります

小田 雅久仁

新潮社





2013/3/12

2012/10/20 発行
旧家の書斎に響く奇妙な羽音。そこでは本たちが「結婚」していた!
深井家には禁忌(タブー)があった。本棚の本の位置を決して変えてはいけない。九歳の少年が何気なくその掟を破ったとき、書物と書物とが交わって、新しい 書物が生まれてしまった──! 昭和の大阪で起こった幸福な奇跡を皮切りに、明治から現代、そして未来へ続く父子四代の悲劇&喜劇を饒舌に語りたおすマジックリアリズム長編。

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 まずは奇妙なタイトルに興味を持って読み始める。ダジャレの連発。言葉遊びのうまさに感心しつつ、いまいち、読むのがしんどいなあ、とも思いつつ、少しずつ進む。
 深井與次郎一族の歴史である。だから物語とはいうものの最初は深井與次郎というのがいかにホラ吹きで、屁理屈を創作を交えて語り、その書痴っぷりが激しいか、そして妻のミキが與次郎のホラ話をいかに楽しそうに聞いているかといった些細なエピソードの積み重ねである。また、與次郎の兄弟の話、與次郎の息子の話、與次郎の両親の話、與次郎のライバルの話と延々と続いていくそれらの何気ないエピソードの数々が、格別面白いものではないので、途中で読むのをやめてしまいそうだった。

 作家たるモノ、このくらいの言葉を操れなくてどうする・・・・・という感じで、いろんな言い回しのオンパレードだが、それがどうした?となってしまって面白味を感じられなくなったらアウトだな。

 それでも、途中から與次郎の死が孫の博とその家族とかかわってくることや幻書(空飛ぶ本)の存在もあって、なかなかいい話になってくる。最後になって「なぜこの物語が恵太郎に向けて語られたのか」が明かされる。大阪弁もほんわかした空気を作っている。書と向き合った者だけが死後に司書として召されるのが件(くだん)の幻想図書館。

 不思議な世界を作っている作品である。最後まで読んだとき、途中でやめなくてよかったと思えた。
 


大誘拐

天藤真

角川文庫

2013/3/2

55/1/30 発行

「身代金は百億円だ。念をおすと1の後に0が十個つく。そして事件の進行は、すべてテレビで生中継せよ.!」

スゴい要求が犯人から出された。普通の人間では、 とても被害者にはなれない。それもそのはずだ。さらわれたのは、持ち山だけで全大阪府の二倍以上もある、紀州在住の超大富豪のおばあさん。

このウルトラ誘拐事件に一番あわてたのは中継担当のローカルテレビ局だ。全国中継の番組は開局以来初めてと、局内あげての大はりきリぶり。

犯罪史上前代未間のユニークさを誇るこの事件は、一歩一歩と成功へ近づいていくが・…`・。第32回日本推理作家協会賞受賞の傑作長編推理(カバー)

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嶽神
上・下
長谷川 卓
講談社文庫


2012/12/31
2012/5/15 発行
山の者の集団から追放されて<ひとり渡り>をする多十に、滅亡目前の武田唯一の嫡流・若千代の幼い命が託された。莫大な武田の後遺金(ごいきん)のありかを探るべく遣わされた真田、伊賀の忍者集団と、圧倒的な劣勢の中で血みどろの死闘を繰り広げる多十たち。知る人ぞ知る戦国忍者活劇。(上)

仲間を信じ、知恵をしぼって辛くも生き延びている多十一行に、服部半蔵から最強の刺客たちが放たれる。妖術をあやつり、もはや復習の鬼と化した殺人集団に対して、勝機はあるのか?後遺金のありかは?男たちの生き様と熱い絆を描き、最後の最後まで気が抜けない時代伝奇小説の名作、圧巻の大団円!(下)

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預金封鎖
荒 和雄
講談社文庫




2012/12/25
2004/10/15 発行
 日本発の金融恐慌が世界不況に発展するのを恐れた花田総理は、預金封鎖とデノミによる不良債権処理を考えた。秘書官・松永はその実施方法の研究を、あけぼの総研の専務・成田に依頼した。引退の花道を企図する総理と、銀行頭取を目指す成田が考えたシナリオとは?
 恐怖の事態を予言する迫真の経済小説。

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 昭和の預金封鎖は、戦後すぐで、ただでさえ生活が苦しい中で命のように大切な預金を取り上げられた国民のパニックはいかばかりか。
 過去に起こった預金封鎖について詳しく説明し、その後、もし平成の今の世に預金封鎖をしようとしたらどうなるの?という視点で書かれている。

 2004年ごろ、現実にデノミとか預金封鎖とかの言葉を聞いた気がする。現実にならなくて良かったが、預金が1000万円までしか保証されないことは決まってしまったのを思い出した。
 


論語知らずの論語読み
阿川 弘之
講談社




2012/12/21 再読
1985/9/10

昭和52/8/4 発行
 論語の言葉をダシにして書き綴ったエッセイになっている。
子路、子貢、顔回 −−− 孔子さまの弟子の代わりに登場するのは、友人らの奇人変人たち、
と阿川氏がはじめに書いている。
 奇人変人の友人たちとは、町田の大家(おおや)さん、松原万峯(まんぽう)楼の若旦那、本屋の赤門堂、上野毛の隠居、ほか二信亭田句馬先生など・・・・・この人達が誰のことなのか考えるのも楽しい。

 本書は、論語についてわかりやすい例えであって、解説ではないので、そのまま論語がわかるわけではないが、阿川氏の軽妙でユーモラスな文章を楽しめる。

  


心霊探偵 八雲
赤い瞳は知っている
神永学
文芸社



2012/12/6
2004/10/5 発行


扼殺のロンド


小島 正樹

原書房





2012/12/2

2010/1/26 発行

 その事故車は工場の壁にぶつかってたわみ、ドアが開かなくなっていた。中には男女。女は腹を裂かれ、男は無傷のまま、死んでいた。直前にすれ違ったドライバーはふたりとも生きていたと証言、さらに男の驚くべき死因が判明して捜査は混迷を深めた。しかし事件は終わらない。第二、第二の事件が追い打ちをかける一―

     ****************

 「2011本格ミステリ・ベスト10」
という本の中で17位として紹介されていたので興味を感じ、図書館で借りる。

そこでの説明によれば
ーートリックメーカー小島正樹。ひとつの作品にこれでもかと不可能犯罪を詰め込む作風が特徴的だ。本書はデビュー作『十三回忌』の続きもので、昭和六十年の静岡県が舞台となる。凄惨な死体、奇抜なトリツク、意味ありげな一族、奇々怪々な現象、どろどろの人間模様、破天荒な名探偵から美人姉妹にいたるまで、探偵小説に欠かせない要素をふんだんに詰め込んだ、アクロバティックな作品である。

 話を聞きつけたミステリ好きな笠木(刑事)の友人・海老原が捜査に乱入するもの次々と第二、第三の密室状況下における扼殺事件が発生していく。

 刑事が出るけど警察小説ではなく、指紋や掌紋の照合、死斑の分析といった科学的捜査を主軸とせず、関係者の行動や発言から仮説を組み立てていく推理法にスポットを当てる、そこに名探偵の存在理由がある。

 最後にどんでん返し。それなりに楽しめた。


孔明死せず
伴野 朗
集英社文庫




2012/11/21
1996/8/25 発行
あの、五丈原で孔明は死ななかった! 
劉備の遺託を受けた孔明は、神算鬼謀、魏への反撃に起つ。最強の間諜集団「臥龍耳」を従え、漢王朝再興に必死の策をめぐらす……。
病に倒れることなく、孔明を存分に活躍させたら歴史はどう変わったか?「三国志」愛
読者の永遠の夢を実現した、゛奇想・三国志″。

    *****************************


日本漂民物語


佐木 隆三


徳間文庫





2012/11/9


1981/10/15 発行
サーカスで空中ブランコの花形となった旅役者、人生最良の日々をすごす下町キャバレーの子持ちホステス、筑豊の藤四郎焼で陶工になった元全共闘と自衛官、姉は戦跡巡拝ガイド、妹はフーテン娼婦になった沖縄の姉妹ーーーーわれらが日本列島の片隅で懸命に生きる人たちの悲劇と喜劇と活劇を、直木賞作家が笑いと涙と、ひたぶるな共感で見事に描きあげた、生活感あふるる”漂民小説”、珠玉の六篇。

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 ☆  下町キャバレーで子持ちホステスが人生最良の日々を過ごすこと
 ☆  大日本製鉄で重市と伍平がケンカして嘉助がトクしたこと
 ☆  旅役者銀之介がサーカスで空中ブランコの花形になること
 ☆  閉山の軍艦島で栄光の産業戦士鶴吉が引越しを躊躇うこと
 ☆  元全共闘と脱柵自衛官が筑豊の藤四郎焼で陶工になること
 ☆  沖縄で姉は戦跡巡拝ガイドに妹はフーテン娼婦になること

      ************

 ルポルタージュだと勘違いしたが、小説だったのだ。

 解説の秋山駿氏によれば、社会の低い場所で生きる人間たちの鮮烈な光景、その人達は社会的に無防備に、人間の生地むき出しに生きているから鮮烈だ。この作家の眼は、すぐそういうところへ向く。もっともらしい社会人や知識のところには向かない。眼がいつも人間に行ってしまう。そして、いつも人間に驚き、人間を面白がる。風景描写も情景描写もない。
 上から見下ろして書くのではなく、低い場所にいる人間の痛切な生き様を、同質共感の声を持って描ける稀有な作家である・・・と。
 不思議な魅力の小説だった。


ユリゴコロ
沼田 まほかる
双葉社




2012/10/16

2011/3/20 発行
「このミステリーがすごい」 という雑誌での国内編ベスト10のうち5位に入っていたので、読んでみた。家族愛を表現しているそうだが、なにもこんな設定にしなくても。

 はっきり言って、時間の無駄だった。

何人も殺人をした人の手記、読む人はそれが事実かフィクションかわからない。けれど、自分の母親だと思いながら読んでいる男がいる。

こういう暗い話は好きではないので、ショウもないモノを読んだ、というのが感想。


謎ときはディナーのあとで

東川 篤哉
小学館



2012/10/10
2010/9/7 発行
 執事とお嬢様刑事が、6つの事件を名推理!
ミステリ界に新たなヒーロー誕生! 主人公は、国立署の新米警部である宝生麗子ですが、彼女と事件の話をするうちに真犯人を特定するのは、なんと日本初!?の安楽椅子探偵、執事の影山です。
彼は、いくつもの企業を擁する世界的に有名な「宝生グループ」、宝生家のお嬢様麗子のお抱え運転手です。本当は、プロの探偵か野球選手になりたかったという影山は、謎を解明しない麗子に時に容赦ない暴言を吐きながら、事件の核心に迫っていきます。
本格もの(?)の謎解きを満喫でき、ユーモアたっぷりのふたりの掛け合いが楽しい連作ミステリです。というのが本の紹介にある・・・・・・多少、大げさだな。

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先にテレビドラマを見てしまったので、もう原作は読まないでもいいかな、と思い、あまり面白くなければ途中でやめようと考えながら、試しに読み始めた。
 
 途中でやめるほどひどくは無かったし、テレビで見たときはわざとらしくしか感じられなかった執事のお嬢様への暴言も、読んでみるとそれなりに面白かった。
 重要な手掛かりをギャグでカモフラージュしながらぬけぬけと提示してみせるという手法が東川の得意らしい。

 本屋大賞にもノミネートされるほどの物かどうかはわからない。ミステリー度もそれほどでもない気がしたのは、ミステリー初心者向けだったのか。


グラン・ヴァカンス
   廃園の天使 T

飛 浩隆




2012/10/5

2002/9/30 発行

 飛浩隆一1960年島根県生まれ。
島根大学卒。三省堂ストーリーコンテスト入選作「異
:猿の手」がSFマガジン19839月号に掲斂されてデビュー。以後、「象(かたど)れた力」ほか、約10篇の中短篇を同誌に発表、斬新なSF的アイデアと端正な筆致から「第2の山田正紀」とも肝されるが、1992年発表の異色音楽SFrデュオ」を最後に沈黙。本作『グラン・ヴァカンス』は、10年ぶりの作品にして、初の長篇にあたる。

                ********

 ネットワークのどこかに存在する、仮想リゾート〈数値海岸〉の一区画く夏の区界〉。南欧の港町を模したそこでは、人間の訪問が途絶えてから1000年ものあいだ、取り残されたAIたちが、同じ夏の一日をくりかえしていた。だが、「永遠に続く夏休み」は突如として終焉のときを迎える。謎のプログラム〈蜘蛛〉の大群が、街のすべてを無化しはじめたのである。こうして、わずかに生き残ったAIたちの、絶望にみちた一夜の攻防戦がはじまる一仮想と現実の闘争を描く《廃園の天使》3部作、衝撃の開幕篇。

                     *************************

 わかったようなわからなかったような。
サイバー空間のことらしいとは思うが、理解できていたのか疑わしい。
硝視体(ガラス・アイ)、流れ硝視(ドリフト・グラス)格子(グリッド)、AIプログラムの「アイデンティティ境界」、夢幻アセンブラ、官能素(ピクセル)、・・・他にも、言葉を聞いたことはあるが、正確に意味を知っているかと言えば違うような気がする言葉が出てくる。

それでも面白く読めた。


屋上ミサイル
謎のメッセージ


山下 貴光

宝島社





2012/8/17

2012/5/25 発行
高校の屋上を愛する「屋上部」−−−デザイン科の辻尾アカネと校内きっての不良・国重嘉人、恋に一途な沢木淳之介、バンドマンの平原啓太ーーーの間には、不穏な空気が漂っていた。夏休みを目前に、校内で事件が続いているのだ。ぼや騒ぎや、切り裂かれた油彩画、連続する校内暴力事件。被害者は皆、口を閉ざしているのだったが、一連の事件は国重の仕業ではないかという噂が広がった。アカネたちは真犯人を探し始めるが、新たな被害者が出てーーーーーー。

   **********************

 国重が残したらしい暗号の数々。幼馴染の沢木は、小学生の頃、一緒にはまったことがあったと、暗号の解読にとりかかりーーーーアカネたちは、暗号を元に行動を開始する。
 簡単な暗号なのに、なかなか面白かった。何種類かの暗号がある。
 なぜ、暗号を残すことになったのか、しばらく進んで、ああなるほどと思った。

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 前作の「屋上ミサイル」では、第7回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞している。
 屋上を守るための「屋上部」を結成した4人は、屋上の平和を脅かす事件に次々と巻き込まれていくらしい。ライトノベル的楽しさに満ちた、青春ミステリー。


ドグラ・マグラ
夢野久作
角川文庫


2012/8/8
昭和51/10/10 発行


遠くて浅い海


ヒキタクニオ

文春文庫




2012/7/15


2008/11/10 発行
2005年9月  単行本
著者略歴 1961年、福岡県生まれ。イラストレーター、マルチメディア・クリエーターを経て、作家に。2000年に「凶気の桜」でデビュー。映画化されて話題となる。2006年、「遠くて浅い海」で第8回大藪晴彦賞を受賞。
 他の作品に、「鳶がクルリと」「ベリー・タルト」「青鳥(チャンニャオ)「アムステルダムの日本晴れ」「桜小僧」「原宿団地物語」「角」「東京ボイス」「不器用な赤」「負の紋章」「My name is TAKETOO]「上を向いて歩こう」などがある。

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 殺すだけでなく、その人物の生きてきた痕跡までも消してしまう「消し屋」。仕事を一つ終え、オカマの蘭子とともに沖縄へ向かった消し屋のもとに、若き天才を自殺させてほしいという依頼が舞い込んだ。どうやって天才を追い詰めるのか。沖縄の地に忌まわしくも哀しい記憶が蘇る。

 じりじりと対象者を追い込んでいく緊迫感。血なまぐささをはるかに超越し、職人の求道者に似た美しささえ感じさせる殺人の描写。そして、ニューハーフの恋人・蘭子にだけ時折見せる人間らしさ。
 一度ページをめくってしまったら、読者は将司の虜になるしかないだろう。活字と言う耳這刀(じはいとう)を突っ込まれて、もはやなすすべがない。できるのは、最後まで一気に読み切ることだけだ。(伊藤たかみ氏の解説による)

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 殺人者が捕まることのないストーリーは、不思議だ。

 

男は謀略 女は知略

内館 牧子

小学館文庫



2012/7/14

2000/1/1 発行
 著者略歴 (うちだてまきこ)1948年生まれ。武蔵野美術大学卒業後、OL生活を経て、脚本家に。
「ひらり」「毛利元就」「必要のない人」「週末婚」など多くのテレビドラマが大ヒット。
小説「義務と演技」「週末婚」エッセイなど著書多数。

         *   *    *

「週刊ポスト」好評連載エッセイ、「朝ごはん食べた?」の単行本第三集「男は謀略 女は知略」の文庫化。

 著者がこよなく愛す、相撲、プロレスはもとより、街で拾った感動秘話、男と女の微妙にずれる心のうちを軽妙な筆さばきで綴る、待っとくのエッセイ集。
 内館さんのためならばと、初の文庫解説に挑んでくれた、元プロレスラーにしてポートランド州立大学客員教授・ジャンボ鶴田氏曰く、
「仕事をバリバリしながら、かつ私的部分もしっかりとエンジョイしているなんて、働く女性の鑑である」(裏表紙の紹介より)

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窓ぎわのトットちゃん


黒柳 徹子

講談社
 


2012/7/4

1981/3/5 発行
[著者略歴] 東京乃木坂生まれ。大田区の洗足池の近くで育つ。トモエ学園から、英国系ミッションスクール香蘭女学院を経て、東洋音楽大学(現東京音大)の声楽科を卒業。絵本や童話を上手に読めるお母さんになりたくて、NHK放送劇団の試験を受け合格。テレビの一期生となり、放送の中で育つ。「ヤン坊ニン坊トン坊」「魔法のじゅうたん」など子供向け番組も多い。その間、劇団文学座の研究所、ニューヨークのメリー・ターサイ演劇学校などで学ぶ。商業演劇、新劇などの舞台出演も多く、また定期的にステージのワンマンショウも催す。第一回放送作家協会女優賞、日本婦人放送者懇談会大賞、テレビ大賞などを受賞。
 本作品出版時の現在、「徹子の部屋」「ザ・ベストテン」「音楽の広場」などに出演中。1979年、プロのアメリカろう者劇団(ナショナル・シアター・オブ・ザ・デフ)を日本に招くのに協力し、日本各地で一般にまざって手話で公演した。
 著書「チャックより愛をこめて」「パンダと私」等。

           *  *

 小学校一年で退学になったトットちゃんと、型破りで、おかしなトモエ学園のめぐりあい。−−−個性尊重の自由な教育をめざした校長先生のもとに、ちょっぴり「落ちこぼれ」だったトットちゃんたちは、大人も思わず感動する生き生きした学校をつくりあげる。著者は、この半自伝を通してすぐれた教育の実践記録と、豊かな教師像をあらわした。

   ******************

 トットちゃんのはじけぶりを読んでいると、娘の幼い頃を思い出す。もっとはじけていたら、徹子さんのような大物になったんだろうか。
 それと、徹子さんのお母さんのように、おおらかに徹子さんを受け止めてあげるのも、なかなかできることではないと思う。
 モチロン、トモエ学園を作った校長先生は、素晴らしい教師だと思う。


大往生したけりゃ医療とかかわるな
中村 仁一
幻冬舎新書


弁護士探偵物語
天使の分け前


法坂 一広


宝島社





2012/6/14

2012/1/24 発行
「殺した記憶はない」母子殺害事件の容疑者・内尾は言った。裁判のあり方をめぐって司法と検察に真っ向から異を唱えたことで、弁護士の「私」は懲戒処分を受ける。復帰して間もなく、事件で妻子を奪われた寅田が私の前に現れた。私は再び、違和感を抱えていた事件に挑むことに、その矢先、心神喪失として強制入院させられていた内尾が失踪。さらに周囲で不可解な殺人が起こり・・・・・・。(裏表紙)

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 第10回「このミステリーがすごい!」の大賞をとった作品。受賞の時点では「エンジェルズ・シェア」保坂晃一だったが、発刊するときに名前、タイトルを変更。

 選者の評が面白い。

 ★福岡を舞台にした酔いどれ弁護士ハードボイルド『エンジェルズ・シェア』。いかにも私立探偵小説のパロディという雰囲気の一人称文体(やりすぎ)をどう評価するかで意見が大きく割れたが、好き嫌いは別にして、この文体が板についているのはまちがいない。ワイズクラックが滑る箇所も含め、くすくす笑いながら楽しく読むことができた(大森望)

 ★減らず口のたたきまくりは逆効果、読み進むにつれ閉口させられた。名作ハードボイルドのパロディ仕立てとしてはよく出来ている(香山二三郎)

 ★チャンドラーのパロデイとしては、あまりに稚拙。減らず口は連発すればいいというものではない。見事な比喩や言い得て妙な言葉がふさわしい場面でさりげなく使われるからこそ、チャンドラー作品がいまもなお人々を魅了するのだ。それ以外、たとえば扱われている事件だが、別に病院でなくとも、どこかの企業でも役所でもいいょうな犯罪である。これが現在の日本の負の部分を切り取ったような、なにか時代の象徴を感じさせる事件ならば、もっと高く評価しただろう(吉野仁)

 さすが選者、まったく同感だった。


あがり
Perfect and absolute blank:

松崎 有理

東京創元社






2012/6/9

2011/9/30発行
 〈北の街〉にある蛸足型の古い総合大学
女子学生アトリと同じ生命科学研究所にかよう、おさななじみの男子学生イカルが、夏のある日、一心不乱に奇妙な実験を始めた。彼は、亡くなった心の師を追悼する実験だ、というのだが……。夏休みの閑散とした研究室で、人知れず行われた秘密の実験と、予想だにしなかったその顛末(あがり)
第1回創元SF短篇賞受賞の表題作をはじめ、少しだけ浮世離れした、しかしあくまでも日常的な空間ーーーーー研究室を舞台に起こるSF事件、全5編。(裏表紙紹介より)

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 この本をぜひ読んでみたいと思ったのは、次のような紹介文を見たからなので下記に記す。
理系の研究室・研究者のようすがリアリテイ豊かに描かれている。三年間で一本も論文を出さないとクビになるという架空の法律や科研費の話など、身につまされる研究者も多いのでは。
 SFとしては、進化のゴールを扱った表題作をはじめアイデア一発の作品も多いが、発想やオチの切れ味よりも、カタカナ語を一切使わない独特の文章や適度に力の抜けた会話など、小説としての肉付けの部分のほうが魅力的。アイデアの奇抜さと研究者小説としてのリアリテイの齟齬をう
まく縫い合わせている。
  
 P9−−−ひどい悲しみに直面した時、ひとはしばしば転位行動をとる。数研の連中ならば多額の懸賞金がかかった未解決問題に取り組み、地史研はつるはしと岩石破砕用鉄槌をかかえて野外に化石を探しに行く。そして生命研の人間は、実験する。

 P50−−−机の上に論文の複写や書きかけ原稿が積みあがっているのは数学科と変わらないが、半分空いた試薬瓶やよごれた白衣やひとつ前の型の演算機やそりかえった写真の束があるのは、いかにも基礎系、つまり実験系の研究室だ。何度見ても面白い。

 P141−−−研究活動はよっつの段階に分かれる。まず立案し、次に案を検証する準備をし、そして実際に検証し、最後に結果を記録する。これを研究活動の起承転結と呼ぶ。

  なるほど・・・・昔から理系にあこがれを持っていたが、これらの物語を読んだら、私にはやっぱり無理だっただろうと思えた。理系の研究者は凄い。難しい言葉を使わないように書いているが、やっぱりわからないなあ。

 理系女子ならではの奇想SF連作集。次回作にも期待している。


ジョブズ伝説
アートとコンピュータを融合した男

高木 利弘

三五館





2012/4/26

2011/12/1 発行
 コンピュータの知識ゼロでもジョブズを理解できるよう、わかりやすく解説。ジョブズの主な基調講演を収録。公認伝記『スティーブ・ジョブズ』をはじめ、膨 大な資料を簡潔に整理。ジョブズ&アップルの第一人者による、日本発のジョブズ伝。ジョブズとアップルの軌跡をまとめた年表付き。

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 表紙の若き日の鋭い目をしたジョブズの姿に惹かれて手に取ってみた。読み始めれば、どんどん読み進んだ。

 自分がパソコンを購入する頃は、アップル社は先細りで、どちらを買うかと言えば、迷わずマックではないDOS-Vの方を選んだ。だから今もそちら側を使っている。こんなに復活するとは思えなかったものだ。

 ジョブズの生い立ちや人間性やその業績はもちろんだが、コンピュータの進化の流れが、よくわかった。著者は、マルチメディア・プロデューサーで元MACLIFE誌編集長だった高木利弘氏。やはり長年読者をその誌面に釘付けにしてきた名物編集長だけのことはある。テンポのいい文章で、ぐいぐい読ませる。

 読んでいてわかるのは、ジョブズは、シンプルで誰にでも扱えるようにわかり易く、しかも美しいモノを作りたかったということ。何十年もかかってジョブズのやろうとしたことが実現してきた結果、
 iPod、iPhon、iPad に集約されてきたんだろう。それらは互いに関連していてデータを共有できる。

 現在、他のメーカーを使うと、PCや携帯など、規格が変わったり読み取れなかったり、不便なことが多い。それと比較すると、なおさらジョブズの考えていたことの凄さがわかった。

 今度は、アップル社の物を買ってみたくなった。なぜ、もっと早くそうしていなかったんだろうと考えさせられた。惜しい人が早死にしたものだ。Steve Jobs


死にゆく者の礼儀
遥洋子
筑摩書房




2012/2/16
2010/3/10 発行

1986年から8年間、上岡龍太郎氏と組んで司会をした読売テレビ「ときめきタイムリー」から本格的にタレント活動を開始。関西を中心に、テレビ・ラジオ・舞台などで活躍すると同時に、執筆活動も始める。2000年、『東大で上野千鶴子にケンカを学ぶ』(筑摩書房)がベストセラーに。その後の著書に、『介護と恋愛』『美女の不幸』『主婦たちのオーレ!(筑摩書房)、『結婚しません。』『いいとこどりの女』(講談社)、『野球は阪神私は独身』(青春出版社)、『働く女は敵ばかり』『働く女は腕次第』(朝日新聞出版)、『女の敵』(日経BP)などがある。父を介護した体験をもとに書いた『介護と恋愛』(ちくま文庫)2006年、NHKでドラマ化され、著者自ら脚本を執筆。文化庁芸術祭参加作品に選ばれる。豊かな人間観察に裏打ちされた、テンポのいい、奥行きのある文章には定評がある
タレント、大阪生まれ。

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地球温暖化は本当か?

宇宙から眺めたちょっと先の地球予測

矢沢 潔

技術評論社





2012/2/15

平成19年1/25 発行

 科学雑誌コズモ創刊編集長を経て1982年より科学情報グループ「矢沢サイエンスオフィス(()矢沢事務所)l主宰。内外の科学者 研究者、科学ジャーナリスト、編集者、翻訳者などのネットワークを構築し四半紀にわたり自然科学、生物学、エネルギー技術(核分裂と核融合)、医学、科学哲学、未来文明論、テラフォーミング等に関する情報 執筆 啓蒙活動を続ける。「最新科学論シリーズ」30数冊l(学習研究社)世界の本「学者へのインタビュー集『知の巨人』()などの‐般向け科学書の他、『経済学のすべてがわかる本」()、『巨大プロジェクト』(講談社)、「薬は体に何をするか』(技術評論社)などを送り出してきた。がん医学書や動物医学書も多い。

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 気象予報士がTVの中で「温暖化のせいで・・・・・・」というのを聞いて、そんなに断言していいのかと気になった。
 本書では、ジェームズ・ハンセンのサイエンスに発表した論文がきっかけとなり、世界的に広まっていったこと、しかしその後、異議を唱える科学者たちが多数出たこと、温暖化を強力に進めるコンピューターシミュレーションの専門家ベンジャミン・ハンターが、1963年〜83年の気温が高くなっていった部分だけを取り上げた資料を使ったことなどの例をあげて今までの流れをまとめている。

 温暖化脅威論ばかりを聞かされているが、
南極の氷が溶けて海面が数センチあるいは数メートル上昇するとか異常気象が頻発するという不確実性に満ちた予測と、寒冷化によって北半球の穀物生産が激減し65億人分の食糧供給が不可能になるだけでなく、多くの人間や動植物に凍死、餓死、種の衰退や絶滅という困難が押し寄せるという確実性の高い予測のどちらが真に大きな脅威かを考えてみるべきである」と注意を促している。


われ日本海の橋とならん
内から見た中国、外から見た日本ーーそして世界
加藤 嘉一
ダイヤモンド社


2012/2/15
2011/7/22 発行


60年代のリアル

佐藤 信

ミネルヴァ書房





2012/2/14

2011/12/5 発行
「なぜ僕と同年代の若者たちが、あんなに熱くなれたのか」。
東京大学大学院の修士課程に在籍する佐藤さんは、安保闘争や大学紛争などをめぐる「60年代論」に、今を生きる同年代の感覚から迫った1冊。
 当時の「朝日ジャーナル」や三島由紀夫らの文献、ジャズや演劇なども参照する。
 「皮膚感覚」がキーワードで、闘争の形の変化を読み解いていく。

 学部2年生で参加した御厨貴東大教授のゼミでの議論を基に、4年時に書いた新聞連載が本書のベース。学生が新聞連載するって、東大生だからってだけじゃなく、すごい人なんだろう。

 生きている実感って何?    唐牛健太郎という男   樺美智子の死
 チェンジ・オブ・ペース     ダンチ化    新宿と坂本龍一
 三島由紀夫と全共闘    安田講堂攻防戦とヴァーチャル感覚
 皮膚の思想を求めて  Jazz and Freedom go hand in hand.
 ネットの海のなかで     リアルな政治とは     (表紙にある言葉より)


 第1部は、60年代がどういう時代だったかをなぞっていて、その時代に生きた私の知らないことまで順に書かれていてとてもよくわかった。くだけた言葉づかいと若者らしい感覚がよかった。
 第2部は、一転難しくなる。様々な文献を引用し、そこまで難しく考えなくても・・・・・と、私のようなおばさんは考える。おじさんなら一緒に論じ合うのだろうか。

 その時代に居合わせながら少しもわかっていなかった自分が腹立たしい。だから今になって当時の話を読みたがる私。こんな若い人の方が良く知っているとは!


タイムスリップ
聖徳太子

鯨 統一郎
講談社NOVELS




2012/1/2
2011/11/7 発行

倭岡に君臨する聖徳太子は、自ら幻術を駆使し、隣国・塊やマーシア国との戦いに勝利し征服した。太子の次なる狙いはラバダ王国。彼は部下に老若男女問わず王国のすべての人間を抹殺することを命じるo圧倒的兵力をもってラバダに侵攻した倭岡軍! だが王国にも天才的軍師が出現し太子をも翻弄する。戦いの行方はいかに!?(裏表紙より)

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奇想天外なだけで少しも面白くなかった。
いくら私がSFを好きだからって、意味のないストーリーにしか思えなかったので、飛ばし読み、ななめ読みで済ませた。
ショウもないモノを読んだ、という感じ。
 好きな人もいるかもしれないがーーー


信長の密使
異聞・桶狭間の合戦

火坂 雅志
  
学研文庫




2011・10/19
2001・10/19 発行
 天下の裏に密使あり。時は折りしも下克上の世。東海の太守・今川義元は、天下統一の手始めに、織田信長討伐に乗り出した。窮地の信長は、無頼武装集団・蜂須賀党川並衆の協力を得、徳川家康への密使を命ずる。その密使こそ、川並衆副首領、前野将右衛門であった。今川勢二万五千、織田勢四千という桶狭間の合戦で信長を勝利に導いた、将右衛門らの獅子奮迅の活躍を描く!(裏表紙)

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「織田信長はなぜ、桶狭間の合戦に勝利したのか―ー。
日本合戦史上の最大の謎の一つである」  と著者は述べ、この作品で一つの仮説を提示して見せている。

 文献を突き詰め推理を働かせ、整合性のある答えを導き出す手法は、まさに歴史ミステリーそのもの。
 ではあるが、謎解きがメインではなく、作者が書きたかったのは、あとがきによると、前野将右衛門、蜂須賀小六ら、木曽川に生きた無頼の男たちの生き様だという。
 そのあとがきに、二人は侍大将に出世した木下籐吉郎に仕えることを決め決め、秀吉の出世につれて、蜂須賀小六は播磨竜野五万石の城主となり、前野将右衛門は但馬出石五万石の城主にまで成り上がったという事実も書いてくれている。

 なかなか魅力的な人物像に描かれていた。
 

 

逃亡医

仙川 環

祥伝社



2011/10/11
2011/8/10 発行

肝臓移植のドナーになるはずだった心臓外科医・佐藤基樹が失踪した。佐藤のかつての恋人・遼子から捜索を頼まれた元刑事・鹿川奈月は男の生まれ故郷を訪ね る。しかし、以前そこにいた「佐藤基樹」はまったくの別人だった。“佐藤”とは何者なのか?そして、なぜ逃げるのか?足取りを追う奈月は、孤独な男の影に いつしか自らを重ね合わせていた…。「ドナー予定者」「友のいない男」「関西弁の呟き」…。かすかな手がかりを、元刑事が追う。医療ミステリー界の気鋭が 贈るノンストップ・サスペンス。 (bookデータベースより)

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 医療ミステリーとは言えないんじゃないか。何故だかわからないが逃げ回っているのが医者だというだけなのだ。
 それを探して回る元女刑事に少しばかり関心が湧いたかなあ、というだけだ。
料理や掃除などなど結婚したらするはずの仕事は全く今までしてこなかったらしく何もできない。できるようになろうとし始める理由はできた。一緒に住もうという男ができたからだが、そういう小さな幸せもいいものだと思いながら、元刑事の仕事の方が生きがいを感じてしまうのも事実。
女性刑事は、こういうキャラが多いなあ。

 逃げ回っている理由も、なんだかなあ、という印象だった。


証言・731部隊の真相
Japan s Wartime Human Experimentation Program

生体実験の全貌と
戦後謀略の軌跡

ハル・ゴールド
Hal Gold

濱田 徹 訳

廣済堂出版




2011/9/17

平成9年8/15 発行
戦時中の活動
 旧日本軍は、中国大陸の辺鄙な地方の防菌医療区できわめて残虐な行為を行った。関東軍七三一部隊の医師とその助手たちは、前線から離れた場所で人々の眼を気にすることもなく、人間モルモットを医学実験に使用したのである。
 著者は、丹念に集めた資料にもとづいて第一部で大日本帝国軍のもっとも有名な医療部隊の歴史を概観し、きわめて衝撃的な活動を跡づけ、部隊の真相を解明した。
 後半では、1994〜95年に日本全国で開催した七三一部隊移動展示会における元隊員自身の証言等で構成している。彼らは証言で生体解剖台に寝かせた妊婦の身体を切り開く、健康な農婦に伝染病を注射する、廊下を通って指定場所に採取したばかりの血液と臓器を入れたバケツを運ぶなど実験活動の生々しい記憶をたどってその全貌を明らかにした。
戦後の足跡
 七三一部隊元幹部は、戦時中満州に於ける生体実験によって蓄積したデータを米国に提供して、戦犯訴追免責を受けた。 
 戦後の謀略的な帝銀事件についても、部隊の関与が疑われた。
 ミドリ十字が元部隊幹部によって設立された事実、またエイズ・ウイルスが日本の細菌戦研究を引き継いだ米軍キャンプ・デトリックで細菌兵器として開発され、ミドリ十字がエイズ・ワクチンを開発する目的で血液製剤のエイズ汚染を知っていて輸入した疑いについても解明している。(表紙裏扉より)

     ****************

  従軍慰安婦、南京大虐殺を事実として受け止める立場にある人のようなので、探した資料に、捏造された物がなかったかどうかは、わからない。
 平和な今の感覚で、戦争時の行動を批判するのは違うと思うが、それでも、ある程度は、受け止めるべきだろう。


兵どもが夢の先

高橋 公

ウェイツ





2011/9/3

2010/9/1 発行
  たかはし ひろし
一九四七年生まれ。福島県出身。一九七〇年早稲田大学中退、七七年自治労本部入職、九七年から日本労働組合総連合会へ出向、社会政策局長として国土・土地・住宅政策、環境政策、教育政策、農業政策などを担当。また、食を考える国民会議委員、中央環境審議会臨時委員、内閣官房「暮らしの複線化」研究会委員、国土交通省二地域居住検討委員会委員などを歴任する。現在はNPOふるさと回帰支援センター専務理事・事務局長、地球温暖化防止活動推進センター運営委員、アジア農民元気大学教授、農水省「食と地域の絆づくり」選定委員会委員、自治労特別執行委員などを務める。

                  *******************************

第1章 全共闘運動  第2章 無頼の日々を生きて  第3章 自治労運動編  第4章 連合運動の中で  第5章 夢の先にあるもの

 途中、あんなことをした、こんなことをした、という自慢のようにしか読めなかった。印象に残ったのは、連合では国体を廃止する方針で、高知、宮城と国体にそれほど乗り気でない知事の時に一気に廃止にしようとしていたらしい。突然上から廃止しなくていいとなったので、存続できたが、廃止できなくて残念だと書いてある。国体を目指して頑張っている選手たちが聞いたら、何と思うだろう。
 地球温暖化に対しても、温暖化が正しいのかどうかという疑問は感じないのだろうか。所属する団体の方針で運動するだけなのか?運動したいから活動しているとしか見えない。反発を感じながら読み終えた。
 
 自分も全共闘世代(ノンポリだったのでよくわからないまま通り過ぎた)だから、気になって読んでみたのだけど。


お江
戦国の姫から徳川の妻へ
小和田 哲夫
角川学芸出版



2011/7/11
2010/11/25 発行

政略結婚の涙が、将軍をも恐れる女を生んだ!
 戦国大名・浅井家に生まれたお江。没落の運命をたどる大名家の末娘は、やがて大きな歴史の流れに翻弄されてゆく。二度の落城と三度の政略結婚、そして徳川将軍家の御台所へ――。動乱の時代をしなやかに生きたお江の横顔を、歴史背景とともに残された希少な史料から浮き彫りにする。(裏表紙より)

    ******************************

大河ドラマ『お江』の時代考証を担当している。

 

バチカン
ミステリアスな「神に仕える国」

秦野 るり子


中公新書ラクレ



2011/6/9

2009/5/10 発行
 信者を導く組織であり、世界最小の独立国。その成立から現代に至る歴史をふまえながら、日本人には理解しがたい中世的「ミステリー」が生き続ける現場としてバチカンを描く。

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 以前から、キリスト教を迫害したローマがなぜ国教として認めたのが不思議だった。
 第一章  ローマ教皇の成立
   ユダヤ教徒の迫害  から 原始教会の成立 そして マリアについて
   パウロの登場  世界宗教への飛躍 (パウロは異邦人に教えを広める) 実質的キリスト教の創始者
  ローマ教皇は「ペトロの後継者」−−−聖ペトロと聖パウロという原始教会の二人の重要人物が、ローマ帝国に揃い、二人ともローマで殉教したことが、バチカンがローマに築かれていく理由づけになる。
  「大迫害」の時代を経て、元、ミトラ教の信者だったローマ帝国のコンスタンティヌス帝により公認される。
 多神教だったはずのローマでキリスト教という一神教になるのは、とても不思議で、ローマ帝国が東西に分かれたことや、皇帝と教皇の覇権争いもあり、複雑だ。

 第二章 「神の代理人」へ
 第三章 バチカンのしくみ
 第四章 バチカン市国の特権と闇
   日本では布教が不思議なくらい広がらないらしいが、それでも日本人の枢機卿もいるとか。
 日本人にはなじみが薄いが、よくわかる1冊となっている。
 


未練
乃南 アサ
新潮社

2011/4/18
2001/8/10 発行
音道貴子、33歳、バツイチ、独身。警視庁第三機動捜査隊員としていち早く現場に急行する。「非日常的」な日常生活。過去の事件がもたらしたPTSDからやっと回復途上にある貴子に、病んだ都会のトラウマが産んだ六つの事件が襲いかかった――。

    **************
 
 警察官としての苦悩、年齢的なことから女性的な悩み、女性警察官の家庭崩壊した先輩の姿など、人としての悩みと、それをなんとか乗り越えようとする、女性警察官としての音道貴子の姿のいろいろ。

 未練  立川古物商殺人事件  山背吹く  聖夜まで  よいお年を  殺人者  短編6編

 読む時期によっては、影響を受けるかもしれないが、今の私には、あまり関心が湧かない内容だった。


四日間の奇蹟

朝倉 卓弥

宝島社文庫



2011/3/29

2004/1/29 発行
第一回『このミステリーがすごい!』大賞・大賞金賞受賞作として、「描写力抜群、正統派の魅力」「新人離れしたうまさが光る!」「張り巡らされた伏線がラストで感動へと結実する」「ここ十年の新人賞ベスト1」と絶賛されたベストセラー。
 脳に障害を負った少女とピアニストの道を閉ざされた青年が山奥の診療所で遭遇する不思議な出来事。

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 これでも新人なんだ、すごいなあ、と思いながら読み進んだ。千織と如月敬輔は、親子でも兄弟でもなく、ある事件をきっかけとして一緒に行動するようになった関係だが、幼い千織の面倒を見ている敬パパとよばれる青年が、とてもよくて、二人の日常を見ているだけでもいいなあ、と思えるほどだ。そして、いったいどんな奇蹟が起こるんだろうと気になって、一気に読み進む。
 解説の文章を借りれば「誰しもが感嘆するのは、本筋のアクシデントが起こる中盤まで動きらしい動きがほとんどないにもかかわらず、圧倒的に読ませる新人離れした筆力だろう。ピアニストの夢を絶たれた青年と脳に障害を持った少女が出会い、青年の胸に去来する複雑な感情の蹉跌を経て、やがて二人寄り添うように生き始める過程を静謐かつ克明に描く作者の筆致には、もはや唸る他ない。まるで、行間から旋律が聴こえてきそうなピアノの演奏シーンを含め、この作品の完成された文章力は特筆に価する」と。

 後半になって、事故がおこり、そこで奇蹟が起こるんだけど、この奇蹟を通して作者が言いたかったのは、「こころ」について考えること、多重人格についても説明がされる。自己犠牲と癒しの奇蹟。
 ピアノを弾くことと、ピアノ曲についても語られる。それを理解するのに、私にピアノの知識が無いのが残念だ。
 ミステリーの賞を受賞しているが、あまりミステリーとは思えない内容だ。
 読み終わってから知ったが、映画にもなっている。ただし、配役を見たら、読んでいたときのイメージと違うようなので、私は見ないほうがいいかもしれない。


細雪


谷崎潤一郎
新潮文庫



2011/3/1

 大阪船場に古いのれんを誇る蒔岡家の四人姉妹、鶴子、幸子、雪子、妙子が織りなす人間模様のなかに、昭和十年代の関西の上流社会の生活のありさまを四季折々に描き込んだ絢爛たる小説絵巻。三女の雪子は姉妹のうちで一番の美人なのだが、縁談がまとまらず、三十をすぎていまだに独身でいる。幸子夫婦は心配して奔走するが、無口な雪子はどの男にも賛成せず、月がたってゆく。(裏表紙の紹介より)

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 最近の本と違って、文章が長い。つらつらつらつらと続いていく。とめどなく流れる文章.長いんだけど、はじめはとまどったが、心地よく流れていく文章だ。


パンとペン

社会主義者・堺利彦と『売文社』の闘い

黒岩 比佐子

講談社




2011/2/22

2010/10/7 発行

本を開いたとき、とっさに読めないと思った。文字がびっしりと並んでいたからだが。
序章を少しばかりぱらぱらと見たら、海外文学の紹介者としての堺利彦の紹介があり、たとえば「マイ・フェア・レディ」の原作であるバーナード・ショーの「ピグマリオン」を日本に初めて紹介したとあり、興味を持ってみると文章も読みやすく、読んでしまった。

明治から昭和初めにかけての社会主義者堺利彦を中心に、その仲間たち――幸徳秋水、大杉栄、山川均、荒畑寒村らの「闘い」を描いた伝記である。

 今から見れば社会主義というのが彼らの理想としたものとはかけ離れたものだとわかるが、当時の人々にとっては、命をかけて戦い取るべき制度だったようだ。当時の天皇制の悪質、凶暴性が読めばわかる。

 大逆事件では幸徳秋水ら12人が死刑になり12人が無期懲役になったが、天皇暗殺を考えたのは、宮下大吉ら4人だけであとの20人は冤罪だった。

 『売文社』は、「よろず文章代作請負会社」で、ペン(文筆)でパン(生活費)を得ていた会社で、様々なエピソードは興味津々である。社会主義者は、仕事を得るのも困難なため、堺がここで雇ったり収益で社会主義者を助けたりしていたものであった。

 著者は、執筆中に癌がわかり、抗癌治療を続けながら出版したが、本書刊行後に死去されたらしい。

よく調べてあり、読み応えのある1冊だった。著者のほかの作品も読んでみたいと思う。


経営はロマンだ!
小倉 昌男
日経ビジネス人文庫




2011/2/20
2003/1/6 発行
「クロネコヤマト」の宅急便を生み出して日本人の生活スタイルを変え、ヤマト運輸をトップ企業に育て上げた小倉昌男。経営から退いた現在は、私財を投じて障害者福祉に情熱を燃やす。「官僚と闘う男」の異名をとった硬骨の経営者が、その生きざまと哲学を語る。

 1924年、大和運輸(現、ヤマト運輸)の創業者・小倉康臣の二男として生まれる。
東大経済学部卒。48年、大和運輸入社。
71年、二代目社長に就任。
宅急便を生み出して経営危機にあったヤマト運輸を立て直す。
95年、会長を退任。
現在は、私財を投じて設立したヤマト福祉財団の理事長として
障害者福祉の世界で活躍中。

****************

平成14年1月1日より日本経済新聞の「私の履歴書」に連載されたもの。

「トリプルA」の中でこの本の紹介がしてあったので読んでみることにした.
障害者福祉の事業に感銘した登場人物が、フランチャイズで、パン屋になろうとするもの.


季節の記憶

保坂 和志

中公文庫




2011/2/3
1999/9/18 発行
ぶらりぶらりと歩きながら、語らいながら、静かにうつらうつらと時間が流れていく。鎌倉・稲村ガ崎を舞台に、父と息子、便利屋の兄と妹の日々・・・・・・・。それぞれの時間と移りゆく季節を描く。
 平林たい子賞、谷崎潤一郎賞受賞作。(裏表紙)

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 解説の養老孟司氏が「本を読みはじめて、なぜかつられて最後まで読んでしまう。」と書いているように、事件があるわけでもなく、日常の当たり前の行動の連続なのに、読み進んでしまう。
 それというのが、だらだらと書いてあるだけではなく、少しばかり変わった人達が出てきて、語り合いながら、掘り下げた考えなどもあるので、興味深いのだ。

 息子と父のやり取りが、なんだかとてもいいというのもある。
 
 いままで、このようなタイプの本は苦手で読んでこなかったが、これはこれで味わいもあり、今後、読んでみたいと思う。


死角の時刻表

斉藤 栄

集英社文庫



2010/12/20

1982/8/25 発行

岡山の奇岩羅生門と、秋川の千秋城趾公園での殺人事件が、捜査線上で結び付いたのは、秋田の被害者・貝塚充が熱烈なSLファンで、岡山の事件当日、伯備線のサヨナラD51.三重連運転の現場にいたことからである。当局の捜査で浮かんだ容疑者には鉄壁のアリバイがあるー。
 時刻表の盲点を衝いた完全犯罪に暁む長編小説。    解説・影山荘一 (裏表紙)

        ********************

 解説にも書いてあったが、時刻表をたくみに扱って、盲点を突き、アリバイを作るというのは、日本の鉄道が時間通りに動いていることが前提だ。すごいことなんだなあと思うし、作家たちがトリックを考えるのは楽しい作業なんだろう。

 ブルートレインのドアは、手で開けられる?時刻表では停車しないはずの駅でも、客扱いの無い駅で停車中は、電気的な力が働かないから、掛け金を押し上げて手動で開けられる、なんて知らなかった・・・・この本に出てくる鉄道マニアなら知っているのかな?

 列車に乗って行く旅は好きだ。鉄道ミステリーも、もっと読んでみよう。


食堂かたつむり

小川 糸

ポプラ社



2010/11/12

2008/1/15 発行
 失恋のショックで声を失った倫子は、子供の頃から馴染めなかった自由奔放な母・ルリコが暮らす田舎へ戻り、小さな食堂を始める。お客様は一日一組だけ。決まったメニューはない。お客様との事前のやりとりからイメージを膨らませて作る倫子の料理は食べた人の人生に小さな奇跡を起こしていく。
 お客様との事前のやりとりからイメージを膨らませて作る倫子の料理は食べた人の人生に小さな奇跡を起こしていく。
 そんな矢先、倫子はルリコが末期のガンであると知る.母のための料理を作る.

 お客に合わせ、丁寧に作る料理はすごい.
鍋の中で、たくさんのイメージが重なり合い、画家が本能に任せて絵の具を選ぶように、自分の直感を頼りに即興で料理していく.そしてこの言葉が印象に残った.
 料理は、自分以外の誰かが心を込めて作ってくれるから心と体の栄養になるのだ.

 SFなどのように、特殊な条件設定をしたうえで人間のありようを考えていくファンタジーではないかと思う.
 1日に1組だけのために、料理を作るだけでは成り立ちそうもないし、現実感がない.
 ほろりとする場面もあるが、突っ込みどころも満載だ.
 たくさんの料理が出てくる割には、記憶に残らなかった.
 豚1頭を解体して料理していくのはすごいの一言に尽きる.ハトが死んでいるのを見て料理して食べてしまうのも、なんだかなあ、と思う.

 女3代のそれぞれの生き方を描いているらしい.
他の本も読んでみようとは、思えなかった.


いざ*志願!
おひとりさま自衛隊


岡田 真理


文芸春秋





2010/9/18

2010/8/10 発行
 フリーライター。昭和52年生まれ、福岡県香春町出身。同志社大学工学部中退。平成17年、陸上自衛隊予備自衛官補(一般)に志願。50日間の教育訓練を経て、平成19年予傭自衛官に任官(京都地方協力本部所属)。平成21年、予備陸士長に昇任。扶桑杜「月刊MAMOR」にて、「ヨビジホになってみた。」「己に勝て!男を棄てるな〜密着!空挺レンジャー課程訓練の60日間」などを執筆。

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 普通のOLが、お酒に酔った勢いだからって、自衛隊に入ろうとするなんて!ただし27歳未満という年齢制限があったため、まだ34歳まで大丈夫な予備自衛官に応募した。驚きというほか無い。

 予備自衛官とは、普段は企業等の一員として社会で活躍し、いざというときは自衛官として社会に貢献できる、という制度。こんな制度があったことも初めて知る。
 予備自衛官“補”とは、自衛隊経験のない一般人が予備自衛官になるための制度。略して「ヨビジホ」

 予備が付こうが補が付こうが、自衛官であるからには訓練がある。予備自補は50日間教育訓練を受ける。5日間の訓練を10回、終了すると晴れて予備自衛官に任官される。

 訓練中の写真が何枚もあって、取材の為の体験訓練か?と勘違いしたが、中隊長がカメラの趣味があって山ほど撮影してはDVD−Rにして渡してくれていたんだとか。それで納得。
 楽しそうにも見受けられるが、真似したいとはとても思えない訓練の様子が段階を追って紹介されている。著者はたまたま、適性があったとしか思えない。

 表紙からの印象のように、著者の文章は、かる〜いノリだが、楽しく脱線しながらも的確にレポートされている。

 なかなか、面白い一冊だ。この著者の他の作品も読んで見たいと思う。


日本の力
石原慎太郎
田原総一朗
文春文庫

2010/8/9
2007/3/10 発行
アメリカ支配からの脱却を訴え続ける石原、
戦後日本が抱えた問題点を詳細に点検し続ける田原……
二大論客が「戦後が定年を迎えた」平成の時代に警鐘を鳴らす。
憲法改正、東アジアの安全保障、対北朝鮮・中国外交の基本戦略、バーチャル・リアリティが進展する社会と青少年教育などを俎上に載せ、この国の未来像を鮮やかに提言する。(裏表紙より)

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問題な日本語

北原 保雄 編
大修館書店

2010/7/17
2004/12/10 発行
最近は、目にする言葉も耳にする言葉も、気になるものが多い。自分の方が間違って覚えこんでいたものもあるが、若い人の間違った使い方が気になっていた。

表紙にあるのは、「こちらきつねうどんになります」狐が入って「こちらきつねうどんになりました」・・・・思わず笑ってしまう。
「よろしかったでしょうか」
「私って・・・・じゃないですか」
「なにげに・・・」いい年をした人も使っているのでなお更きになる。
 むつかしいのは、おざなり、なおざり、どっちがどっちか?使い分ける前に、意味がはっきり分かってない。
 この本で知って驚いたのは、「独場」誤用らしい。「独場」が正しい。字がよく似ているもの。ただし、誤用のほうが多くなってきた現在は、誤用とは言いがたいそうだ。誤用であっても、誤用が生まれてくる「誤用の論理」は何なのかを究明しているのが興味深い。

 言葉は難しい。だけど面白い。できるだけ間違わないで正しく美しい日本語を使いたいものだ。
 タイトルもユーモアだろう。「問題日本語」をあえて、な、にしてある。

 


風の行方


上・下

佐藤 愛子

毎日新聞社



2010/6/1

1997/8/30 発行
 5年生の大庭吉見、父が会社の部下との浮気が原因で母が家を出て行った。そのあと、おばあちゃんが自由が欲しい、と言い出しておじいちゃんの方が出て行った。そして若い友達のような継母がやってきた。

 吉見の周りで現代の日本の様々な問題が起こっていく。
 学校のいじめ、女性の自立、熟年離婚、教師の苦悩、今時の若者、フリーターなど。

 半ばまで読んだところで、おじいちゃんの丈太郎は帰ってくるんだろうな、と想像がつく。
おじいさんがいた時は〜だった、いた時の方がよかったかしら〜、という考えがおばあちゃんの中に浮かぶことが増えてくるのだ。

 家を出た母、三保も恋をして気の迷いはあったが強くしっかりと生きていくし、意外性がない。収まる所へ収まっていく感じだ。
 登場人物には少し外れた行動をとらせ、読み手は冷静だから「常識で考えたらわかりそうなものなのに・・・・・・」と思いながら読み進める。
 読みながら、幸せとはなんだろう、老後の幸福とは?家の心棒とは?と考えながら気付かせてくれる。

 読みやすく一気に読んでしまった。著者に近いのは丈太郎だろうか。小学生の吉見やフリーターの浩介像は、著者からあまりに遠かったのか、少し違和感を感じた。


養老院より大学院

内館 牧子

講談社



2010/5/15

2006/10/30 発行
第一章  受験を決めた本当の理由
第二章  入学試験は難しかった
第三章  見渡す限りの十八歳
第四章  予想外の厳しさに焦る
第五章  「非日常」に若返る社会人
第六章  得たもの失ったもの
第七章  大学院を修了した今

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 さすがは放送作家だ、面白く、しかも参考にしたい人の為になるように書かれている。
 内館さんが、大学院に入られたのは、54歳。勉強したい内容を持った大学を絞っていったら、東大、京大、東北大になったという。なんとすごい。その中で東北大を選んで受験。合格通知が来て驚愕した時のエピソードもユーモラスだ。昔の人(お母上)はどんなに驚いてもとっさに帝大というからすごい、って。
 周りが18歳ばかりの中に入ったとまどいやら、さすがに人生経験豊富な人ならではの若者に上手に助けてもらったこととか・・・・文章がうまいなあ、さすがとしか言いようがない。
 文章のうまさに、自分も大学院に行けるんじゃないかと勘違いしてしまいそうだ。大学院に行かないまでも、刺激を受けて、何かしなくちゃ、と思えてくる。
 ぜひ、一読をお薦めする。


日本 反骨者 列伝
夏堀 正元
徳間文庫

2010/5/12
1987/11/15 発行
 日本の近・現代を、時流に阿(おもね)ることなく反権力を貫いた男たちーー獄中十八年の後、日本共産党を再建する徳田球一。揺藍の新聞界を痛烈な風刺精神に生きた宮武外骨。東条英機と対立、自刃した中野正剛。軍部の弾圧下、神道・天皇制に対峙し布教を続けた出口王仁三郎。権力犯罪を執拗に告発する正木ひろし。日本初の新聞を発刊した岸田吟香一一凄絶ともいえる六人の男の生涯を、社会派の旗手が活写する力作評伝。

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告白

湊 かなえ

双葉社



2010/2/6
2008/8/10 発行

 我が子を校内で亡くした女性教師が、終業式のHRで犯人である少年を指し示す。ひとつの事件をモノローグ形式で「級友」「犯人」「犯人の家族」から、それぞれ語らせ真相に迫る。選考委員全員を唸らせた新人離れした圧倒的な筆力と、伏線が鏤められた緻密な構成力は、デビュー作とは思えぬ完成度である。
 第29回小説推理新人賞受賞作「聖職者」を第1章とし、その後第6章まで加筆して長編小説として刊行。
 第6回本屋大賞受賞。
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ひとつの事件をモノローグ形式で「級友」「犯人」「犯人の家族」からそれぞれ語らせ真相に迫る、芥川龍之介の『藪の中』のよう。

 読み終わって後味のいい物ではなかった。なんとまとめたらいいやら・・・。第一章の聖職者で終わって、後が蛇足だったとも思えるし、あそこで終ると後がどうなったの?と聞きたくもあるし、はて、どちらが作品として上だったのかな。

 人が、どんどん変わっていく様を描いていてすごいようでもあるが、女性教師に共感はできないし、渦中の少年は二人とも母子の問題を抱えていたという設定にしたのは、著者がそこを強調したかったのか?
 何を一番訴えたかったのかが、私には今ひとつ、はっきりしなかった。


日本語が亡びるとき
英語の世紀の中で

水村 美苗
筑摩書房

2010/1/29
2008/10/31 発行



バレエ・メカニック
津原 泰水
早川書房


2009/12/20

2009/9/10 発行


女子大生会計士の事件簿
山田 真哉
英治出版

2009/10/2
2002/12/16 発行


虎と月

柳 広司
理論社

2009/9/21
2009/2/ 発行
父は虎になった―ー
そんなこと、簡単に信じられるものではない。
ぼくだってそうだった。
しかし、父に会った、という人物からもらった手紙には、父がその場で詠ったという一篇の漠詩が書かれていた。
その詩(うた)には、虎になった人間にしかわかりえない、悲蒲な心の叫びがこめられていた。
父の血をひくぼ<も、いつかそうなってしまうのだろうか。
それはちょっと勘弁してほしい。
父がどうして虎になったのかを知りたい。
それが波欄万丈にして、不思議な旅の始まりだった……。
言葉の魔術師・柳広司が放つ
中島敦『山月記』に想を得た、寄想天外な変身譚(メタモルフオセス)。(カバーより)

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司馬遼太郎と東京裁判

福井 雄三

主婦の友社



2009/6/30

2006/8/15 発行
「坂の上の雲」に隠された歴史の真実
と内容はほとんど同じ。

司馬作品には面白くするためのフィクションがいっばい組み込まれてあって、(小説だからあたりまえのことではあるが)

 たとえば『竜馬がゆく』では、竜馬は高杉晋作と会って上海土産のピストルまでもらっている。ところが『世に棲む日日』では、伊藤俊輔が「坂本竜馬という土佐人が来ていますが会いますか」と言ったら、高杉晋作が「会うには及ぶまい」と答え、会っていない。(まるで反対だ、歴史的事実だと思い込んで読んでいたら、大きな間違いを起こしてしまう)

また、河井継之助が短編の『英雄児』では藩に滅亡をもたらしたとんでもない奴でありながら、長編の『峠』では最後まで戦った政略的な天才として描かれている。

司馬さんの文体には「この人物の面白さは」とか「この時代の奇妙さは」とか「この国家の不思議さは」といった、癖がある。その影響か、歴史に詳しくなった気になり、自分がずいぶん賢くなったような気がする。

話のつくりが面白すぎて、小説のフィクションが史実だと勘違いされる恐ろしさがあるのではないかと、著者は危惧している。

私はまんまとフィクションを史実だと勘違いして読んできたようだ。
他の作家より司馬氏が好きだったのは、フィクションではなく史実を書いているはずだという錯覚によるものだったのかと、気付かされた。


日本語は天才である
柳瀬 尚紀
新潮社

2009/6/30

2007/2/25 発行
漢字が優れたものだと言うことは前からわかっていたが、それでも本書を読んで驚くことが多かった。

「日本語にあてた漢字を字音で読む」――古い日本語であるが今も使われている日本語に「みもの」がある。和語という言い方もできるもの。これに漢字をあてると「見物」。次にこれを字音で読むと、「ケンブヅ」になる。
同じく古い日本語に「ひごと」がある。もっと古くは「ひのこと」と言った。「ひごと」に漢字をあてると「火事」。これを字音で読むと「カジ」になる。日本製の漢語だ。
〜〜ああ、そういうことだったのかと驚く。

日本語の面白さは――「おひや」を頼めば水がくる。「ひや」を頼めば酒がくる。「にぎり」と「おにぎり」は別物である。ーーというのもある。

漢字の本家中国に何百と言う和製漢語が逆輸入されて使われているのにも驚いた。

他にも、日本語の優秀さ、著者は天才と言っているが、さまざまある。いろは歌もその一つ。
日本語を再認識できて面白かった。


時が滲む朝
楊 逸
ヤン・イー
文芸春秋

2009/6/27
2008/7/10 発行

日本人ではないので、難しい言葉や言い回しが無くてよみやすい。

天安門事件の頃から北京五輪前夜までの約20年間。その間の文化大革命や天安門事件、香港返還などの中国現代史が走馬灯のように書き込まれている。
大学に合格後は学問に燃え、国を変える大志を抱く梁浩遠と謝志強。2人の中国人大学生の成長を通して中国民主化勢力の青春と挫折を描く。

「同じ大学に入ろうね。卒業したら、帰ってきて、この高校の先生になって、僕たちで、農村の子どもを国のエリートに育てよう」
「若い自分達が国を作っていくんだそのためにも勉強をしっかりしないと」
・・・・こういう姿は
かつての日本の学生運動を思い出させる。


坂の上の雲」に隠された
歴史の真実


福井 雄三

主婦の友社



2009/5/21

2007/12/20 発行

 P21「坂の上の雲」のクライマックスの一つ、旅順攻防戦。司馬氏は乃木将軍をはじめ第三軍司令部を無能呼ばわりするが、要塞攻撃を世界史的視野から鳥瞰すれば、記述とは異なるのではないかと提起する。
 P32登場人物の役割、構成面から見てほとんど司馬氏の創作でフィクションで乃木無能説は全くの誤りであると言い切る。

 乃木希典と伊地知幸介をまるで馬鹿の骨頂であるかのようにこきおろし、児玉源太郎をあたかも神の如くに賛美している。善玉と悪玉の役割をはっきり区別して描いている。

 私自身、「坂の〜」を読んで、全く司馬氏の思惑にはまって、「なぜいつまでも無能な乃木に指揮をさせたのだろう、邪魔なだけの伊地知を排除しないのだろう」と思い込んでいた。本書を読むまで、疑問も感じなかった。

 最近、ロシアから文書が公開されて日露戦争時の事実が明るみになって、作家の空想の産物だったものが、明らかになりつつあるらしい。

 著者が心配するのは、国民的作家が書いたものは創作であろうと歴史として認識されてしまう可能性があるので、事実をはっきりさせなければいけないとのことだ。
テレビで放映されるとなお一層記憶されてしまう。正しい歴史を知る事が必要なのだ。

 「司馬史観」なるものには、様々な問題が内包されている。その中の最大の物は、旅順攻防戦とノモンハン事件だという。
 


凍った地球

スノーボールアース

生命進化の物語

田近 英一

新潮社



2009/4/21

2009/1/25 発行
 全球凍結は、現在の穏やかな気候と生命進化に深く関わっている。
 かつて全地球は、数百万年にわたり凍りついていた可能性が強い。赤道付
近にも、南極のような氷床があった証拠が見つかっている。生物はどう生き延ぴたのか?零下50度以下の厳寒はいかにして温められたのか?大気の変化、温暖化プロセス、プレートテクトニクス、太陽の影響、生物進化。さまざまなファクターから、ガリレオ以来の衝撃的仮説が証明されていく。

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 火山活動による二酸化炭素の供給が現在の約10分の1以下になると、地球は全球凍結を避けられない。
 太陽からのエネルギーの増加によって温暖化が進めば南極やグリーンランドの氷床が全部融け、地球は表面に氷床が全く存在しない「無凍結状態」になる。1億年位前の姿だ。逆に寒冷化が極端に進んだら「全球凍結状態」になる。
 現在は、両者の中間の「部分凍結状態」であって、無凍結に比べれば、寒冷な状態といえるらしい。

 地球は長く平衡状態にあり、行き過ぎの無いようフィードバックが働いている。平衡が壊れたらどうなるかはわからないそうで、不安になる。

 『地球はいま、新生代後期氷河時代のまっただなかにある。氷期と間氷期が約一〇万年の周期で繰り返しており、ほんの一万年前までは寒冷な氷期だった。その後、地球は温暖な間氷期となり、人類は文明を繁栄させてきた。しかし、あと数千年から一万年くらいのうちに、またふたたび氷期が訪れることはほぼ確実であろう。』

 氷期が来ることが確実であるのなら、今、こんなに温暖化について騒いでいるのは不思議な気がする。


闇と影の百年戦争

南原幹夫




2009/3/2
昭和60/12/20 発行

 江戸時代享保期、八代将軍吉宗との繋りで豪商にのしあがった大丸屋呉服店。さらに野望はつのり、弱みをもつ薩摩藩を手玉にとろうとする。商業資本と武力の対決、隠密どうしの凄惨な戦いが、江戸、京都、大坂、長崎、鹿児島とくりひろげられた。吉川英治文学新人賞に輝やく、壮大なスケールの長篇時代小説。

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 実録 川上貞奴
−世界を翔けた炎の女−

江崎 惇

新人物往来社




2008/12/2


昭和60年3/1 発行
  〔著者略歴〕
 江崎惇(えざき・あつし)
 1915年・静岡県生れ。沼津中学(現沼津東高)を経て慶犬に学ぶ。放送局勤務の後,文筆業に入る。歴史小説を多数発表。1978,「蛇捕り宇一譚」で第5回日本作家クラブ賞受賞。
 他に「誰も書か次かった清水次郎長」「頼朝をめぐる女たち」「秀吉と五人の女」「徳川家康と女人たち」など。現住所静岡市大谷5660

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 本を読む前に、名古屋にある「二葉館」を見てきたので、貞奴と福沢桃介を中心にした話と早合点した。
 桃介との出会いもあったが、川上音二郎と出会ってからの波乱万丈の物語だった。音二郎というのは、初めはハチャメチャで、まともな人間だろうかと思うほどだったが、そこが型破りで、発想が奇抜、また思い切りがよく、非凡なのだろう。貞奴は音二郎の優れたところをいち早く見抜けたのだから、やはり並の人ではなかったようだ。

 アメリカに渡り、初めは苦労するが、音二郎のひらめきで切り抜け、成功してからヨーロッパにも渡って公演をする。ひらめいたらさっさと脚本を書いて公演をするなど音二郎は才能豊だったようだ。
 
 読んでの印象は、貞奴というよりも私には、音二郎の印象が強かった。気になるのは日本人には荒唐無稽だが、外国人の求める芸者や切腹を筋に関係なく入れたりして成功させたところだ。
 このせいだけとは思わないが、外国人が日本に対してゲイシャとハラキリのイメージが定着したのだろうか。

 日清戦争などの時代に、外国へ行こうとするのは、相当勇気がいる。貞奴はすごかった。


伜・三島由紀夫
平岡 梓
文春文庫

2008/8/26
1996/11/10 発行
 いつもと違う時刻に就寝の挨拶にやってきた伜。まさかあの味気ない会話が親子今生の別れになるとは。翌日、三島由紀夫は自ら生涯を閉じた。生き急いだ彼を、肉親はいかに見つめていたのか。毒舌家で知られた実父が、独特の諧謔を連ねつつも、愛息の誕生から「事件」まで、無念の思いを湊ませて描いた回想の記。解説・徳岡孝夫
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落日燃ゆ

城山三郎

新潮文庫



2008/7/26

昭和61/11/25 発行
 東京裁判で絞首刑を宣告された七人のA級戦犯のうち、ただ一人の文官であった元総理、外相広田弘毅。戦争防止に努めながら、その努力に水をさし続けた軍人 たちと共に処刑されるという運命に直面させられた広田。そしてそれを従容として受け入れ一切の弁解をしなかった広田の生涯を、激動の昭和史と重ねながら抑 制した筆致で克明にたどる。毎日出版文化賞・吉川英治文学賞受賞。(裏表紙より)

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 「長州の作った憲法が日本を滅ぼす」と述べて、軍部に抵抗しながら戦争責任について決して自己弁護せぬ広田の言動が城山氏の心を強く動かした。
 広田の「自ら計らぬ」生き方「物来順応」の態度は、ずる賢い二重人格ととられることもある。
 東京裁判では、天皇に責任が及ばないようにーーーーしたとされるがーーーー
 関東軍は独走し続け、3月には満州国建国宣言が行われたーーーーどうしてそこまで関東軍は勝手にできたのか?

 この作品では、広田弘毅に好意的に


篤姫

わたくしこと一命にかけ

徳川の「家」を守り抜いた女の生涯

原口 泉

グラフ社



2008/7/15

2008/1/1 発行
NHKの大河ドラマ「篤姫」の原作は宮尾登美子、脚本は田淵久美子、ドラマの時代考証を担当したのが、著者原口氏。これまでにも「翔ぶが如く」や「琉球の嵐」も担当されてきたのだとか。
 
 今まで認識の薄かった篤姫について知りたいという単純な動機で求めた一冊だったが、歴史的背景、他の人物像の説明など、よくわかった。

 篤姫の嫁いだ家定がどういう人だったのかがずいぶん気にかかっていた。軽い脳性まひで、言語も不明りょうで人前に出るのを極端に嫌ったが,知的障害は無かっただろうという。カステラや炒り豆、ふかし芋を作るのが趣味だったとある。篤姫は使命を持って嫁いだので、たとえ家定が暗愚だったとしても、だからかわいそうだったということではないのだろう。

 勝海舟と親しくし、江戸が東京になってからあちらこちら案内してもらったとか、篤姫は裁縫が得意だったとか、ペリーが日本にやってきたとき、御台所へのプレゼントとしてミシンを贈っているのは、裁縫好きを知っていたのだろうか、とか今まで考えたこともない事柄が書かれていて、興味深かった。
原口泉(はらぐちいずみ)
東京大学文学部国史学科、同大大学院修士課程修了(文学修士)。同博士課程2年を終えて(単位取得)、1979年、鹿児島大学法文学部に赴任、1998年より教授。琉球大学非常勤講師、放送大学客員教授を歴任。2005年、鹿児島大学生涯学習教育研究センター・センター長に就任。専門は日本近世・近代史。とくに、沖縄・北海道・韓国・中国等、東アジア諸地域とのつながりの中で、南九州と薩摩藩の歴史研究に取り組む。日本各地から東南アジア、ヨーロッバで講演。NHK大河ドラマ「翔ぶが如く」(1990年)、「琉球の風」(1993年)、「篤姫」(2008年)の時代考証を担当。


地球システムの崩壊


松井 孝典


新潮選書





2008/6/3


2007/8/25 発行

宇宙的スケールで論じる、地球と人類の過去・現在・未来。
月面着陸という快挙、宇宙の辺境への探査…・・人類はかつてない高度な文明を築き上げた。しかし皮肉にも、物質的な豊かさは地球温暖化や人口爆発など、人類の存続を脅かす問題をもたらした。我々は生き延びるために何をすべきか。深刻な課題の本質を地球システムのなかで捉え、宇宙史、地球史、生命史とともに解明する、知的刺激に満ちた文明論。(裏表紙)
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 第一部では、「二一世紀の宇宙と文明を探る」ということで、宇宙、太陽系、地球、そして我々の文明について、最近の話題を中心に紹介されている。さすがに読んでいてよくわかる説明だ。なぜ人類は宇宙にまでその関心を拡大するのか?現生人類の特徴は、その時空を拡大し・そのなかで今、あるいは自らについて、その存在理由を問うことにある、と。
 第二部では、時空を拡大するとは、普遍を探るということである。考える対象について普遍か否か考えてみる。我々は、時空を拡大し、それを脳に投影して大脳皮質のなかに内部モデルをつくり、普遍とは何かを追求するとは、何とも不思議な知的生命体である。

 人類の二酸化炭素放出によって地球が金星化することはない。地球はシステムとして地球温暖化に応答し、その地表湿度を下げるからである
 人類がいくら二酸化炭素を放出しようと、現在の地球システムが機能する限り、地球は金星化しない。
 二酸化炭素による温暖化ではなく、人類がたとえば大規模に太陽光発電を行うなどして、結果として今以上に太陽光を地表に流入させるか、あるいは核融合を実現し、第二の太陽を地表にもつかした時、真に温暖化する。
 世の中は、二酸化炭素のことばかり言っているが、専門家の中では否定論のほうが常識のように見受けられる。


生物と無生物の間
福岡伸一
講談社現代新書

2008/4/11
2007/5/20発行


買い被られた名作
岡田 量一
彩流社


未読
2007/5/25 発行


男も知っておきたい
骨盤の話

寺門 琢己

幻冬舎新書



2008/1/11

2006/11/30 発行
健康な骨盤が周期的に開閉を繰り返しているのを知っていますか?血行の悪化、循環器不全、肥満、睡眠障害、免疫力の低下……一見ばらばらな体の不調は、すべて骨盤の開閉不全から始まっている。「体が歪む」とはどういうことか?歪むとなぜ内臓に悪影響を及ぼすのか?20年以上、整体治療院で、のべ数十万人以上の体と向き合ってきた著者が、骨盤と、上半身の骨盤ともいえる肩甲骨、この「2つの骨盤」を通して、体の不思議を徹底的に読み解いた!(カバー)


アウターマッスルを鍛えるだけではなく、インナーマッスルを鍛える必要がある。
例えば、プロ野球の清原選手が努力して身につけた筋肉のヨロイはアウターマッスルの典型、インナーマッスルが充分鍛えられていないとバランスが悪く故障の原因になる。
インナーがよく発達していれば、ロナウジーニョや中村俊輔選手のように体が細く見えていても、すばやく強く動くことが出来る・・・・という部分は興味深かった。
骨盤の話だけでなく、健康一般について、目からうろこの一冊。



東京タワー

ボクとオカンと、時々オトン




リリー・フランキー



扶桑社





2007/8/8

2005/6/30 発行
この話は、かつて、それを目指すために上京し、弾き飛ばされ故郷に戻っていったボクの父親と、同じようにやって来て、帰る場所を失してしまったボクと、そして、一度もそんな幻想を抱いたこともなかったのに東京に連れて来られて、戻ることも、帰ることもできず、東京タワーの麓で眠りについた、ボクの母親のちいさな話です。

 本屋大賞を受賞。読み終わってみて、本屋さんたちが薦めたいと思ったのがわかる気がした。
 
 普通の言葉で語っている。気取った言葉や懲りすぎた言葉ではない。淡々と語るから伝わってくる物がある。感情を抑制し、乾いた表現にするには事実をありのままに書くだけではできなかった工夫や苦労があったと察しられる。

 母親というのは子どもの為ならこのくらいは当たり前だと思うので、そんなに驚かない。むしろ、時々やってきて関わるオトンの存在が大きいと思う。自分ならこんな夫はいやだが、読むと味わいを感じるなあ、他人だからの無責任だとおもうけど、父親との関係が良く書けていると思う。
 節目にはやってきてオトンの役目を、かなり自分勝手だがやってくれる。気持ちが伝わってくる。子どもとして、本当のところは、恨みもつらみもあったんじゃないだろうか。距離をおいて乾いた感じで書いてなかったら、これほどしんみりとは感じられなかったかもしれない。
 
 後半は、病気をしたオカンを東京に呼んで、十五年ぶりに一緒に暮らす様子がほほえましい。一緒に暮らしている様子も、胃がんでなくなった後、オトンと後始末をしながら話すのも、著者のオカンへの思いが伝わってきて涙が浮かぶ。
 
 誰しも、自分の親を思い浮かべてしまうからか、まだ生きている親のことも、いつかくる別れを連想して泣けてしまう。
 泣かそうとして話を作っているのではない。ただ、逝ってしまった母を思う著者の気持ちが、読むものを感動させる。
 
 『親子』って『家族』ってなんだろうと考えたり、息子は母親のことをこんな風に考えてくれるのかなァ、と考えながら読んだ。


美しい国へ

安倍 晋三

文芸春秋




2007/6/29

2005/7/20 発行
最後に「十代、二十代の頃、どんなことを考えていたか、この国に対してどんな感情を抱いていたか、政治家としてどう行動すべきかなどを綴ったもので、若い人に読んで欲しい」と書いてある。
 だから、近代日本についての歴史や自民党の歴史を、わかりやすい言葉でまとめたのだろう。
 よくまとまっているが、表面的な印象で、だからどうなの?と言いたくなる。

 ゴーストライターはいるのだろうか。ナショナリズムについて考え方を述べる具体例として映画「ミリオンダラーベイビー」について、あらすじからテーマまで、要領よくまとまっており、他の何所で読んだのよりも映画についてよく分かった。

 政治家が書いた本として考えると、毒にも薬にもならない、今までのおさらいをまとめましたというに過ぎないと思う。

  はじめにーー「闘う政治家」「闘わない政治家」
  第一章  わたしの原点
  第二章  自立する国家
  第三章  ナショナリズムとは何か
  第四章  日米同盟の構図
  第五章  日本とアジアそして中国
  第六章  少子国家の未来
  第七章  教育の再生



建てて、いい?

中島 たい子

講談社



2007/6/27

2007/4/9 発行
1969年東京生まれ。多摩美術大学卒業。放送作家を経て脚本家に。2004年「漢方小説」ですばる文学賞を受賞。著書に「そろそろくる」(集英社)がある。
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 アパートの階段から落ちて、結婚でもしようかと思い、男探しをしたが、疲れる。本当に欲しかったのは落ち着ける居場所だったと悟り「家、欲しいな」と思う。
 三十半ばになって、捜している居場所は、他人に依存することでも、仕事で成功することでもなく空間に守られた個の場所、集合住宅でなく一軒家と考える。
 家を建てたいというと「誰と?」「妊娠してるの?」という周りの反応に、独身女が家を建ててはいけないの?と反論したくなるのも解る。
 「家なんか建てたらお前が満足しちゃって、もっとその気がなくなる」という父親の反応も鋭い。ハウジングセンターに行けば「奥様」と思われ、女が家を建てることはまだ常識ではないのだ。
 
 心の動きを気負いの無い素直な言葉で綴っていて、作者と一緒に、家を持つ準備をしていける。自分ならどんな家を建てようか・・・・・と。

 昔、三十歳過ぎても独身だったら、親と住む家を建てよう、と考えたことがあった。ヒロインは一軒家に独りで住むつもりだから私とは少し違うが、女性だって家を建ててもいいんじゃない?


大地の咆哮
元上海総領事が見た中国


杉本 信行


PHP



2007/3/19

2006/7/7 発行
 外務省には、「チャイナスクール」と呼ばれる人々がいる。中国の専門家となるべく育てられ、中国で研修し、勤務し、日中関係に従事する。
 杉本氏は、行動する外交官として、民間人と共に苦労してきた。

 氏はまえがきで「文化大革命末期の体験を含む長年の中国勤務を通じ、正直「中国に生まれなくてよかった」と思うこともあった。と書いている。中国では一般人、ましてや農民からある程度の地位に這い上がることは至難の業であり、一定の地位についても「密告者会」「監視社会」の中で生き延びるためには、上司、同僚、友人、知人から「刺されない」ことが必要で、時には友のみならず、親兄弟までも密告しなければ生きていけない時代があって、今もまだ残っている、と。

 きびしい中国社会に入っていって商売をするには日本人はお人好し過ぎるかもしれないと思う。
 「金を貸すバカ、返すバカ」といわれる中国人を相手に、どう対処できるのか。

 氏の北京研修時代、中国課勤務時代、台湾勤務時代、中国大使館勤務時代、上海総領事時代と、それぞれの時の中国について語り、奮闘したできごとが綴られている。
 円借款に対する中国指導者の認識のズレや、年々変化する「チャイナリスク」、オドロキの賄賂のローカルルール、反日運動の背景など。

 付録では、日中を隔てる誤解と対処法や過去をめぐる摩擦のポイントを7つにまとめてあり、頭の整理ができて私にもわかる。



がばいばあちゃん
佐賀から広島へ
島田 洋七
集英社

2007/3/8
 初めて読んだのが何作目かにあたるこれでなかったら、もっと感動したのかもしれない。
 既に、テレビで本人がエピソードについて語るのを聞いたあとだったり、高校生になる洋七さんの生活の記述はそれほど驚きも感動も感じなかった。

 すごいおばあちゃんかもしれないが、昔は皆、あまり豊かでもなかったし、自分の身近にこれに近い話はあったので、人が感動するほどには私には感動がなかった。

 洋七さんの話術のうまさで本が売れたのだろうと思う。14年も前に出版された本が、今頃になって洋七さんの努力で売れた感じがあるかなあ、と思う。



悪夢のサイクル
ネオリベラリズム循環


内橋 克人


文芸春秋




2007/2/22
 1960年代のアメリカの傍流の経済学者の頭の中で生まれたという「市場原理主義」レーガンやサッチャー小泉首相などが取り入れた経済政策。
 70年代の後半から、アメリカや南米の国々で実験が始まった。
 80年代の後半からは日本にもやってきた。「内需拡大」「内外価格差是正」「規制緩和」「努力が報われる社会」「「構造改革」・・・・・・いろいろにいわれながらやってきた。

 アメリカで貧富の差が広がったように、日本でも規制緩和から終身雇用も壊れ、ほんの一握りの非常で貪欲な人間がとてつもなく大金持になり、大多数の労働者は中流から下流へと落ちていく。その結果が今の格差社会であると。

 「格差」とはどこから来たのか、から説き起こし、規制緩和が何をもたらし、なぜ受け容れたのかを検証していく。

 「日本型資本主義だから不況になった」という規制元凶論が広まり「だから規制を取り払って新しい生活者主体の社会をつくろう」と、普通の人を保護する「規制」が経済の流れを阻害しているかの如く、不況の原因をすりかえた。
 バブルの発生から崩壊、そして規制緩和というサイクルはすでに南米で実験の行われたことであり、循環する物であり、日本もネオリベラリズム・サイクルがちょうど一巡しようとしているのだそうだ。
 グローバルスタンダードではない、アメリカスタンダードを押し付けられ、庶民の暮らしが苦しくなった流れが私にでも、よくわかるように書いてある。



ウルトラ・ダラー

手嶋 龍一

新潮社



2007/2/16

2006/3/1 発行
 著者は米同時多発テロの報道で知られるNHK前ワシントン市局長。
きわめて精巧な偽百ドル札(ウルトラ・ダラー)をめぐる国際謀略小説。著者初めての小説だが、どこまでが真実でどこからがフィクションなのか。

 BBCの東京特派員を隠れ蓑に、英国秘密情報部員のスティーブンが日本の女性官房副長官・高遠希恵や米国シークレットサービスコリンズらと情報のやりとりをしながら、偽百ドル札を追いかける。印刷技術を持った日本の若者の拉致、大韓航空機事件、同時多発テロ、現職総理初の訪朝など、実際の事件やフィクションを織り交ぜ、まるでドキュメンタリーのように事件の背後を描いていくので、自分の無知を自覚しつつ読み進んだ。
 当時の事件や出来事を思い出し、この人物はどの人がモデルだろうと詮索したくなるが、そう単純に書いているはずもない、日米ともに頭の切れる女性上司を配した設定なのは今時だからか、実際にも存在したのか気になるところ。
 北朝鮮が偽札を作って資金を作り買おうとしているのは、ウクライナの巡行ミサイル。スティーブンは取引の現場を押さえようとパリへ飛び・・・・・。

 日本独自の文化に精通しているのか、素材や背景に和的なものが多い。主人公が英国人の設定だから敢えて和的にしたのか?

 結末が「ええ、これなに?」だった。それまでが面白かったのに残念。




DZ
ディーズィー



小笠原 慧



角川書店





2006/10/22
 ヴェトナムの難民船に妊婦がいる。ペンシルベニアでは、ソリンジャー夫妻が殺され冷蔵庫の中で見つかる。5歳のデイビッドは行方不明。

 グエンはヴェトナム系アメリカ人。JHF研究所の研究員。その元へ留学して遺伝子操作の共同研究をしている石場直洋。その恋人で医者を目指している志度涼子は、研修で重度心身障害児施設「「近江 愛育園」へ。

 ソリンジャー夫妻殺害事件の担当だったスネル警部は10年後、退職してから独自に調査を始めると、デイビッドの資料が故意に消されたことを知る。診察した医師、ソーシャルワーカーなど、周りの人が変死をしている。

 グエンは、14歳で身元不明で保護され、高校、大学と優秀な成績で過ごし、医者になった。

 神経内科の水田は遺伝レベルの進化の研究をしていて、沙耶のデータが染色体検査の結果、ロバートソン型転座であることを論文で発表した。それを見たグエンは涼子の働く「愛育園」へやってきた。デイビッドを追いかけているスネルも日本へ、愛育園へとやってくる。
 やっと、ここからそれまでのバラバラだった事件が繋がっていく。

 孤児が拾われた後、優秀だからといってここまで重要なポストにつけるのかと疑問だったり、亡き恋人に対しても操を守った涼子が簡単にグエンと結ばれたのが不思議だったり、グエンが不妊治療の産婦人科医のヤンを意のままにあやつったり、いくらグエンのIQが高くても無理を感じた。ロバートソン転座の場合、同じ条件を持ったもの同士でないと子孫が作れない、つまりヒトから新しいとして生まれたホモ・スペリエンスである?
 横溝賞を受賞しているが、あまりこなれていない様な、全体になじめない物語だった。精神科医ならではの施設の描写はさすがだったが。
 DZは二卵生双生児のこと。



ヘルメットを
かぶった君に
会いたい




鴻上 尚史


集英社



2006/10/12

 1969年の学生運動の初期の映像、早稲田のキャンパス、入学式らしき風景、大隈講堂に入っていく学生にビラを配っているヘルメットをかぶった学生の中で、アップになった聡明そうな一人の女性のはじける笑顔を、30年前を写したテレビで見かけた僕、鴻上は猛烈に彼女に会いたいと思った。
 鴻上は早稲田に入学して演劇研究会に入って以来、今も劇作家として活躍している。あらゆるつてを頼り、彼女の行方を捜し始める。
 学生運動といえば、タオル覆面のイメージがあるが、彼女は顔をさらしアップで笑っていた。
 
 ヘルメットの君を探す旅は、浅間山荘事件、成田の三里塚闘争、ベトナム、沖縄、安保、そして諫早湾の運動にも触れていく。

もっとも激しく戦った人達は、黙して語らず僕が今まで会ってきた人問で、学生運動を熱く語った団塊の世代の人たちは、みんな、部外者だった。一度だけデモに行ったことがあるとか、クラス討論をしただけとか、学生運動の周辺にいた人たちだ。周辺だからこそ、彼ら彼女らは、熱く語った。本当に中心にいて傷ついた人たちの話を聞いたことはなかった」
 鴻上氏は、「僕達の世代は、『遅れてきた世代とか『シラケ世代とか言われた。高校や大学から、学生運動がほとんどなくなった世代だ。だからこそ、僕は、猛烈に憧れた。」と語る。学生運動に間に合わなかった世代だ。
 そして、「子供の頃、買ってもらえなかった、手に入らなかったことがトラウマになって、大人になって熱心に買いまくる『大人買い』のようだと僕の『学生運動』へのこだわりについて自分で思い当たったのです。」と分析する。

 演出家の蜷川氏が出てきたり、体験実話のように話が進むが、これは学生運動への憧れと青春の代償を見つめた劇作家初の小説だ。
 私は、学生運動滑り込みセーフ世代ではあるがノンポリだった。その場にいたのに何もしなかったことが関心を寄せる原因かも。


両さんと歩く下町

『こち亀』の扉絵で綴る
東京情景

秋本 治

集英社新書



2006/10/2


中央区佃。同じアングルから見た
景色の比較(2000年、1991年)

作者自薦のペン画集にして極私的下町ガイド、そしてメイキング・オブ『こち亀』の三つの顔を持った画期的新書。
山田洋次監督との初対談「葛飾に愛をこめて」
を特別収録。
『こち亀』の愛称で親しまれる、週刊少年ジャンプの人気連載『こちら葛飾区亀有公園前派出所』の扉を飾った、普段着の下町風景。葛飾区亀有で生まれ育ち、昭和30年代からの下町の変遷を見続けてきた作者が、『こち亀』の舞台となった街を再訪し、その地への思いととっておきの話を綴っていく。

両さんの思い出話などの巻では大いに昔の町の様子が描かれていたが、扉絵にはまた格別に作者の思い入れがあり、しかも30年毎週休みなしにこれだけの絵を残してすごいと思う。新書版では絵が小さくてもったいない気がする。
また、新旧の街についての説明を読めば、現地を見てみたくなるだろう。



ウェブ進化論


梅田 望夫

ちくま書房



2006/9/12

 インターネツトが登場して一〇年。いま、IT関連コスト・の劇的な低下=「チープ革命」と技術革新により、ネツト社会が地殻変動を起こし、リアル世界との関係にも大きな変化が生じている。ネット参加者の急増とグーグルが牽引する検索技術の進化は、旧来の権威をつきくずし、「知」の世界の秩序を再編成しつつある。そして、ネット上にたまった富の再分配による全く新しい経済圏も生まれてきている。このウェブ時代をどう生きるか。ブログ、ロングテール、Web2.0などの新現象を読み解きながら、大変化の本質をとらえ、変化に創造的・積極的に対処する知恵を説く、待望の書。(カバー)

 いつの間にか当たり前に使っているグーグルだが、創業は1998年、米国のベンチャーのなかでもわずか7年で年間売り上げが5000億円を超えた企業の前例はない革命的企業、脅威を感じたビル・ゲイツも叩き潰すことができなかったという。
 ヤフーはメディア、グーグルはテクノロジー、マイクロソフトはこちら、グーグルはあちらで世界を構築する、グーグルがこれまでの企業といかに違い、すごいかがわかった気がする。

 あとがきでは、ネット世界を丸ごと身体で理解している若い世代を理解できないかもしれないが「息子や娘に対し『おまえたちのやっていることはどうもわからん』という気持ちを抱くお父さん方や、『ネット・ベンチャーなんかで働くのでなく、○○電気とか○○自動車とかに就職してくれればよかったのに…』と心配するお母さん方にとって、この本が何かの役に立てばなあとも思っている。」という言葉には自分も子どもに同じことを言いそうでギクッとしてしまった。



教科書には絶対書かれない
古代史の真相


松原 楊江
仲原 和人


たま出版





2006/9/6
 このての本をくだらないとか信じられないとか、まともに取り上げない人もいると思うが、私は昔から好んで読んできた。だけど、そんな私でも驚いてしまうような歴史が綴られていた。(著者は『日本書紀』を中心に、日本の古代史についての捏造、でっちあげ、隠蔽、ごまかしを論じてみたい、といっている)

 * かつてチャーチワードがいった「ムー大陸」とは「スンダ大陸」(旧インドネシア)のことで、ここが海没したのが「大洪水伝説」になった。
 * 聖徳太子は百済の威徳王昌で、日本には来ていない。
 * 道鏡系天皇家が『記紀』改竄に力を入れた。
 * 稲を持ったシュメール人と苗(ミャオ)族が有明海の鳥栖に上陸したのは、約3500年前。
 * 秦の始皇帝も、碧眼のユダヤ人だった。(バクトリア国の知事ディオドトスT世が、秦の始皇帝となる。)
 * 神武の九州王朝建国と、皇統譜の改竄   etc・・・・

 フッリ人、ネグリト人、ドラヴィダ人、ヒッタイト人、ヒクソス人、チュクル人、チュルク人、エブス人、ワジャック人、オロッコ人、港川人、エジプト人、シュメール人、ユダヤ人、ゲルマン人など、頭が混乱するほどたくさんの民族や種族が移動し、征服し、混血して新種族が生まれる。

 あとがきでは「すべての汎太平洋文化は、今から約1万2000年前、スンダ大陸の「エデンの園」などに存在した「先史文明」の再建を願って(方舟で)メコン河流域に達し、何千年もかけてタイ北東部の「バンチェン文明」をつくり上げ、それを「世界五大文明」の幕開けとして各民族に伝えたシュメール人(王族は蛇(ナーガ)族)らの偉大な文明復活の足跡であったことがわかる。」とまとめている。
 本書が真相、と俄かには信じがたいが・・・・・。



なぜ偉人たちは
教科書から
消えたのか


河合 敦

光文社



2006/9/5
 最近は、日本史の教科書から偉人たちの肖像画が消えつつあるらしい。たんに偉人の顔を掲載するより、図版や地図、当時の社会や世相がわかる絵画資料の方が歴史的思考力が培われると判断されたというのが一つ。もう一つは、教科書に掲載されている肖像画の中には、研究が進んで本人のものではないと考えられるものが出てきたということらしい。

 有名な源頼朝も今では「・源頼朝像」と紹介されている。実は頼朝ではなく他の人物の像だったらしいのだ。
 聖徳太子像もあやしいのだという。子どもの歴史資料を調べてみたら、聖徳太子はまだ太子像として紹介されていたが頼朝像は「伝」の付く紹介になっていた。なるほど。

 他には、、後白河上皇、足利尊氏、武田信玄、西郷隆盛らが、本人じゃない、人違いされたままの「肖像画」として解説されている。
 いまさら、違うと言われても記憶を書き換えるのは難しいし、なじみにくいなあ。若い人たちとの認識の違いが出そうだ。クイズも世代によって答えが変わるなどと下世話な心配をしてしまった。

 2章 イメージ崩壊!?テレビでおなじみ主人公の「仰天素顔」
 3章 伝説の「肖像画」人物の「謎」を解く
 4章 評価ががらりと変わった「肖像画」人物



日の名残り

カズオ・イシグロ


土屋 政雄 訳



中央公論社







2006/9/1

 古きよき時代の遺物であり象徴でもある「執事」を主人公にすえ、まだ世界に冠たる存在だったイギリスと、イギリス貴族と、その豪壮な邸宅を語らせ、イギリスの偉大な国土を語らせている。

貴族に長く仕えていた執事スティーブンスは、屋敷がアメリカ人の手に渡ったときそのまま執事として雇われた。主人が留守をするので、その間、旅行に行くことを許され、かつて女中頭で最近手紙をくれた女性に会いに出かける。

旅をしながら模範的執事らしい上品な言葉遣いで旅の途中のイギリスの人々とのふれあいを語り、その合間で回想するのは、父子共に誇り高い執事として人生を歩んだこと、主人のダーリントン卿は政策に誤りがあって失脚しようと尊敬できる人だったこと、執事はたとえ主人が間違っていると思っても分をわきまえ、主人に従うこと、女中頭と仕事上の対立もすれば、夜ココアをごちそうになったこと、彼女は結婚してやめていったことなど。
 
 全体にとても静かで上品な雰囲気だが、どうも言い訳がましさを感じてしまう。過去の仕事ぶりや、元主人ダーリントン卿が滅私奉公する値打ちのある人であったとか、女中頭「ミス・ケントン」との仕事上のおつきあいなどについての回想をしながら、今になれば間違いだったかもしれないが、後悔をしてはいけないと思い込もうとしているようで。
 20年経って、ミス・ケントンの手紙で不幸の様子を感じ取り、会いに出かける。屋敷の人手不足を補うため女中頭になってもらおうと理由をこじつけ出かけていくが、本心は恋心があったのだろう。抑えていた気持ちに素直になろうとしたのか、やっと自分の心に気づいたのか、朴念仁ではなかったのか。

 夕陽を見ながら「人生が思いどおりにいかなかったからと言って、後ろばかり向き、自分を責めてみても、詮無いこと。・・・・あのときああすれば人生の方向が変わっていたかもしれない・・・・・・意味のないことです・・・・・私どものような人間は、何か真に価値あるもののために微力を尽くそうと願い、それを試みるだけで十分・・・・・・・そのような試みに人生の多くを犠牲にする覚悟があり、実践したとすれば、結果はどうであれ・・・・・・みずからに誇りと満足を覚えて・・・・・・」
 人生のたそがれ時で、今までの人生の間違いに気付いたら・・せつない。



わたしを離さないで

カズオ・イシグロ

土屋 政雄 訳

早川書房



2006/8/2
 不思議な世界だ。読み始めてすぐ気になる言葉に出合う。「介護人」「提供者」? 主人公はキャシー・H、31歳、介護人。
 謎の多い「ヘールシャム」という施設で子供達が育てられている。読むにつれ子供達の将来に待っているものが何となく察しられる。でも、まさか、ほんとうに?そんなむごいことが・・・・?わかっているようではっきりしない不可解な事情。

 解説にあるように「細部まで抑制が効いた」「入念に構成された」静かで端正な語り口で、奇怪な世界が語られていく。あわてず、急がず、じわじわと物語の切迫感を募らせていく。
 今はまだこの世にはないが、いつかこんな世界が始まるとしたら怖い。。 臓器を提供する為にクローンとしてこの世に生を受け、世間とは隔絶した特別な環境で臓器提供の必要があるまで生きていく。臓器を提供した後は施設で介護人の世話を受け、回復し、何度か提供して使命を終える。

 キャシー、トミー、ルースの三人を中心に、幼少から思春期までの若者達の成長と心のふれあいを描いている。その部分ではふつうの若者達だ。心もあり悩みもする普通の人間なのに・・・・クローンは人間ではないとでもいうのだろうか。
 主人公達は静かに運命を受け容れている。こんな運命が受け容れられるだろうか。たとえそのために作られた命だとしても。
 
 臓器提供を扱った小説はいくつもあるが、このような描き方は他にはなかった。提供する命より提供される命の方が価値があるのだろうか。



日本は二十一世紀の勝者たりえるか

―こうすればこの国はよくなる―

日下 公人
渡部 昇一
竹村 健一


太陽企画出版



2006/6/25


「国家の正体」日下公人

 面白そうな顔ぶれの鼎談である。
 一般マスコミとはまったく異なる視点で、日本が現在抱えているさまざまな問題点と、明治以降の歩みを振り返ったもの。
 二十世紀の勝者は日本であった、というところから始まり、世界を揺るがした日本の二十世紀だったという具体的な例をあげつつ、現在の日本が瀕死の状態であると国民国家を憂う。

 「無敵の戦闘機」ゼロ戦の栄光と挫折、「ノモンハン」の教育を生かせない日本など、何が「敗戦」と「大不況」をもたらしたかを検証し、日本復活の条件とは何かを考える。

 戦前の日本は軍国主義が支配し、アジアを侵略した暗黒の時代であり、日本は世界に対し酷いことばかりしてきたと今の子どもたちが教えられているとしたら、子どもたちは自分の国に誇りがもてず、二十一世紀の日本がどうなるか心配になってくる。
 
 植民地のナショナリズムに火をつけた目露戦争
竹村  二十世紀初頭の日露戦争で、極東の島国日本がロシアに勝利し、また、英米を敵に回して日本が立ち上がったことは、帝国主義の搾取に苦しんでいた多くの有色人種の人たちに勇気を与えました。だから、そういう点では、日本は本当に良いことをしたんです。ところが、そういうことが日本の小学校・中学校の歴史教科書には書かれていないんです。その結果、日本人は自信を失っているのであって、だから日本の歴史を肯定的に捉える部分が教科書にはあってもいいと思うんですよ。そうすれば、日本人が自信を取り戻すことができそうな気がします。

 戦争に関して、知らないことが多すぎる。知らないままにしていてはいけないのだと思う。



あなたの脳には
クセがある


『都市主義』の限界



養老 孟司

中公文庫



2006/5/24
 この本は「バカの壁」とちがって、養老先生自身で書かれたもののようだ。文章の最後に「・・・・理由はいうまでもない。」自分で考えなさい、という終り方の箇所もある。もちろん、そこへ至るまでの論理は説明されているのだが。

 脳にはクセがある、頻繁に繰り返し脳に入ってくると、それを現実のことと受け止めてしまうんだとか。
 数学者にとっては数字の世界が実存する、企業人、経営者にとっては金が実在する物になる。立場によって実在する物も違ってくる。
 脳は個人のモノサシであり、モノサシが違う相手と話が噛み合わないのもやむをえない。が、分かり合えることはできるはずで、わかろうとしなければいけないという。
 「わかる」というのは、外から入ってきた情報なりを自分の頭、脳で考え、租借、整理して理解することだ、と。

 面白い内容の文章があったのでそのまま書き抜くと
 かつて男の子は男らしく、女の子は女らしくと育てた。子どもを放っておいたら、そうはならないからこそ、わざわざしつけ、教育する。
 もともと女の子は、放っておけば「元気で活発でよいお嬢さん」になってしまう。だから女らしく、おしとやかにと、しつけ、教育する。男の子を放置すれば「大人しくて、よく他人のいうことを聞く、よいお坊ちゃん」になる。だから男らしく勇敢に、元気であれとしつけ、かつ教育する。それが本来のしつけであり、教育であろう。
 長いあいだ、男らしく、女らしくと教育したのは、それが作られるもの、すなわち文化だったからである。それを生まれた性質そのままで伸ばそうとする。それにはわれわれの社会がよい実験台だったわけである。そのまま「自然に」育てた結果が、女がやたらに元気で、男がいっこうに元気がない社会になった。

 都市主義、歴史認識、子ども問題、思想や医療、「朗読者」についての感想まで、なるほどと思いながら読み進んだ。




孫が読む漱石


夏目 房之介


実業之日本社




2006/4/23
 文豪の家に生まれるというのは、荷が重いものなのだろう。反発もしたのだろう。それでもやはりしっかりと向き合わざるを得ない人として、漱石の作品について語っている。
 身内にしかわからない漱石の息子、つまり房之介さんの父上の高等遊民ぶり、母上の苦労ぶり、悪妻といわれた鏡子夫人の大きさも語られる。
 
 『坊っちゃん』は、わかりやすい、もしそれが「わかりにくく」なっているとすれば、読者の読解力が落ちているというより、文体、修辞のスタイルが、時代、媒体により、移り変わっているからだ。これは『坊っちゃん』を難なく読める年配世代に現代マンガを読ませても、頭痛がするほど難解である事と同じ、とマンガ評論家らしく解説されて面白い。
 

 「何か」、がおきそうでおきない『三四郎』、おきてしまう『それから』に続き、おきてしまった過去のおかげで何もおきてほしくない夫婦の何もおきそうもない小説。それが『門』なのだ。これもなるほどと思った。
 『明暗』の会話は長い。誰でも日常やっているのと同じように長く、いつも俺やってることじゃん、という感覚。それを「面白い」と感じれば、読む価値はあるだろう。一方で、今さら自分がいつもやってることを、わざわざ深刻で言葉遣いのむずかしい昔の小説で読んでもなあ、という率直な感想もありうる、と述べている。
 こんな感じで漱石の作品について、他の人とは一味違う感想を読んで楽しませてもらえた。



おじさんはなぜ
時代小説が好きか



関川 夏央


岩波書店








2006/3/14
 おじさんでなくたって時代小説は好きなんだけど。
少しは時代小説を読んできたつもりだが、本書を読むと今までは読みが浅かったかもしれないと気付いた。同じ江戸時代でも初めころと中ごろでは社会背景が違うはずなのにまとめて『江戸時代』と考えていなかったか・・・。
 
 過去を裁くのは、歴史の結果を知っている限り、かなりやさしい。いかに裁判官にならずに歴史をえがけるかが問題で、その実践のひとつが司馬遼太郎の『坂の上の雲』であり、すぐれた大衆小説はつねにそういうことをめざしている。多作しても質の落ちない作家、また長編作家にして短編もうまい人と、司馬への評価はとても高い。

 吉川英治の「武蔵」の章では、野武士は人を殺しても収穫物を盗もうとする集団だから、農民たちは逃げ出す。それを武蔵が止める。彼らを武蔵が指導して集団で野武士を撃退する。実力自衛ということを村人に教えた武蔵と伊織は、感謝されながら村を去る。『七人の侍』のシナリオライターたちは、根本的なアイディアを『宮本武蔵』のこの部分から引っ張ってきた。それを大きく膨らませて世界的な作品にした。逆に、黒澤明の『用心棒』の構造は、ダシール・ハメットの『血の収穫』を踏襲している。すぐれた物語は相互的な刺激のなかから生まれてくる。というようなミーハー的な話も知る事が出来て嬉しい。

 山田風太郎の作品群のおもしろさは、日本文学の歴史や日本文学に刺激を与えた外国文学をとりこみ、パロディとかパスティーシュとかいった方法で、日本文学の幅を押し広げたところにある。風太郎の『八犬伝』についての説明を読んでいるうちに読みたい気持ちが湧いてきた。
 
 山本周五郎、吉川英治、司馬遼太郎、藤沢周平、山田風太郎、長谷川伸、森鴎外などの作品と人物を取り上げ、若い人が時代小説に親しめるように解説をしているのだが、マンガのバガボンドや映画にまで解説がおよんで、おじさんにもおばさんにも参考になると思う。



偏愛文学館


倉橋 由美子


講談社









2006/3/8
 若き日、難解で理解できなかったにもかかわらず何作も読んだ作家が、書き綴った読書案内。かつて読んだ本の難解さの理由が少し見えてくるような現代の本への辛らつな言葉も挟みながら、倉橋氏の『偏愛』している作品の数々が紹介される。怪談、怖い話、妖しい話を集めた物も愛好してやまないと、「聊斎志異」「雨月物語」についても紹介している。

 少し以外だったのは時代物で、岡本綺堂「半七捕物帳」は、どこからでも読めるし、何年か経てば再読できる。ホームズものを何度でも読めるか疑問だが、半七は読むたびに滋味が増し、謎解きの興味だけで読ませる推理小説と違って小説としての質が格段に高い、と魅力を語る。
 「山月記・李陵」の中島敦については、今では誰も真似のできなくなった見事な文章で小説を書いている、「無人島に1冊だけ持っていくとしたら?」候補五冊の中の有力な一冊にあげられる、と絶賛している。高校の教科書にも載り、娘からも是非読むようにと薦められていた一冊だ。北杜夫「楡家の人々」も無人島へ持参の候補だそうだ。
 
 今の若者たちのしゃべり方でしゃべり、メールの文章と同じ調子で文章を書くような人物が登場するような小説は読みたくもない、ふと目にしたその一文に酔いしれることのできる、ジュリアン・グラック 「アルゴールの城にて」を読みたい、と。
 有名人や話題の人をとりあげて、その人の生い立ち、学校時代の成績から交友・交情関係まで調べ上げ、数百ぺージの本を書き上げる最近の労作といわれるものを、文章を書く才能もない人が誰でも、ゴミ集めの努力だけで本が書ける世の中になったといい、それより一筆で描いた名人芸を楽しみたい、と厳しい。
 漱石、鴎外、三島、カフカ、オースティン、ハイスミス、太宰、百閨A澁澤、川端、カミユなど倉橋氏らしい選択と解説が楽しめる。
 昔、倉橋氏は「インプットするだけでアウトプットをしないなら、そんな読書はしないほうがましだ」と書いた。それでも私は読書する。
若き日に読んだアレコレ 「暗い旅」「悪い夏」「婚約」「聖少女」「ヴァージニア」「夢の浮橋」「わたしのなかのかれへ」「パルタイ」「妖女のように」



上がれ!空き缶衛星


川島 レイ



新潮社




2006/3/3
 1998年、ハワイで開かれた「大学宇宙システム・シンポジウム」で、米国スタンフォード大学工学部宇宙工学科のロバート・トィッグス教授が「Cansat]を打ち上げようと提案した。ハワイには日本からは九州大、北海道大、東大、東工大が参加していた。「カンサット」とは、350ml入りのジュース缶サイズの人工衛星のこと。空になった市販のジュース缶の中に、電池、マイコン、通信機、センサー、GPSなどが搭載され、打ち上げられた後、地上局と電波で交信をすることができる。
 1999年、米国ネバダ州の砂漠で初めてカンサットが打ち上げられた。この時、日本からは東京大学と東京工業大学の学生たちのグループが参加した。初めてカンサットづくりに挑んだ東大と東工大のうち、東大の学生を中心に、その苦闘の1年を追ったドキュメントである。
 「衛星を作って打ち上げる」という共通のゴールを持つているために、ただの同級生とか後輩とか先生だった者たちが、幾多の葛藤と紛糾を経て、かけがえのない大切な仲間になっていく。普通の大学生活では得られない大切な何かを、望むと望まざるとにかかわらずそれぞれが体験した。
 東工大、東大といっても、実は大学としてやっているわけではなく、大学の一研究室、つまり、いってみれば大学内の個人商店で細々と始めたものだったので、カンサットのプロジェクトにどんなに力を注いでも、大学での研究評価にはつながらない。理論研究を重んじる教授陣からの風当たりもなかったわけではない。しかし、そんなことは衛星を自分で作って打ち上げられるという喜びに比べたら、取るに足りないことだと考える。こんなふうに思えるものに出逢えた人は幸せである。
 取り組む姿勢に日米での違いもあって面白い。「月下美人」との命名もステキだ。




浦島太郎は
どこへ行ったのか


高橋 大輔


新潮社



2006/2/8

高橋大輔氏 HP

ブログ

 
 おとぎ話の浦島太郎がこんなに奥の深いものだとは思わなかった。

「丹後の国風土記 逸文」では、浦嶋子は、海で大亀を釣り上げたら、それは蓬莱からやってきた亀姫の化身で、プロポーズされるままに出かけていく。帰る時渡された物は、玉匣(たまくしげ)、箱を開けたら老人にはならない。この話が収録されたのは8世紀奈良時代だが、実話として既に広く知られていたものらしい。
 「日本書紀」では、ほんの数行、浦嶋子が釣りをしていたら大亀がかかり、それが乙女となり妻にした。ふたりは海に入り、蓬莱山へ行った、と書かれている。「万葉集」にもある。
 
最古の浦島伝説とは異なり、室町時代に書かれた小説からは蓬莱が龍宮に、玉匣が玉手箱と呼ばれるようになり、箱を開けると老人になってしまう。伝説の変遷は、「御伽草子」からのようだ。
 現在の我々が知っている『浦島太郎』が完成するのは明治時代になってからで、恋愛小説から子供向けになったのは、国語の教科書に採用されたり、文部省唱歌になったりした時らしい。
 著者は蓬莱はどこだろう、龍宮は?と探して中国へも行った。「宋書 倭国伝」も調べる。山東省の蓬莱閣へ行き、ここが孫悟空も訪れて如意棒を授かった海底の龍宮ではないかと思ったりする。浦島は、海幸彦、山幸彦と関係があり、龍宮は琉球と関係があり・・・それは雄略22年、西暦478年のことで・・・・。

「捜神記」「拾遺記」「史記」 「魏志倭人伝」 「万葉集」 「古事記」 「浦嶋明神縁起」(絵巻)こんなにたくさんの文献を調べ、各地にある浦島伝説を訪れて丹念に検証していくのはすごい。

 古い日本のことも神話も勉強できて、有意義で楽しい謎解きの旅だった。
 他には   ロビンソン・クルーソーを探して  がある。




朝日」ともあろうものが

烏賀陽 弘道

徳間書店


2006/1/31
 タイトルの言葉は、著者が朝日の記事を批判した言葉ではない。読者が苦情を言ってくる時の決まり文句だそうだ。「朝日新聞のことを高く評価しているのにこんなことをするとは何だ」という意味だ。
 
 本書は、朝日新聞に17年勤めた著者が、『なぜやめたくなったのか』を書いた一冊。
 例えば、経費やタクシー券をチョロまかす同僚や、記事の捏造を部下に強要するデスク、「前例がない」と言って原稿をボツにする上司、社用ハイヤーで奥様とフランス料理を食べに出かける幹部など、内部暴露になっている。
 ほかの新聞社にも共通だが、記者クラブ病や、「特ダネ」という記者クラブ内ゲームの苦役を批判し、記者は自分で考え、読者が気付かないこと、知らない事を知り、問題を見つけて書いてこそプロなのだと主張する。
 朝日記者のエリート意識の作られ方や、特派員にはアシスタントがついて英文の記事を翻訳し要約してもらったり、通訳もしてもらえ、英語ができなくて特派員が務まる不思議の事実を知って驚いた。
 「朝日ともあろうものが」「天下の朝日」「エリート集団・朝日」こんな幻想をもつのはやめよう。腐敗から目をそらさず、沈黙せず知らせ語るべきではないかとよびかけている。
 



国家の正体
日下 公人
KKベストセラーズ

2006/1/24
 「国家」ってなんだろう、というのを、わかりやすく説明していく。
 戦争中、日本人はアジアで無茶苦茶ばかりしたんじゃない話、アメリカが思想の一部を抹殺しようと、図書館の本を一部接収したが、家庭に蔵書のある日本では効果がなかった話、西欧人が学問思想の自由をなぜ強く言うかといえば、そんな自由が昔なかったからで、日本人がなぜ言わないかといえば昔からあるからである、今では、アメリカ式は見直されるべき時代なのに、日本では英語自慢、学歴自慢、留学自慢の人がグローバル・スタンダードの導入の効果を説いているという。
 あれこれと目からウロコが落ちていった一冊だ。



在日

姜尚中

講談社




2006/1/19

 朝鮮半島の人への先入観を払拭しそうな著者の印象と、語り口。背は高くスリムでハンサムで、もの静かに語る姿をテレビで見てファンになった人は多いだろう。それでも、この人は特別なのじゃないかと思えて、朝鮮半島の人たちへのイメージはなかなか変わるものじゃない。
 内容はあまり日本を攻撃してなくて、読む前に想像していたよりも静かで、姜教授の生い立ちを通じて政治の表面をなぞっている、歴史のおさらいをした感じだ。
 政治的な立場や意見が深く掘り下げられていなかったのは、自叙伝として、自分達の存在についての悩み苦しみ、自己の生きる方向性が得られるまでの過程の検証、それを文章にしたものだったからだろうか。

 著者は、逆境にもまけず成功したサクセスストーリーや、人との出会いを大切にしたおかげだという処世訓や、在日の『生きた』教材というような解釈をしてほしくないというが、やはりそのように読めた。
 どん底の家庭環境だったかもしれないが、控えめな著者ですら自分のことを、「勉強とスポーツでは目立っていた」と書いているくらいだから有能さが人の眼について引っ張りあげてもらえたのだと思える。
 在日の人たちがどれほどの差別に耐えたかとか、至極あたり前の感想をもって読み終えた。




「白鯨」
アメリカン・スタディーズ


巽 孝之


みすず書房



2005/12/28


 「世界名作十大小説」に必ず入る『白鯨』。この物語は、魔獣モビィディックヘの単なる復讐譚ではない。時空を越えて現れる巨大生物が象徴するものとは何か?ここに19世紀から21世紀へ至るアメリカ文明史を、そしてグローバルな現代史をスリリングに読み解く。アメリカ研究の第一人者が満を持して贈る。(カバー)

 著者が言うように「かってモビイ・ディックなる名前の白鯨に片脚を食いちぎられたエイハブ船長の復讐心に巻き込まれて、一丸となり白鯨打倒をめざし船長自身が白鯨との死闘にのぞむも、むしろ白鯨の逆襲を受けて船ごとばらばらに破壊されてしまい、悲しいかな全滅してしまうお話」
 という認識しかなかったのだが、本書では、白鯨の結末を原作と変えて作った映画の方が後への影響力が強かったとか、その映画の脚本を書いたのはレイ・ブラツドベリだったとか、白鯨との戦いは日本の沖で、日本の開国につながるペリーの来航は捕鯨だったとか、あんなこともこんな事も、マンガのことも描いてある。「白鯨」から広がる内容は驚くばかりだ。

 そして私が注目したのは、クラークの「幼年期の終り」が、『白鯨』へのオマージュを含んでいるということ。それを発展させた「2001年宇宙の旅」の船長ボーマンとエイハブの腹心の友である拝火教徒フェダラーが「漕ぎ手」(bowsman)であったという共通点、映画版ではゾロアスターを拒否することなく、二ーチェを経由したリヒャルト・シュトラウス作曲の「ツァラトゥストラはかく語りき」の印象的な響きで始まるということも、ああ、そうだったのかー!と。

 我が家の世界文学全集の24巻が「白鯨」で、ずっと何年も読みかけたままで放置していた。この機会に読み続けようかと思い、本書にテクストとして一部の訳があるので私の全集と比べてみたら、巽氏の訳の方がずっと読みやすいことがわかった。こちらならもっと読み進めそうな気がするのだけど。







竹取物語




2005/10/15

 一千年前の作者不明の物語に、ノーベル賞作家の現代語訳と傑出した芸術家の作品、そして日本文学の研究に一生を捧げたジャパノロジストの翻訳が渾然一体となり生み出された、大人のための「竹取物語」。
  川端康成氏が現代語訳を、
  ドナルド・キーン氏が英訳を、
 大好きな宮田雅之氏が挿画を担当している。
さすがに優雅さと読みやすさの現代語訳だ。
英語がこれほど苦手でなければ英訳も読んでみたいところ。



ロビンソン・クルーソーを
探して



高橋 大輔

新潮社




2005/10/7


浦島太郎は
どこへ行ったのか


 「ロビンソン・クルーソー」は幼い頃、マンガで読んだ。生きる為の知恵が豊富で、小屋の周りの柵に、猛獣が襲ってきても大丈夫な工夫が凝らしてあったのが印象に残っていて、ワクワクしながら読んだ記憶がある。この著者のように真似をするほどではないけれど。
 専業主婦になって時間ができた時、ウチにある文学全集を読んでみた。子ども向きでないのは、宗教色が濃く、意外な印象だった。

 著者はふとしたきっかけで少年時代からあこがれてまねごとをしていたロビンソン・クルーソーが架空の人物ではなかったと知る。それは著者の心をとらえ、熱くさせ、支配してしまった。そしてロビンソンの実像である実在したアレクサンダー・セルカークなる人物を追って旅に出て、情報を集めた。船乗りとして文明社会から旅立ったセルカークが、不運にも何の知識も無いまま、人も住まない絶海の孤島で、どんなふうに、何を食べ、何に悩み、何を発見し、どうやってその環境に適応していったのか?それを知るために、著者は島(ロビンソン・クルーソー島)に渡って、実地に歩いて、少年時代から憧れたロビンソン・クルーソーの生活に挑戦をしてみた。
 その後は、イギリスへ渡り、セルカークの子孫に会い、セルカークが使った船員用木箱を博物館で見るなど、徹底的に実像を掘り起こしていった。300年も経っていて、資料を探すにも、人に話を聞くのも困難な中、何年もかけて追いかけた執念はすごい。今は無人島ではないけれど、それでも仕事の休みをとって、絶海の孤島に行くだけでも大変だ。この本の出版の後かもしれないが、とうとう、島で、セルカークが生活した後を発掘したらしい。


 46回青少年読書感想文コンクールの課題図書に選ばれている。



科学者は妄想する

久我 羅内

日経BP社



2005/10/6
 
 最近読んだ「ハイドゥナン」では、マッドサイエンティストたちがまだ定説でない理論を実証しようとする場面があって熱い研究者の様子を描写していたし「デセプション・ポイント」も、実現してほしいテクノロジーを使ったりしていたので、科学者が既成の概念にとらわれず、つまり妄想するほど発想をおもいきり伸ばしたら、何が出てくるんだろう、というのが関心を持った理由。

 正統派科学とも、トンデモ科学とも、どちらともつかない微妙なグレーゾーンの諸説は面白い。何十年もの未来には実用化される技術も含まれているかもしれない。発想したときにはトンデモだったかもしれない静止衛星や宇宙エレベーターのように。

 温暖化を避けるために、地球をもっと外の軌道に移動させようという博士の話や、超能力や心霊現象を科学で解明しようとする博士の話、真面目な博士たちの妖しい研究の数々に驚かされる

 本書の記事の元になっているのは、著者が配信するメルマガ「奇天烈科学・飛んでる博士列伝」掲載のニュースだそうである。






テロメアの帽子


森川 幸人

新紀元社



2005/9/8
ちょっと変わった絵本である。ーー不思議な遺伝子の物語。

 私たちの体や生命を維持する基本物質、遺伝子、染色体、DNA、塩基・・・・・ゲノム。その性質やふるまいは、クレバーだったり、コミカルだったり、おどろおどろしかったり、かわいそうだったり、まるで、独立した生き物のようです。私たちの体の中のことなのに、あまりよく知らないゲノムの世界。
 本書では、このゲノムが一人のキャラクターとして登場、彼自身のことや彼が住む不思議な世界を紹介してくれます。(表紙扉の言葉より)

 細胞は、生涯に分裂できる回数が決まっている。タイトルのテロメアというのは細胞分裂の回数を決めるDNAで、分裂するたびに数が減り、寿命を司る。
 象徴的に表現された絵本なので、後ろに「絵本のなぞとき」があり、基礎知識としての言葉の説明もある。
 DNAやクローンやES細胞について、すこし解るようになりそう。




統治崩壊


江上 剛


光文社





2005/8/26


 合併で誕生した大日朝日銀行は、旧大日頭取と旧朝日頭取の権力争いが起こったり、行内の融和は進んでいない。

 
 広報部リーダーの峰岸貴之の所に暴力団がからんだ未回収の不正融資50億円について告発があった。旧朝日の檜垣会長が新宿支店長時代に女性スキャンダルにからみ「山根商会」に融資を始めたものだった。旧大日の若宮頭取は不正融資疑惑を利用して旧朝日の人間たちを追い出そうと謀る。銀行トップは峰岸貴之に、タスク・フォース(機動部隊)作りを命じた。
 企業舎弟山根商会の竹岡に融資金返還請求を出した。怒った竹岡は債権不存在で告発してきた。地検の強制捜査が入り、支店長が逮捕され、続く、檜垣会長も逮捕される。保身に走るトップには見切りをつけ若手が未来に向け立ち上がる。
 
 銀行のトップはこんなに情けない人間ばかりなのか、預けた大事なお金はこんなところで融資にまわり、回収もできないのかと思うと、もう信頼できなくなる。

 あとがきで著者が49歳での早期退職の時のことを書いている。小説本文よりも中身が濃い感じだ。
 





人間になれない
子どもたち




清川 輝基


竢o版社



2005/8/10

 長くテレビ報道に携わり、子どもの問題と向き合ってきた著者が、現在の日本の子どもの状況を提示し、危機の実相に迫り、それを克服する手がかりを提供しようとしている。

 背筋力低下の子が増えた。視力が衰え、自律神経にも異常が見られる。「土踏まず」が形成されていない。指の能力も低下。「ゲーム脳」と呼ばれる脳の状態になっている。自分の行動を制御するとき、人格の発達・成熟による「内なるブレーキ」でなく、外的強制『暴力』『食事・小遣い』による「外からのブレーキ」になっている。
 これらは、外で遊ばず、テレビやビデオ、テレビゲームに熱中し、エアコンの効いた室内に一人で、からだも使わず過ごしていた影響ではないか。

子どもの脳やからだの諸機能の発達には、それぞれ臨界期がある。その時期を過ぎるとやり直しがむずかしくなる。

60年代、高度経済成長が始まり、日本人はひたすら豊かさを追い求め、快適で、便利で、安全な暮らしをめざした。けれども、皮肉なことに、それが子どもの心とからだの発達にはよくなかった。生活様式の変化や、人口環境がもたらす異変など、『人間になる』ための場所が消えてしまった事も大きい。

 人間は『人間になる』生き物である。そのためにも、母子カプセル型の孤独な子育てに追い込まれている母親と子どもを、虐待と『メディア漬け』育児の危険から救い出さなければいけない。

テレビを消そう。外へ出よう。



ベルカ、吠えないのか?
古川 日出男
文芸春秋


2005/8/8


 1943年・アリューシャン列島。アッツ島の守備隊が全滅した日本軍は、キスカ島からの全軍撤退を敢行。島には「北」「正勇」「勝」「エクスプロージョン」の4頭の軍用犬だけが残された。・・・から始まる物語。
 

 どう、受けとめたらいいのか、戸惑ってしまう本だった。

 犬の物語でもあり戦争の記述でもある。戦争を背景にした、戦争に翻弄された、犬の歴史なのか。

 「・・・・だ。・・・・だ。」という短い文で、たたみかけるように表現していくのが、時に乱暴に、時にうるさく感じてしまう。
 彼独自の文体なのだろうか、馴染めない。

 戦争や出来事の表層をササーッとかすめるように、箇条書きしたように並べていくのに平行して、犬の繁殖と死の歴史をからめて羅列していくだけの犬の残酷物語のように思えた。二十世紀の戦争を一通りなぞっていくのは、フォーサイスの「アヴェンジャー」で読んだばかりだったので、戦争の扱い方は人によって違うのだと改めて感じた。
 直木賞候補だったらしいが、何が認められてのことだろうか。




前田建設
ファンタジー営業部

前田建設工業株式会社

幻冬舎



2005/8/3
 なんとも夢のあるプロジェクトである。前田建設の宣伝をするつもりはないけど、人に知って欲しくなる。
 「ゼネコン」と言う言葉のイメージの悪さを何とかしたい、建設会社とはどんな仕事をしていて、何に知恵を絞ってお金を稼いでいるかを知ってもらいたい・・・・というところから出発したらしい。

 A部長、B主任、C主任、D職員達の会話のやりとりがユーモラスで楽しいことと、アニメの映像で見たとおりに造り上げようとする努力が素晴らしい。それと、とにかくアニメに詳しい。

 プロジェクトの一番目は「マジンガーZの格納庫」を造ろう。メンバー5名はほぼボランティアで、各部署のプロフェショナルたちの技術者魂を刺激し、専門的で面白いアドバイスも得て設計図を完成し、とうとう正式な見積書を作った。発注されれば本当に造ることができる。
 〈汚水処理場型マジンガーZ地下格納庫一式〉72億円。
    〈工期〉  6年5ヶ月
このプロジェクトの発足から見積もり完成までは、前田建設のホームページで随時紹介されていたが、それらをまとめたのがこの本。
  http://www.maeda.co.jp/fantasy/ ファンタジー営業部

 以下は本の内容ではないけれど・・・・・・・・

プロジェクトの二番目は、銀河鉄道999編で
〈メガポリス中央ステーション銀河超特急発着用高架橋一式〉37億円    〈工期〉  3年3ヶ月
現在はプロジェクト三番目マッハGoGoGo又はグランプリの鷹 編で、
グランバレースピードウェイ新設工事らしいので、また楽しみである。



母への詫び状

新田次郎 藤原てい 
の娘に生まれて

藤原咲子

山と渓谷社



2005/8/2


 母ていさんの書いた満州からの壮絶な引き揚げ体験を記したベストセラー小説「流れる星は生きている」の中の咲子ちゃんであったことがどんなにか辛かったのだろう。「いつも必死、肩張って、眉間にシワよせて、おこっているようにガンバッテいる」と父親にはみえた。優秀な兄たちと比べられ、母に愛されてないと思い込んで反抗した少女時代、感受性が強かったのだろう。

「まだ咲子は生きていた・・・・」の繰り返しの表現を曲解し傷ついた少女期、そしてほとんどの乳児が置き去りになったり埋められた状況の中で「この子は生きている」というのが母自身の感動の言葉であったと大人になってやっと気がつくまでの苦しみ。

 母ていさんが認知症になってからは親子の間に笑顔が生じた。もし、母が認知症にならなかったら笑顔はなかったかもしれない、と考える。その娘の笑顔を得る為に母自らが認知症に踏み込んだのではないか・・・「娘の私が、温かい気持ちを育てること、培う努力もなく気持ちを開かないことに、母は心を痛め身を挺し命を賭けた」とまで考えるようになった。

 それに比べ、私はなんとのんきな、屈託のない子ども時代を過ごしてきたのだろう。感受性の違いかもしれない。 咲子さんは少し年上だが、中学の家庭科では私も毛糸の靴下を編み、浴衣も縫った。同じ事をしたんだなあと思い、「キンダーブック」も記憶にあって懐かしかった。




養老孟司・学問の格闘

「人間」をめぐる14人の俊英との論戦



日経サイエンス編

日本経済新聞社

2005/7/27

 この本は、「日経サイエンス」連載中の「脳の見方、モノの見方」の中から14編を選んでまとめたもので、考古学、文化人類学、行動遺伝学、心理学などの第一線の研究者14人と養老孟司教授の知のバトルが楽しめる。

 1ーネアンデルタール人と現代人(奈良貴史)、2−神殿遺跡の発掘と保護(関雄二)、3−語彙からとらえる事物のとらえ方(井上京子)、4−素質を生かす環境を求めて(安藤寿康)、5−脳の像に「こころ」を見る(百瀬敏光)、6−視覚はどうなりたっているか(田中啓治)、7−鳥の聴覚と人間の聴覚(森浩一)、8−ナメクジで探る嗅覚の謎(木村哲也)、9−細胞死が保つ生命の秩序(田沼靖一)、10−ウイリアムズ症候群と言語習得(正高信男)、11−自我と意識に関係する脳機能(澤口俊之)、12−目撃証言と記憶の落とし穴(仲真紀子)、13−トラウマとどうつきあうか(崎尾英子)、14−人はなぜ超常現象を信じるのか(菊池聡)

 3 の井上教授との対談の中の、クワガタムシの数え方に驚いた。昆虫の論文ではチョウも含め、一頭、二頭と数えるのだという。

 7 昆虫が、あんなに小さな脳でもちゃんとやっていけるのは、脳が単脳型になっているからで、機械にたとえれば、昆虫の脳はワープロ、人間の脳はパソコンという感じがする、と。

 不可解なヒトの脳の研究についての話題が興味深い。



第四間氷期



安部 公房





早川書房


2005/7/25
 
 昭和33年7月から雑誌「世界」に連載された。その当時の日本には、まだSFというジャンルが存在してなく、少年冒険読物としてSF的な作品が書かれてはいたが大人の文学として認められていなかった。そこへ日本における最初の本格的長編SFとして純文学作家によって書かれた記念碑的作品。
 
 予言機械が作られる。未来の政治予言では困る政府の為、個人の未来予言実験を行うことになるが殺人事件に巻き込まれてしまう。死人の思考を電子粒として再現させ犯人を探そうとするが事件は意外な展開へ。
 3週間以内の中絶胎児を買い取り、水棲人間を飼育している団体が浮かび上がる。
 第四間氷期が終末を迎え、現在の陸地のほとんどが海中に沈む悲惨な未来社会を予言機械が描き出す。水棲人間はその対策だった。

 科学的専門的知識がふんだんにとり入れられ科学的に堅固に構築されたSFである。氷河が融けて海面が高くなるとか、まだ珍しかったコンピューターのプログラミングなど、半世紀近く前に書かれたとは思えない内容に驚く。
 




国家の罠


外務省のラスプーチンと呼ばれて


佐藤 優 著

新潮社



2005/7/11

 鈴木宗男といえばニュースやワイドショーで見聞きした時は、絶対クロだと思った。だけどこの本に出てくる鈴木宗男と佐藤優は、ただひたすら国を思い、国のために働いた、ありがたい人に思えてくる。そう思わせられるのは著者の文章のうまさか、表現の力だろうか。それともそれが事実だったからなのか。
 外務省というものは外国と虚虚実実の駆け引きを凝らし、国益をはかっているのだ、という様子があぶりだされている。
      第3章      作られた疑惑
    第5章    「時代のけじめ」としての「国策捜査」
 鈴木氏が国策捜査のターゲットになった理由は、今は必要とされなくなったタイプの政治家だったからだという。
 基本的な構造は、政治の力をカネに替える公平配分。小泉路線は新自由主義的な傾斜配分路線を走っているので鈴木さんは時代に遅れた点。
 国際協調的愛国主義から排外主義的ナショナリズムへの外交路線の転換が、北方領土問題で妥協的姿勢を示したとして糾弾されることとなった点。この2つだと著者は分析する。 
 国策捜査のターゲットになると、まず助からないそうだ。

著者は、逮捕されて、検察の描くストーリーを呑まないため勾留期間は長くなるが、独房で読書に励み、思索を重ね、また検事と不思議な心の交流もあり、常人の知ることのない世界を描いていて大変興味深い。私には政治のことがわかっていないせいか、うまくまとめきれなかった。でも非常に面白かった。

ラスプーチン――――日本では、ロシア皇室を背後で操りロシア帝国を崩壊に導いた「怪僧」、ロシアでは民衆の声を体現した平和主義者という見方もある。




「老い」と暮らす

安田 睦男 著

岩波書店



2005/7/10
 親の介護はどのようにしたらいいのだろうか。老人ホームとはどのようなところなのだろうか。親を老人ホームにあずけるということは・・・・・・・。
 新聞記者として高齢者問題などを長年にわたって取材してきた著者は、定年退職後、ぼけてきた母の介護のために「主夫」となる。その後、母は老人ホームで生活し、自らは別なホームの職員となって、数多くの老いた人、ぼけた人、細やかな介護をしている人たちに出会う。
 自分の家での、また老人ホームでの、この7年間の体験をやわらかいタッチで描きながら、「老い」をかかえての生き方、暮らし方を問いかける一冊。(表紙扉の紹介)

 家族が老親の介護をするのが望ましいには違いないが、家族だと24時間心の休まる時がない。ホームでは、お世話をする人は、勤務時間が終れば帰れるだけに優しく接することができる・・・・・と言う部分では考えさせられた。

 少しずつ、老親介護について考えていこうとおもう。




最後の一葉」はこうして生まれた

O・ヘンリーの知られざる生涯

齊藤 昇 著

角川書店



2005/7/6
世界中で最も知られている短編小説「最後の一葉」は、どんな文学背景をもつ作品なのか?それらを生み出したO・ヘンリーとはいったいどんな作家だったのか?100年を経たいまもなお、誰からも愛され続ける珠玉の短編群を生んだ作家O・ヘンリーの創作の謎と、獄中から作家へと転進したその波乱万丈の生涯を描く、日本で初めての本格的評伝。

 O・ヘンリーの筆名の由来は、さまざまで定説がない。新聞の社交欄のあった平凡なヘンリーを選び、最も呼びやすいアルファベットのOをファーストネームにした。可愛がっていた野良猫の呼び方。看守長のオリン・ヘンリーにヒントを得た。カウボーイの歌の1節「ヘンリー、おお、ヘンリーと言いながら」に由来するという説などがある。

 作品の大多数は2000語内外の短編で、発端、読ませどころのヤマ場、事態の転換と「O・ヘンリー・サプライズ」と呼ばれる意外性のある結末などの構成がうまく、読者の心をとらえた。「決め手」ともいえる「どんでん返し」には、ユーモア、ペイソス、ウィットがみられる。
 卓抜な構成とともに、一見平明簡潔な日常的表現の背後に密度の濃い人間愛を示している。
 「賢者の贈り物」「赤い酋長の身代金」「少年と泥棒」「警官と賛美歌」「手入れのよいランプ」 など



スキップ


北村 薫 著

新潮社




2005/6/14
 一ノ瀬真理子が、一眠りして気がつくと、娘も夫もいる42歳の桜木真理子に早送りされていた。つまり心は女子高生なのに体はおばさん、これってものすごくむごい。
 娘の美也子さん、夫らしき桜木さんのサポートで、17歳の真理子は42歳の真理子のしていた高校教師の仕事をしていくことのなる。
 国語教師をしなければならない真理子の為に同じ国語教師の桜木さんが講義をする場面で、真理子の国語授業はとても魅力があったと語る桜木さんの様子が、どれほど真理子に魅かれていたかや大切に思っているかを感じさせ、ジーンとくる。

 高校での教師の仕事の内容は詳細で、少しずつ適応していく真理子の頑張りと賢さが清々しい。周りの高校生たちも感じがよい。北村薫らしさというのか、読みながら顔がほころぶようなユーモアが随所にある。上手いと思ったのは、現在の真理子が便利な電化製品や印刷機などを見ては昔の自分の知っていた時代の物と比較するところ。同じ世代の私にはそのままわかる。ギャグまでわかる。
 こんな特殊な例でなくても、私は日常の生活の中で、昔はこんなふうだったが今は・・・と考えることが多くなってきた。

 ぼんやり流されないで今を大切に生きようと言うことを強調した物語。ネットで会話文が誰のものかわかりにくいとか、途中で挫折しそうになったと言う感想を見かけた。読む人の世代によっては注釈がないとわからない、時代の差があるのではないかと感じた。
 私は考えさせられることが多くてとてもいい本だったと思う。



さおだけ屋はなぜ潰れないのか?

山田 真哉 著

光文社新書



2005/6/11
 身近な疑問からはじめる会計学――さおだけ屋を使って説明するのは利益の出し方、ベッドタウンに高級フランス料理店が存在できる謎で説明されるのは連結経営。自然食品店の在庫の山をみたら在庫と資金繰りの話。完売は怒られるという機会損失と決算書の説明。

 それらの解説の中に、生活の上で数字とのつき合い方も含まれる。
 スーパーの買い物で10円単位をケチったりするのは、節約した気になっているだけで会計をみていない。
 1年中バーゲンのわけは、在庫減らしの工夫、例えば、福袋、店長のオススメ、新装開店セール(在庫一掃セールの残りもある)など。
 数字のセンスについては、50人に一人がタダ、これからなにを連想できるか、ひらめくか、という問題で、わたしには数字のセンスのないことがわかってしまった。
 読むと、なるほどということばかりだった。
 「どうすれば物事を的確にとらえることができるようになるのか?」ということにチャレンジし続けているのが「会計」という学問なのだという。会計学に興味があれば読んでみるとよいのでは?
 




覆面作家は二人いる

北村 薫 著

中央公論新社



2005/6/10

「推理世界」の編集者・岡部良介が担当する《覆面作家》は執事のいる豪邸に住むお嬢様、新妻千秋。天国的な美貌と可憐な性格、そして稀にみる明晰な頭脳の持ち主だが、家を一歩出ると、借りてきたネコがサーベルタイガーに変るほど人格が変ってしまうのだった。
 
 殺人現場から消えたクリスマス・プレゼント。あっけなく解決したかに見えた誘拐事件。万引きが急増するCD売り場。良介と千秋の迷コンビが身近にある謎を解くほのぼのミステリー。

 会話がユーモラスで、しばしば「ふふっ」と笑ってしまう。良介の受けの雰囲気が心地よい。
 
 短編で文章が軽くて読みやすい、文章を読みながらこんなに軽く書けるのは若い人なんだろうかと思ったが、私よりも年上だったのでちょっと驚き。
 
 《覆面作家》シリーズは三部作で他に、「覆面作家の愛の家」、「覆面作家の夢の家」がある。



語り女たち

北村 薫

新潮社



2005/5/29
 
本名=宮本和男。昭和24(1949)年12月28日、埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒。在学中よりミステリー評論などを手掛ける。卒業後は高校の国語教師。『空飛ぶ馬』で作家デビュー。平成2年、「夜の蝉」で第44回日本推理作家協会賞短篇部門を受賞。「日常の謎」を主体とした作品群で、独自の地位を築いた作家。
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 海辺の街に小部屋を借り、潮騒の響く窓辺で寝椅子に横になり、訪れた客の話を聞こうとする彼。語り女は全国の雑誌、新聞に広告を載せ募集した。
 次々と女性が訪れては、不思議な話、変った話が語られていく。アラビアンナイトのように。

 「笑顔」が印象に残った。男性から女性へのプレゼント、女性からのリクエストの始めは《朝飯前》次は《今更》次は《海鳴り》工夫を凝らしたプレゼントが続く。そして《笑顔》-----そのあと「笑顔になってくれたらいいけど」と言って渡されたものは・・・・・・。かわいいお話でした。
 他にも、味わいのあるお話しが続きます。不思議な世界です。
 131回直木賞候補作


対岸の彼女

角田 光代

文芸春秋



2005/5/28
 132回直木賞受賞作品である。作者は恋愛小説が多いらしいが、これは友情小説といえばいいのだろうか。

 結婚してから専業主婦になっていた小夜子は、子育てに悩んでいた。子供を連れて公園へ行っても、母親同士で上手くいかなくて、場所を変え、娘を抱えて公園を彷徨う公園ジプシー。それから抜けだしたくて仕事に出るようになった。そこで出会ったのが女社長の葵。同じ大学を出た同年の葵の経営する旅行会社(の中のハウスクリーニング部門)で働くようになる。

人付き合いが下手でいつの間にかいじめられる学校時代の葵。葵の高校時代の過去(ある事件)と、小夜子の、家事育児に理解のない夫、義母との関係、再就職の困難さ等を交互に同時進行で描きながら、葵とナナコ、小夜子と葵の友情を描いていく。
 
 学校時代にいじめられた経験があったり、子育てに悩んだ経験があれば、かなり身近に感じられると思う。
 女性必読の書とまでいう人もあるが、この本をきっかけに考えを深めるきっかけになることはまちがいないだろう。
 


理系白書

 この国を静かに支える人たち

毎日新聞科学環境部

講談社



2005/5/24

 就職には理系が有利、と昔から思い込んできた。息子も理系に進んで「よかった」と思っていたのに、これは幻想だったのかしら。

 「理系人への応援歌」がこの本のモチーフだという。
 「日本の技術がもたらした巨大な富は、技術者ではなく、銀行や不動産の関係者に流れた。技術者は対価が正当に認められるよう、もっと主張すべきだった
 理系出身者は報われない生涯賃金の格差は5000万円にもなり、政界、財界も『トップは文系』が多い。なんという不公平。
 調べでは、学習時間は理系が2時間多い。理系が勉強する分、文系は社会経験に忙しい。大学へ入るにも受験科目が多かった。入ったら実験が多くて実験一日10時間。
 そうまでしてとった博士は、日本では高い専門性は『両刃の剣』となり、就職では不利になる。理系はオタクと思われ、「特定の分野・物事にしか関心がなくその事には異常なほどくわしいが、社会的な常識には欠ける人」と「広辞苑」でもこう定義されている。
 理系のタコツボ的な視野の狭さも改める必要がある。「文か理か」にこだわっている時代ではない。 
 「理系人よ、カラを破れ」がもう一つのモチーフだそうだ。


 私は長い間、理系に進まなかったことを悔やんでいた。理系なら女子も男子と対等に仕事ができると思っていた。でもそう甘くはなかったらしい。


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単独行

加藤文太郎

山と渓谷社



2005/5/17
新田次郎の「孤高の人」のモデルとなった加藤文太郎の遺稿集である。

 文太郎の死後、彼の上司で彼を山に導いた人物でもある遠山豊三郎を中心に「RCC報告」や「ケルン」などに発表した加藤の文章、島田真之介の後記、花子未亡人の手記、福島功夫の解説などで構成されている。

 小説と違って、文太郎は人並みに神戸、関西の山仲間との交流もあったという。RCCにも入会し、よく交流をしていた。ふだんの但馬山群のスキーツアや神戸背山のワンダリングや岩登りのトレーニングなど、BKVのグループとも行を共にした。
 最後の山行をともにした吉田富久とはすでに「
前穂高北尾根から奥穂」で加藤のほうから誘ってパーティを組んでいた。

 彼の文章は素朴であるが几帳面で、山行の記録は一般人には無理だが、紀行文になると上手に書いている。
 
 吹雪の止むまでここで待とうか。・・・略・・・足でも凍傷にかかろうものならほんとに動けなくなるかもしれない。そうだ全く忘れていたーーー「何のために山に来たのか」ということを。自分は「山と闘うために来た」のではないか。なぜ岩を恐れ、氷を恐れ、吹雪を恐れてこれらの姑息な手段を考えるのか。吹雪の日の涸沢岳の尾根こそ久しく求めて止まなかったところではないか。さあ立上がろう、立上がろうと勇を鼓して吹雪を衝いた。




そして二人だけになった

森 博嗣 著

新潮社



2005/4/25
 
 巨大な海峡大橋を支える〈アンカレイジ〉内部に造られた建物に集まった男女六名。完全密室状態で次々と殺人が起こる。最後に残ったのは、盲目の天才科学者勅使河原潤、とアシスタント森島有佳のそれぞれ身代わり二人。何が起き、何が待ち受けているのか、知的罠を張りめぐらせた〈森ミステリィ〉のシリーズ外の作品。

 どんなからくりを用意しているのかと身構えて読み進んだ。4展開(転回)ある内の1ステップは、身代わりに押し付け本人たちが行方不明ということで「ああやっぱりそうだったのか」と思ったのだが、2ステップは「えっ、そんなあ、無理すぎる設定」と思い、3ステップでは特捜部の宮原を加えそれぞれ3人の手記が並んだところで芥川龍之介の「藪の中」のような構成か?と思い、最終ステップで、「やられちゃった」と、予想外の結末だった。多重人格まで扱うとは。
 いつも設定が凝っているなあ、それと物理法則も意味があったのかな?フーコーの振り子以外はあまり関係がなかったような気がしたのはただ知識が不足していただけ?物理の理論(相対性理論)はこじつけっぽい。まあ、わからなくても大丈夫だと思うけれど。
 あれほど複雑に設定しておいたのに最後は肩透かしのような気がしたが、むしろ森ワールドらしいというべきか否か。
 

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「モナ・リザ」ミステリー
名画の謎を追う

北川 健次 著
新潮社

 

2005/4/24
レオナルド・ダ・ヴィンチの描いた美術史上最も謎めいた絵画といわれる「モナ・リザ」の謎を解こうとする試みである。
1、モデルは果たして誰なのか?  
2、描かれた時期は何時なのか?
3、絵の注文主は実在したのか?  
4、背景に描かれた現実とかけ離れたような幻想的な風景は、何かの暗喩なのか?  
5、下腹部が僅かに膨らんだ妊婦とおぼしきこの女性の着衣が、なぜ黒衣の喪服であるのか?  
6、口元に浮かんだ不気味ともいえる微笑の意味は何なのか?
7、そもそも画家は、この絵に何を描こうとしたのか?
 左右を反転させた「モナ・リザ」とレオナルドの晩年の自画像を重ねると、完全に一致する。この点はホントに驚いた。
 キリストの聖骸布を描いたのがレオナルドではないか、キリストとレオナルドと「モナ・リザ」の三つの像が結びつくという説も面白い。
 著者はレオナルドが「性同一性障害」だったのではないかと推理していく。


マンガの深読み、
大人読み


夏目房之介 著

イースト・プレス


2005/4/22
 著者は夏目漱石の孫、マンガコラムニスト・評論家。BSマンガ夜話で見かけたり、新聞のコラムを読んで、人物に興味を感じて本を読み始める。

 本書では、巨人の星にまつわる関係者の話、あしたのジョーにまつわる話、ともに原作者梶原一騎、作画家川崎のぼるやちばてつや、編集者達の思い入れや哲学が語られる。一緒に熱くなってしまいそう。

 「あの時代、少年マンガが少年だけのものでなくなり、思春期から青年期に広がって、その後の日本マンガの発展につながる。その推力の大きなエンジンの一つが梶原作品だった・・・」梶原夫人との対談より

 「巨人の星」の場合、ヒューマンな作品、野太いドラマ、教養小説みたいなのを作りたい。父と息子もの、スパルタ親父に・・・という思いで作ったとか。「ヒューマン」を梶原氏が飛雄馬の名にした。(初めて知ったが、ひょっとして周知の事実?)

「あしたのジョー」はマンガ青年化の時代を象徴する作品。「思春期・青年前期の課題を、無頼と優しさ、闘争と日常的生活感、二人の女性との関係など、多層的な構造として描きえた強く深い構造にあった」という。
 ふ〜〜ん、そうだったのかぁ、と少年マガジンを読んだ昔を思い出した。

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ネアンデルタール・
ミッション

発掘から復活へ
2000/2/24
フィールドからの挑戦

赤澤 威(たける) 著

岩波書店



2005/4/14
 かつてネアンデルタール人のイメージは表紙のように「盛り上がった肩に、だらんとぶら下がった腕、全身にもじゃもじゃと毛を生やし、いかにも鈍重な、うつろな表情で立つ異様な生き物」だった。最近は、花を添えて埋葬したり、種類豊富な石器を作ったり、炉跡も見つかり炉を囲んで、手ごろに焼けた肉を切り取って食べている団らん風景を彷彿とさせるなど、ネアンデルタール像が変わってきている。
 大人よりたくさん発掘される子どもの化石を研究しもっと実像に迫りたいというのが主旨。

 デデリエ洞窟で発掘された子どもの人骨から、子どもの姿が復活し、歩き、成長していく道程、次第に甦っていくさま「デデリエ・ネアンデルタールの復活」プロジェクトを、紹介している。

 コンピュータで全身骨格を復元、コンピュータにはネジも接着剤もいらない。マウスの操作で自在にデザインできる。
 プラスティネーションで交連骨格に筋肉、脂肪など皮下軟部組織を付け、子どもの生前の立体像の復元作業に威力を発揮する。
 骨のレプリカを作り、子どもの運動機能の復元、つまり生前子どもがどのような姿勢で歩いていたか、もう一つは成長復元をする。
 子どもの名は「ナジャッハ」アラビア語で「成功」。
 年代学と遺伝学にコンピュータ・サイエンスが加わり今後の研究が楽しみである。


進化しすぎた脳

池谷 裕二 著

朝日出版社



2005/4/8
 ニューヨークにいる日本人の中高生に「大脳生理学」をわかりやすく講義したもの。話し言葉で易しい言葉を使って語りかけてくれる。

 「脳の地図」はかなり後天的、脳の地図は脳が決めているのではなくて身体が決めているということらしい。いるかはどんな優れた脳を持っていたとしても、手、足がないので「宝の持ち腐れ」ということ。
 能力のリミッターは脳ではなく身体というわけ。

 ネアンデルタール人とかクロマニヨン人は、進化のスケールから言えば初期的な人類、にもかかわらず現代にも通用するような脳を持っていた。ということは脳というのは進化に最小限必要な程度の進化を遂げたのではなく、過剰に進化してしまった?
 将来いつか予期せぬ環境に出会った時、スムーズに対応できる為の一種の「余裕」「安全装置」「未来への予備」とわかる。

 読んでいて驚いたことは(安心したというべきか)人間はあいまいな記憶しかもてない。でもこのあいまいさが大切だったこと。

 脳にはニューロンというものがあって電気信号で伝えられると今まで思っていたが正確には伝わっていくのは「電子」ではなく「イオン」だった。

 アルツハイマー病にも言及していて最前線の研究をわかりやすく説明している。

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ナラタージュ

島本 理生 著

角川書店




2005/4/6


 作者の島本理生さんは1983年生まれの現役大学生。都立高校在学中に「リトル・バイ・リトル」が第128回芥川賞候補ほか第25回野間文芸新人賞を最年少で受賞するなど若いがすでに活躍している。思春期の繊細な感情や心の痛みを鮮やかに表現する。

 ナラタージュとは映画などで主人公が回想の形で、過去の出来事を物語る事。

久しぶりで恋愛小説を読んだ。主人公は大学生、自分の子どもの年齢。自分がなりきるというよりもその年頃のことを次々に思い出させてくれた。文章がしっかりしていて会話が自然で、一気に読んでしまった。

工藤泉は大学2年の春、顧問の葉山先生に請われ他の友人たちと卒業した高校の演劇部を手伝い始めた。徐々に熱気を帯びる稽古、葉山先生へ募る思慕、好きでいながら応えられない葉山、本番公演、過去の思い出、友人が連れてきた小野君との交際、揺れ動くこころ。
 自制心が強いにもかかわらず弱みを見せて泉の心を惑わせてしまう葉山。
学生の小野の思いを受け容れてはみるが葉山を忘れられない泉。
 理屈ではわりきれない、思うようにならない人の感情をよく捉えて表現していると思う。ラストシーンもよかった。
 たまには恋愛小説を読むのもいいかなと思った。




レジスタンス

江上 剛 著

講談社

2005/3/25
 著者は旧・第一勧業銀行(現・みずほ銀行)に入行し、支店長までなった人。銀行の事をすみずみまで知っている人だから書けるのだろう。
 役員を目前にした支店長の右往左往やセクハラ、貸しはがし、総会屋対策、転職などを扱って、そのなかで必死で抵抗して頑張る銀行員を描いているのだが銀行とはこんなにひどい人たちが集まっているのか、人を陥れてばかりだ、中小企業は銀行にだまされているばかりなのか、と思わされてしまうのは、著者のペースにまんまとのせられてしまったのかもしれない。
 短編なので書きたい部分がはっきりしていてわかりやすい。
 最後の「機械の声」は心にジーンときてよかったと思う。


好色五人女

牧 美也子 著

中央公論社



2005/3/24
 マンガ日本の古典 シリーズは32巻ある。
@古事記 石ノ森章太郎 A荻窪物語 藤子・F・不二雄 BCD源氏物語上、中、下 長谷川法世 E和泉式部日記 萩尾望都 F堤中納言物語 坂田靖子 GH今昔物語上、下 水木しげる IJK平家物語上、中、下 横山光輝 Lとはずがたり いがらしゆみこ MNO吾妻鏡上、中、下 竹宮恵子 P徒然草 バロン吉元 QRS太平記上、中、下 さいとう・たかを 21御伽草子 やまだ紫 22信長公記 小島剛夕 23三河物語 安彦良和 24好色五人女 牧美也子 25奥の細道 矢口高雄 26葉隠 黒鉄ヒロシ 27心中天網島 里中満智子 28雨月物語 木原敏江 29東海道中膝栗毛 土田よしこ 30浮世床 古谷三敏 31春色梅児誉美 酒井 美羽 32怪談 つのだじろう

 出版されると聞いた時から気にはなっていたのに今頃やっと手にとって見た。そうそうたるメンバーが執筆しているのですべての本を眺めてみたいと思う。
 古典は知っているようで本当はきちんと読んでいないことが多く、せめてマンガの形ででもふれてみようと思った。まずは子どもの時から好きだった牧美也子さんの巻から。
 井原西鶴の作品。現代なら起きるはずのない悲劇、武家社会の掟を適用された商人、職人の、それも男社会の不条理にやりきれない女たちの悲劇。五人の女たちのうち、お夏清十郎、八百屋お七の名前ぐらいしか聞いた事がなかった。それぞれの話を短くまとめすぎているのが少し気になった。

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泣き虫 弱虫 諸葛孔明

酒見 賢一 著

文芸春秋



2005/3/16
『三国志』は後漢末、紅巾の乱が起きた184年から司馬氏の晋が成立する265年までの80年の間に起きた出来事である。巷の講談、俗講であった長い話を元末明初の羅漢中(らかんちゅう)が苦労してまとめて小説化したものが『三国志演義』である。
 孔明は今まで「千年に一人の神算鬼謀(しんさんきぼう)の軍師」「智謀秘策の湧き出ずること岳泉の如し」等、いわれてきた。
 三国志の面白さは孔明が劉備軍に入り智謀や奇策で他軍を翻弄するところにあると思ってきた。だが、本書では、これまでの孔明礼賛とは別角度の視点から読者の意表をついてくる。自意識過剰、誇大妄想のあぶない男の屈折した言動が展開されていく。
 劉備が孔明のもとに三度も足を運んだという有名な『三顧の礼』もここまでやるかというほどの巧妙な計算ぶりに解釈される。
 マカロニウエスタンと比較し「荒野の三国志」と書いていたところではあまりにピッタリで爆笑してしまった。
 本書は劉備軍に参加するところまでで終っていて、赤壁の戦いなどの有名な場面での孔明の活躍をどのように裏読みをし奇想天外な解釈をしていくかは今後のお楽しみらしい。
 時代の背景をすでにある程度知っていたり読んでいたりした上で本書を読んだほうが面白さがわかる、この本だけで諸葛孔明や三国時代を知ろうとするとかなり偏ったイメージをつくらされてしまう気がする。
 





モビィ・ドール

熊谷 達也 著

集英社



2005/2/22
主人公は女性の動物行動学者比嘉涼子。イルカの生態調査に従事している。イルカが棲んでいると注目されて観光客が多くやってくる島で仕事をしている。
 ある日、イルカが数頭、浜に打ち上げられるという事件が起こる。原因はシャチらしい。イルカを守る為にはシャチを殺してもいいのか、どうやってイルカを助けたらいいのか・・・・。そのシャチは「モビィ・ドール」と名づけられた。
 イルカやシャチの生態やダイビング技術、自然保護や動物愛護にまつわる問題までたっぷりと書き込まれている。
 シャチがイルカを襲い食べるシーンは残酷にみえて、シャチは『海のギャング』と言われたりもするが、シャチにとっては食餌に過ぎないんだと改めて気づかされる。頭もよくヒトを襲ったという例はないそうだ。
 スキューバダイビングは少しトレーニングをしただけで潜れるようになるのかしら?既に経験のあるヒトならすぐにでも美しい海へ行ってイルカと一緒に泳いだり潜ったりしたくなるかもしれない。

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子どもの情景
秋山 さと子
大和書房
 
大人のために書かれた児童文学のガイドである。私は表面的な物しか読み取れないので、こういう本がありがたい。自分で読み取れなかった部分を補足してくれる。
 既に読んだことのある指輪物語の章を読んでいたら、目からウロコだった。今までの妖精の認識を変えてしまったり、ガラドリエルが理想の女性に描かれていたり、魔法使いの意味することなど私は何も読み取れていなかった・・・・。映画も見たのに・・・。きっと急いで表面のストーリーばかりに気をとられたのだろう。名作はゆっくり付き合わなければ、と思った。

 あとがきによれば、これまでこの種の本に親しんだことのない人にも読んでもらいたい、それぞれの本のあらすじや内容にもかなりのページをさいている。子どもたちに与える良書の解説と推薦ではなく、大人が読んでの感動をおとなの読者に伝えたいということらしい。
 ただし、仏教や宗教学を専攻し、ユング派の精神分析家であるという面からの考察になっている。
 詳しい内容は・・・・。
1章 指輪物語
2章 飛ぶ教室
3章 モモ
4章 ゲド戦記
5章 グリーン・ノウの子どもたち
6章 トムは真夜中の庭で
7章 ロールパン・チームの作戦
8章 ふくろう模様の皿

    2005/2/15


ららら科学の子
矢作 俊彦 著
文芸春秋


2005/2/11
「彼」は30年前、学生運動のさなか誤って人を殺し中国へ密航した。「文化大革命を自分の目で見てはどうか、紅衛兵運動を体験できる」と誘われて。彼が中国に渡った後、文革は終わり紅衛兵たちは下方(国内流刑)された。彼も奥地へ行った。
 30年を経て蛇頭の船で密入国して日本に戻った。30年のブランクのある彼の目を通して今の日本をながめ、30年間の世相の変異に目を向ける。読者は彼と一緒に30年前の自分に戻ったり、その間に失われたものに思いをはせる。
 タイトルと物語に引用した「鉄腕アトム」は「人間とロボットのはざまで苦しんでいるアウトローのイメージ」。反権力を掲げて闘った世代、『彼』、著者と重なる。
 読むにつれて、同世代のせいか30年の出来事の一つ一つがいろんな意味をもって迫ってきた。

 他にフィルムノワール/黒色影片



金比羅

笙野 頼子 著

集英社



2005/2/3
 ひとことで言えば奇妙な本。まず、「深夜、ひとりの赤ん坊が生まれてすぐ死にました。その死体に私は宿りました。・・」こういう始まり方が嫌いでない、こわい物見たさもあり読み始めた。自伝のようでありながら自分のことを金比羅といい、妄想で包まれた、金比羅の(著者?)の一代記だそうだ。
 「紙の分厚さと本の中に落ちている残酷な世界が、嘘の残酷な世界が好きでした」そして「人の言葉に敏感過ぎる子」だったという子ども時代。
 神道と仏教についてずいぶん勉強してあって、神仏習合などについてユニークな歴史説明がある。奇妙な表現の中に逆説的に物事の本質が述べられていたりする。(ユーモアと痛烈な皮肉と、毒を噴出す哄笑)
 サルタヒコ、スクナヒコナ、オオナムチ、オオクニヌシなど古事記や日本書紀の神たちが出てきたり、お稲荷さん、権現さんなど考えてみたら定義のよくわからない神らしきものも出てきて頭の中でグルグルまわっている。
 破天荒な物語に惑わされ底に流れる基本テーマを見逃してしまっていたので新聞書評から補足――あなたは本当は男なの、男に伍してやっていきなさい、と言われて育ち、本当の男の子が生まれるや、もういいですよと、いわば階段をはずされてしまった女性人物のトラウマ克服、闘いの物語である。




Say Hello!
あのこによろしく

イワサキユキオ 著

ほぼ日ブックス



2005/1/25
 こころさんに借りて読んだ。かわいい犬の写真集だから見たというべきかな。一枚一枚の写真に心のこもった言葉が添えられているので読んだと言いたい。
 ジャック・ラッセル・テリアの母犬ルーシーと三匹の子犬、ニコ、サンコ、ヨンコたちの成長記録だ。
 手で触れるのもこわいほど頼りない状態からハイハイ?したりやっと立ち上がれたり?兄弟たちがくっつき合ったりケンカしたりして大きくなって巣立っていく様子がルーシーの母親ぶりと共に、たっぷりの写真で紹介される。母の存在と命の尊さがしみじみと伝わってくる。
でも、理屈抜きでかわいい―!!

  http://www.1101.com/say_hello/
 

お母さんルーシーに見守られているから無防備に上を向いてぐっすり眠っている




赤ちゃんがヒトになるとき
―ヒトとチンパンジーの
比較発達心理学―
中村 徳子 著
昭和堂


2005/1/23
 ヒトは生まれたときからヒトじゃないかと思われるかもしれない。でもそうじゃありません。生まれてからある時期までは、チンパンジーとヒトの赤ちゃんはほとんど同じように発達します。
 ある時期からヒトにはできてチンパンジーにできないことが起こり始めます。例えばどちらも言われなくても積み木があれば上へと積み上げていけるけれど、ヒトはそのうちに「これはおうち」とか「これはおふろ」とかいって遊べるようになります。チンパンジーは積み上げるところにとどまります。他にもいろいろ。
 動物行動学者である著者が我が子が生まれたことをきっかけにチンパンジーとヒトの赤ちゃんの発育過程を丹念に比較しながらヒトらしさの本質を探ります。
 もう子育てがとっくに終った人は過去の育児を思い出して、「うん、こんなことがあった。こんな面白い事もしていた」と振り返ったり、孫育ての最中の人は、孫の様子を今までとは違った目で見られます。
 著者は将来母親(父親)となる若い人たちに読んでもらいたいと言っていますがそれだけではもったいないです。

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 始原への旅立ち
     ジーン・アウル  著
        百々祐利子 訳 評論社
  第1部 大地の子 エイラ
  第2部 恋をするエイラ
  第3部 狩をするエイラ
  第4部 大陸をかけるエイラ
   
子どもの為にも続きを翻訳して欲しいと思う
   2005/1/4
エイラ地上の旅人
ジーン・アウル 著
    集英社
エイラ
が出版されます。
でも今までの続きではないようです。
出版社も翻訳者も代わって子供向けから大人向けになったらしい。物語の始めからまた読み直さないといけないかもしれません。
でも非常に嬉しく楽しみです。
    
下記は出版社の宣伝ではあるけれど、時代背景がよくわかる
http://www.shueisha.co.jp/home-sha/ayla/




    
ハゲタカが嗤った日
―リップルウッド=新生銀行の「隠された真実」

浜田 和幸 著
集英社インターナショナル




2004/12/20
ここでいうハゲタカとは、弱体化した企業を安値で買い叩き、巨額の利益を得る欧米の投資ファンドのことで、死肉に群がるハゲタカにたとえたもの。
 巨額の公的資金が投じられた長銀をわずかな額で買い取ったリップルウッド(ティモシー・コリンズ)についてと、バブルの張本人と言われた高橋治則へのインタビュー、そして長銀が生き残りをかけてイ社(高橋)を強奪しようとした組織犯罪についてなど驚きの事実がたっぷり語られる。
 日本政府はリップルウッドにはめられたのか。日本が二度と騙されないための「警告の書」だという。
 ジリアン・テット「セイビング・ザ・サン」を読んだ時はまるでコリンズ(外資)が日本を救うかのような書き方だったので、外資をハゲタカと批判している高杉良「ザ・外資」との温度差を感じていた。本書を読むとやはりハゲタカと呼ばれるのも納得できる。

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2004/12/6


  おりひめ

大切なモノを
保存する技術

(家、写真、ビデオ、洋服、本、貴金属・・・)

東嶋 和子 著

三笠書房
知的生き方文庫
字が消える、音が消える、データが消える・・・・大切に保管していたはずなのに、保存の方法を間違ったり無知だったために「ただとっておいただけ」になってはいないか。ちょっとしたひと工夫でモノの寿命はぜんぜん違う。
 半永久的だと思ったCD(コンパクトディスク)の寿命は20年しかない。他、DVD-ROMは約30年、フロッピーディスクは20年。これに比べてビデオやカセットの磁気テープは30年以上、LPレコードは約100年もつとか。マイクロフィルムは約500年、酸性紙は50−150年、中性子は250−700年もつとか。
 アナログからデジタルへデータを移し替えている人が多いが、ほんとうにそれがいいのかと、本書を読んで目から鱗が落ちた。

 デジカメで撮った子どもの写真は、成人したときには全滅?

2004/11/21

   Sereneさん

 幻の女

香納 諒一 著

角川書店 1998年
しばらく前に読んだ本ですが、読み応えがありました。汚職・自殺・やくざ・不法廃棄物処理・・・・。いろいろからまりあって「ハードボイルドだぁ〜」とかんじさせてくれます。っていうか、まさにハードボイルド、ダイハードです。
でも、ストーリー展開だけではなく、登場人物も魅力的でした。あらすじを書いてしまうとルール違反。読んで楽しんでください。





2004/11/14

    R・Kさん
  神鳥(イビス)
    篠田 節子 著
  集英社文庫  ¥543
もう皆さんは、ご存知なのかもしれませんが篠田節子の作品も初めての私には、とても新鮮でひきこまれていきました。小説でなければ描けない世界に入っていけたという感じがしました。「夏の災厄」という作品も読みたいと思ってます。
裏表紙より―――





夭逝した明治の日本画家・河野珠枝の「朱鷺飛来図」。死の直前に描かれたこの幻想画の、妖しい魅力に魅せられた女性イラストレイターとバイオレンス作家の男女コンビ。画に隠された謎を探り出そうと珠枝の足跡を追って佐渡から奥多摩へ。そして、ふたりが山中で遭遇したのは時空を超えた異形の恐怖世界だった。異色のホラー長編小説。

  おりひめ―――






直木賞作品「女たちのジハード」を以前に読んで、ハイミスの男の獲得合戦のような本に嫌気がさして手に取らなくなっていた作家だけれど、R・Kさんのお薦めで読んでみれば、「えー!こんな本も書くんだ」と驚いた。テンポよく読み易くハイミスやその家族のえがき方はさすがだと思いながらぐんぐん読み進んだ。ホラーなのに二人の会話におかしみがある。私の喜びそうな本だと思って薦めてくれたのかしら。

           

2004/11/1

    Y.Y(おりひめ)

 君についていこう
 −女房は宇宙をめざした−

   向井 万起男 著
     講談社   ¥1748

 
著者は日本で最初の女性宇宙飛行士、向井千秋(旧姓内藤)さんの夫である。「やたらとスキーがうまく、酒が恐ろしく強い」だけでなく、「おんなのくせに夜の解剖アルバイトにやって来た剛毅なヤツ」というスーパーウーマンの千秋さんの夫はどれほどすごい人なんだろうと興味津々で読み始める。風貌から想像したのとはかなり印象が異なる。マキオちゃん、チアキちゃんと呼び合う二人のユニークでほのぼのした夫婦像と、チアキちゃんがのびのび活躍できたり、甘えたりできるのはマキオちゃんのふところの大きさのおかげかしらと思う。二人の出会いから宇宙飛行士へのプロセスがユーモアたっぷりにテンポよく読めるうまい文章だ。
 男はやっぱり顔じゃないんだ。

2004/10/6

   YY   
マイライフ  

クリントンの回想
  上巻    
      アメリカンドリーム           ビル・クリントン 著

 朝日新聞社  ¥1857
         
                            
 産まれる前に父を亡くし、小さな町で貧乏に耐えて育ったことは本を読むまで知らなかった。まじめで人が良くてかなり運動が苦手で、それでも政治家になる為、着実に勉強をしている。ヒラリー夫人とは初の出会いからリードされていてほほえましい。親戚の人たちとの交流やたくさんの友達との思い出がみっちり書き込んであって、読むにはいささか根気と体力が必要だがいろんなエピソードを知ると魅力のある人物だということがわかって面白い。


    10/11  ギブアップ   いつか再挑戦します 

2004/3/1

    Y.Y                 
リビングヒストリー
        ヒラリー・ロダム・クリントン 著
                         早川書房    ¥1900
       
 クリントン前大統領の妻にして、上院議員、そして今や大統領候補としての呼び声も高いヒラリー・クリントンの自伝。
ホワイトハウスでの8年間の日々を中心にアメリカの中流家庭に育った半生と夫との30年間を率直にユーモラスに書いている。、女性の地位の向上を求め、子供の人権を守り、医療保険改革に取り組んだ。そして、どんな時でも自分自身であろうとした。細かいエピソードがたくさん挿入されていて映画を見るように情景が浮かんでくる。記憶力もすごいけれど、それにしても自伝はどうしてこうも長いのだろう。

  

1999/1

  Y..Y  
ヒラリー・クリントン 
   最強のファーストレディ
    ジュディス・ウォーナー
  朝日新聞社   ¥1631
第42代アメリカ大統領夫人、敏腕弁護士、政治活動家、フェミニスト、母親―。「大統領に」、との期待もかかるスーパー・ファーストレディの素顔は―。女性記者の眼から見た初の評伝。自伝と違い要領よくまとまり読みやすい。

 
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